今回のコクヨウのマッハ堕ちについて、活動報告にネタバレ置きました。
明かすかどうか悩んだのですが、読者さんへの誠意を通すべきかと思いご案内させて頂くことにしました。
今まで果たして、転生者がコクヨウだけだったのか。という事もチラリと判明します(本題にはあまり関係ない)
世界転移直後コクヨウ絵も仕上がったので、セントへレア神殿巫女仕様コクヨウの絵師さんに依頼を出しました。
一か月後ぐらいにはお披露目できるかもしれません。
そして、昨日は更新できず申し訳ありませんでした、ものすごい難産につき四苦八苦しておりました……。
心のもやもやが赴くままに、シナバーさんと一緒のベッドで夜を明かした夜の……翌朝。
部屋の窓から差し込む明かりに刺激され、目を開けてみれば既にシナバーさんは何やら装備の点検をしていた。
ボクは何故か残念だと思う気持ちを押し殺し、ベッドの中に潜り込み……。
声を押し殺して悶え苦しんだ、何やってんのさボクはぁぁぁぁ?!
何、バカなの?アホなの!?明らかに男誘ってるようなもんじゃん!
「何だかドタバタしてるようだが、随分変わった寝起きだなぁ」
ベッドの外からシナバーさんのいつも通りな声が聞こえてきたので、耳と目元だけベッドから出してシナバーさんと目を合わせる。
視線の先にいる彼はいつもの糸目なのんびり笑顔で、生暖かい目をボクへ注いでいた。
「まったく、ベッドの中で暴れるから髪の毛がくしゃくしゃだぞ、こっちに来なさいな」
櫛を借りるぞ、と言いながらボクへ手招きするシナバーさんに、ボクは気まずい想いを抱えながらとことこと歩み寄り。
シナバーさんの指示のまま、ちょこんと座る。
「まぁなんだコクヨウ、お前さんが何に怯えてるのか知らんが……とりあえず今の所お守は続けてやるからな」
「……うん」
どこか、手慣れた様子で櫛でボクの長い髪を梳き整えながら、シナバーさんがボクへ優しく語り掛ける。
聞き分けの無い子供へ語り掛けるかのような話し方に、なんかこう、恥ずかしさが限界突破するのを感じる。
「ほれ、終わったぞ。尻尾は自分でやれるか?」
「うん……」
シナバーさんから櫛を受け取り、ベッドの中で悶えた影響かぼさぼさ気味になってる尻尾に櫛を通していく。
もやもやしながら、互いに言葉もなく思い思いの作業を続ける中、部屋の扉がノックされどうぞと声をかけると侍女さんが扉を開く。
なんでも、女王様が朝食を相席しないかとお誘いをかけてくれたようだ。
女王様は結構多忙らしいので、コレを逃すとかなり後になりそうという話も侍女さんが伝えてくれたので、喜んでお誘いに招かれるとしよう。
そんなこんなで、ドゥールさんやギグさんとも合流しつつ案内されたのは昨晩火吹き鍋を食べた広間ではなく、少しこじんまりとしたほどよく温い小部屋で。
既に女王様が一番奥の席に、優雅に座っておりました。
「この度はお招き頂き、誠にありがとうございます」
「そう畏まらずとも良い。何かしらの手立てを浮かんでいる様子だったと、昨日あの後侍女から聞いてのう。居てもたってもいられなかったのじゃよ」
クフフ、と妖艶に笑いながらボク達に着席を促してくれたので、お言葉に甘えて席に座る。
今日もシナバーさんの隣だ。いやこれはボクの感情に基づいたものではなく彼がいざ動くというときに傍に居た方が負担が少ないかもという想いがあったりなかったりするわけで。
いけない、思考を落ち着かせよう。今はそれよりも優先する事がある。
「はい。かなり荒療治になるかとは思ったのですが……」
「構わん、許す。しかしまずは朝餉でも摂るとしようぞ」
女王様は柔らかく微笑むと、侍女さんへ目配せし……。
程なくして、何人もの侍女さんが料理を載せたお盆を運んでくる。
初めて見る料理が幾つかあるんだけども、気になった料理が一つある。
見事な彫刻が施されたお椀状の、蓋が被せられたモノが女王様やボク達の前に一つずつ置かれるんだけども。器自体が結構な熱を持っており、サイズは前世のモノで例えるならばお茶碗を少し大きくしたような感じだ。
