皆さんの評価、感想本当に有難いです。これからも頑張ります。
ギグさんからの保証により、街へ踏み入れてまず最初に感じた事は……色んな種族の人が居るというものでした。
今のボクみたいに頭から猫耳が生えている女性に、全身ふかふかの毛皮に覆われた兎獣人。中には全身を鱗に覆われた大柄の翼が生えた竜人と思しき人までいます。
「コクヨウ嬢、目新しいのに気を取られるのはわかるが。まずはあの神殿まで向かうぞ」
「あ、はい」
ほぇー、などと呆けた言葉を口から漏らしながら耳をピコピコと動かして色んな音を拾いつつ、きょときょとと見回していたら。
苦笑いしたギグさんに声をかけられ、ハッと我を取り戻す事になりました。うう、恥ずかしい。
お上りさん全開なボクの様子が愉快なのか、通行人の人達にもじろじろと見られてしまったので気持ち身を縮こまらせながらギグさんに先導されて進む事にしよう。
……時折聞こえる美しいという声やら聞こえたり、ギグさんから借りた上着でも隠しきれてない大きな胸に視線がじろじろ来てるのを感じてるけども、気にしないのだ……!
そんなこんなで、ボクの精神をがりがりと削られながらも神殿に到着。
耳に届く水の流れる音の様子から、どうやらこの大きな神殿は河を跨ぐように建造されたらしい。
そして、ふとボクの目に違和感を与えるモノが見えてくる。
「……シンボルマークが、二つ?」
一つはギグさんが首元から提げている、さっき食べたメリジェの実を象ってるようなマークなんだけども。
もう一つは、輪っか状になった蛇が自分の尻尾を飲み込もうとしてるようなマークが掲げられていた。
「ああ、この神殿は俺が信奉する大地母神ファーメリジェ様と。河川の守護女神であるヘレアルディーネ様の二柱を奉っている神殿だからな」
でかい街だと神様ごとに神殿あるんだけどな、などとギグさんはぼやく。
今の口ぶりと様子から、この世界……もしかするとこの地域だけかもしれないけども、信仰が生活に強く根差しているようだ。
「なるほど……揉めたりはしなかったんですか?」
「俺の爺様辺りの頃は多少あったらしいけど、まぁ方向性近いし今は仲良くやってるよ」
ギグさんのお爺さんの頃、一体具体的にどのぐらい昔なのか少し気になるけども今仲良しなら変な諍いに巻き込まれる事もない筈。
気持ちホっとしながら、ギグさんに案内されて神殿の中を進んでいたら。
「農地や放牧地から出る汚水ですけどぉ、何とかして頂けませんかねぇ?」
「そうは言いますがね、こちらも取り決め通り農夫達には生活圏から離れた下流に流れるよう指示しておりますし。そこまで言うなら水路整備をもっと熱心にやられては如何ですかな?」
間延びした口調の、人でいう耳の所に水かきのようなものが生えた……身体の線が浮き出るような法衣に身を包んだお姉さんが、目だけ笑ってない笑顔で人間の神官さんへ言い募っている現場に遭遇しました。
言い募られた人間の年配な神官さんといえば、女性の言葉に対して理路整然と返した上で……こちらも目だけ笑ってない笑顔でチクリと言い返しております。
女性の方が下げているシンボルには河川の女神のマークが、男性の提げているシンボルには大地母神のマークが刻まれてました。
どう見ても、諍い事です。本当にありがとうございました。
「あの……仲良くやってるんじゃ……」
「……まぁ、殺し合いにまでは至ってないし程々なところでいつも落ち着いてるから大丈夫だろ」
ボクのジト目からギグさんは目を逸らし、気まずそうに言い訳を口にする。
何だかこう、この手の諍いには心底辟易している様子が垣間見えます。
「あらぁギグさんではないですかぁ、貴方からも言って下さりますぅ? この石頭さんは中々理解して下さらなくてぇ」
「おお!神官ギグではないですか、丁度よいところに……この水に流されるしか能のない女にガツンと言ってやって下さい」
そんな事をボク達でひそひそやってたら、言い争っていた二人がボク達に気付いたのかギグさんに話を向けてくる。
向けられたギグさんはと言えば、勘弁してくれと言う感情を隠す気もないようで心底げんなりした様子を見せている。
「あー、悪い。少しばかり人を案内せにゃならんのでな、また今度にしてくれ」
「むぅ、そちらのお嬢さんについてですかな? おっと失礼しました、私はヴァーヴルグと申します。こちらの神殿で大地母神様を信奉する者達を取り纏めている者です、以後お見知りおきを」
