「王子様!?」
「は?」
目の前の少女は何を言っているのだろうか。俺は少し頰を引きつってしまう
熱っぽい視線や状況から俺は頭を掻く
「いや、違うからな。てかお前は。」
「あっ。失礼しました。ぼくは兎人族ハウリアの長の娘ユキ・ハウリアと言います。先ほどはお姉ちゃんを助けていただきありがとうございました。」
どうやら礼儀はきちんとしているのだけど
目がキラキラしている。
どうやら助けたので憧れや妙に補正がかかって見えているらしい。
―――― アッーーーー!!
するとそんな声が聞こえてくる
「お姉ちゃん!!」
「うぉ。」
きっかり十秒後、グシャ!という音と共にハジメ達の眼前に墜落した。
「お前ら何やっているんだよ。」
「……ん。昴は大きい方が好き?」
「……悪いどういう意味かわからん。」
本当に大きいってどういう意味か分からない。
「......ハジメはおっきい方が好き?」
「......ユエ、大きさの問題じゃあない。相手が誰か、それが一番重要だ」
「あぁ。そういうことか。ハジメは大きいものの方が好きだぞ。コレクションに大きいのばっかり入っているし。」
「すばる!!」
ついでに俺はあまり気にしないしハジメもそれを知っているので反論できない。
「アイツ動いてるぞ......本気でゾンビみたいな奴だな。頑丈とかそう言うレベルを超えている気がするんだが......」
「........................ん」
「てか身体強化だろ?そうじゃないと説明がつかないし。……ってそういや亜人族って魔力を持っていない種族だよな?」
いつもより長い間の後、返事をしてくれたことにホッとしている
と、ズボッという音と共にシアが泥だらけの顔を抜き出した。
「うぅ〜ひどい目に遭いました。こんな場面見えてなかったのに......」
「お姉ちゃんが余計なことを言うからでしょ。申し訳ありません。お姉ちゃんが残念で。」
「ちょっとどういうことですかユキ。」
「話が進みやしねぇ。」
「はぁ〜、お前の耐久力は一体どうなってんだ? 尋常じゃないぞ......何者なんだ?」
ハジメの胡乱な眼差しに、ようやく本題に入れると居住まいを正す残念ウサギ。バイクの座席に腰掛けるハジメ達の前で座り込み真面目な表情を作った。もう既に色々遅いが......
「改めまして、私は兎人族ハウリアの長の娘シア・ハウリアと言います。実は......」
そんな兎人族の一つ、ハウリア族に、ある日異常な女の子の双子が生まれた。兎人族は基本的に濃紺の髪をしているのだが、姉の髪は青みがかった白髪、妹の方はうさ耳が丸みがかかり雪のように純白だったのだ。しかも、亜人族には無いはずの魔力まで有しており、直接魔力を操るすべと、とある固有魔法まで使えたのだ。
当然、一族は大いに困惑した。兎人族として、いや、亜人族として有り得ない子が生まれたのだ。魔物と同様の力を持っているなど、普通なら迫害の対象となるだろう。しかし、彼女が生まれたのは亜人族一、家族の情が深い種族である兎人族だ。百数十人全員を一つの家族と称する種族なのだ。ハウリア族は女の子を見捨てるという選択肢を持たなかった。
「んでバレてフェアベルゲンに捕まる前に一族ごと樹海を出たところを帝国兵に捕まったか。」
「はい。さすがにボクだけじゃ物量に押し切られてしまって。」
「……気がつけば、六十人はいた家族も、今は四十人程しかいません。このままでは全滅です。どうか助けて下さい!」
最初の残念な感じとは打って変わって悲痛な表情で懇願するシア。どうやら、シアは、俺たちと同じ、この世界の例外というヤツらしい。
「断る」
ハジメの端的な言葉が静寂をもたらした。何を言われたのか分からない、といった表情のシアは、ポカンと口を開けた間抜けな姿でハジメをマジマジと見つめた。そして、ハジメが話は終わったと魔力駆動二輪に跨ろうとしてようやく我を取り戻し、物凄い勢いで抗議の声を張り上げた。
「ちょ、ちょ、ちょっと! 何故です! 今の流れはどう考えても『何て可哀想なんだ! 安心しろ!! 俺が何とかしてやる!』とか言って爽やかに微笑むところですよ! 流石の私もコロっといっちゃうところですよ! 何、いきなり美少女との出会いをフイにしているのですか! って、あっ、無視して行こうとしないで下さい! 逃しませんよぉ!」
「あのなぁ~、お前等助けて、俺に何のメリットがあるんだよ」
「メ、メリット?」
「帝国から追われているわ、樹海から追放されているわ、お前さんは厄介のタネだわ、デメリットしかねぇじゃねぇか。仮に峡谷から脱出出来たとして、その後どうすんだよ? また帝国に捕まるのが関の山だろうが。で、それ避けたきゃ、また俺を頼るんだろ? 今度は、帝国兵から守りながら北の山脈地帯まで連れて行けってな」
「うっ、そ、それは……で、でも!」
「俺達にだって旅の目的はあるんだ。そんな厄介なもん抱えていられないんだよ」
