ねごしえーたー!   作:社畜のきなこ餅

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絵師さんの、どぷり先生(https://twitter.com/amino_tiger)と二ノ前先生(@kaz1_ninomae)にコクヨウの絵を描いて頂きました。
今回の話の挿絵として使用させて頂いております。

もうね、うちの子描いてもらう快楽ほんとヤバいですわ(語彙消失)
なお元絵はサイズオーバーの為、サイズ変更せざるを得なかった……。

2020/1/27 イラストを追加しました。それに伴い若干改稿しました。
       結構えっちぃけど、直接的じゃないからR-15の範囲だと作者は信じてる。


35.これもまたデートかもしれない(挿絵追加しました)

 何やらシナバーさんとアクセリアさんの創作意欲と情熱を刺激してしまってから数日後。

 ボクはモヤモヤした気持ちを抱えたまま、いつもの部屋でいつもの仕事をしておりました。

 

 

「あの、大丈夫ですか? 巫女様」

 

「んい? あー、大丈夫だよ。ゴメンね、心配かけて」

 

 

 ばさこん、ばさこんと若干苛立ちを込めて尻尾を振りながらお仕事を進めていたのだけども。

 神官さんに、こんな具合に心配される始末だよ!

 

 なんでボクがこんなにモヤモヤしてるかと言うと……。

 

 

「だけどさ、酷いと思わない? 最近シナバーさんは上の空だし、もっとボクに構ってもいいと思うんだ」

 

「うーん、この見事なまでな恋する乙女っぷり。もはや隠そうともしてませんね」

 

「ま、まぁ、うん。だって大好きなのは事実だしね!」

 

 

 モヤモヤしつつも、こうやって口にすると恥ずかしいなんて思いながらも、一息つくと共に口を突いて出てくるのはちょっとした不満。

 そんなボクの様子に神官さんは苦笑いしながら突っ込んでくるけども、もはや否定するのも野暮だから全面的に肯定するのだ。

 

 あれ、あの見習い神官くん力尽きたかのように机に突っ伏したけど、大丈夫かな?

 

 

「あの子大丈夫? 仕事量いっぱいになってるようなら割り振りし直すけど」

 

「いえ、大丈夫ですよ。ただちょっと、認めたくなかった事実を突きつけられただけですから」

 

「?」

 

 

 耳をピコ、と動かしつつ神官さんの言葉に首を傾げるボクであった。

 何かお仕事でしんどい事でもあったんだろうか、それなら困り事について聞いてあげようかと思って席を立とうとするも。

 神官さんからはこれ以上死体蹴りはしないであげて下さいとか言われた、解せぬ。

 

 まぁ、うん。何か事情があってボクが動くと都合悪いそうだから、見守るだけにしておこう。

 

 

「どうしようかなぁ。だけども無理や我儘いって嫌われたくないんだよぅ」

 

「お得意の人物観察や分析をやってみられては?」

 

「やってこれなんだよう」

 

 

 シナバーさん自体が結構複雑な人間性をしてるから、ふとした拍子に見せてくれる心理や弱音ぐらいしか、分析材料ないんだよう。

 ボクの事を好意的に見てくれてるとは思うんだけどさ。それでもこう、やっぱり口に出して安心させてほしいというか。

 

 …………ん? あ、この職人さん達からのお願い、なんか変わってる。

 

 

「なんぞこれ? 令嬢用鎧の試着のお願い?」

 

「ああ、何でも貴族の令嬢向けに売り込む機能性と防御力を両立させた鎧の試着を、巫女様にお願いしたいそうですよ」

 

「鎧ってそんな簡単に作れるモノだったっけ……? あ、いつもボクの神官服をお願いしてるところの工房だ」

 

 

 コレ、手頃かつ分り易い広告塔としてボクを使うために、ボクのサイズに合わせた鎧を作ってるっぽいね、書類の内容を見る限り。

 だけどなぁ、まともに着こなせるとは思えないし、自慢じゃないが身体能力へっぽこのボクが着用しても広告塔になるようなモノなのだろうか。

 

 いや、待てよ。

 

 

「……コレさ、今日の午後から話を受けに行けるよう返事してもらう事ってできる?」

 

「何か思いついたようですね、ええと……大丈夫だと思いますよ」

 

 

 ボクが思いついたモノ、それは……お仕事にかこつけたデートなのだ!

 ぶらりと二人で歩いて見て回るというのは、まだちょっと安全上の問題から良い顔されないので難儀していたんだけども、職人街の方なら顔役でありギグさんのお爺さんであるドグさんの庭だから安心だし。

 いつもと違うボクをシナバーさんに見てもらい、ギャップ的な萌えを提供するのだ……!

