ねごしえーたー!   作:社畜のきなこ餅

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引き続きのコクヨウちゃんの情報収集フェイズ!
果たして彼女が得られる情報とは、いかに。


06.お水の仕事(いかがわしい意味ではない)

 

 

 ヴァーヴルグさんからの聞き取り調査を終えて退室したものの、ギグさんのお爺さんが都合の良い時間にはまだほど遠いそんな時間。

 折角なのでさっき頂いたおやつを、穏やかに流れる河が見える中庭のような場所で頂く事にするのだ。

 

 

「干しメリジェの実入りクッキーみてーだな」

 

「凄い美味しそうだ、頂きまーす! うん、美味しい」

 

 

 ちょっと硬めに焼かれてるクッキーは形は少し不揃いだけども、そんな事気にならないぐらいカリカリで美味しいのです。

 小麦の素朴な甘みと、干した事で酸味が生まれてるメリジェの実がアクセントが素晴らしくマッチしていて、いくらでも食べられそうです。

 

 

「……コクヨウ嬢、おめーまるでリスみてーだな」

 

「むい?」

 

 

 無心で両手でクッキーを持ち、サクサクポリポリ齧ってたらそんな事をギグさんから言われてしまった。解せぬ。

 そういうギグさんも、クッキーを一枚口に放り込んでポリポリしてるのです。こうなるとお茶が欲しくなるなぁ。

 

 そんな事考えてたら、後ろの方から足音が聞こえたのでクッキーを咥えたまま振り向いてみたところ。

 

 

「焼き菓子だけだと喉が渇いちゃうわよぉ? それに、お行儀が悪いわよぉコクヨウちゃん」

 

 

 振り向いた先には左手に一つ、右手で二つのコップを持ったアクセリアさんがクスクスと微笑みながら立っていました。

 お風呂上りなのか、昨晩ボクも使わせてもらった石鹸の仄かに甘い香りを漂わせ、髪の毛は少し湿り気を帯びてる感じです。

 ともあれ、ボクは口に咥えてたクッキーをポリポリと口の中へ運び幸せを感じながら咀嚼して飲み込むと、アクセリアさんが差し出してくれたコップをギグさんと共に受け取るのだ。

 

 

「ありがとうございます、アクセリアさん」

 

「あの石頭からぁ、コクヨウちゃん達におやつをあげたって聞いたからねぇ。ここにいるかなって思ったのよぉ」

 

 

 ここはギグさんもお気に入りの場所だしねぇ?なんて言いながらクスクスと優しく微笑むアクセリアさんです。

 石頭って昨日の言い争いの様子からヴァーヴルグさんの事だろうなぁ、でも言葉の割にそんな嫌悪感を感じない不思議。

 そんなボクの内心を知ってか知らずか、アクセリアさんは笑顔のままおひとつ頂くわねぇ。との言葉と共に袋からクッキーを一枚摘まむと、上品な所作で口へ運んでます。

 

 

「石頭がねぇ、わざわざお風呂上りの私に教えに来たのよぉ。コクヨウちゃんが、私達の諍いを止める為に情報を集めてるってねぇ」

 

「……ヴァーヴルグ殿が?」

 

「ええ、あの石頭がねぇ? ウフフ、アレはアレで真面目過ぎると思うけどねぇ」

 

 

 ギグさんも信じられないのか茫然と問いかければ、アクセリアさんはウィンクをしながら手に持ったコップへ口を付ける。

 んーーー、なんだろうこのアクセリアさんの様子。ヴァーヴルグさんへの態度に何とも言えない感情を感じる、いやぁ言葉にするのは簡単なんだよ。矛盾してるけど。

 この街に入る前にジョンさんに対してギグさんがボヤいてた時に近い、けどもそこに母性と言うかお姉さん的な感覚を混ぜたような……でも、お二人の見た目的に明らかにおかしいんだよなぁ。

 

 

「この街に来たばかりの頃は初々しい青年だったというのにぃ、時の流れは河の流れと同様止めようがないしぃ……残酷なものよねぇ」

 

