ねごしえーたー!   作:社畜のきなこ餅

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先日は更新できず申し訳ありません、何とか22話お届けできました。
しかし、今回は物凄い難産でした……。



22.幼き竜姫の恋

 

 

 竜人の侍女さんに案内してもらい、やってきたのは問題の渦中にいらっしゃる幼姫様のお部屋。

 その中にいらっしゃった幼姫様は、幼いという言葉に違わずロリでしたとさ。 どないしょ。

 

 ともあれ、見慣れない人物であるボクを首を傾げながら眺めてくる幼姫さんに、案内してくれた侍女さんがボクを紹介してくれたので、軽く頭を下げながら自己紹介するのだ。

 

 

「セントへレアの街の神殿にて、巫女をやっているコクヨウと申します」

 

「ん、私はメルルゥ。《女王》ディーヴァの末娘、よろしく」

 

 

 ボクの自己紹介に対して、口数少なく応じられる。警戒されてるのだろうかと思うも、漂う雰囲気やその手の様子は感じられないので、多分こういう娘さんなんだろうね。

 しかし、そうなると何でこんな儚げな幼姫が行商人を見初めたのか、凄い気になる。

 

 だけども、言葉は慎重に選ぶ必要がありそうだ。

 恋心の力になると言う? 叶えられない可能性が高い空手形を切るのは危険すぎる、ダメだ。

 恋煩いについて聞かせてほしい? 恋煩いと言う概念があるかも怪しい竜人族で、しかも彼らの恋という概念を把握できてない内に踏み込むのは危ない。これもダメだ。

 

 そうなると、現時点で聞けることは自ずと限られてくる。まずは……。

 

 

「よろしくお願い致します。 メルルゥ様、貴方様が贈り物をした相手について教えて頂いてもよろしいですか?」

 

「ん……恥ずかしいけど、セントへレアの人ならいいかな。炭金の仕入れできた人だった、ヒュームなのに私達の酒宴に混ざっても平気な顔をしていた」

 

 

 お、おおう。見た目の割に中々な目の付け所の様子。

 だけども、今の言葉から幾つか見えてきた所もあるね。

 

 恐らくだけど、切っ掛けは本当に些細な事で好奇心旺盛な姫が、本当に偶然か何かで外から来た行商人さんを目に入れちゃったんだと思う。

 

 

「そこに惹かれたのですか?」

 

「ん、違う。だけど、私に良い所を見せようとする飲み比べに初めて参加したヒュームだから、興味がでてお話した」

 

 

 何やってんの行商人さん。

 こんなロリロリしいお姫様に良い所見せる為の酒宴に外から来た人なのに参加とか、言い逃れできない性癖だよ。

 

 

「そ、それでその行商人の人はなんと?」

 

「ただの宴だと思って参加したって言ってた、けど。お話が楽しかったから、母様に頼んで逗留してもらって色々とお話を聞いてたら、胸とお腹がポカポカしてきた」

 

 

 信じてたよ行商人さん。

 だけど行商人さん、貴方思いきりフラグ立ててるよ!外からの稀人に貴人が惹かれる黄金パターンやらかしてるよ!

 

 

「だから、私の鱗を巨人の細工師に綺麗にしてもらったのを、あげた」

 

 

 さっき、女王様から聞いた話がここで出てくるんだね。

 

 

「……そして、その鱗を受け取ったんですね」

 

「うん。だけど最初は受け取ってくれなかった。自分にはその資格がないとか言われた」

 

 

 あれ、少し雲行きが変わって来た?

 当初の予測だと、竜人族のしきたりを知らないが故に何も考えずに行商人さんが受け取ったというケースを想定してたんだけど。

 

 

「でも、その時私はまだ子供作れなかったから。子供からの贈呈は友好の証だって、言ったの」

 

 

 お、おう。

 

 

「そうしたら受け取ってくれて。今年に入ってすぐに私は子供を作れるようになった、だから彼の子供を産みたい」

 

 

 何言ってんのこのお姫様ぁぁぁぁぁ?!

