ねごしえーたー!   作:社畜のきなこ餅

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発足!恋愛(ぽんこつ)同盟!
果たして彼女達の活動や如何に。


33.知識をは活用せねば意味がない

 アクセリアさんと恋愛同盟を組んだボク達はまず何をすべく動いたかと言うと……。

 現在、神殿の厨房にお手伝いしてくれる神官の人達と一緒におります。

 

 お昼ご飯終わった後の時間とはいえ、今度は夕ご飯の準備等もあるので邪魔にならないよう隅っこの方のスペースを借りているのだ。

 

 

「今日は、ボクの故郷のお菓子を作ってみたいと思います」

 

「メリジェの実の種を分けてもらってきたけどぉ、コレどんなものが作れるのかしらぁ?」

 

 

 アクセリアさん経由で調達してもらったのは、メリジェの実がたっぷり入った目の細かい笊です。

 新鮮な果肉に包まれて良く熟れたメリジェの実の種は、簡単にプチプチと噛み潰せるぐらい柔らかいのですが……。

 

 干しメリジェを作る過程として除去されたその種は既に水分を失っており、結構な硬さとなっている。

 話を聞いたところ、丸ごと食べる分にはそのまま食べちゃう種だけども、干し加工する場合は丸ごと食べる際に邪魔なので取り除くらしい。

 除去したてのモノは噛み潰せるので、農家の人のオヤツになるらしいけども、それでも処理しきれない事が多いらしく、大半が飼料行きになってるそうな。

 

 ワンチャン、コレでペクチン抽出できないかな?なんて思ったのだ。

 

 

「出来るかどうかはやってみないと分からないですけども、こいつをまず煮立てます」

 

「ふむふむぅ」

 

 

 水をたっぷり入れたお鍋に笊ごとメリジェの種を入れ、竈の火にかける。

 そしてぐらぐらとお湯が沸騰したら笊ごと種を引き揚げ、お鍋の中にあるお湯を排水スペースで流した後、お鍋に再度お水を注ぎいれる。

 また笊ごとメリジェの種をお鍋に入れて竈の火にかけるのだ。この作業……茹でこぼしを合計3回繰り返してみるのだ。

 

 時々調理場にいる神官の人達が、ボク達がやってる事を見て不思議そうに首を傾げてる様子から、多分茹でこぼしという調理法自体が未確立なのだろうか?

 

 

「この作業に意味はあるのかしらぁ?」

 

「はい。茹でこぼしって言うやり方で、素材の渋みを取ったり、臭みの強いお肉の臭いを抑えたり出来るようになるそうです」

 

 

 まぁ偉そうに言ってるけどボク自身、知識としてしか知らないやり方だから詳しくは説明できないんだけどね!

 そんな事話してる間に、二回目……そして三回目の茹でこぼしが終わったので、笊ごと種を引き揚げる。

 

 そして、試しに一粒種を齧って見れば苦みは殆どなくなっていたので、綺麗な布へ種を広げてから笊へ入れ直し。

 お湯を捨てた鍋の上で、柔らかくなった種を木匙でぐりぐりと潰していく。

 

 おお、濁ったお汁が一杯出てくる。

 

 

「その布で絞ったらダメなのかしらぁ?」

 

「苦みが強くなっちゃうらしいです、ボクもメリジェの種だとどうなるか読めないんですよね」

 

 

 なるほどねぇ、とアクセリアさんがのんびり呟くのを尻目に、粗方潰して濾し終わったのでくたびれた手をぷらぷら振った後、笊を脇に避ける。

 鍋の中にはそれなりの、ペクチン液になってくれると良いなぁ的な液体が溜まっている。

 

 

「ここで、商人組合の組合長さんにおねだりして売ってもらった砂糖を入れます」

 

「お砂糖、高いわよねぇ……こっちでも作れれば良いんだけどぉ」

 

「砂糖が取れる作物は確か南の方で栽培されてますもんね。故郷にもあった、寒冷地で育てられるアレが見つかれば、この近辺でも作れるとは思うんですけど」

 

 

 ボクの言葉に、アクセリアさんがぎょっとした顔をしてるのを横目に見つつ、瓶に詰まった砂糖を様子見しながら鍋に入れる。

 アクセリアさんに竈の火を調整してもらい、中火でかき混ぜながら液を煮詰めていく。

 