「そういえば、アクセリア殿はこの神殿が出来た頃からの……」

 

「ギグさぁん? 乙女の齢に繋がる情報の漏洩はぁ、ご法度よぉ?」

 

 

 コップから口を話し、しみじみと感慨深そうに呟くアクセリアさんの言葉に。ギグさんが思わずと言った調子で口をはさんだ次の瞬間。

 目も顔も、美しいとすら感じるほどに微笑んでいるのに空間が軋むような圧力を感じた。

 ギグさんも己が大失言やらかしたと悟ったのか、顔面蒼白になり慌てて謝罪した事でその圧力は雲散霧消したけど……。

 

 ……あれ?ヴァーヴルグさん、見た目的に40かそのぐらいの見た目してたよね。

 そんな人が青年だった頃、少なく見積もっても20年かそこらは経ってるはず。そうなると……。

 

 そこまで考えたところで、アクセリアさんの笑顔がこちらを向いた。

 ゴメンナサイ、ボクガワルカッタデス。

 

 

「まったくもぉ、失礼しちゃうわねぇ」

 

 

 コップを持ってない方の手で、淡い水色の髪の後ろ髪を掻き上げるアクセリアさん。

 なんだかこう、プロポーションと体の線が浮き出るような法衣のせいで凄く煽情的に見える仕草だけども……。

 前の僕なら喜んだかもしれないば今のボクには絵になる人だなー、という感想しか出ない悲しみ。

 

 

「え、えっとアクセリアさん。こんなところで何ですけども、河川の守護女神の一派の方のお仕事について色々お聞きしてもよろしいですか?」

 

「ええ、構わないわぁ。その為に来たのだものぉ」

 

 

 コップの中身を一口飲み込み……あ、これメリジェの搾り汁と何かを混ぜた飲み物だ、爽やかな甘さが舌と喉を通り過ぎて行って美味しい。

 ……じゃない!そんなボクの様子にアクセリアさんは微笑ましそうな視線を向けてくるけど、気を取り直して質問を始めるのだ。

 

 

「河川の守護女神の一派の方のお仕事は生活用水の整備とは聞いていたのですけども、お料理を作られてた神官の方々も街に出られてる様子からして……他にもお仕事があるんですよね?」

 

「ええ、そうよぉ。家族の手を借りないと治療を受けられない方へ治療を施しに行ったりぃ、新たな家族を築いた方達への祝福やぁ……生を終えられた方の弔いをしているわぁ」

 

 

 なるほど、河川の守護女神派の人達はシフト制で生活用水の浄化をしたり、お医者さん的立ち位置を兼ねつつ冠婚葬祭を取り仕切っていると……。

 街と言う存在を一つの境界線とするなら大地母神派の人達は外向きの活動を担当し、河川の守護女神派の人達は内向きの活動を担当しているわけだね。

 

 

「かなり忙しそうですね……」

 

「ええ、私が忙しいだけならまだ良いのだけどもぉ。若い子達も苦労するとなるとちょっとねぇ、街の皆さんから聞いた困り事を酒場に斡旋したりもしないといけないのよぉ」

 

 

 頬に手を当て、間延びした口調ながらに苦労を滲ませるアクセリアさん。

 今の話を聞く限りでも、双方のキャパシティが限界ぎりぎりか超え始めてる様子が垣間見えるのだけども、気になった事があるので確認させてもらうのだ。

 

 

「酒場への斡旋、ですか?」

 

「ええ、疎遠になった遠方の家族に手紙を送りたいとかぁ。貴重な素材が欲しいというお話を受けたらぁ、冒険者の方が集まる酒場にお話を持っていってるのよぉ」

 

 

 お、おう。今ボクの中で河川の守護女神派の人達のキャパシティがレッドゾーン振り切れたのを感じたぞ。

 そういう意味では、農地の事ぐらいは何とか大地母神派の人達で対応してもらわないと、もう手が回らないというのも納得するしかない、コレ……。

 

