ねごしえーたー!   作:社畜だったきなこ餅

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今年最後の更新となります。
パソコンは持って帰るので執筆は可能ですが、多分色々バタつくと思うのでこちらの更新は年明けになりそうです。

それでは皆様、良いお年を!


27.親の心子知らず

 

 

 アクセリアさんの施術によって、一時的らしいけど発情期が落ち着いたボクは改めてお仕事に戻っていた。

 そう、ボクはしょうきに もどった!

 

 なんだか物凄い勢いでフラグ立てた気がするけど気のせいなのだ。

 

 

「とりあえず、書類とかは今の所不備がないのが救いだなぁ」

 

「正直、初めての発情期で仕事をきちんとやれてたのが驚きなんですけど」

 

 

 現場に出っぱなしなギグさんの代わりとばかりに、副官的な立ち位置がしっくりくるぐらいに付き合いが長い神官さんとそんな事を話しながらお仕事を進めていく。

 冒険者寄合に加盟している酒場からの追加発注についての書類を捌き、農家の人からの依頼によって負傷した冒険者の人への治療についての書類を捌いた。

 そして、またかとばかりに商人組合の人の名前で話があるから、ボクに来てほしいという要請の書類が出てきた。

 

 

「また来てるよぉ、ここ最近来てなかったのになぁ」

 

 

 思わずうんざりとした声と共に尻尾がしんなりする。

 あの商人組合の偉い人の息子さん。顔立ちは整ってるけど、視線と態度がいやらしすぎて、正直好きじゃないんだよなぁ。

 

 

「もういっそ、直接出向いて断るべきかなぁ?」

 

「でも巫女様、それで相手が逆上されたら危険ですよ。とりあえず従来通り断りの返事だけにしておきましょう」

 

「……それもそうだね」

 

 

 頬杖を突きながら要請の書類をぴらぴら振って呟いてみれば、万が一があるからと神官さんにやんわりと止められるボクである。

 うん。まぁ正直、戦闘能力どころか自衛能力すらまともにないこの身で、護衛のシナバーさんや神官の人達に負担かけるだけだから、現実的じゃないんだけどさ。

 

 

「あ、でも巫女様。この書類少し筆跡違いますよ、内容もよく見れば宴席とかじゃないそうです」

 

「え、ほんと? ……本当だ、この人の名前で何度も来てたから見落としちゃってたや」

 

 

 ボクから書類を受け取った神官さんが中身を確認すると、少し驚いたような声と共にボクへ書類を返してくる。

 受け取り見直してみれば……いつも父親の名前で美辞麗句並べた末に宴席への招待を出してきていた文章と違い、神官さんの言うように其の書類の文章内容はいつもとは違う内容だった。

 名前だけでうんざりしちゃってたや、コレは同じことやらかさないよう注意しないとなぁ……。

 

 改めて、中身をしっかり読み解いていくと、自分の名前を使った息子の道理を弁えない呼び出しについて直接謝罪がしたいというモノだった。

 ソレと合わせて、少しボクの耳に入れておきたい話もあるらしい。

 

 

「うーーーーーーーーん…………」

 

 

 書類を机の上に置き、腕を組んで重たいお胸を下から持ち上げながら天井を見上げる。

 一瞬、同室で仕事していた神官見習いの男の子の視線がこっち向いた気がするけど、多分気のせいだ。気のせいに違いない。

 

 そんな事はともかく、父親の名前でボクを呼び出して宴席でひたすら口説いてきた息子の方はともかく、父親の方はとても実直な人なんだよね。

 最初の試練でやったお祭りの時も、商人組合の中で率先して協力してくれた人だし、そんな人からの話ってなるといつも通りバッサリ断るのは少々神殿的には都合が悪そう。

 まぁ最初はそんな人の名前で呼び出されたからホイホイ行っちゃって騙されたんだけどさ、いやちょっと話が逸れた。

 

 多分アクセリアさんとかに相談すれば、なんとでもしてくれそうだけど……あの人も忙しい人だしなぁ。

 

 

「悩ましいなぁ」

 

「どうします?巫女様」

 

「そうだねぇ……」

 

 

 いつもの状況なら、シナバーさんとギグさんを筆頭に複数の神官さんにお願いしてついてきてもらって、その上で会いに行くんだけども。

 この前、ボクを舐め回すように観察していたあの貴族の人の存在が引っ掛かる。色々と美辞麗句並べてボクを引き抜こうとしてきた割に、アレから一度も行動に移されてないのが逆に怖いんだよなぁ。

 

 もしもだけども、あの貴族の人がボクを無理やりなんとかしようとしたらどう動く?

