ねごしえーたー!   作:社畜だったきなこ餅

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今回の話のエピローグ、という名の行商人さんパートです。
重い話が続いた反動が出てしまった……!


31.古狸VS若狸

 

 作られてからそれなりに年数が経っている社会や組合に組織と言うのは、自然とお偉方の席数が決まってくるものだ。

 そして決まっている席数以上にその席を欲しがる輩が出てきたらどうなるか? そんなもの、熾烈な蹴落とし合いに奪い合いに決まっている。

 

 そんな代物が、ふとした拍子に転がり込んできた件。

 

 

「君は結構な利益を上げているし、長年の実績もある。どうだ……空いた席に座ってみないかね?」

 

「あ、結構です」

 

 

 だが断る、というかお断りに決まっている!

 コレがまぁ穏当で俺が所帯でも持とうかって時なら別だが、今の状況で座るとか自殺行為にもほどあるわ!!

 

 好々爺然とした笑みを浮かべたまま、腕を組みながら俺を見詰めてくる。

 この爺というか組合長、例の巫女様と会うたびに茶菓子を土産に持たせるような孫を甘やかす爺のフリしてるけど、どこまでが擬態か良くわからんから苦手なんだよ!

 

 

「そう遠慮する事はないぞ? 何せ君は北方山脈の、幼い竜姫様とも仲が良いからな……どうだ、姫の番が根無し草に近い行商人では聞こえが悪かろう?」

 

「いやあの、俺の女の趣味ツルンでペタンじゃなくて、たゆんでボインなんですわ」

 

 

 俺の視線と爺の視線が、テーブルを挟んでぶつかり合う。

 というかこの爺、俺に風俗通い叩き込んできたくせに何を今更言ってやがる。

 

 

「不幸な、本当に不幸な事故により重鎮が一人隠居してしまってなぁ。そこを空席のままにしておくのは現状、都合が悪すぎるのだよ」

 

「ですな。そう言えば取引所の受付のおっさんなんてどうです? あのおっさんこそ、年齢的にも適任でしょうが」

 

「馬鹿め、ヤツは真っ先に逃げおったわ」

 

「クソが」

 

 

 互いに被っていた仮面を投げ捨て、どちらともなく口汚い言葉が出始める。

 そもそも俺達のお行儀のよさは取引相手と高貴な相手、それと逆らったらいけない相手限定だ。同業者相手にはあんまりいらんと言うね!

 

 まぁ正直、褒められたもんじゃない態度でもあるんだけどな。

 

 

「というかのう、儂組合長じゃぞ? 偉いんじゃぞ? それなのにまぁ、相変わらずじゃのう」

 

「ハッ、損を押し付けてくる相手に敬意は払うなって俺を鍛えたのは爺だろうがよ」

 

 

 バカ息子がやらかした問題の責任と、引き起こされた問題の規模に多大なショックを受けた重鎮のおっさんが隠居した。

 その結果、空いた椅子に俺を座らせたいと言うのが、俺の目の前にいる爺の魂胆なのだろうが……。

 

 

「ほう、損しかないと?」

 

「利益が無いとは言わねぇよ。ただなぁ……この状況で俺みたいな若造が席に座る事の方が問題だろうよ」

 

「とか何とか偉そうに言うとるが、お主はしがらみの少ない行商人生活満喫したいだけじゃろうが」

 

「バレてたか」

 

 

 バレないと思うてか、と爺は愉快そうに声を上げて哂った後。

 鋭い眼光を目に宿して、真顔で俺へと言葉を投げかけてくる。

 

 やべぇ、爺が本気だ。

 

 

「既に組合の連中の大半は、お主が席に座る事について同意しておる」

 

「……爺、もしかして」

 

「元々アヤツは、道を踏み外しがちであった息子への教育の為に隠居したいと、早々から儂へ打診しておったんじゃよ」

 

 

 後一歩、遅かった結果、何もかもが遅かったがのう。と爺は嘆息しながらやるせなさそうに言葉を吐き出す。

 爺にとっては今の組合の重鎮連中は皆、息子や娘みたいなモノだ。それがあんな事になったのだから、その気持ちもしょうがないだろうとは理解できる。

 

 だけど、それと俺を席に据え付けるの関係なくね?

 

 

「まぁ正直お主に組合の堅い仕事やらせる気もないからの。いつも通りしておればええ」

 

「とか何とか云いやがって、どうせ面倒ごと押し付ける気じゃねぇの?」

 

「儂、組合長じゃからの。組合員……それも役職持ちはしっかり働かせるべきじゃと思って居るからのー」

 

 

 このクソ爺。

 しかし、アレだな……爺がここまで軽妙に語るってのは、大体が気を紛らわせるためのお喋りだからな。

 間違いなく、爺完全にブチギレてるわ。

 

 ブチギレてるのはまぁ、今回の騒動を裏で糸引いた連中だろうなぁ間違いなく。

 

 

「なぁ爺、仮に俺がその席に座ったらどうなる?」

 

「まー、暫くはこの街で色々と下積みしてもらう事になるのう」

 

「大体どのぐらい?」

 

「まぁざっと、10年ぐらいかの」

 

 

 ヤバイ。

 何がヤバイって、それだけの間あの竜姫様の猛攻をかわし続ける自信が……ない!

 あの姫様、俺が娼館に行こうとするときに限って現れるんだよ!マジでどこからともなくやってくるんだよ!今も行商から帰ってきてからイケてないの!!

