中庭で想いをぶつけ、シナバーさんの苦しみを少しでも和らげられたと思いたいあの日から少し時間が経ち、春も過ぎようとしてる中。
シナバーさんがボクの外部協力者と言う位置づけから、功績やボクの安全の為も含め神殿に住むところを移したりする中。
「はい、診断終わりよぉ。コクヨウちゃん」
「ありがとうございます、アクセリアさん」
ボクはアクセリアさんから、彼女の部屋で診断を受けてたりしてる。
何故そんな事になったかと言うと……。
「うん、やっぱりコクヨウちゃんの発情期はぁ、他の獣人の子達とはちょっと違うみたいよぉ」
「あー……周囲の獣人系の人達のふわふわ加減が落ち着いてるのに、ボクは一向に収まらないから変だと思ったんですよね」
そう、ボクの発情期が未だに終わる気配がない。
ちょっとこれは何かおかしいんじゃないかと思い、奇跡のみならず医術にも通じているアクセリアさんにこっそり相談、その後診断を受けていたわけなんだけどもさ。
思った通りのドンピシャだった、シナバーさんに心配かけたくないなぁ……。
「あ~、そんなに深刻そうにしなくても大丈夫よぉ? コクヨウちゃんの場合はねぇ、身体ありきの発情期じゃなくてぇ心ありきの発情期だっただけよぉ」
「と、言いますと?」
アクセリアさんの物言いがいまいちピンとこず、耳を動かしつつ首を傾げる。
「簡単に言えばぁ、コクヨウちゃんが大事にしたい、傍に居たいって思った人が出来た事が切っ掛けになったのよぉ」
微笑ましそうにクスクスと笑うアクセリアさん。
ああ、シナバーさんを憎からず思ってた気持ちがきっかけに、この体に慣れてないボクの心と体が誤動作したのが始まりだったのか。
だけども、うん、正直今は悪くないと思えちゃうから不思議だね。
「獣人の子だと珍しいけどぉ、前例がないワケじゃないから安心して良いわよぉ」
既にお馴染みになってきた感のある、発情期を鎮める奇跡をアクセリアさんにかけてもらい。
シナバーさんを想うたびに高鳴っていた鼓動と、下腹部の仄かな疼きが収まっていくのを感じる。
「いつもありがとうございます、アクセリアさん」
「気にしないでぇ、ところでぇ……アレからどこまで進んだのぉ?」
「こゃっ?!」
ぺこりと頭を下げればアクセリアさんは優しく微笑んでいつものように振る舞い。
いつもと違い、若干意地悪な笑みを浮かべて、ボクにそっと耳打ちしてきた。
思わず耳と尻尾をピンと立てちゃったけども、しょうがないと思う!
「し、しし、進展……え、ええと……」
「その様子だと停滞しちゃってるみたいねぇ、恋心を留めたら澱んじゃうから要注意よぉ?」
急速に熱くなる顔の温度を自覚しながら、思わずアクセリアさんから目を逸らしつつ両手の人差し指を突き合わせる。
まぁ実際アクセリアさんの言う通り、まだあの騒動の記憶も新しいから二人で出かけるなんて出来ないし、自然と神殿の中庭でのんびりお喋りしたりするぐらいだけどもさ!
「でも、その……ボクはシナバーさんの隣に居れるだけで、その、幸せというか……」
「だめよぉコクヨウちゃん! それはダメ!」
女の子初心者なので、出来ればシナバーさんにリードしてもらうと嬉しいなぁなどと言う下心は隠しつつ、わっさわっさ尻尾を揺らしながらもじもじと呟く。
しかし、ボクの言葉にアクセリアさんは鬼気迫る表情を浮かべると、ボクの肩をぐわしっと掴んできた。
「あ、アクセリア、さん?」
「あの手の男はねぇ、当たり前のように傍に居てくれる癖にぃ、肝心なところで受け身だから延々とお預け食らっちゃうわよぉ!」
いつもののほほん美人さんはどこへやら、まるで己の目で見て来たかのような切羽詰まった声音でボクへと訴えかけてくるアクセリアさん。
一体彼女に何があったのだろう……?