 

 

「ちょっと考える、少し待って」

 

 

 まずボクの現状の立ち位置から整理すると、この街の神殿に身分保証された外向けの交渉折衝役と言った形に収まっている。

 普段の居留地はこの神殿の部屋はアクセリアさんやスェラルリーネさんに近く、その結果自然と警備もそれなりに厳重になってるから、忍び込まれてもどうこうといった事はない。

 仕事は基本的に神殿の中で行っており、外に出る時はシナバーさんと……場所によっては護衛の神官さんが付いてくる。

 

 ボクが、ボクのような相手を無理やり何とかするなら、シナバーさんと二人きりのところを突く。

 そう考えると神官さんを護衛に連れていけるこの呼び出しに、横槍を入れるのは今までの動きからしてあの貴族の人はやってこない可能性が高いね。

 なんせ、いるかもしれない手駒を動かしてってやると真っ先に疑われるのがあの貴族の人だ。あちこちの領地に食糧を供給してるこの街の神殿の怒りに触れる事はしたがらない……筈。

 

 

「話し合いの場所は……あ、神殿近くのちょっとお高いお店だね。山鳥の丸焼きが美味しいお店だ」

 

「良くご存じですね。噂の糸目の方とデートにでも行かれたのですか?」

 

「こゃっ!? ち、違うよ!冒険者寄合の件で徴税官の人と話し合う時に行ったの!」

 

 

 あの山鳥の丸焼きは絶品だったなぁ、なんて考えつつ呟いたら神官さんからの突っ込み。

 見習い神官君の方からガタッ、という音が聞こえたけどそれよりも誤解を解くべく慌てて否定するのだ。

 そう、ボクとシナバーさんはそういう関係じゃないのだ。ただの仲良しさんな遊び友達なのだそうに違いないのだ。

 

 ……それに、うん。シナバーさんはボクじゃない、ボクを通して誰かを見ているからね。

 発情期状態で半ば舞い上がっていた時と違い、アクセリアさんのおかげで落ち着いた今なら解る。

 だけども、それはそれで何だかモヤモヤするが……今は関係ないから横に置こう。

 

 

「こほん。ともあれ、今回は会ってみようと思う。勿論、警戒はするけどね」

 

 

 

 

 

 

 

 と、言うわけで返事を出した翌日の朝にはすぐに返事が届いた。

 何だか少し張りつめた様子のシナバーさんに、いつも通りのギグさん。それと、今回は念の為と言う事でヴァーヴルグさんにもついてきてもらっている。

 逆に普段ついてもらってる護衛神官さんは二人ほどしか連れてきていない。ただでさえ過剰気味なのに、更に増やしたらソレはそれで相手の気分害しかねないからね。

 

 まぁそんな事は横に置き、山鳥の美味しいお店についたボク達は……店員さんに案内されるがまま、お店の二階の奥にある個室へと案内され。

 入口以外は奥にある窓ぐらいしか出入りできる場所のない個室の中には、冒険者寄合やお祭りについて何度か話し合って協力してくれた、商人組合の重鎮である年配の男性が一人で待っていた。

 

 まさか相手は護衛無しとは、さすがのボクも予想外。

 

 

「突然の会談のお願い、誠に申し訳ありません……ですが、巫女殿の耳に早急に入れないといけない問題がございまして」

 

「気にしないで下さい」

 

 

 席から立ち上がり頭を下げる年配の男性、何だかこの前会った時よりも遥かに老け込んだように見える。

 互いに頭を下げている間に、料理が店員さんによって運び込まれ……木箱から新品のグラスが二つ取り出されたと思ったら、驚くボクの目の前で店員さんがグラスへドリンクを注いでいく。

 一瞬だけど見えたあの木箱の刻印は確か、別の工芸が盛んな街の工房で作られた高級品の証の刻印。わざわざそのグラスの新品を使うという事は、目の前の男性が全力で応対しようとしている証と言える。

 

 だってあのグラス、確かそれなりの工房のブツでも金貨2枚はした筈だよ……?

 遠い街の工房製、それも新品を使ったという事はよほど疑ってかからない限りは、グラスに細工をしてないという証明である。

 更に、今先ほど、店員さんが注いだドリンクをボクに見えるようにわざわざ一口飲んで見せたという事は、毒も何も入れてないという証を立てている。

 

 こんな行動、それこそ貴族とかそんなの相手じゃないとやらないと思うんだけど。むしろ何でボクなんぞにやってるのか物凄い疑問。というか、どんな話なのか物凄い怖いんだけど!?