「ほったらかしにしてごめんなさいねぇ。私はアクセリアよぉ……ここで河川の守護女神様を奉っている子達の纏め役でぇ、神殿長様の右腕でもあるわぁ。よろしくねぇ」
先ほどまで喧々囂々とやりあってたとは思えない、目も笑っている笑顔でボクへ挨拶をしてくれるお二人さん。
その目には若干ボクを探る様子も見えるけど、それでも害意は見えない様子からそんなに悪い人ではなさそうである。
「ボクはコクヨウと申します。ギグさんに助けてもらい、案内してもらってました」
「なるほどねぇ……何か困った事あったら相談しなさいねぇ? お姉さん頑張っちゃうからぁ」
「うむ、そこな生臭い女に同意するのは業腹でありますが。迷い悩む若人を導くのもまた大地母神様の教え、いくらでもお力になりますぞ」
ボクの自己紹介に暖かい言葉を返してくれるお二人、そしてヴァーヴルグさんの発言に笑顔で青筋浮かび上がらせたアクセリアさんが頭の薄い人はデリカシーも薄いのかしらぁ、なんて言い出して。
売り言葉に買い言葉な言い争いがまた始まった、この二人実は仲良しさんじゃなかろうか。
「お二人はいつもこんなんだよ、神殿長が待っている。行くぞ」
「あ、はい」
お二人の言い争いにオロオロしてたボクの腕を掴み、若干足早にボクをこの場から引きずっていくギグさん。
どうやら、お二人の口喧嘩に何時も巻き込まれているらしく、心底辟易しているらしい。気の毒な。
そうやって神殿を進み、時折若い神官見習いと思われる男の子が足を止めては顔を赤くしてボクを見詰めてくる様子に、なんだかこう気まずい思いをしつつ。
ギグさんの案内で辿り着いたその奥は、清らかな水が流れている中に祭壇がある広間でした。
そして、その祭壇には薄い羽衣のような……一歩間違うとチラリしちゃうような、大胆な布を身に纏った美しい女性が居ました。
ただ、その女性の特徴的な様子はそんなものじゃなく、その女性の下半身は長く太い蛇のような形状をしていた。
「神官ギグ、神託による命の遂行を感謝致します」
「有難きお言葉です、神殿長」
女性……神殿長の労いの言葉にギグさんは片膝をつき、深く頭を垂れる。
これは、ボクも同じように倣うべきだろうか、などと考えていると。
「寄る辺を失くした迷い子よ、楽にして下さい……貴方の名前をお聞かせ願えますか?」
「は、はい。ボクはコクヨウと言います!」
「素晴らしい名ですね、私は神殿長のスェラルリーネと申します。以後よしなに」
片膝をつこうとしたボクを、そっとジェスチャーで止めるように神殿長さんは止めると優しい声で語り掛けてくる。
しかし、優しくも嘘偽りを許さないという空気を微かに感じたボクは、ボクの名前をしっかりと今一度神殿長さんの目を見据えて応える。
でも、寄る辺を失くした迷い子って……それにさっきギグさんに話してた神託。
なんだかこう、ここに来た時点で厄介事に巻き込まれている気がするのは気のせいだろうか。
「まだ日が昇る前の頃、朝の祈りを捧げている私に守護女神へレアルディーネ様からの神託が授けられました」
訥々と、しかし透き通るようなよく通る声で告げながら、祭壇からゆっくりとボクめがけて進み寄ってくる神殿長様。
その際の動きで羽衣がチラリズムしそうになってハラハラするも、不思議な素材なのかチラリズムはしていない。
「神託は、外れの森に落とされた迷い子を導き……試練を授けよというものでした」
その神託の内容に、思わず膝から崩れ落ちかけるボクである。
あ、あの似非紳士の悪魔野郎!どうやったかまではわからないけど、ボクがひっそりと隠れ潜むのを先手打って潰してきやがったな!!
「お、お言葉ですが宜しいでしょうか!」
「ええ、どうぞ」
「その、ボクは貧弱極まりなく闘いは不得手でございます!」
進むも死、断るも宗教的権威を敵に回す事で緩やかな死。そんな地獄の二者択一の中、せめてもの活路を掴もうと神殿長へ申し上げる。
隣で片膝ついたままのギグさんが、お前マジかよと言わんばかりの雰囲気を出すのも敢えて無視しての進言であったが、神殿長はににりと笑みを浮かべた。
「ええ、存じております。神託でもそのような事はハッキリと仰られてました、その上で……迷い子は弁舌に長けているとも」
ド畜生ぉぉぉ!?逃げ道全力でふさがれてるぅぅぅぅぅ!!