「あの人もあの石頭もぉ、大事な時や大変な時はそっと手助けしてくれる癖にぃ、何でこっちのアプローチには一切気付かないのよぉ……」
「え、アクセリアさんもしかして、ヴァーヴルグさんの事が……?」
「ぴっ?! や、やややややや、やーねぇコクヨウちゃん! そんな事あるわけないじゃないのぉ!」
アクセリアさん、残念ですが語るに落ちてます。
ヒレのようなお耳が、ものすごい勢いでピコピコ動いてます。
「ま、ままま、まぁ私の事はいいのよぉ、それよりもぉ」
「あの、アクセリアさん」
だがしかし、だがしかしだ。
先のアクセリアさんの言葉通り、何となくだけどもシナバーさんは……ボクが構ってアピールしたら構ってくれるけども、その先には進んでくれない気がする。
だがしかしボクは一人ではどう動いたら良いかわからない、そして目の前には人生経験豊富なお姉さんがいる。
ならばボクがとる行動はただ一つだ。
「な、なあにぃ?」
「恋愛同盟組みましょう、ボクはアクセリアさんにヴァーヴルグさんからさり気なく聞き出したりする代わりに……」
「……私はぁ、コクヨウちゃんに乙女の作法を教える、と言ったところかしらぁ?」
ボクの言葉にアクセリアさんはたじろぎつつも、ボクの意図を察したのかいつもの笑みを浮かべたアクセリアさんが呟いた言葉に。
満面の笑みを浮かべて頷きながら、ボクは応える。
「……私も前に進む時かしらね、コクヨウちゃんよろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします、アクセリアさん」
がっしと、二人しかいない部屋で固い握手を交わすボクとアクセリアさん。
「それで、何時頃からヴァーヴルグさんの事気になってたんですか?」
「……笑わない?」
「笑いませんよ」
握手したままふとした疑問を口にしてみれば、アクセリアさんは涼し気な笑顔を浮かべながらも頬を赤らめて目を逸らし。
ボクの返答に、ぼそぼそと言葉を紡いだ。
「…………もう、二十年は前からよぉ」
「あの、その割にボクが初めてここに来た時は、割とバチバチやってましたよね?」
「あんなのじゃれ合いよぉ、最近はやってないけどねぇ……何よぉ、その目はぁ」
「いえなにも」
割とアクセリアさん、面倒なツンデレ拗らせてた模様。
でもヴァーヴルグさんがアクセリアさん嫌ってる様子もないどころか、丁々発止でやり返してるとこ見るとそんなに悪く見てないというか、お似合いにしか見えなくなってきた。
一方その頃、セントヘレア神殿の鍛錬場にて。
「へぇっくしょぉぉん!!」
「うわバッチィ?!」
半ば日課になった組手をしていたヴァーヴルグが、ドゥールの前で豪快なくしゃみをしていた。
「そういえばヴァーヴルグや、あの女神官長……アクセリアとはどうであるか?」
「ずび……どうと言われても、前は多少のわだかまりはありましたが今は落ち着きましたしな、尊敬できる仲間でありますとも」
「…………あの娘も気の毒であるなー」
悪魔さん「私はふと思ったのだがね、拗れた喪女ツンデレと乙女初心者ポンコツ娘が恋愛同盟を組んだとして」
悪魔さん「まともな方向性に行くわけがないと思うんだが、諸君はどう思う?」
悪魔さんはポップコーンとコーラ完備の構えな模様。
『TIPS.ウォルスエイル王国』
王都に住まう王と、領地を持つ有力貴族達によって政治を進めている君主制の王国である。
広い国土を持ち領土的野心も乏しい国であるが、隣国のきな臭い火の粉が飛びかかってくる事もある為、軍備もそれなりに充実している。
しかし、同時に広い国土は魔獣や野盗などの駆除にも難儀する温床となっており、冒険者と呼ばれる人種の活躍の場は広い。
大半の貴族は長い歴史を持つ己の家の力を振りかざし、無能な家は王家から罰せられた結果衰退し、狡猾な家は隠れて己の欲望を満たしているそうだ。
なお、セントヘレアの街が最も近い北方山脈の竜人達とは、同盟関係にある。
その為、王国の端にある領地であるが……欲深い貴族にとってセントヘレアの街がある領地は狙われがちであったりもする。
しかし、領主が代替わりしてからは現領主と街の重鎮達の働きで、その手の謀略の手は押し留められているらしい。