 

 

「え? そ、そのソレは……失礼を承知で申し上げると、渡した時の状況から求愛と言うのは少々厳しくないでしょうか?」

 

「なんで? 10年も経ってるならともかく、数ヶ月程度、私達からすると誤差」

 

 

 恋心から贈り物をして、その時は子供だから行商人さんは受け取った。

 だけども、お姫様基準だと渡してすぐに子供を産めるようになった……おそらく竜人族の女性では大人という感覚であると仮定して、更に彼らの感覚だと数ヶ月は誤差の範囲……と。

 

 

「え、ええと。しかしメルルゥ様はまだ幼いですし、行商人の人も困るかもしれませんよ?」

 

「私はもう70を超えてる、母様や姉様みたいに大きくないけど。子供を産めるなら立派な大人」

 

 

 ……ああ、そうか。このお姫様は根本的に、当たり前だけども感覚は竜人基準なんだ。

 ヒューム的な基準で考えると、見た目6歳か7歳にしか見えない少女は恋愛基準としては見づらい……いやもしかすると、いるかもしれないけど例外だからよけておくとして。

 

 だけども、かと言って今の70を超えてるって発言からすると。お姫様が大人バディになる頃にはその行商人さんは間違いなく墓の下だよねぇ……。

 ここはせめて、可能な限りここで解いておける認識の相違を解きほぐさないと、問題解決なんて無理っぽい。

 

 

「メルルゥ様、確かに竜人族では数ヶ月程度の誤差かもしれませぬが。ヒュームにとっては誤差とは言い難い時間です……贈り物を受け取ったから、恋慕を受け入れたと考えるのは危険です」

 

「ん……そう、なの?」

 

「はい。贈り物を受け取ったという事実だけで相手へ迫っても、メルルゥ様が悲しむ結果に終わると思います」

 

 

 ボクの言葉に、女王に比べて小さい尻尾を力なく垂らしながら俯くお姫様。

 罪悪感が半端ないけども、ここはハッキリとしておくべきだ。ずっと控えている侍女さんはお姫様の恋心に反対してたのか知らないけど、ボクを応援している雰囲気を背後から感じる。

 

 

「それと、もう一つ大事な確認しておかないといけないことがあるのですが……」

 

「……なに?」

 

 

 部屋の中に満ちる重い空気に耐えながらもボクは口を開く。

 ここが正念場だ、頑張れボク。

 

 

「行商人さんがメルルゥ様の想いを改めて受け入れたとして、彼の子だけを産めますか?」

 

 

 ボクの言葉に、お姫様は俯いて考え込み……無言でゆっくりと首を横に振る。

 そうだろうなぁ、とは思っていたけども。やっぱりそうなるよね、だけどボクは自分が子供を孕んだり産んだりしてないのに何でこんな事話してるんだろう。

 

 

「地域にもよるかとは思いますが、ヒュームは基本的に番となった相手とだけ子作りをします。今のままでは件の行商人の人が想いを受け入れる事は、ほとんど無いかと……」

 

 

 行商人さんがそう言うの好きな性癖持ってたら別だけども、そんなのは例外中の例外だから除外する。

 いやうん、愛の形を否定するのは良くないし。ついでに文化を否定するのも良い事だとは決して言えないけど……。

 今のままだと、さっきの女王様の言葉通り不幸にしかならないと思うから。

 

 そもそも、お姫様の見た目的に行商人の人が想いを受け入れるかどうかも怪しいって話だけど、そこも除外する。

 仮定に例外を重ねても、それはもはや捕らぬ狸の何とやらでしかない。

 

 

「……しばらく、一人にしてほしい」

 

 

 ショックを受けた様子のお姫様はボクにそう告げると、寝台へと足を向けて力なく倒れ込んだ。

 酷い事を言ったかなぁ、という罪悪感に猛烈に襲われるものの、ボクは侍女さんに案内されるままにお姫様のお部屋から辞する事となり……。

 

 シナバーさん達がのんびりと待っていた、客間のようなお部屋へと案内された。

 

 

「おうコクヨウ嬢、首尾はどうだった?」

 

「……異文化交流の難しさを痛感したよ」

 

 

 大理石を削り出したかのような椅子に座っていたギグさんが、耳をペタンと倒し尻尾をしんなりさせたボクに姫様との話し合いの結果を問いかけ。

 ボクの力ない回答に、そうだよなぁ。とヒゲをしごきながら言葉を返す。

 

 ある程度の話し合いをしたいから、お姫様との話の内容を情報共有して良いか案内してくれた侍女さんへ問いかけてみると、野放図に言いふらさないのであればと釘を差した上で了承を返してくれた。

 そんなわけで、状況をかいつまんで話をしたわけだけど……。

 

 

「巫女殿、苦労をかけて本当に申し訳ないのである」

 

 

