ねごしえーたー!   作:社畜だったきなこ餅

19 / 38
二週間近くの更新休止、大変申し訳ありませんでした。
またしばらくは毎日更新を続けられる予定ですので、宜しければお付き合い頂けると幸いです。


18.季節は廻り春が来る

 

 

 

 この世界に降りて初めての、長かった冬も終わり……。

 麗らかな陽気が降り注ぐことで雪解けも始まり、ようやく春めいてきた今日この頃。

 

 

「ほふー……お日様が気持ちいいなぁ」

 

 

 午前の仕事を終えてお昼ご飯も食べ終わり、日向ぼっこをしながらのんびりとお茶を啜る。

 本格的に始まった冒険者への支援と装備貸与も今の所問題なし、少しばかり調達費用が足りなくなりかけたりもしたけども。

 ボクが着てきた衣服の意匠を取り込んだ洋服が、去年のお祭りによって口コミから注文殺到。そこからキックバックで入って来たお金で何とか賄う事も出来て一安心だね。

 

 まぁその結果職人さんが忙しくなりすぎて、貸与用装備の製造をお願いした職人さん達が若干大変になってたみたいだけど……見習いさんとか総動員で乗り切る事も出来たので結果オーライなのだ。

 そんな具合に尻尾をパタパタ振りながらお茶を味わい、のんびりとしていたところ……。

 

 何かが激しくぶつかり合うような衝撃音が響き渡り、思わず大きな耳をビクンと立てて反応してしまう。

 音のした方向からして、ヴァーヴルグさんが指導している訓練場の辺りからしたっぽいので、好奇心の赴くまま足を向けてみるのだ。

 

 

「あ、巫女様も気になったんですね、凄い音だったもんなぁ」

 

「うん、一体全体何が起きたの?」

 

 

 神殿の二階へ上がり、訓練場を見下ろせる場所へ移動して見たらそこには既に結構な数の人だかりがあり、ボクに気付いた神官さんが声をかけてくる。

 神官の彼の言葉に頷いて同意を示しながら、隙間から顔を出して覗き込みつつボクより先に来てたっぽい彼に、話を聞いてみるのだ。

 

 

「ああ、ヴァーヴルグ殿の旧友である竜人の武人が訪ねてこられて、久しぶりに手合わせしようかという話になったそうですよ」

 

「ほへー、なるほどなぁ」

 

 

 訓練場を見下ろしてみれば、既に何度か肉体をぶつけあったようでその地面は大きく荒れており。

 いつもの装甲法衣に身を包み、肩幅程に広げた両足でしっかりと大地を踏みしめたヴァーヴルグさんが、右手の掌を相手へ向けるように構えており。

 彼と対峙している竜人の……屈強で大柄なヴァーヴルグさん以上に大柄な人は、その鱗に包まれた尻尾を大きく揺らしながらも両腕を腰だめに抱えるような、独特な構えを取っている。

 

 

「あの竜人の方は確か、北方山脈でも名が売れてる武人だったよな?」

 

「ああ、称号と二つ名持ちですね。確か『不滅』の『貪竜』……名前は」

 

 

 バトル系作品の解説みたいなことをしている神官さん達の会話を大きな耳で聞いている中、訓練場で互いににらみ合ってた二人が動き始める。

 ヴァーヴルグさんが訓練場の地面に大きな足跡を残しながら踏み込み、爆発的な加速と共に竜人さんへ接近。

 正直ボクだと反応なんて論外な速度の踏み込みに対し、竜人さんは前へ踏み出しながらその右腕を振るうが……次の瞬間ヴァーヴルグさんが、薄い頭頂部に陽光を反射させながら飛翔して。

 

 空中で前転をしながら全体重と膂力を込めてるであろう踵落としを、竜人さんの脳天へ叩き込み激しい衝突音と共に竜人さんの体が少し沈んで土煙が巻き起こり……二人の姿を覆い隠す。

 

 

「アレは決まったな!」

 

「いえ、まだです!」

 

 

 観客状態の神官さん達が盛り上がる中、二人を隠していた土煙が晴れると同時に……左腕でヴァーヴルグさんの足を掴んでいた竜人さんが、訓練場の地面めがけてその大柄な肉体を叩きつけようとする。

 しかし、為す術もなく叩きつけられると思って思わずボクは目を瞑ってしまったんだけども、ヴァーヴルグさんが地面へ叩きつけられる音が何時までたっても聞こえてこないので目を開けば……。

