ねごしえーたー!   作:社畜だったきなこ餅

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恋愛ポンコツ同盟による二人三脚と、若干の内政チートを織り交ぜてお届けしております。


34.必要は発明の母である

 

 

 アクセリアさんと同盟を組み、活動を始めたボク達であったけども。

 ボクの方は、まぁアクセリアさんの協力もあってじんわり少しずつ進んでる、ような気がする。

 だけども……。

 

 

「あのねぇ石頭ぁ、農地用の水路の工事をやってくれるのは有難いんだけど……下水路へ無造作に繋げないでくれるかしらぁ?」

 

「そう仰りますがな、こちらとてそちらが指定した通りに繋いだまでですぞ」

 

「あれだけの汚水を流すほどの規模ならぁ、もっと前に分かったでしょぉ?」

 

 

 今日も今日とて、にこやかに言葉の応酬をかわしているアクセリアさんとヴァーヴルグさんに進展はみられておりません。

 ちなみにアクセリアさんの発言に副音声を加えると、多分こんな感じになる。

 

『農地用の水路工事ありがとう、だけども下水路の繋ぎ方にちょっと問題がありますよ?』

『あれだけの大工事をする程に規模が大きいのなら予め言って下さい、こちらの排水計画にも支障が出てしまいます』

 

 と言った感じと思われる、いやぁ言い方って大事だね!

 

 

「まーたお二方はいつもの調子か」

 

「あ、ギグさんお疲れ様……何かあったの?」

 

「ああ、ちょっと若いのが排水路工事でやらかしちまってな」

 

 

 にこやか喧々囂々な言い争いを二人して眺めてると、何となく気まずくなったのか互いに示し合わせたかのように顔を背け、各々反対方向へと歩いていく。

 アクセリアさん、普段はお仕事ばりばりこなす出来る女の人なのに、こうやって見ると恋愛関係が酷くポンコツすぎる……。

 

 ふと、天啓が如きひらめきを得たボクは、ギグさんに断りを入れてからアクセリアさんを追いかけ。

 通路を曲がった先で蹲り、頭を抱えていたアクセリアさんへと声をかける。

 

 

「アクセリアさん、ボクの方からヴァーヴルグさんに話してみます」

 

「うぅぅ……な、何をかしらぁ?」

 

「アクセリアさんが、とても素晴らしい女性だということを!」

 

 

 素直になれない私のばかぁ……と声にならない声で呻いていたアクセリアさんが、ボクの言葉にぎょっとした顔で振り返る。

 当事者が素直になれないのならば、ボクの方から同盟相手を彼女の想い人へ売り込めばいい!!

 

 ……と言うのは建前だ。

 あの二人のやり取りをアレから何度か見てるし、今日のやり取りを見てもヴァーヴルグさんにアクセリアさんを忌避するような気配は見受けられない。

 勿論、この感覚には根拠が存在する。

 

 ボクが初めてこの神殿に来た当初、ヴァーヴルグさんはアクセリアさんを指す際に『生臭い女』とか言っていたんだけど、あの言葉はあの時しか聞いていないのだ。

 あの時のあの言葉には良く思っていない気配を感じたし、それ以外でもヴァーヴルグさんの言葉の端々には棘があったんだけども……。

 その刺々しさが、今は全く感じられないのだ。

 

 この根拠に、今まで一年近くこの神殿で過ごした知識と情報を総合して考え得た結論、それはね。

 ヴァーヴルグさん、十中八九アクセリアさんを女性として見ていない。

 

 

「ま、待ってコクヨウちゃん!」

 

「でも考えてみてくださいアクセリアさん、あのヴァーヴルグさんですよ? 今の調子でいっても堕ちる事は川の流れがある日逆流でもしない限りは、あり得ないですって」

 

「う、うぅ、そうだけどぉ……気まずくなってもぉ、辛いというかぁ」

 

 

 ボクにしがみつき、駆け出そうとするボクを必死に押しとどめるアクセリアさんである。

 しかしここまでは想定通り、ボクはアクセリアさんを諭すように状況を動かす事の必要性を説き、アクセリアさんはボクの言葉にたじろぎつつももじもじして消え入りそうな声で呟く。

 

 

「ちなみに、この前作ったゼリーはどうでした?」

 

「そ、そのぉ……石頭にだけ渡すの恥ずかしくてぇ、鍛錬場にいた子とまとめてあげちゃったのぉ」

 

「思った以上にポンコツじゃないですか」

 

 

 コクヨウちゃん酷い?!とかアクセリアさんが言うけども、思った以上にポンコツだよ!

 いやでも、ヴァーヴルグさんってお菓子とか手に入れても神殿に預けられた子供や病人に、率先して配っちゃうような人だからむしろ食べさせたいならアリかも。

 だが、それとこれは話が別なのである。

 

 

「じゃあこうしましょうアクセリアさん、ボクがヴァーヴルグさんからアクセリアさんをどう思っているか聞き出します。アクセリアさんは扉の外でこっそり聞き耳を……」

 

「ダメ、それはダメなのよぉ……あの石頭、耳も良ければ気配察知も抜群なのよぉ」

 

「なんと……」

 

 

 ここにきてプランがいきなり大崩壊だ、どうしよう。

 いっそ通信機的なモノがあれば………………んん?