 

 そうと決まれば仕事に専念だとばかりに、モヤモヤ気分を棚に上げてご機嫌に尻尾を振りながら仕事へと取り組む。

 あ、隠居しちゃった重鎮さんの後釜としてあの行商人さんが着任したんだ。そして今までの得意先へのあいさつ回りにちょっと長い旅に出るんだ……あ。

 メルルゥ様が護衛についてくって書いてある、それに秘密裏に《影爪》さんもついていくって書いてある。

 コレって要するに、逃げ場所を塞いでそこで姫様勝負を決める気じゃ……うむ、恋する乙女として恋路を応援しよう。何のかんの言って、行商人さんも姫様を憎からず思ってたのは伝わってきてたし。

 

 

 そんな具合に仕事に専念して少しの時間が経つと、連絡に行ってくれた神官さんが戻ってきて先方が今日の午後で了承してくれたという。朗報を告げてくれたと共に、お昼時を告げる鐘が鳴った。

 よし。

 頑張って、シナバーさんをお昼ご飯の時に誘うぞ……!

 

 むんっ、と胸を張り気合を入れ、たゆんと揺れたお胸を気にすることなく食堂へと向かう。

 そして食堂へと足を踏み入れ、いつもの定位置に座っていたシナバーさんの隣に座る。

 

 

「おお、お疲れさん……何か気合入ってるけど、どうかしたのかね?」

 

「え?え、ええとね、後で話すよ」

 

 

 シナバーさんが食べるのに邪魔にならないよう留意しつつ、それでもなるべく寄り添えるように座って見れば。

 ボクの様子から何かを感じたのか、シナバーさんはいつもの糸目笑顔でそんな事を問いかけてきた。

 思わず耳を立て、尻尾をバサバサ振ってしまうボクであるが、何とか取り繕う事に成功するのだ、したのだ多分。

 

 いけない、胸がドキドキして思考がまとまらない、ついでに尻尾の動きが止まらない。

 チラリと隣のシナバーさんを見上げてみると、丁度目が合ってしまいどちらともなく、目を逸らしてしまう。

 

 そんな事している間に配膳が終わり、お祈りが始まったので慌てて二柱の女神様へ感謝のお祈りを捧げ。

 まずは気を落ち着かせるべく、目の前の食事に集中する。うん、そうしよう。

 

 今日の料理は、平べったいぶつ切りされたパスタに……ハビット乳から作られたチーズがかけられてるマカロニチーズ的な料理みたいだね。

 先割れスプーンで軽く掻きわけてみると、中にはスライスされて良い具合に炒められたタマネギに、薄くスライスされた炒めたお肉が入っている。

 

 軽くそれらを絡め、口へ運んでみれば……お肉の塩味にシャキっと口の中を風味が抜けていくタマネギの味を感じられ、それらをパスタとこってりとした味わいのハビットチーズが優しく包み込んでくる。

 うん、今日も美味しい!

 

 

「ほんと、いつも幸せそうに食べるよなぁ……お前さん」

 

「こゃっ、え、ええと……だって、美味しいんだもん」

 

 

 のんびりと料理を口に運びながら、ボクの食事風景を隣から見ていたシナバーさんにそんな事を言われてしまい、思わず耳をピンと立ててしまうも。

 耳をペタンと倒し、顔を真っ赤にしながら素直に感想を述べるのだ。だって美味しいからしょうがないじゃない。

 

 ボクの返答に軽く笑うシナバーさんの気配を感じながら、ボクは続けて隣にある器に入ったスープを一口味わう。

 いつもと若干味付けが違うけど……ああそうだ、そう言えばこの前骨から出汁を取る方法について、アクセリアさんや料理を良く担当する神官さんに話したっけ。

 この味付けは多分アレだ、鶏がらをベースにしたスープだね。スープの中を泳いでいる溶き卵がまた良い感じだ。

 

 

「このスープ、少し変わった味だが……悪くないな」

 

「ふふん、そうでしょー? ボクの故郷の料理方法を教えたんだー」

 

 

 作ったのはボクじゃないけども、どこか誇らしげになり思わずドヤってしまうボクである。

 これぞまさに虎の威を借る狐であろうか。まぁうん、知識は活用しないと意味がないからね。しょうがないね!