 

「……コレは答え辛かったら答えて頂かなくてもよい話なんですけど」

 

「だめよコクヨウちゃん、貴方は神殿長の代理人なのよ? その聖印を預けられたからには、解決の糸口になる事は全て集めるぐらいの気持ちで臨みなさい?」

 

 

 迷いながらも口を開いたボクの言葉に、先ほどまでの間延びした口調とは打って変わってピシャリとした口調と厳しい表情でボクを叱るアクセリアさん。

 ハっと目を見開くボクの様子に、アクセリアさんは先ほどまでの穏やかな笑顔を浮かべる。

 

 

「失礼しました。かつてこの街であった、二つの宗派の諍いの切っ掛けと結末を教えて頂けますか?」

 

「……アレはねぇ、始まりは農地の汚水が河の本流に大量に流れ込んだのがぁ、切っ掛けだったのよぉ」

 

 

 ボクの視線を真正面から受け止めたアクセリアさんは、ゆっくりと口を開き始める。

 気が付けば今この場にはボクとギグさん、そしてアクセリアさんしかいない。もしかすると彼女が足を踏み入れたタイミングで人払いがされたのかもしれないね。

 

 

「あの時は隣国であった戦争が終わった時期でねぇ?たくさんの人がこの街にやってきてぇ……皆とても、とても頑張ったのだけどもぉ。手が後一歩足りなかったのぉ」

 

「そこからはもうねぇ?濁流に小舟が飲み込まれるようにあっという間だったわぁ、疑心が疑心を呼んでぇ。神殿の中ですらも怪我人が出ちゃうほどだったわぁ」

 

「流れた水はもう戻らないのにねぇ? 今でも後悔が離れないわぁ、争いを恐れずに意見をぶつけてぇ。皆で立ち向かえばもっと良い未来を迎えられたんじゃないか、なんてねぇ」

 

 

 かつての光景をまるで昨日あった事のように、悔恨に満ちた声でアクセリアさんは語る。

 ああ、だからアクセリアさんは真正面からヴァーヴルグさんに言葉をぶつけていたんだ。昔の過ちをもう二度と繰り返さない為に。

 

 

「……辛いのに、答えてありがとうございます」

 

「気にしないでぇ、ねぇ。コクヨウちゃん?」

 

 

 椅子から立ち上がり、お礼と共に深く頭を下げるボクの頭にアクセリアさんの手が優しく置かれ……慈しむようにボクの頭を撫でてくる。

 

 

「ずぅっと続いてる問題なのぉ、コクヨウちゃんだけが重荷を背負わなくてもぉ。まだきっと大丈夫よぉ、その為にも石頭にしっかりと言い聞かせてるのだからぁ」

 

 

 どこか諦観を感じる、それでも必死に何とか頑張ろうとしている人が優しく語り掛けてくれる。

 アクセリアさんも本当は誰かに頼りたいし縋りたい筈だ、だからこそボクが言い淀んだ時に厳しく叱ってくれたのだから。

 その後、アクセリアさんは次の職務があるとの事で中庭から出ていき、ボクとギグさんだけが残された。

 

 

「……この街のタブーとも言える話題だったからな、俺も詳しくは聞いていなかったが。まさかこんな話だったとはな」

 

 

 重い溜息を吐きながら、ガシガシと頭を掻きむしるギグさん。

 もっと真正面からこの問題に俺も向き合うべきだった、と悔悟の念を滲ませる彼の呟きを聞きながらボクは口を開く。

 

 

「うん、そうだね。でも……」

 

 ……うん、突破口は見えてきた。

 ボク一人だけが言い出しても多分誰も耳を傾けないかもしれないけども、神殿長のスェラルリーネさんにヴァーヴルグさん、それにアクセリアさんもボクを後押ししてくれている。

 

 

「どうするコクヨウ嬢。うちの爺様に聞きたかったであろう話も、アクセリア殿から聞けちまったが」

 

「そうだね、だからさ。この問題を解決するための手段の最後の欠片を、探しに行こうよ」

 