 

 

「早速ですが本題に入りたいと思います。その、今回の話と言うのは巫女殿に迷惑をかけていた愚息についてなのですが……」

 

 

 薄く透き通る、酒精の匂いがしないグラスの中身をちびちび飲みつつ、男性の話に耳をピコピコ動かしながら傾ける。

 いやまぁ確かに迷惑かけられてたっちゃかけられたけども、ここまでお詫びフルスクラッチ攻勢される程じゃないんだけど……もしやこの人、中々の親バカさんなの?息子の不始末に全力で飛び出て謝る系のお父さんなの?

 

 

「……愚息はごろつきを雇い、巫女殿を拉致しようとしておりました」

 

「ごふっ?!」

 

 

 ちびちび飲んでたジュースが気管に入り、全力で咽るボクである。

 そっとシナバーさんが背中をさすってくれる大きな手が有難い。少しシナバーさんから漂う気配が怖いけど。

 

 ……いや、今の話でシナバーさんだけじゃない、ギグさんやヴァーヴルグさんから隠し切れない怒りを感じるね。

 

 

「横から失礼、その愚息とやらはどちらへ?」

 

 

 謝るのならば、当人が来るのがスジだろう。と言外に意志を込めたヴァーヴルグさんが言葉少なく男性へ問い詰める。

 この街だと人攫いや人身売買は基本原則禁止だからね。罪を犯して労役する犯罪者の人が労役奴隷っぽい程度だし。

 

 ……あ、このお肉の薄焼き美味しい。葉物と一緒に食べると程よいマイルド感。

 

 

「昨晩呼び出して詰問したところ、癇癪を立てて怒鳴り返してきた上、制止も聞かず飛び出してそのままとなっております……」

 

 

 妻を早くに喪い、不自由させまいと何でも与えてやってきた事が、仇となりました……と男性は深く項垂れている。

 うーん、まさに親の心子知らず、そして子供は親が思った以上に愚かである的な状況だなぁ。 あ、この一口サイズのパイ包み焼き、中にエビの練り物入っててサクプリッて感じだ。

 

 

「各々の家庭事情に口を挟む気はありませぬが、捕縛次第、厳重に再教育が必要ですな」

 

 

 ヴァーヴルグさんが重苦しい口調で呟く。ちなみに、本来の人攫いは問答無用で犯罪者として取り押さえられ、お裁きを受ける。

 けれども、目の前の人は神殿への寄付金も多ければ色んな活動に協力してくれた御仁でもあるわけで。今回の話だけで言えば、未遂の範疇だからこそのヴァーヴルグさんの発言なんだろうね。

 

 この人は口調も態度も訓練も厳しいけど、その根っこには人の善性を信じたがるお人好しな所あるし。

 ただ、気のせいかほんの僅かなんだけども、シナバーさんから若干不穏な気配感じたんだよね。

 それがどんな気配だったのか言葉にするのは難しいし、今の状況で問いかけるワケにもいかないから何とも言えないけどさ。

 

 

「んぐっ……ボク個人としては、正直びっくりしたというのが本音ですけども。今現時点で問題はないのでこの件について、何も言う事はありません」

 

「ありがとうございます、ありがとうございます……」

 

 

 口の中のモノを飲み込み、ドリンクで口を湿らせつつ、商人組合重鎮の男性へと語り掛ける。

 平たく言えば話は受け取ったけども、この件でボクから何か裁きをかけるように働きかけたりはしないし、悪評をばら撒く気もないという意思表示だ。

 

 何のかんの言ってお世話になった人ではあるし、バカな息子のせいで何もかも失うってのは気の毒過ぎるからねー……。

 

 

 

 そんな風に考えていた時、ふとボクの耳に何かが割れる音と悲鳴がお店の入口の方から聞こえてきた。

 思わず振り返ると、すでにシナバーさんを筆頭に皆臨戦態勢を整えており、複数人の乱暴な足音が今ボク達がいる部屋へと近寄ってくる。

 

 

「シナバー、コクヨウ嬢と共に窓の方に行っておけ」

 

「言われなくても、そっちは任せたよ」

 

 

 ひょい、とシナバーさんに小脇に抱えられたかと思えば部屋の奥の方へと移動されるボクである。

 まだ混乱から立ち直っていないボクであったが、そんなボクの目の前で個室の扉が乱暴に蹴り開けられた。

 

 

「父上、こそこそ動いてると思ったら大層な事をしてくれましたね」

 

「カイン……貴様、そんな破落戸を従えて何のつもりだ!」

 

 