 しかし、ありそうだと思ったけどこの近辺に甜菜だっけ?あれは無いのかなぁ。

 まぁ見つかっても精製方法までは知らないから、あんまり力になれそうにないんだけどね。

 

 

「あ、トロっとしてきたわねぇ」

 

「ですね。後はもうちょっと煮詰めれば……あ、空き瓶とかあります?」

 

「ちょっと待っててぇ」

 

 

 良い具合にとろみがついてきた液体を焦げ付かせない為にも木匙でかき混ぜながら、出来上がったモノを入れる瓶がない事に気付く。

 慌ててアクセリアさんにお願いすれば、さすが勝手知ったる何とやらというヤツか、すぐに煮詰めた液体を全部入れれそうな綺麗な空き瓶を探してきてくれた。

 

 

「コレを後は1時間から2時間ほど冷やせば、作ろうとしてるお菓子の材料の試作は完了です」

 

「結構手間なのねぇ。ちなみにコレでどんなのが作れるのぉ?」

 

「そうですねぇ……プルプルしたゼリーってお菓子の材料になったり、更に手間のかかるケーキの材料にしたりできます」

 

「ケーキっていうとぉ、王都の貴族が時折食べてるっていうふわふわのお菓子よねぇ。でも、砂糖結構使っちゃうけど大丈夫なのぉ?」

 

 

 まだ熱々な瓶を布巾で包みながらしっかりと蓋をしつつ、アクセリアさんとお喋りに興じるボク。

 ケーキという概念は既にこの世界あるんだね。ただ……話を聞く感じブリオッシュとかそっち系かな? 現物見ないと断言できないと思うけど。

 

 

「問題はコレをどこで冷やすかですけど……」

 

「祭壇の広間の清流にこっそり漬けちゃいましょぉ。神殿長様も苦笑いしながら大目に見てくれるわぁ」

 

「あ、苦笑いはされるんですね」

 

 

 使い終わった調理器具を洗い後片付けをアクセリアさんとしながら、ガールズトークに興じる。

 既にゼリーやババロア的なお菓子がない事はリサーチ済みで、そこにこの新食感な手作りお菓子をデートの時に差し出して、ボク達は一歩踏み出すのだ……!

 

 その後、アクセリアさんの言葉通り神殿長にお願いした結果、苦笑いと共に了承を頂けました。マジか。

 女神様への感謝とお詫びを忘れないようにしてくださいねと、お小言(?)ももらったのでそこは本当に申し訳ないと思う。だけどボク達は止まらない……!

 

 

「へぇ、冷えたらこんなのになるのねぇ」

 

「はい。後は絞った果汁にこのペクチンを様子を見ながら適量を混ぜて、冷やせばゼリーになる、筈です」

 

「でもぉ、そこを失敗しちゃったとしてもねぇ。有り余った結果、飼料にするしか無かったモノを再利用できるってのは大きいわよぉ」

 

 

 前半の作業で割とくたくたなので、アクセリアさんに新鮮なメリジェを搾ってもらい、メリジェ100%果汁を用意してもらった。

 その後、出来上がった試作のメリジェペクチンを木匙で掬って入れて、お鍋で混ぜながら弱火で熱していく。

 

 

「あ、どろっとしてきたわねぇ」

 

「そんなに入れてないんですけどね……なんか、入れ過ぎた時みたいになってる」

 

 

 追加で少しお砂糖を入れたりしつつ、ドロッとした液体の入ったお鍋を竈から離し、蓋をしてさぁ冷やそうと思ったところで、コレをどうやって冷やそうかという問題に気付く。

 さすがにお鍋まるごと祭壇の広間の清流に入れるのは、気まずいよね。

 

 

「どうしましょう……? アクセリアさん、どうしました?」

 

 

 頼りになる恋愛同盟の仲間であり相棒であるアクセリアさんへ視線を向けてみると、瞑目して何やらお祈りを捧げるかのように腕を組んでいた。

 そう思ったら目を開き、ふわりと微笑んで口を開く。

 

 

「コクヨウちゃん、今ねぇ……ヘレアルディーネ様から冷却するのに使えそうな奇跡を教えて頂いたわぁ」

 

「マジですか」

 

「ええぇ、出来たお菓子を少しだけ捧げてほしい、とも仰られてたけどねぇ」

 

 

 まさかのお供物認定。

 女神様と言うだけあって、スイーツには目がないのだろうか?

