ねごしえーたー!   作:社畜のきなこ餅

16 / 38
少し短くなってしまいましたが、冒険者騒動のエピローグとなります。
ある程度の下準備に根回し、方針はもう決まっているので、大胆に時間ジャンプしました。

なお、今回も視点はコクヨウ視点ではなく第三者視点の三人称モードでお届けいたします。


次回からは少しネタ充電の為、一話完結のネタを出す予定です。


16.雪解けと共に

 

 街道に降り積もり通行の妨げとなっていた積雪が、冬が過ぎ去り春の訪れと共に疎らとなっていく。

 交通の便が良くなれば人通りが増え、人通りが増えればまた物の行き来が盛んとなる。

 

 そして今日もまた、時折吹き抜ける冷たい風を感じつつも……一台の荷兎車が街道を進む。

 御者の男は呑気に欠伸をしながらも、のっしのっしと元気に道を往く相棒であるハビットの手綱を適当に握っており。

 

 その荷兎車を囲み、護衛する4人の少年少女達もまた力強い足取りでぬかるんだ道を進んでいた。

 

 

「いやぁ、今の時期はどうしても腹を空かせた野盗やら獣やらが出てくるから、お前さん達を雇えて助かったぜ」

 

「まだまだ駆け出しだけど、全力で護衛するぜ商人さん。なぁ皆!」

 

 

 4人の中でも、一際大きな体格の髪の毛を逆立てたヤンチャそうな印象を与える少年が仲間達へ同意を求め、同意を求められた仲間達もまた思い思いに元気な返事を返す。

 本来ならば駆け出し冒険者と言うのは、装備がばらばらで統一感がないものなのだが、彼らに関して言えばその常識から外れていた。

 

 4人全員が裾の長く、身体の要所要所を守るかのように鉄板が打ち付けられているコートを見に纏っているのである。

 その中でも、リーダーらしき髪の毛を逆立てた少年の鎧服の背中には、大地母神の聖印が刻まれていた。

 

 

「元気で何よりだなぁ、しかしお前ら全員変わった鎧を着けてるけど。それが噂の巫女様肝入りの鎧服か?」

 

「ええ、神殿から貸し出して頂いてるんです。私達を含め……何人もの仲間達がこの鎧服に命を助けてもらっています」

 

 

 河川の守護女神の聖印が刻まれた錫杖を手に持っている、神官の少女が商人からの問いかけに微笑みながら答える。

 通常の鎧は、着用する人物の体型に合わせて仕立てる必要がある為、時間も資金もかかる金食い虫なのだが……。

 

 神殿に所属しているとある大地母神派の大神官が愛用している法衣を下に、様々な改革を打ち出している巫女が提案し生産が始まったこの鎧服は金欠に喘ぐ駆け出し冒険者にとっては福音と呼べるものであった。

 無論、それでもなお買い取るとなれば相応に金額は要するし……駆け出し冒険者に貸し付けられる支度金だけでは到底届かない。

 

 故に始まったのが、神殿が管理している鎧服の駆け出し冒険者への貸し出しなのだ。

 多少の破損程度ならば、神殿から職人見習いへ修行兼小遣い稼ぎとして修理に出され、冒険者への資金負担を要求する事はなく。

 損壊してしまった場合も、状況と報告によっては何割かの弁済費で赦している。

 

 

「冒険者を管理するなんて話を聞いた時はどんな与太話かと思ったが、蓋を開けてみれば至れり尽くせりな話だな」

 

「その分報酬は前よりも安くなってるらしいし、税金分差っ引かれてるから中々お金溜まらないけどねー」

 

「馬鹿言うんじゃねぇ!こんだけ良くしてもらってる上に腹減ってたら神殿で訓練受ければいい話じゃねぇか!」

 

 

 冒険者達からの話、そして同業者から聞こえてくる話に……一体話題の巫女様はどんな魔法を使ったのやら、などと商人は呟くと。

 その呟きを小さな狼のような耳で拾った、小柄な獣人の少年が嘆くようにぼやき。彼のボヤキに対して髪の毛を逆立てている少年が語気を荒げて叱咤する。

 