 扉を蹴り開けて現れたのは、鎧を見に纏い武器を手に持った破落戸を従えた、多少整った外見の男の人。

 商人組合の重鎮の人が名前を叫び、ようやく思い出す。そうだ、カインって人だ。

 

 

「簡単な話ですよ。そこの娘を差し出せば王都のみならず、様々な街や国への物流を一任してもらえるという話ですよ」

 

「それだけの為に、この街の為に動いて下さった巫女殿を売るというのか。この愚息が!」

 

 

 ヴァーヴルグさんとギグさん、神官さんが何時でも動けるように構えてる中、勝利を確信してるかのように小脇に抱えられてるボクへ粘着質な視線を送ってくる。

 

 

「元はと言えば身元もはっきりしてない娘でしょう。何を躊躇う事があるのです?」

 

 

 その目には隠し切れない侮蔑と憎悪があった。

 何だろう、その……振られたからってここまで短絡的に動く人に下に見られてもあんまり苦痛じゃないのが、ちょっと愉快だね。

 

 

「まぁ良い。急遽手配する羽目になりましたが、王都でも有名な冒険者だ。そこの土臭い神官諸共、父上には不慮の事故に遭ってもらいましょう」

 

「カイン、貴様……そこまで愚かだったとは、私は死んだ妻に何と詫びれば良いのだ……」

 

 

 勝ち誇ったように言い放つカインとやらの言葉に、顔を手で覆い泣き崩れる商人組合の重鎮さん。

 ……うん、ボクにはまだ子供いないけども、こんな具合に育ったら立ち直れないと思う。

 

 

「あ、あの……さすがにあそこまでねじ曲がって育つのは誰も想定できませんよ、貴方は悪くないと思います……!」

 

「おお、おお……巫女殿、このような男にそのような温かいお言葉を……」

 

「わ、私を無視するなぁ!!」

 

 

 シナバーさんの小脇に抱えられたまま、思わずそんな言葉で年配の人を慰めてしまうボクである。

 だが、ボクの言葉に商人組合の重鎮さん大号泣、なんか、こう。ごめんなさい。

 

 ついでに何か喚いてる人いるけども、相手にする価値はないと思う。

 ボクを狙ったりはまだ良い……いや良くはないけども、ちらりと見える相手が率いている冒険者の得物に血がついてるから、乱暴に押し入った事は間違いないんだ。

 

 そんな事をする連中を平気で率いる男なんか、名前すら憶えてやるもんか。

 

 

「コクヨウ、尻尾を逆立てて怒るのは良いが、脱出するぞ」

 

「おうシナバー、こいつらぶちのめしたら合流すらぁ!」

 

「うむ。犯した罪をその身で贖ってもらいましょうぞ」

 

 

 ご機嫌に男が話してる中、シナバーさんが小脇に抱えているボクを片腕で抱きかかえす。

 

 

 

 

「舌を噛まないようにしてろよ」

 

 

 

 

 ヴァーヴルグさんが押し入って来た冒険者の顔面に鉄拳をめり込ませたタイミングで、シナバーさんがボクを抱きかかえたまま踏み込む。

 そのまま勢いよく、建物の二階の窓から外へと飛び出した。 




悪魔さん「あくまで前の話でシナバー君が殲滅してたのは、簡単に集まったごろつきだからねぇ」
悪魔さん「でもま、そこから得た情報を秘密裏に件の年配男性に情報を流し、その結果激発した息子殿があんな動きをしたわけだね」
悪魔さん「息子殿がなんか妙に考えなしというか破滅的? 逆に考えてみよう」
悪魔さん「顔と小賢しい知恵程度しか取り柄の無い人間が、幼少期からチヤホヤされて真っ当に育つと思うかね?」


『TIPS.暦』
この世界において天文学は未だ発達段階の学問である。
では、何をもって四季と年月を正確に把握し、大規模農業をやってるかと言えば。
時を司る神に仕える神官達が、神託を受けその情報を必死に広めて回っているからである。
ある意味において全てに対して公平である時の神は、大規模な約束事を取り交わす上での重要な宣誓相手でもあり。
必然と、時の神を信奉する神官は職務の公平性から、裁判や調停を行う立場となっている。

平たく言うと、時の神の信奉者はこの世界における過労死枠である。
その代わり、神の加護として長く仕えられるよう不老という、誰もが望むモノを与えられる、だがしかし。
不老の加護を受けた物は、男女問わず子を為せなくなる上、一度加護を取り消したら二度と受けられなくなる。
その結果、結婚イコール神官引退でもある為、長年時の神を信奉している女神官は色んな意味で危険物らしい。
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