 

 

「アクセリアさん、ちなみに聞いてみるんですけども」

 

「なぁにぃ?」

 

「直接触れていない水の波紋や振動から、音を聞いたり声を聞き取ったりできますか?」

 

「ええ、簡単よぉ」

 

 

 ふむ、ふむふむ。

 

 

「例えば、なんですけど……遠く離れた場所の、誰かの懐の中にある瓶の水の振動とかは聞き取れますか?」

 

「そんな事不可能よぉ、聞き取れるのはあくまで近くにある水の波紋ぐらいだわぁ」

 

 

 うーーん、無理かぁ。

 遠く離れた水の波紋も聞き取れるとかだと、盗聴器もどきでイケると思ったんだけども。

 

 そんな具合に二人、神殿の通路で頭を抱えていたところ。

 

 

「二人そろってどうしたのかね?」

 

 

 ひょっこり現れたのは、頼りになる愛しい人ことシナバーさんでした。

 そうだ、シナバーさんは街の外やあちこちの街で活動してたから、何か知恵が出るかもしれない。

 

 

「シナバーさんシナバーさん、遠く離れた内緒話を聞く方法とか心当たりないですか?」

 

「あるよ」

 

「あるんだ……」

 

 

 ボクの問いかけに、けろっとした様子で応えてくれるシナバーさん。

 まるで当たり前の技術みたいな調子だ。

 

 

「まぁ、こんなところで立ち話でやる事でもないから、少し場所を変えようか」

 

 

 飄々としたいつもの糸目笑顔でそんな事を言いつつ、シナバーさんが歩を進め始める。

 そして、とてとてと彼について辿り着いたのは、いつもの中庭で。

 

 いつもの定位置と化したベンチにシナバーさんが腰掛け、ボクもまた彼の体温が感じられる隣に座り。

 何となく仲間外れ感を感じたような顔をしたアクセリアさんが、少し離れて座った。

 

 

「んで、さっきの話だけど……大まかに分けて二つある」

 

「はい、お願いします」

 

「まぁ一つ目は音を届ける術式を魔術付与で刻んだ物品を使う方法だ、ただしこっちは術式が複雑な上に壊れ易いから王宮や厳重な監獄ぐらいでしか使われてない」

 

 

 指を一本立て、解説を始めてくれるシナバーさん。

 魔術付与でそんな事も出来るんだね……原理とかどうなってるんだろう。

 

 

「で、もう一つは精霊術で風の精霊に音を届けてもらうやり方があるな、こっちはそこそこ精霊術に通じてれば出来るやり方になる」

 

 

 こっちはこっちで、常に維持し続けないと声が途切れ途切れになるから疲れるし、離れすぎると使えない問題があるけどな。と続けてシナバーさんは言葉を締めくくる。

 早々便利で楽な話はないかぁ、まぁあればとっくに実用化されてるもんねぇ……。

 

 ん、待てよ。音を届けてもらうって事は……。

 

 

「さっき水の波紋とか振動って聞こえたが、今の話と関係があるのか?」

 

「え?うん、音ってさ。振動なんだよね」

 

「振動?」

 

「うん、今ボク達がこうやって話してる声って、耳の奥にある鼓膜って器官が声で発生した振動を受け取って、それを声として認識してるんだって」

 

 

 ちなみに大きな音は骨も揺らすから聞こえ方が違ったりするんだよ、と言葉を続け……前世の知識を思い出しながら、ボク自身の狐耳をピコピコ動かして説明する。 

 そして、ボクの言葉に考え込むシナバーさんとアクセリアさんである。

 

 

「音がそうやって聞こえるとなると、精霊が届けるという事は……そうか空気の振動を、だからあの時は……」

 

「奇跡でも治せない、耳が聞こえない人にももしかすると鼓膜が……でも振動が、骨が……もしかすると音を伝える方法が」

 

 

 どうしよう、二人そろって凄い考え込んでる。

 そして、先に顔を上げたのはシナバーさんの方だった。

 

 

「実験は必要だが、もしかするとやれるかもしれん」

 

「手伝うわぁ、私の目的にも沿ってるしぃ、それにもしかするとぉ……難聴の人の希望になるかもだからぁ」

 

 

 

 

 もしかするとボク、何らかの技術のブレイクスルーの切っ掛けしちゃったかもしれない。

 ま、まぁ良いか、アクセリアさんの恋路も進むからね!




悪魔さん「この世界ではまだ、明確に通信機と呼べる概念は存在してないんだよね」
悪魔さん「まぁもしかすると、一部の魔術師が秘匿技術として使ってるかもしれないけども、基本的には受信オンリーの考えが主流だよ」



『TIPS.お菓子と甘味』
この世界にも砂糖は存在するが、温暖な地域で栽培される植物からの抽出が一般的である為。
生産地帯である南方から離れれば離れるほど、砂糖の価格は高騰する傾向にある。
寒冷地帯に属するセントヘレアもまた例外に漏れず、砂糖を購入しようとするとかなりの金額になるが、庶民たちは言うほど甘味に餓えていない。
理由としては二つ。
一つは特産品であるメリジェを含む果糖が充実している事と、栽培収穫される麦から作られるエールの原料の麦芽糖が存在する為である。
その為、デザートや手の込んだお菓子は試行錯誤段階であるものの、甘味自体はそれほど珍しくもない実情が存在する。

なお南方の人達にとっては、北方で摂れた瑞々しい甘さのメリジェが最高級品である。
どの世界何時の時代も、遠く離れたモノほど有難いものなのだ。
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