ねごしえーたー!   作:社畜のきなこ餅

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まさかの、一話の時点で評価を幾つも頂けるとは……。
皆さんの応援を糧に頑張って参ります、これからもTS転生者くんちゃんの奮闘を応援ください。


02.狐っ娘大地に立つ

 

 皆さんこんにちは、人によってはこんばんはでしょうか。

 悪魔の姦計によってTS転生させられたクソ哀れな転生者でございます。

 

 今ボクがどんな状況かと言えば……。

 

 

「気が付いたらここに居て、正直何が何やらで……」

 

「ふむ、嘘は吐いておらんようだな。難儀だなぁ、お嬢ちゃん」

 

 

 140cmぐらいのボクと同じぐらいの背丈で、しかしがっしりとしたおじさんが腕を組み指先でヒゲを弄りながら唸る。

 首元にぶら下がっているシンボルが特徴的だったけども、よく見るとその恰好はまるで神官を思わせるような意匠です。

 

 

「それでどうする。帰り道はわかるか?」

 

「……いえ、正直見当もつかないです」

 

 

 そして多分帰れないです、とはさすがに言えない。なんせ元々違う世界なのだから。

 そう考えると無性に泣けてくる、と言うか視界がぼやけてくる。

 

 

「こらこら泣くな、しかしそうなるとなぁ……まぁここで立ち話をしていても埒が明かんし場所を変えるぞ」

 

 

 めそめそし始めたボクの背中を、そのゴツゴツした手で優しくあやす様に叩くおじさん。

 ボクはおじさんのその言葉に頷くと、おじさんに連れられて歩き始める。

 

 鼻を啜りながら、少しでも状況を把握しようと周囲を確認すればそこは、木漏れ日が差し込む林の中だった。

 時折吹き抜ける風と、ボクの体を包む華美だけれどもヒラヒラした着物じみた衣服では若干肌寒く感じる。

 

 

「あ、あの。少し冷えるんですけども、今の季節は秋か何かですか?」

 

「む? 何を言っておる、今は夏だぞ」

 

 

 しょうがねぇなぁ、なんて言いながら清潔な印象の上着を脱ぐとぶっきらぼうにボクにおじさんがかけてくる。

 身体の変化によるものか、土と鉄の匂いを強く感じるが不快さは感じなかった。

 

 

「そんなヒラヒラしたおべべに、お前さんの耳の大きさやその様子からすると。南の暖かい方出身か?」

 

「えっと、高温多湿だったのは事実です」

 

 

 なるほどなぁ、それなら納得だ。なんて言いながらボクを先導するようにおじさんは歩き続ける。

 やがて、森を抜けるとそこは小高い丘の上で……視界には吹き抜ける風にたなびく、麦のような作物が一面に生えている広大な畑が広がっていた。

 

 

「その様子だとこの手の光景が珍しいのか? お嬢ちゃん」

 

「え?ええ、はい。ここまで大きな耕作地を実際に見たのは初めてです」

 

 

 ワクワクしているボクの気持ちを隠そうとしない尻尾がパタパタと動くのを感じながらも、目の前の景色に圧倒されているボクをおじさんは微笑ましそうに眺めつつ。

 歩きながら、ボクが次々とぶつける目新しいモノに対する質問に答えてくれた。

 

 

「ハビットも角豚も、ましてやメリジェの実すら知らないたぁな。こりゃ結構なお嬢様だな」

 

「? どうしたの、おじさん」

 

「いやなんでもねぇ。それと俺はおじさんじゃねぇ、まだ56なんだよ俺は」

 

 

 時折すれ違う荷車を牽いていた全長2~3mほどのもこもこした大きな兎ことハビットや、柵の内側で呑気に昼寝していた大きな角が生えた角豚。

 それに、玉蜀黍のような生え方をしていたトマトと桃の合いの子みたいな果実メリジェなどなど、ボクが僕だった頃にいた世界とは大きく違うものに目を輝かせるボクの様子に。

 おじさんは顎髭を扱きながら、何やら小さく呟いたので何事か聞いてみれば……56歳なのにおじさんじゃない宣言。思わず首を傾げるボクである。

 

 

「……その様子だとお嬢ちゃん、もしかして俺の事ヒュームだと思ってたのか?」

 

 