じー、と見詰めるボクの前で手袋をした侍女さんが器の蓋を開けると、中から大きく湯気が上がると共に黄色いぷるんっとしたモノが現れる。
ともあれ、食事の前に女神様へのお祈りを軽く捧げて、女王様が食事を始めたのを確認した上で小さめの匙でソレを掬い、口へ運んでみると。
程よくしょっぱい、しかし色んな具材から抽出した出汁による味付けがなされた味がボクの舌に広がっていく。
これ、アレだ。竜人族風茶碗蒸しだ……あ、昨日の鍋にも入ってた茸を小さく刻んだのが入ってる。
はふはふと、がっつかないよう留意しつつ口の中を火傷しないように味わい、大きな器から侍女さんがそれぞれに取り分けたどろりとした餡状のスープに浸かったお団子っぽいものに今度は取り掛かる。
こうやって見ると、朝はスムーズに食べれるというか気持ち胃腸に優しい感じの料理が多いんだね。夕餉にとことん辛い物をがっつり食べる食生活から来てるのかな?
……あ、このお団子。何かの根っこをすり潰して団子状に練り上げたやつだ。独特な風味だけども、餡と絡めると凄い美味しい。
「……話には聞いておったが、本当に幸せそうに食を堪能する娘っ子じゃのう」
「はっ?!」
初遭遇な美味しいモノに夢中になりすぎてたぁ!
「も、申し訳ありません!」
「良い良い、気にするでない。妾らには最早見慣れたモノじゃが、お主にとっては目新しいものじゃろうしな」
それに客人の舌を喜ばせたとあれば、調理をしている竜人の調理師の名誉にもなるわい。と愉快そうに笑って告げる女王様である。
若干恥ずかしい思いをしつつ、その後は特に何事もなく食時は進んだ。結構な量があったけど、無事完食できた。
驚きなのは、食べ終わるまでどころか食べ終わった今でも仄かに温かいままの、料理が入っていた器だよ。
基本的に寒さが厳しい地方だから、料理が冷めないよう何かしらの工夫が施されてるのかな?
「さて、腹も満たされた事じゃし、話を始めたいと思うのじゃが……良いかの?」
「はい。おおまかに分けて、三つほどの案があります」
食後の、口の中がすっとする味が特徴的なお茶を啜りながら、女王様からの問いかけにボクは応える。
女王様はボクの三つ、という言葉にほぉ。と楽しそうに笑みをうかべながら、先を促してきた。
「まず一つは、メルルゥ様に想いを諦めて頂き、初恋を綺麗な思い出で終わらせてしまうというモノです」
「まぁ、妥当じゃろうな。妾もその方向を検討しておったし」
指を一本立てて告げれば、女王は腕を組みながら頷き……若干面白くなさそうにしながらも同意を示す。
「この案の良い所は、竜人族の社会規範に則ったモノだから混乱もなく、言ってみれば今まで通りの生活が続くというものです、しかし……」
「末娘に、妾らの業とも言える文化を背負わせる事でもあるのう」
目を伏せて呟く女王様の言葉に、小さく頷いて言葉を返す。
食事中は談笑していたドゥールさんやギグさんにシナバーさんも、ボクと女王様の会話を見守っている状態だ。
「続けて二つ目ですが、こちらは逆に件の行商人の人を里へ呼び出し、その人が肯定的な回答を示したならば、他の竜人の男性と同じく何かしらの功績を立てさせ……メルルゥ様と結ばせるというものです」
「ふむ、なるほどのう……」
あれ、思いっきり否定的な反応が出ると思ったら、思った以上に反応が悪くない。
思わず不思議そうにしてしまったのを女王様に感づかれたのか、ボクの様子に女王様は妖艶に微笑むと口を開く。
「200年前程かの、そこにいる《不滅》の《貪竜》や称号持ちの竜人と共に、お気に入りの眷属を屠った報復として……この里に襲い掛かって来た外なる邪神を撃退したヒュームの英雄がおったのじゃよ」
え、何それ怖い。
思わずその時の参加者だったらしいドゥールさんに視線を向ければ、懐かしそうな顔で部屋の天井を仰ぎ見ていた。
そも、外なる邪神って何……?