 お姫様の部屋に行く直前に、お姫様の父親だということを明かしたドゥールさんが深く頭を下げてくる。

 彼もある程度の事情は把握していたけど、ここまでだとは思っていなかったらしい。

 

 

「異文化の壁に、恋愛意識の違い。ついでに言えば、ここにいない人間の将来も絡む案件。ここまでくると、お茶を濁して撤退するか……女王から姫に言い含めてもらうしかないと思うがねぇ」

 

 

 頬杖をつきながら、溜息を吐いて呟くのはシナバーさんである。

 正直、話を持ち掛けられた第三者と言う立場だけでいうならば、もはや手に負える案件ではないレベルの話だ。

 

 だけど、それでもだ。

 あの時、悩んだ末にゆっくりと首を横に振ったメルルゥ様の様子を思い出すと……なぁ。

 

 

「でも今回の問題は、遅かれ早かれ出てきた問題だと思う。内向きだった文化と思想の方向性が外からの商人の流入による刺激で変化した、と言うのが事の発端のように思うんだ」

 

「……それもまた事実であるな。事実、商人との交流によって外の世界に飛び出す若い竜人の男は、段々と増えているであるからな」

 

 

 シナバーさんの隣に腰かけつつ、侍女さんが出してくれたピリッとしつつも甘い不思議なお茶で喉を潤しつつ、女王様とお姫様双方と話した結果感じた事を話す。

 真っ先に反応を返してくれたドゥールさんはボクの言葉に同意を示し、彼から見た最近の事情を補足してくれた。

 

 

「10代前の領主ってのと、うちにあった古文書からして……500年ぐらい前か?トンネルやら昇降機が出来たのは」

 

「そうであるな。我輩がまだ鱗の生えてないガキンチョだった頃の話である」

 

 

 どーしたもんかなぁ、と呟きながらヒゲをしごいてたギグさんが天井を見上げ思い出しながら呟いたっぽい言葉に、ドゥールさんが首を頷いて応える。

 竜人の人達って実際どのぐらい生きるのか、かなり気になるけど今は横に置いておこう。

 

 

「ヒューム達には信じられないかもしれんであるけども、我輩らから見たらここ数百年の間にめまぐるしい変化してるのであるよ?」

 

「お前さんらのめまぐるしい変化と言っても、50年単位だろうが。俺らから見たらのんびりしてるにも程あるわ」

 

「いやぁ、ドワーフのお前さんらも俺から見たら中々に頑固で変化してないからな?」

 

 

 長命種であるドゥールさんとギグさんの話に、シナバーさんがぼそりと突っ込みを入れる。正直その気持ちはわかるかもしれない。

 結構手詰まり感はある、けども今のドゥールさんの発言で一つだけ。お姫様……メルルゥ様の想いを手伝えるかもしれない案は浮かんだ。

 

 後はこの案が受け入れてもらえるかどうかだけど、それはもう出たとこ勝負だよねぇ。

 ともあれ、今日はもうお腹が減ったので美味しくて暖かい御鍋とか食べたい。 

 

 

 

 

 行商人さんの気持ちはどうかって? そこはもう、女王の説得が成功した後のお姫様の努力次第じゃないかなぁ。 




冒険者竜人「……そういえば行商人殿、そのメダリオン。気のせいか竜人の鱗に見えるのだが」
行商人「ん?おう、ちっこい竜人族の姫様から貰った。最初は女性からの贈り物は求愛だって言うの聞いてたから断ったんだが……」
行商人「子供の産めない幼い女性からの贈り物は友好の印だって言われてな、それならって事で」
冒険者竜人「……い、いやソレを渡すのは。行商人殿にとってかなりマズイのでは?」
行商人「まぁヤベーな、だけどまぁ……いいんだよ」
行商人「(何でか知らんけど、アレを着けて娼館行こうとすると尋常じゃない殺意感じるんだよ。ついでに常時監視されてる気がして、なんか落ち着かねーんだよな)」

ヒント
幼姫メルルゥ:清姫
行商人:安珍


『TIPS.竜人族の寿命』
北方山脈に住む竜人族であるが、彼らの寿命は文献で確認されている中で1000年ほどとされている。
大半の竜人族は寿命の前に戦いで命を落とすが、それでもその寿命の長さから彼らの時間に関しての概念は非常に大雑把である。
彼らにとって、数か月や数年間は少し前やちょっと前程度でしかないのだ。
他種族とのハーフになると、純血の竜人に比べて寿命は短くなる。

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