 え、マジかよ。と言わんばかりの表情を浮かべるおじさん(仮)。

 少し整理しよう、目の前のおじさん(仮)は自分を56だと称した上でまだおじさんではないと主張している。

 さらに今の言葉、察するにヒュームというのは人間を差す単語だと推測できる。

 

 そして、今のボクの体となっているキャラクタの身長設定は140cmほどにしていた。そんなボクと同じぐらいの背丈でかつ上着を脱いだことで分かりやすくなったがっしりとしている体格から察するに……。

 

 

「ごめんなさい、そう思ってました……」

 

「まぁ良いけどよ。俺はドワーフだよ、その様子だとドワーフを見た事も初めてなのか?」

 

「うん」

 

 

 マジかよ、マジかよ……と足を止めて頭を抱えるおじさん(仮)。

 まさか、知らない内にとんでもないタブーを踏み抜いてしまったのだろうか。

 

 

「あ、あの。何かとんでもない失礼なことをしちゃいましたか……?」

 

「いや、違うんだそうじゃない。お嬢ちゃんは安心するといい……おぉい!そこな兄ちゃんや!」

 

 

 震えた声で問いかけるボクの声を、おじさん(仮)は勢いよく首を振って否定すると……目についたこちらに背を向けて農作業している、農夫のお兄さんめがけて声を張り上げた。

 呼びかけられたお兄さんはこちらへ振り向きボクへ視線を向けると、その動きを硬直させたかのように止めて……慌てた様子でこちらへ駆けてくる。

 

 

「あ、あ、あのギグさん。こちらのとても美しいお嬢さんは、一体?」

 

「おぅジョン坊じゃねぇか、ちょっと訳ありのお嬢様でな。良く熟れたメリジェの実二つほどもらえるか?」

 

 

 健康的な日焼けをした肌を惜しむことなく曝け出している、ボクよりも頭一つ分ほど背丈が高いお兄さんがどぎまぎした様子でおじさん(仮)……じゃなくてギグさんに質問している。

 さすが魅力特化で仕上げたキャラクタだけある、と言える状態だけど正直ボク的には物凄く複雑なのは内緒なのです。さすがに表情には出さないけどね!

 

 

「はい、選りすぐりの奴持ってきます。少々お待ちを美しいお嬢さん!」

 

「あ、おーい。代金……あいつ行っちまいやがった」

 

 

 銅で出来ていると思われる貨幣を渡そうとしたギグさんを他所に、わき目も振らず走っていったジョンさんとやらの様子に思わず笑ってしまうボクでしたが。

 そんなボクに気付くと、ギグさんは髭面の顔にホっとした様子を滲ませて口を開く。

 

 

「ずっと張りつめてた様子だから心配してたが、少しは気持ちも楽になったか?」

 

「え、あ……なんだかごめんなさい」

 

「謝るなって、俺も配慮が足らなんだわ。すまん」

 

 

 ぼりぼりと後頭部をかきながら気まずそうに謝るギグさん、口調はぶっきらぼうだけどこの人……ならぬドワーフさん、凄く良い人です。

 そして、大事なことを伝えていなかったと口を開こうとしたその時。

 

 

「お待たせしましたぁ!今が旬のメリジェの実お二つです!」

 

「おう、あんがとよ。お前代金受け取らずに走ってくなよ」

 

 

 粗く息を吐きながら、近くで見てみると大体ボクの握り拳と同じかちょっと大きいぐらいのごろっとした実が、ジョンさんから差し出される。

 ギグさんが銅貨2枚支払ってるのを見て、受け取って良いのかと思わず視線をギグさんへ向ければ遠慮すんな、なんて言われたので受け取る。

 

 受け取ったソレは林檎のような質感で、水分もたっぷり含んでいるのかずっしりとした重量をボクの手に伝えてくる。

 

 

「あんがとよジョン坊、仕事の邪魔して悪かったな」

 

「あ、あのそちらのお嬢さんのご紹介は……」

 

「悪いが後にしてくれ、案内せんといかん場所がある」

 

 

 そんなー、と悲しそうに肩を落としつつお仕事に戻るジョンさんを眺め、良いのかとギグさんへ聞いてみれば……。

 

 

「アイツは別嬪さんを見ると誰でもあんな調子だよ、何度もアレで痛い目見てるっつぅのによ」

 

 