 

「わかってる、わかってるよリーダーそんなに怒らないでよー」

 

「……ったく、お前はやっぱりヴァーヴルグ大神官に性根を叩き直してもらうべきだな」

 

「勘弁してってばぁ!あんな血も涙もないしごきを喜んで受けるのリーダーくらいだよー!!」

 

 

 ひぃぃ、と情けない声を上げて尻尾を丸めながら少年は……世間話に興じてる間ものっしのっしと歩き続けるハビットにしがみつくようにして隠れる。

 しがみつかれたハビットは、面倒くさそうに少年へ目だけ向けるも。振り落とすのも面倒だとばかりに歩みを止める事は無い。

 

 

「リーダーにとっては件の巫女様は憧れですからなー、それもまた青春青春」

 

「な、ななな、何を言ってやがる!」

 

「語るに落ちてるよリーダー……あれ、副リーダーなんでそんなに不機嫌なの?」

 

「知りません!」

 

 

 北方山脈出身らしい、大柄な直立するドラゴンが如き種族……鈍器と見紛うような大剣を背負った竜人の青年がからからと笑いながらリーダーと呼ばれた少年をからかい。

 からかわれた少年は、顔を真っ赤にしてその発言を否定するも。ハビットにしがみついたままの獣人の少年に容赦なく突っ込みをうけ、そんなリーダーを頬を膨れさせながら見つめていた副リーダーが獣人の少年の言葉にプイと横を向いた。

 

 護衛対象である商人は、そんな緊張感が無いともとれる冒険者たちのやり取りを、若さって良いなぁという中年に片足を踏み込んだ感想と共にただ空を見上げるのみであった。

 

 しかし、長閑な時間は唐突に終わりを告げる。

 

 

「みんな!狼の群れが近づいてくるよ!」

 

 

 ハビットにしがみついたままだった獣人の少年が、小柄な体格相応な身軽さで飛び降りると尻尾を逆立てながら大声で全員へ警戒するよう呼びかける。

 呼びかけられた冒険者たちは、駆け出しであれども。荷兎車を中心に陣形を組み、獣人の少年が呼びかけた直後に姿が見え始めた狼の群れへ冷や汗を浮かべながらも、手に持った武器を強く握りしめた。

 

 

「後ろから挟み撃ちはきてるか!?」

 

「来てないよ、見たところ前から来てる連中だけだよ!」

 

「商人さん、俺達が対処するから。安全な場所まで逃げてくれ!」

 

「バカ言ってんじゃねぇよ、むしろこの状況だと一人逃げる方が悪手だ。覚えておけヒヨッコ!」

 

 

 護衛から不慮の事故で引き離され、単独行動となった行商人が逃げた先でまた襲われて死ぬ。行商人にとってはありふれた死に方だ。

 そんな事も知らないのか、と商人は考え舌打ちを打ちそうになるが……そもそも駆け出しに言うのは酷かよクソッタレ。と一人悪態をついて荷台から弓と矢を取り出して構える。

 

 

「覚えておけ駆け出し!護衛を頼んだからには行商人も、護衛と一蓮托生する覚悟キメてるってよ!」

 

 

 くたびれ始めた弓に矢を番え、集団とはわかれて側面へ回り込もうとする狼めがけて射撃。狙っていた頭部からは逸れたが狼の胴体に矢が深く突き刺さり、苦痛に悲鳴を上げながら一匹の狼が転がるように倒れる。

 その光景に、護衛対象にばかり頼ってはいけないと若き冒険者達は奮起し、狼の群れとの闘いに身を投じた。

 

 

 

 結果から言えば、あわやという場面こそあれども冒険者たちは誰一人命を落とすことなく、狼の群れの撃退に成功した。

 冒険者として初めて直面した命の危機、それを乗り越え……成し遂げたという事実に、冒険者たちは互いに抱き合いながら勝利を喜ぶ。

 

 

「おーいお前らー、嬉しいのは解るけどすぐにここから離れるぞ。血の臭いで御代わりがきたら敵わんからな」

 

 