「……たまにな、己の力を分け与えた眷属を送り込み、世界を混乱に陥れようとする外なる神がいるのさ。一纏めに邪神って呼んだりしているけどな」
不思議そうな顔をしているボクに、そっと耳打ちして知識の補足をシナバーさんがしてくれた。
神殿の書庫にもない知識だし、神殿長のスェラルリーネさんからも聞かなかった話だから面食らったけども、そんなのもいるのか……。
「確かあの時は《女王》のみならず、姫様方にあの無様な眷属が粉かけようとしてたのであるよ」
「ち、ちなみにどんな具合に、ですか?」
「ふむ、思い出すのも腹立たしいがの……他者の心に干渉し己の行いを全肯定させる、忌々しいマヤカシを使ってきおったわ。彼奴を追い続けていたヒュームの英雄の助力が無ければ、妾らも危うかったやもしれぬ」
う、うわーお……あの飄々としたドゥールさんが吐き捨てるように言い放ったのも中々にレアいけど。
ソレ以上に口に出すのも汚らわしいと呟く女王様の怒気がヤバイ。どうやら中々の危険な眷属だったらしいです。
しかし、他者の心に干渉。外なる神の眷属……それ、もしかしなくても転生者じゃなかろうか。
あれ、そうなるとボクも身の上がバレるとかなり厄介な事になる気が……。
「ああ、怯えなくとも良いぞ巫女よ。外なる神の全てが邪神とは限らぬからの」
ボクの様子を見て、全てを見通すかのような目をしながらも優しく微笑む女王様の言葉にドキっとしながらも、肯定的に捉えられている現状にとりあえず安心する。
まぁ、そりゃボクだけじゃないよねぇ。案外この世界のどこかに、ボクと似たような感じで放り込まれた人いるかもしれない。
しかし、今はソレは重要な話じゃない。気になるけどもコレは帰ってから調べよう。
「ともあれ、じゃ。その英雄を何とか口説き落としての、一夜の契りを交わした末に妾も一人の混血の男子を産んでおるからのう。巫女の二つ目の提案もまぁ、なきにしもあらずと言った所なのじゃよ」
さらっととんでもない事言いやがったよこの女王様。
きっと、その英雄って呼ばれてる人も凄い苦労したんだろうなぁ……。
「ちなみに、その人は……?」
「百年ほど前に、遠い所へ旅立っての……」
寂しそうに呟く女王様、ああそうか。混血だから純血の竜人よりも寿命が……。
「《女王》、その言い方だと天に還ったと誤解されるかと」
「む、確かにそうじゃの。しかし100年間も旅立ちっぱなしと言うのは、少々親不孝じゃと思わぬか?」
ドゥールさんの言葉に、口を尖らせて文句を言う女王の言葉に思わずボクは椅子から滑り落ちそうになり、シナバーさんに支えられてソレを危うく逃れる。
生きてるんかい!!
「あ、あの。ご健在なのですか?」
「うむ。たまに旅先で得た土産物と一緒に便りが届くが、元気にしておるようじゃ。父親の故郷が見たいと言って旅立ったのなら、そのまま帰ってくれば良いと思うのじゃがのう」
この女王様、割とイイ性格してやがる……!