 互いにボロボロになりながらも、距離を取り互いににらみ合っている状態に戻っていた。どういうことなの。

 

 

「え?今の一瞬に何があったの……?」

 

「ああ、叩きつけられる瞬間にヴァーヴルグ殿が『不滅』の腕にもう片方の足で全力で蹴撃を入れて、拘束が緩んだ瞬間に脱出したんだ」

 

「さすが、我らの神殿が誇る最高戦力……!」

 

 

 茫然としたボクの呟きに、子供みたいにはしゃぎながら解説をしてくれる神官さん達。ノリ良いなオイ。

 でも、こんな激しい戦い見たのは初めてだからボクも正直ワクワクしてるし、他人の事言えないな!

 

 

「またヴァーヴルグ殿が仕掛けるぞ!」

 

「しかし。『不滅』のと言えば……後の先の達人、果たしてどうなるかわかりませんね」

 

 

 踏み込むと共に振りの小さい、しかしこちらまで音が届くと錯覚させるほどの速度でヴァーヴルグさんの拳が竜人さんめがけて振りぬかれる、だがその動きを読んでいたのか竜人さんは左腕でその拳を払うようにいなすと。

 体幹が流れる事で無防備な姿を一瞬晒したヴァーヴルグさんの胴体めがけ、肘撃ちを叩き込んで彼の大柄な体格を吹き飛ばす。

 

 

「ああ!思いきり入った!?」

 

「いえ、ヴァーヴルグ殿は咄嗟に左手で肘を受け止めてました!」

 

 

 ボクが目で追えなかった攻防を事細かに解説してくれる神官さん二人がとても有難いね!

 でも正直この二人、実況と解説で食べていけるんじゃなかろうか。なんて思うのは内緒だ。

 

 

「おお、ヴァーヴルグ殿が法衣を脱がれるぞ!奇跡も行使しているな!」

 

「ここから本気の本気と言った様相ですね、しかし『不滅』の方も竜語魔術による肉体強化を始めました。ここからは瞬きも惜しいですね……!」

 

 

 二人の解説通りに、ヴァーヴルグさんが愛用の装甲法衣を脱ぎ去ると同時に何か祈りを捧げ、その体を発光させ……。

 竜人さんの方もニヤリと口角を上げて好戦的な笑みを浮かべると、激しい咆哮と共にその肉体を刺々しく重厚な姿へ変えていく。

 

 あれ?手合わせって話だったのに、なんかかなりガチ目なノリになってない?

 思わず呟くボクであるも、激しい攻防を見物している神官さん達は止める様子はなく、当然ヴァーヴルグさんと竜人さんもまた同様な感じで……。

 

 

「往くぞぉぉ!」

 

「こぉぉぉい!」

 

 

 二人の肉体が激しくぶつかり合う、と思った瞬間。

 屈強な男性二人の肉体が、水で作られた網で雁字搦めになりました。どういう事なの?

 

 ……あ、アクセリアさんが縛られた二人に近付いて行ってる。ボクから見ると表情が見えないんだけど……後ろ姿から見るにかなりご立腹っぽいね。

 

 

「あ、ヴァーヴルグ殿がアクセリア殿に蹴られた」

 

「その姿見て大笑いした『不滅』も全力で蹴られてますね」

 

 

 ヴァーヴルグさんと竜人さんの様子を見るに何やら弁明をしてるっぽいけど、アクセリアさんの蹴りが止まる様子はない。

 しかしあの屈強な二人を即座に拘束して、その上今も碌に抵抗できないぐらいに縛り上げてるとか……。

 

 

「もしかして、アクセリアさんが一番この神殿で強い?」

 

「肉体的な強さを除くと、多分一番敵に回しちゃいけないお人だな」

 

「ですね」

 

 

 解散解散とばかりに散っていく神官さん達、それでいいのか君達。

 しかし、お昼休憩を大幅に過ぎちゃってるのに見物してたボクも人の事言えないので、大急ぎで仕事に戻るのだ。

 

 

 

 そんなわけでお仕事に戻ったワケなんだけども。

 基本的に急ぎのお仕事は午前の部で片付けちゃうから、のんびり話しつつ時折入ってくる案件を片付けてるのが今の現状なんだよね。

 ……冒険者組合ならぬ、冒険者寄合立ち上げまではとんでもなく忙しかったけどさ。

 

 