 商人が苦笑いと共に告げた言葉に、少年たちは我に返ると気恥しそうに商人へ謝罪し奇跡による治療を施すと。

 足早に戦いの場から離れ……その後は特に襲撃を受ける事もなく、無事に目的地へと到着する事が出来た。

 

 

「お疲れさん若いの、お前達のおかげで無事に目的地に着く事が出来た。ありがとな」

 

「いえ、色々と勉強になりました。こちらこそありがとうございました!」

 

 

 目的地である街の入口の前で、あちこちボロボロになりながらもしっかりと両の足で立っている若い冒険者達へ商人は礼を告げ。

 礼を言われた少年達は、通り過ぎていく別の冒険者や商人たちに、揃いの鎧服を不思議そうに見られながらも商人へ頭を下げる。

 

 そんな清々しい少年の様子を見て商人はどこか暖かい気持ちになりながら……。

 依頼達成の証として、寄合から仕事が無事終わったら冒険者に渡してほしい。そう言われていた割符を冒険者のリーダーである少年へ渡したその時。

 ふと、らしくもないがこの若者達に何か特別な報酬を渡してやりたいと思った。

 

 

「折角だ、こいつをやるよ。北方山脈で酒宴に招かれた時に、巨人の細工師からもらった魔除けだ。 何でも悪いモノから身を守ってくれるらしいぜ?」

 

「え、でも。こんな高そうなもの受け取れねぇよ!」

 

「投資だよ投資、また何かあったらお前さんらに依頼出すからよ。それまでくたばっちまうんじゃねぇぞ」

 

 

 商人から強引に押し付けられるように渡された、魔除けの刻印が彫られた……コイン程度の大きさのメダリオンを手にもったまま、リーダーの少年は茫然とした表情を浮かべ。

 次の瞬間、自分達の仕事が認められた喜びに顔をくしゃくしゃに歪めて嗚咽を漏らしながら、商人へと深く頭を下げた。

 

 商人は自分らしくない気障な真似に、妙に恥ずかしくなる逃げるように振り返ることなく手をひらひらふりながら。相棒へ手綱から合図を送って目的地である街の交易所まで荷兎車を勧める。

 

 

 

 あのピカピカはお気に入りだったはずなのに、良いの?と言わんばかりに自身へ視線を向けてくる相棒に商人は気付くと、頬をぽりぽりかきながら言い訳をするかのように口を開く。

 

 

「いいんだよ、それにアイツらが将来有名になったら。語られる冒険譚の主役になれるかもしれねぇだろ?」

 

 

 柄にもない事を言い訳のように口にする商人の様子に、相棒であるハビットはぷぅ。と鼻を鳴らしながらのっしのっしと道を進む。

 

 

 

 

 数年後、新進気鋭の高い実力を持つ冒険者のパーティが一つの偉業を成し遂げるのだが。

 そのパーティのリーダーである、逆立てた髪が特徴的な大地母神の聖印を背負った青年の胸には、魔除けの刻印が彫られたメダリオンが輝いていたそうだ。




商人「……しかし、あのリーダーの少年。明らかに副リーダーの娘に懸想されてたよな」
商人「駆け出し冒険者ですら恋愛してると言うのに、何故俺には嫁どころか連れ合いすらいないのだろう」
商人「教えてくれ相棒、金貨は俺に何も答えてはくれない……!」
相棒(ハビット)「(なんかまたアホな事言ってる)」

というわけで、一章のエピローグに続き。商人さんでシメでした。
これからもエピローグでは、便利な視点主として活躍してくれる事でしょう。


『TIPS.獣人の発情期』
獣人種は種族差、及び個人差こそあるが発情期が存在する。
発情の度合いもまた人それぞれであるが、酷い症状になると恋人と籠り切りになったり、夜な夜な娼館へ通いつめたりする有様となる。
活動にも支障が出る事が多い為、錬金術師が商いをしている店では、それらの症状を緩和するポーションが常に売り出されており、そして常に一定数の売り上げを上げている。

なお、獣人種に分類されるコクヨウにも発情期は存在する。
しかし彼女の場合は、少々通常の獣人種とは発情の規則や度合いが異なるらしい。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。