いかん、相手のペースに呑まれてはいけない。まだ本命の案を伝えていないから落ち着かないと。
「こほん、正直現実的でないという理由で却下されると思ったから驚きましたが……本命は三つ目です」
「ふむ、聞かせてもらおうかの」
小さく咳払いし、お茶で喉を潤してから真正面から女王様を見据える。
雰囲気が変わったボクの様子に、女王は目を細めて微笑んでいる。
「メルルゥ様を、セントへレア神殿でお預かりし…竜人の里ともまた違う、新たな価値観を学習頂くというものです」
「……詳しく聞かせてもらおうかのぅ?」
先ほどまでの和気藹々とした空気が急速に塗り替えられ、《女王》の称号に相応しい風格が滲み出る。
ああやっぱり、先ほどまでのは遊び半分だったんだね。
「今回の騒動も言ってみれば、互いの価値観と文化の相違が齎したモノです。そして外との交易を続ける以上、この相違は時間が経つにつれ大きくなると予測されます」
ボクの言葉に、思い当たる節があるのか視界の隅でドゥールさんが確かに……などと呟いてる様子を見つつ。
女王様もまた同様に、道理じゃのぅ。と呟いている。
「ならばいっそ、この度の騒動を機会にこちらも補助し易い神殿でしばらく過ごして頂き、そこで外の価値観を学んでもらいながら改めて想いを告げるか、秘めて頂くかを姫様に選んでいただくのはいかがかなと思いまして」
「クフフ、随分と踏み込んだ提案じゃのう?」
愉快そうに微笑みながら、女王様は手を口元にあてて暫し考え込み……。
そして、何かを決めたのか柔らかな微笑みと共に口を開いた。
「良かろう。巫女殿の三つ目の提案に乗らせてもらうとしようぞ。護衛と幾人かの傍仕えはこちらで用意しよう」
後は末娘にこの話を告げてからかのう、と楽しそうにこの後の予定を侍女さんと話し始める女王様。
とりあえず、一つのヤマは越えたとみて良さそうだ。
一番大事な問題は、あのお姫様が問題の行商人さんと再会した時にどんな行動をとるかだけども。
うん。とりあえず、セントへレアの街で大惨事になりそうなら全力でフォローしてあげよう。それが多分、この話を切り出したボクの責任だもんね……。
悪魔さん「この世界の土着神とは違う発生源を持つ私も、この世界においては外なる神扱いになるんだよね」
悪魔さん「で、私は双方ハッピーな転生者放り込み遊びを心掛けてるけども。そうじゃない連中もいるということさ」
悪魔さん「え?やりたい放題転生者放り込んだりしてたんじゃないかって? うん、してたよ」
悪魔さん「けども、それは神が見捨てた世界とかその辺り限定さ。じゃないと出禁になって遊び場減っちゃうからね」
悪魔さんは節度を守って遊ぶぐう畜の鑑です。
『TIPS.竜人の里の《英雄》』
200年ほど前に、各地で猛威を振るった邪神の眷属を屠ったヒュームの男性剣士であるが……。
邪神の眷属の暗躍を次々と各地で阻止した功績から、様々な伝承が各地で残っている。
その中でも最も人気なのが、英雄の全てを奪い去った怨敵である眷属を屠った、北方山脈の闘いとされている。
竜人族の女王や姫達を毒牙にかけようとしていた眷属であるが、英雄の活躍によってその行為はすんでのところで英雄と仲間の竜人達が阻止し。
そして、眷属が持っていた力を徹底的に封じた末に、その身を八つ裂きにしたと伝承には遺されている。
英雄が屠った怨敵である眷属は、特に好色であったらしく様々な子を為していたらしいが。
眷属が遺した血族、そしてその名前すらも根絶されもはやどこにも記録として遺されてはいない。