 

 ちなみに出汁という概念自体はあったんだけども、どちらかというと野菜くずを煮込んで作るコンソメ系ベースだったんだよね。

 なので、一部の獣人さん達のオヤツにする以外は廃棄するしかなかった、角豚の骨や鶏の骨を有効活用する手段として教えたのだ。

 

 なお、どうしても出てしまうキツい臭いとかは……下水の浄化に使う奇跡を流用してるらしいです。いやぁ神様の奇跡ってほんと凄いや。

 

 

「ほふー、ごちそうさま」

 

 

 そして今日も綺麗に完食、お腹一杯なのだ。

 ちなみに配膳分を平らげても足りない人とかは、器を持って厨房の方まで行く形になっています。

 ついでに言うと、大体はギグさんがいます。あの人、ドワーフって事差し引いても結構な大食らいな気がする。

 

 

「ねぇシナバーさん、お昼から時間あるかな?」

 

「ん? ああ、アクセリア神官長との共同開発も大体は落ち着いたからな。大丈夫だぞ」

 

 

 内心凄いドキドキしながら、上目遣いにシナバーさんへ問いかけてみれば返事は良好。ボクは内心でガッツポーズ。

 

 

「そ、それならさ、ちょっと職人街の方にお仕事で行くことになったからさ、護衛頼んでもいいかな?」

 

「いいぞ。それにあそこなら万が一があってもやりようがあるしな」

 

 

 神殿の外へ出るという言葉に一瞬何かをシナバーさんは考え込むが、あの場所なら大丈夫だろうと了承してくれた。

 ……よし!

 

 

「じゃあさ、少し食休みした後早速行こうよ、待たせても先方に悪いしさ!」

 

「あ、ああ……」

 

 

 ぐい、と勢い余ってシナバーさんの腕に抱き着き、その腕を胸元に抱き込みながら勢いに任せて誘う。

 突然のボクの行動と変化に、シナバーさんは驚きつつも……ぎゅぅと腕に抱き着いたことで伝わってるであろう柔らかい感触に、若干ドギマギした様子を見せている。

 

 なんかこうとても大胆な事してるような気がするけども、気のせいだよね気のせい!

 

 

 

 

 そんなこんなで。

 

 

 

 

 あの後、アクセリアさんに手伝ってもらいながら少しだけおめかししたボクは、シナバーさんと共に依頼を出してきた工房までやって来たのだ。

 まぁおめかしと言っても、アクセリアさん監修品なメリジェの皮から作られた香料を軽く振りかけたのと、髪の毛を梳いてもらいつつ軽く整えてもらったぐらいなんだけどね!

 ……この手の女性の美容関係とかリサーチすれば、また何か良い手法が見つかるかな? いやいや、今はこのデート最優先だ!

 

 

「おお来たか嬢ちゃん、甲冑一式は既に用意してあるぜ。おおい!この娘さんにアレ着けてやってくれい!」

 

 

 工房の中へ入って出迎えてくれたのは、この工房の元親方のドグさんで。

 奥へ声を張り上げれば、ボクの神官服を作ったりしてくれてる女性のドワーフ職人さんが、ボクを工房の奥まで案内してくれた。

 

 

「ふむ、じゃあ俺は適当に店の中でも見させてもらうとするかね」

 

「いやいや、お前さんにゃここでしっかりと待っててもらわないといかんぞ、この色男め」

 

「一体何のことだ……?」

 

 

 工房の中を安全の為にチェックするかね、なんて言いながら歩を進めようとしたシナバーさんがドグさんに押し留められてるのを後ろ目に見つつ。

 ボクは、深呼吸しながら工房の奥へと案内され……件の甲冑を女性ドワーフの皆さんに手伝ってもらいながら、身に着けていく。

 

 

「何だか、下鎧とは思えないぐらい可愛い意匠だね。それに動き易いし肌触りもいいや」

 

「巫女ちゃんの一張羅や下着に着想を得てねぇ、色々と素材から見直して作った一品だよ」

 

 

 ぴっちりとした薄い生地の、まるでレオタードじみた上下一体型のインナーへ足や袖を通していくが、ここで一つ問題が発生。

 その、ボク自身の大きなお胸のせいで生地が引っ張られて、その……股間部に布が食い込んで、まるでハイレグみたいな格好に……!

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「あちゃぁ、ちょっと生地が足りなかったかぁ、これで補助するしかないねぇ」

 

「ありがとうございます……」

 

 

 気を取り直し、レオタ状のスーツの上からスパッツみたいな下衣を履き、上にはインナースーツみたいな下鎧を着用していく。

 うん、ちょっとハプニングがありはしたけども……派手に動いても胸が暴れ回らないからいいね、コレ。運動着としてお願いしようかなぁ。

 

 そ、それにこのインナーになってるレオタ状のスーツも、その、ちょっと欲しいかも。

 ち、違うからね!誘惑用にとかそんなんじゃなくて、着心地が凄い良いからってだけだからね!