 

 

「勘弁してくれ爺。俺にだって顧客はあるし、挨拶回りもあるぜ?」

 

「そこはまぁ、お主の後釜に任せればよかろう、販路を手放す分の補填は出してやるぞ」

 

「爺、培った客との信頼は積み上げた炭金よりも大事だって……俺に教えたのはアンタだぜ?」

 

 

 内心の焦りを押し殺しながら、爺から口酸っぱく叩きこまれた教えを出す事で爺の猛攻を逸らす。

 爺もまたそこには思い至ってたようで、ぐぬぅなどと言いながらたじろいだ、攻めるなら今だ……!

 

 

「じゃが、席を空けたままにしておるというのは、聊かのう……」

 

「無論、俺も嫌だ嫌だってだけで通るなんて思わねえ。席には就く……だが今じゃないってだけだ」

 

「ふむ……わかった。ならばこうしようじゃないか」

 

 

 よし、風向きが変わった……!

 このまま、有耶無耶にしつつ俺は自由を目指す!

 

 

「まぁ実はのう、何を言ってもお主は行商から離れんじゃろうなぁとも思っておってな。いつもの販路も回って引継ぎをしてもらいつつ、辺境周回を頼む重役が欲しかったんじゃよ」

 

「だったら最初からソレを言えよ爺」

 

「いやー危険じゃしー? じゃがそこまで誇りを持ってるのなら、任せられるなと再認識しただけじゃよー」

 

 

 こ、このクソ爺……!

 だが、当面の危機は脱した。それに今までの販路に辺境周回を合わせれば、この街に帰ってくる事は殆ど無くなるはずだ。

 結果的にあのお姫様も、ほとんど顔を合わせなくなる俺への想いも、まぁ時間と共に風化してくれるだろう。

 

 きっと、おそらく、多分。

 

 

「それでじゃのう。まぁ今回の問題もある……当然、お主を襲う危険は今までの比じゃなかろう」

 

「まー、相手方が何やってくるかによるけども、道理だわな」

 

 

 あーやだやだ、冒険者への護衛代が嵩みそうだわ。

 ただでさえ相棒の飯代でたまにエライ事になるってのになぁ。信頼できる護衛探すってのも面倒なんだよな。

 

 

「それで、じゃ」

 

 

 にぃぃぃ、と爺がものすごくいやらしい笑みを浮かべてきた。

 何だろう、ものすごく嫌な予感がする。

 具体的に言うと、今すぐこの部屋の窓から全速力で脱出すべきな程度に、嫌な予感が……!

 

 

「お主の旅路についていきたいという、竜人の護衛が名乗り出てきておってのう……その御方はさる高貴な方なのじゃが、腕は確かじゃし何よりも信頼がおける」

 

 

 やめろ、爺、やめろぉ?!

 椅子を蹴倒して全速力で逃げ出そうとする俺を、部屋の陰からにじみ出るように現れた黒い鱗の竜人が羽交い絞めしてきた。

 こ、こいつ!?あのお姫様の護衛の影じゃねぇかぁ!!

 

 

「何故逃げようとする? 行商人を続けたいと言ったのは、お主じゃぞ?」

 

「そうは言いながら全力で楽しんでるじゃねぇか、このクソ爺ぃぃぃぃ!?」

 

「うん。儂、今とっても楽しい」

 

 

 クソ爺が!!

 

 

「暴れないで下さい婿殿。これはとても光栄な事ですぞ?」

 

「お前ら竜人基準を俺に嵌め込もうとするんじゃないよ!いつもいつもぉ!」

 

 

 ここまでくると俺でも気付く。逃げ道なんてないし、暴れるだけ無駄だと言う事は。

 だが……今あの扉から話題の人物が現れた瞬間、俺は詰みだということも、俺は魂で理解していた。

 

 しかし、世は無常なもので。 

 

 

「ともあれじゃ、その護衛が……こちらの方じゃ」

 

「……不束者ですが、よろしくお願いします」

 

「あ、護衛に関してはご安心を……メルルゥ様は女王様の近衛兵並にはお強いですぞ、竜語魔術にも長けておられます」

 

 

 扉を開けて現れたのは、動き易さ重視の甲冑に身を包み背中に身の丈ほどの大剣を背負ったお姫様であったとさ。

 うん、そうだね。裏切る心配はないし腕っぷしも問題ないね、だけども。

 俺の自由もあんまりないよね!

 

 

 

 

 

「いやーー、思い通りに動いてくれて儂大満足じゃわ」

 

「謀ったな爺ぃぃぃぃ?!」

 

「馬鹿め。お主が謀り事で儂に勝とうなんざ、百年早いわ」

 




狼と香辛料(狼抜き、兎とドラゴン増し)



『TIPS.セントヘレア商人組合 組合長』
一見好々爺とした、日向ぼっこの似合うご老体。
しかしなれども、その体は老いてなお精悍で時折野良仕事に精を出す程度には元気な老人である。
普段は組合員の意見を取りまとめ、方向性を導く程度しか働かないが外敵要因による利益の損失が発生すると、本気を出す古狸でもある。
彼にとって組合員は家族同然であり、薫陶を授けた重役たちは子供同然であるが故に、今回の騒動で強い怒りを感じている人物の一人。

行商人の両親が事故死したのを切っ掛けに、当時幼かった行商人の親代わりとなり養育し……。
己の技術や知識を念入りに仕込んだ人物だったりもする。
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