 

 

「これならぁ、神殿長様に苦笑いされなくて済むわよぉ」

 

「わーい!」

 

 

 ともあれ、女神様からもGOサインを出てるのなら躊躇う理由はないのだ。

 

 

 

 その後、しばらく冷やした後に夕飯後試作品を河川の守護女神であるヘレアルディーネ様に盛り付けて捧げ、ボクとアクセリアさんで食したんだけども。

 メリジェの芳醇な香りと優しい甘さを生かした、初めてにしては中々の出来のゼリーに仕上がったのであった。

 少し固まり過ぎたけども、そこは程よい塩梅をトライアンドエラーで見つけていくしかないだろうね。

 

 

 

 

 そして、翌日。

 

 

「ね、ねぇシナバーさん」 

 

「ん、どうした? コクヨウ」

 

 

 尻尾を忙しなく動かし、鼓動を煩いほどに高鳴らす。

 お昼ご飯後のゆったりとした時間、中庭のベンチでぼんやりしていたシナバーさんへとバスケットを片手に提げながら声をかける。

 

 

「お菓子作ってみたんだけど、どう……かな?」

 

「あ、ああ……有難くもらうよ」

 

 

 シナバーさんの体温を感じられるぐらい近い隣に座り、耳をパタパタと動かしながら頬擦りするボクの様子に、シナバーさんは声を若干上ずらせながら了承の意を返してくれた。

 大丈夫、きっと大丈夫だとボクは自分に言い聞かせ、お膝の上にバスケットを載せて蓋を開き……新たに作ったメリジェのゼリーが入った器を、シナバーさんへ手渡す。

 

 昨日作ったゼリーは、ボクとアクセリアさんと……スェラルリーネさんで美味しく平らげてしまったのだ。

 なので、新たに早起きしてアクセリアさんに手伝ってもらいながら作り直し、そして仕上がったモノが今手渡したゼリーなのである。

 

 

「コレは……なんだ?」

 

「ゼリーって言うの。ボクの故郷では一般的なお菓子なんだ」

 

 

 受け取った際にプルン、と揺れた半透明の物体に不思議そうにしてるシナバーさんへ説明しつつ、木匙を渡す。

 自分の分もバスケットから取り出し、空になったバスケットを横へ置いて……木匙で一口分掬い、口へ運んだシナバーさんの感想をドキドキしながら待ち望む。

 

 

「うん、不思議な食感だが……好きな味だ。美味しいよ、コクヨウ」

 

「そ、そう? ……えへへ」

 

「この前、北方山脈の朝食で食べた卵の料理みたいな食感だな。あっちはしょっぱかったが、こっちは甘くて美味しい」

 

 

 この前の旅路で出た料理を例に出しつつ、その間も木匙を止める事無くゼリーを平らげていくシナバーさん。

 火吹き鍋の時、辛い物が苦手そうな様子見せてたから、甘いものは好きだと良いなぁという希望的観測を大いに含んだ動きだったけど、どうやらばっちり大成功らしい。

 

 

「そう言ってもらえると、うん、ボクも嬉しいよ」

 

 

 シナバーさんの様子を見ながら、ボクも自分の分のゼリーを一口……口へ運ぶ。

 その味は甘くて爽やかで、素敵な恋の味をしているような、そんな気がした。

 




ヘレアルディーネ様「もっきゅもっきゅ……うん、コレ凄い美味しい!
ヘレアルディーネ様「そうだ、今度からあの神殿からのお供物全部コレにしてもらおー!」

河川の守護女神様は、濁流の残酷と緩い清流の優しさを持つ無邪気系ロリ女神様です。


『TIPS.神職の婚姻について』
この世界でも、一部の宗派では処女性が重要視され、それらの信奉者たちは男女問わず清らかな身である事を要求される。
しかし一方で、大地母神や河川の守護女神の信者にはその手の縛りは特に存在しない。

所帯を持った神官らは、家族丸ごと信者ならばそのまま神殿の世話になるケースも存在するが。
大体は、所属している神殿の近くに居を構え、そこから神官が神殿へ赴くという形になる事が多い。

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