「無論、ただ試練に挑めなどと無碍な事を言うつもりは私もありません。貴方には相応の立場をご用意しましょう」
「……例えばどのようなモノですか?」
「生活に困らない糧に安全に眠れる部屋、そして……セントへレア神殿の神殿長である私が貴方の後ろ盾となりましょう」
神殿長、スェラルリーネさんの言葉に隣のギグさんが息を呑む気配を感じる。
ギグさんの様子に外から見た神殿の様子、そしてさっきの二人の言い争いの内容から……この地の宗教が持つ権力は強く範囲も広いように感じ取れる。
そんな宗教の、街の神殿とはいえトップが後ろ盾になると明確に言葉にするというのは、冗談では済まされないものの筈だ。
逆に、意地でもここで断った場合どうなるか?
最悪のパターンはここで殺される事……ではない、何もなしで放り出されるという状況だ。
自慢じゃないけど今のボクが稼げる手法なんて殆どない、あっても体を売るとかそんな話であるだろうし……そんなのはまっぴらごめんなのだ。
交渉だけで渡り歩けるかと言えば……この世界、この地の文化やタブーも真っ白なボクが旨く立ち回れるなんて保証はどこにも存在しない。
要するにどういうことかって?
「……微力ではありますが、全力を尽くして与えられる試練に挑みたいと思います」
この話を受ける事が現状で考えられるモアベターな選択肢なんだよ!
そんなわけで、胃がきりきりと痛くなるような状況は終了し……。
まだ日は高いけども、今日はゆっくり体と心を休めてから、明日試練を申し渡すと神殿長から言われました。タノシミダナー。
そんなこんなで、神殿で豪華ではないが過剰に質素過ぎない。しかし調理にはしっかりと美味しく食べれるよう工夫された食事を御馳走になりました。新鮮な搾りたてのメリジェジュース美味しかったです。
身を清める、という段になってこの地の衛生観念はどうなってるのだろう。なんて考えていたら。
「あらぁコクヨウちゃん、ここにいたのねぇ。早くお風呂いかないとぉ、冷めちゃうわよぉ?」
思考整理の為にぽけーっと椅子に座ってたボクを見つけたアクセリアさんが、ボクを湯あみの場所へ連れて行ってくれました。
「大丈夫コクヨウちゃん、一人で体洗えるかしらぁ?」
「あ、はい。だ、大丈夫です」
湯上りなのか、若干髪の毛をしっとりふんわりさせてるアクセリアさんに心配されつつ、脱衣場へボクは足をそそくさと運ぶ。
どこで湯を沸かしているのか地味に凄く気になるので、明日にでもギグさんに聞いてみよう。ともあれ、目下の問題は。
この着物っぽいのをどうやって脱ぐか、なんて考えていたけどまるで体が覚えているかのようにするすると脱ぐことが出来ました。
あ、ちなみにギグさんに借りてた上着は神殿長との話が終わった後お返ししました、さすがに借りっぱなしはしていないのです。
「……大きい、なぁ」
するする、ぱさ、と衣服を脱いで籠へ入れ。
一糸纏わぬ姿になってみれば、眼下に広がるのは大きな大山脈で。その先端にはピンク色の突起。
色々と考えると思考がごちゃごちゃになっちゃうので、気を取り直して半ば無心でお風呂に入る事にする。
諸事情あってお風呂の内容は省かせてもらうけども。
意外と耳と尻尾あらうのってそんなに手間じゃなかったです。
大事な場所を洗った感想は、墓の下まで持っていかせて頂きます。
悪魔さん「へレアちゃーん、ちょっとそっちに魂送り込んで観察していいー?」
ヘレアルディ―ネ「えーー、河汚したりしない?」
悪魔さん「大丈夫大丈夫、なんなら神託でちょちょいと信徒動かして働かせていいからさ」
ヘレアルディーネ「わーい、それならいいよー!」
こんな感じのやり取りがあったかもしれないし、なかったかもしれない。
『TIPS.メリジェの実』
地上から60cmほどの高さの茎を持ち、がっしりとした茎の先端部に握り拳大の果実を実らせる。
その地下茎は長く、また頑丈である為地表が多少乾燥していても水分を吸い上げて生育する逞しさを持つ。
特徴としては……不毛とされる地でも実り周囲の栄養を過剰に奪わないところにあるが、土壌の豊かさが果実の甘さに直結する特性を持っている。
その為、市場に流通するメリジェの実を見分けるのに最も重要なのはどこで生産されたか、とされている。
富むモノも貧しきモノも等しくその恵みを受け取れる果実として、大地母神ファーメリジェのシンボルとされており……。
大地母神ファーメリジェの神話の中の一つに、荒野を旅する聖人が飢えと渇きで倒れた際。女神が慈悲で生やしたメリジェの実によって、聖人が餓死を免れたとされるエピソードが存在する。