 どうしようもない弟分を語るかのような厳しくも、どこか暖かい物言いに思わずボクの口元が綻ぶ。

 そして、手に持ったメリジェの実に大口を開けて齧り付き始めたので、ボクもまたギグさんを見習って手に持った実に齧り付く。

 

 何これ凄く甘い、だけど瑞々しい果汁が甘さを洗い流すように口の中を抜けてく。

 思わず口の端から垂らしてしまいそうになった果汁を、お行儀が悪くも手で拭いつつハムハムと食していく。

 あ、種もある……けど、ザクロの実みたいにプチプチと口の中で弾けるように噛み潰せる。ちょっとの苦みがあるけど果肉の甘みと相まっていつまでも味わっていたくなる味だ。

 

 

「はふ……凄く美味しいです」

 

「かっかっか!そうだろそうだろ、このセントへレア自慢の作物だからな」

 

 

 歩きながら夢中で尻尾をバタバタ振りながら食べ切ったボクの言葉に、ギグさんは豪快かつ愉快そうに笑って教えてくれた。

 そうしている内に農地エリアを抜け、ボク達の目の前にそこそこの高さの防壁と扉が見えてくる。

 開いたままの扉の向こうにはそこそこ広い通りに、露店が立ち並び賑やかな街並みが見えており……その奥には遠目に見てわかるほどに、大きな神殿が建っていた。

 

 

「ギグさんですか、お通りを……ところでそちらのお嬢さんは?」

 

「ああ、こっちの嬢ちゃんの名前は………………」

 

 

 防御力重視というより、動き易さを重視したかのような装備に身を包み腰に短剣を下げ手には長槍を持っている衛兵さんがギグさんに声をかけ。

 続けざまに、ボクについてギグさんに問いかけ……ボクの名前を言おうとして、ぴたりとギグさんの動きが止まる。

 

 うん、とんでもないうっかりしてた……さっき言いかけて止めちゃったボクが一番悪いんだけどさ。

 

 

「今更だけどよ嬢ちゃん、名前は何だ?」

 

「あのー、ギグさん。さすがの我々もそれは如何なものかと思うのですが」

 

「えぇい、俺も悪いと思ってるわ!」

 

 

 顔馴染みらしき二人がやいのやいの言っているのを見て、その様子がなんだかおかしくて思わずクスクス笑ってしまう。

 そんなボクの様子に、二人は気まずそうにしつつ……衛兵さんは頬を赤らめつつ、コホンと小さく咳ばらいをした。

 

 ボクが僕だった頃の名前は思い出せない、ならばボクが名乗るべき名前はたった一つだ。

 

 

「ボクの名前は……コクヨウと言います。正直なんでこの地に来たのか今でもわかっていないのですけども、ギグさんの助けでこちらまでやってきました」

 

 

 この体、キャラクタの名前であるコクヨウ。

 今、しっかりと名乗った事で……ふわふわとした気分が、ようやくしっかりとしてきた気がする。 

 




『TIPS.ドワーフ』
エルフが森の民ならば、ドワーフは鉄の民である。
彼らは山間部に洞穴を掘って集落を築き、山の恵みと地熱で生育される作物で日々の糧を得ている。
また、種族的な特徴としては熱や温度を視覚として捉える事が出来、その性質によって光源が不十分とされる洞穴や鉱山の中でも不自由なく活動する事が出来る。
その背丈は大柄とされるものでも150cmに届かないが、膂力と頑健さは特筆するに値するものを誇っている。

種族が総職人と言える気質を持つ彼らは優れた武具を作る事、持つことを最大の名誉と考えている。
その性質が仇となり、名剣や宝剣に魅入られてその身を滅ぼしたドワーフの逸話にもまた事欠かないのは内緒である。
ちなみにその辺りの種族的失敗談を、酒場でドワーフに持ちかけた際は大喧嘩の元となる為注意が必要である。
彼らは頑固者で義理堅く、忠誠心と友情に溢れているが同時に喧嘩っ早いのだ。

余談であるが、男性は少年と呼ばれる時期から髭が生え始め、青年となる頃には髭まみれとなる。
一方女性は、体形こそ男性と同じずんぐりむっく……小柄で頑健な体型だが、髭は生えていない。

種族的寿命はおおよそ200前後、30歳で成人扱いとなる。

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