 

 どこにだ?と夕焼けに照らされるギグさんの様子に、ボクは笑みを浮かべて応えるのだ。

 ギグさんのお爺さんのところに、とね。

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、色々とあったけどもすっ飛ばして二日目の夜の入浴タイムです。

 ギグさんのお爺さん……この街の職人達のまとめ役でもあったドグさんは中々に偏屈な頑固者だったけど、真正面からぶち当たって話し合った結果最高の成果を出す事が出来ました。

 その結果時間がかなりかかり、晩御飯の時間ギリギリの帰着になったけども、しょうがないよね。うん。

 

 

「はふー……疲れがお湯に溶けていくぅ……」

 

 

 搾りかす状態なメリジェの実が浮かべられた湯船につかり、お風呂の中で体を伸ばしてみれば湯船に浮いていた大きなお胸の二つがふるんと揺れ、ぱちゃんと水音を立てる。

 昨日は気付かなかったけど、お風呂のこの良い匂いってメリジェの実の匂いだったんだなぁ。食料におやつに生活必需品にと、出来過ぎと言えるぐらい便利な作物だよねぇ。

 

 

「ああ、だからこその。大地母神様の授け物、か」

 

 

 そりゃ聖印にも採用されるよねー、などと取り留めのない思考が頭を通り過ぎていく。

 ともあれ、お湯に浸かり過ぎてものぼせちゃうので程よい所で湯船から上がり、洗い場にある椅子に座って石鹸で体を洗い始めるのだ。

 普段はふわふわふかふかな尻尾も今は水分を含んでしんなりしてるし若干重いけど、気にしないのだ。 何だかこうずぶ濡れになったふかふかだったワンコみたいな哀愁漂ってるけど。

 

 

「ふん、ふんふふん♪」

 

 

 石鹸で体を洗い、時折敏感な肌や……指先が胸の先端を洗った際に走る刺激に声が上ずりそうになるが、その内慣れるその内慣れると己に言い聞かせて綺麗にしていく。

 今現時点で考えられる事は一通り準備したとは言い難いから、明日もいろんなところへの働きかけは必要だし万事うまくいく保証も正直ない。

 大事な場所も、時折体をはねさせながら洗い終え尻尾を洗いながら……色々と考えが頭を通り過ぎていく。

 

 だがそれでも、やらねばならぬのだ。

 ここにきてまだ二日目だけども、良くしてくれてる人達にボクはもう結構感情移入しているし、故にあの人たちが悲しむのは見たくない。

 

 ならば、ボクはボクに出来る手を尽くして……全力でぶち当たっていくしかないのだ。

 

 

 とりあえず、その為にも心と体をしっかりリフレッシュして明日に挑もう。そうしよう。

 




悪魔さん「ギグ君のお爺様との会談がすっ飛ばされている?」
悪魔さん「それはそうとも、私の方で少しばかり細工させてもらったのだよ」
悪魔さん「劇的な切り札は……クライマックスに出すからこそ美しい。そうは思わないかね?」

次回、クライマックスフェイズに突入します。

『TIPS.アクセリア』
セントへレア神殿の河川の守護女神派まとめ役の、見た目は妙齢の美女。
種族については本人はマーフォーク(人魚種)と申告しているが……。
記録と照合した際に種族的な寿命と食い違いがある為一部では疑問視されている、なお調査した人間は数日間うわごとのように彼女の美しさを称えるだけの存在になってしまうらしい。
本人は荒事を避ける傾向が強い為その戦闘能力は不明だが、浄化を含め治癒等の奇跡を行使する技術は一級品とされている。
また、汚水の処理を行う際に若い神官達が悪臭に悩まされ忌避されない為に、今や神殿のみならず街でも広く使われている石鹸等の衛生用品を作り上げた才女でもある。

彼女がヴァーヴルグを見る目線は、聞き分けのない弟分を見るようなモノであり。
時折、どこか手の届かない懐かしい思い出を噛み締めるようなモノである。

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