「そんな……でも、守ってくれるって見えましたのに!」
「……さっきも言ってたな、それ。どういう意味だ? ……お前の固有魔法と関係あるのか?」
一向に折れないハジメに涙目で意味不明なことを口走るシア。そう言えば、何故シアが仲間と離れて単独行動をしていたのかという点も疑問である。その辺りのことも関係あるのかとハジメは尋ねた。
「え? あ、はい。〝未来視〟といいまして、仮定した未来が見えます。もしこれを選択したら、その先どうなるか? みたいな……あと、危険が迫っているときは勝手に見えたりします。まぁ、見えた未来が絶対というわけではないですけど……そ、そうです。私、役に立ちますよ! 〝未来視〟があれば危険とかも分かりやすいですし! 少し前に見たんです! 貴方が私達を助けてくれている姿が! 実際、ちゃんと貴方に会えて助けられました!」
あぁだからか。見えましたっていうのは
「そういやユキは?」
「ボクは気配を薄くしたり、早く走ることができることかな。後は自分の武器に属性を付けられることができる。」
「あぁ。なるほど。」
俺はそれでユキが使えることを認識すると
そしてハジメの方を向き
「ハジメ、連れて行こうぜ」
「昴?」
「ハジメ、連れて行こう」
「ユエ?」
「!? 最初から貴女のこといい人だと思ってました! ペッタンコって言ってゴメンなッあふんっ!」
「……バカ姉がすいません。」
シアを殴り頭をペコペコ下げるユキに少し同情してしまう。
残念な姉を持つと大変なんだなぁ。と思いつつも俺は理由をいう
「「……樹海の案内に丁度いい」」
「あ~」
確かに、樹海は亜人族以外では必ず迷うと言われているため、兎人族の案内があれば心強い。樹海を迷わず進むための対策も一応考えていたのだが、若干、乱暴なやり方であるし確実ではない。最悪、現地で亜人族を捕虜にして道を聞き出そうと考えていたので、自ら進んで案内してくれる亜人がいるのは正直言って有り難い。
「あまり力に頼っていると痛い目に見るぞ。穏便に行けるんならそっちの方がいいだろ?もし敵なら潰せばいいんだし。」
「……大丈夫、私達は最強」
するとハジメは苦笑をし
「そうだな。おい、喜べ残念ウサギ。お前達を樹海の案内に雇わせてもらう。報酬はお前等の命だ。」
セリフが完全にヤクザである。しかし、それでも、峡谷において強力な魔物を片手間に屠れる強者が生存を約束したことに変わりはなく、シアは飛び上がらんばかりに喜びを表にした。
「……よかった。僕だけじゃ限界があったから。」
安心したように息を吐くユキ。そういえばユキは穏便な兎人族なのになんであんなに剣筋がよかったのか気になった。
「あ、あの、宜しくお願いします! そ、それでお三人のことは何と呼べば……」
「ん? そう言えば名乗ってなかったか……俺はハジメ。南雲ハジメだ」
「飯塚昴。」
「……ユエ」
「ハジメさんと昴さんとユエちゃんですね」
「ユエは吸血鬼だからお前よりずっと年上だぞ。」
「えっすいません。ユエさん。」
まぁとりあえず
「ユキは俺の後ろに乗れ。ハジメはシアを連れてけよ。」
「なんでだよ。」
「いや。だってもう座っているし。」
本当にいつの間にか移動しているんだよなぁ。
「あ、あの。助けてもらうのに必死で、つい流してしまったのですが……この乗り物? 何なのですか?」
「あ~、それは道中でな」
そう言いながら、俺たちは魔力駆動二輪を一気に加速させ出発した。悪路をものともせず爆走する乗り物に、シアがハジメの肩越しに「きゃぁああ~!」と悲鳴を上げた。地面も壁も流れるように後ろへ飛んでいく。
「気持ちいい。」
後ろの少女はなかなか度胸がいいのか少し驚きながら楽しんでいるみたいだったが
説明しながら俺はユキと話すと
「えっそれじゃあ昴さんも固有魔法が使えたり、魔力を操れたりするんですか?」
「あぁ。といっても俺はどれくらい異常なのかよくわかってないんだけど。」
するとユキは自分のことについて話始める
ユキとシアは小さいころから集落の外では魔力を持っていたせいで魔物みたいに扱われていたらしい。その度にシアと涙を流し続けた日々が続いていたらしい。でも母親の英雄の話を聞きユキより孤独になるために魔物と戦う決心をした
ユキは分かっていたのだ。いつか自分たちのことがバレてフェアベルゲンを追放。もしくは自分達が処刑をされることを。
自分は処刑されてもいい。でも同じ境遇のシアだけは守りたかったらしい。
自分の特別を家族の為に使えるなら。っと
「……あはは。結局は100人近くいたみんなも半分近くもいなくなりましたけどね。」
自嘲気味に笑うユキに俺は何も言えないでいた。
さすがにこの少女の境遇は笑える立場にはなかったのだ
ユキは必死に家族を守りたくて自分の嫌いなところを全面に使った
それでも家族を守れなかった苦しさは多分思ってもいない苦痛だろう
しばらく無言で重い空気は漂いながら俺たちは兎人族のいる場所へと急いだ