「そう言えばさ、気になったんだけども……」

 

「? どうされました、巫女様」

 

 

 神官の子が淹れてくれたお茶を啜り、部屋にて一息吐きながらふとした疑問を呟けば……羊皮紙の束をまとめていた子がこちらの発言に反応してくれた。

 この子も今の部署立ち上げてからの付き合いだけど、凄い頼りになるんだよね。

 

 

「竜人の冒険者の人ってチラホラ登録されてるけど、男性ばっかりなんだよね。女性はいないの?」

 

「ああ、そう言えば巫女様は世情に疎かったですものね。竜人の方達は圧倒的に男性が多いんですよ」

 

 

 さり気なく世間知らずだからしょうがないと納得された不具合、いや事実だし悪く言う意思は感じないから気にしないけどさ!

 

 

「そうなの?」

 

「はい、悪く言うつもりは無いのですが……少々独特な文化を彼らは持ってますし」

 

 

 何か微妙に言い辛そうにしてる神官の子に首を傾げつつ、丁度手元にあった竜人種の新人冒険者達の簡単な資料へ目を落とす。

 冒険者になった切っ掛けや動機についての項目に、大体共通しているのが名を上げたいって書かれてるんだけど……。

 

 あ、よく見ると詳細が書かれてる新人がいる、どれどれ…………っ!?

 

 

「……え?」

 

「あー、見ちゃいましたか。じゃあ正直に言いますけど、彼ら竜人種は番って概念が一部の変わり者除けば殆どないんですよ」

 

 

 目を通して固まった内容、そこに何が書かれていたかというと……。

 『名を上げて功績を立てて凱旋し、女王と子作り出来る英雄になりたい』と赤裸々に書かれていたんだよ!予想の斜め上にもほどあるわ!!

 

 

「え、えーっと……どんな感じの文化なの?」

 

「そうですねぇ、まず基本的に一族の政治や内政に関わる事は産まれた時から英才教育を施された女性が務め、その中のトップが女王として手綱を握ってます」

 

「まさかの女性上位社会」

 

「そして男性は戦士、ないし職人や労働者として切磋琢磨。そして特別な功績を上げて称号や二つ名を得た者だけが子孫を残せるそうです」

 

 

 まぁ長年の忠勤が認められれば、女王の配下である侍女達との子づくりが認められるそうですけどねー。などと補足までしてくれる神官さん。

 しかし、聞けば聞くほど不思議な社会体制だなぁ。

 

 

「その、正直思ったけど変わってるんだね……」

 

「まぁ実際そうですからねぇ、名誉の為なら命すら投げ捨てる所あったり。細工物や作り出す武具にしても変な所にこだわり見せる種族ですしね」

 

 

 まぁ色んな文化や考え方あるし、特別酷いってわけでもないからいいか。

 北方山脈まで足を運ぶとかいう事情でもない限り、ボクはそんなに関わる事ないだろうしね。

 

 

 

 

 

 今思えば、この考えがフラグそのものだったのかもしれない。

 




アクセリア「…………」(ただ無言で笑みだけ浮かべている)
不滅「お、おいヴァーヴルグ。何とか宥めろよ」
ヴァーヴルグ「そもそも、貴様が殴り込み同然に手合わせ願ってきたのが原因だろうが……!」
アクセリア「……反省が足りないのかしらぁ?」
二人「「ヒェッ」」

大体こんな感じで鎮圧された模様。


『TIPS.竜人』
高く険しい山々がそびえたつ北方山脈原産の種族。
彼らの特徴として、男性と女性の極端なまでな性差が挙げられる。
出産直後は男女とも差はそれほど大きくないが、男性は成長を遂げるにつれ……。
全身に鱗が生え、二次性徴と共にその頭部もまた竜のような貌へ変貌すると共に大きな角が生える。
一方女性は成長しても体の一部と尻尾ぐらいにしか鱗が生えず、大人になってもヒュームの女性とさほど違いのない外見となる。
更に男女の体格差も顕著であり、成人男性は平均的に2.4mほどに対し女性は平均1.5mほどと大きな差が生じる。
また、女性が極端に少ない事と過酷な地で文化をはぐくんできた影響か、男性には女性は護るモノという意識が非常に強く。
数少ない女性を振り向かせるために、その心身を燃やし尽くすかのような生き方をする者が非常に多い。

なお、ごく稀に他種族の女性と結ばれる竜人族の男性もいる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。