 

 

「そして、コレが件の甲冑だよ。見た目以上に軽いから、巫女ちゃんでもそんなにきつくない筈さね」

 

「え、結構重そうなんだけど……あ、ほんとだ。重いと言えば重いけど、そんなに重くないや」

 

「内部での固定に色々と秘密があってね。そんなに鍛えてない令嬢様とかでも着れるように工夫してあるのさ」

 

 

 そんな具合に色々と着込んでいき、ボクの体半分を隠せるような盾まで装備して準備完了!

 この盾も凄い軽いなぁ、ドワーフの技術力ってほんと凄い。

 

 

「でもほんとなんでこんなに軽いの? 金属なのは間違いないと思うんだけどさ」

 

「軽銀をベースに、特別な比率でかつ炭金で熱した炉で鉄とかを混ぜて……丹念に鍛えてるからね。その分手間もかかれば元手もかかるけど、、品質は保証するさね」

 

 

 ボクの疑問に、待ってましたとばかりに丸顔の女ドワーフ職人さんが、えっへんと胸を張りながら解説してくれた。

 ドワーフの技術力ってホント、凄い。いやマジで。

 

 

「さっ、準備完了だよ。愛しの彼氏さんに見せに行かなきゃね」

 

「こゃっ?! か、かか、彼氏だなんて、そんな……」

 

 

 耳と尻尾をピンと立て、顔を真っ赤にするボクを見て女ドワーフ職人さんは微笑ましそうにみながら、ボクの背中をぐいぐいと押してシナバーさんが待つ工房のお店スペースまで押し出していく。

 ちょ、ちょっとまって心の準備が……やだこの人、さすがドワーフってばかりに力が強い!

 

 

「おお、やっとこ準備終わったか。女の支度ってのは長くていけねぇや」

 

「ご隠居ー、そんな事ばかり言ってるから何度も奥さんに殴られてるじゃないですか」

 

 

 女ドワーフ職人さんの言葉に、ドグさんがうるせぇ!なんて言い返してるけども、ボクの耳は割とお二人のやり取りが耳に入っていなかった。

 何故なら、ボクの姿を見てシナバーさんが糸目を見開き、呆けてこちらを見ていたのだから。

 

 

「え、えっと……変じゃ、ないかな?」

 

 

 右手に持っていた盾の先端を床に付け、その上部に手をかけて支えながら。

 左手を腰に携える形になってる細剣の柄へ手をかけて、笑みを浮かべながらポーズをとってみる。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「……可愛い」

 

「……え? も、もう一回言ってシナバーさん!」

 

「な、なんでもない!」

 

 

 ぼそり、と呟いたシナバーさんの言葉にボクの耳と尻尾がピンと立ち。

 ぐいぐいとシナバーさんで詰め寄りながら、目を輝かせてリピートをおねだりする、が……ダメ!

 シナバーさん、顔を真っ赤にして目を逸らしちゃった。

 

 

「いやぁ、甘酸っぱいことこの上ないさねぇ、ご隠居」

 

「あの娘がドワーフなら、ギグに宛がいたかったなぁ」

 

「まだ言ってんですか、ご隠居」

 

 

 

 

 

 後ろの方で何やら話してるけども、ボクにはもう聞こえていなかった。

 何故なら……ぴょんぴょんと刎ね、シナバーさんの視界に入るよう頑張りながら、もう一回『可愛い』とて言ってもらうのに忙しかったのだから、しょうがないよね!




悪魔さん「ちなみにあの鎧だけどね、わーりとあの娘が持つには宝の持ち腐れこの上ない性能だよ」
悪魔さん「軽くて硬いってのもあるんだけどもね、開き直った作り方してるみたいで……硬いけど一定の衝撃で砕けるようにしてるんだよねアレ」
悪魔さん「こういうと伝わり易いかな? いわゆる反応装甲じみた事やってるんだよ、アレ」
悪魔さん「令嬢方に売り込むってあのドワーフ言ってたけどさ、どれだけの値段になるか絶対考えてないよアレ。作ってみたいから作ってみたってのが絶対先にあるって」


『TIPS.軽銀』
平たく言うとアルミニウムである。
通常の炉では当然融解できないが、炭金が齎す火力がその問題をクリアーしてしまった結果。
この世界では加工の手間がかかる有能な鉱物として扱われている。
但しそのまま軽銀だけで武具を作ってもすぐに破損や性能低下が起きる為……。
現場鍛冶屋(主にドワーフ辺り)が、色々とやらかしては合金を作り出しているようだ。

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