黒の剣士に憧れし者 連載中止   作:孤独なバカ

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未来

あれから9日が経ち俺たちは約束の集合場所まできていた

結果的にユキの訓練は5日間で済んだ

 

というのも1日一回ユエと模擬戦を行うって言ったのだが呆気ないほど簡単にユエが負けたのである。

ユエ曰く全く気配も魔力を感じなかったらしくその後のシアの特訓で憂さ晴らしをしていたらしい。

足に身体強化をかけたユキは特化型で俊敏に身体強化でハジメレベルまで速さが上がった。

俺以上の隠密と気配遮断そして1万以上のスピードに完膚無きまでにユエは何もできなかったのである

まぁそれを念話石でハジメに話したところ絶句で声がでなかったらしいがいい拾い物だと喜んでいたが

 

「……えへへ。王子様」

「……こいつノン気だな。」

 

俺は苦笑しユキの頭を撫でる。そのクリアした後は俺とユキはのんびりしていた。今も俺の隣で寝ているのは戦闘訓練を行ってぼこぼこにしてやったので傷だらけなんだがそれでも幸せそうだ。

 

「……つーか。俺も最低だな。」

 

自覚はあった。同類に感じてしまったから親近感が湧いてしまったのであろう。

こいつのこと好きだと自覚するのは遅くはなかった。

 

「……はぁ。」

「どうした?」

 

すると最初に来たのはハジメだったらしい。

 

「何でもない。ただ大切なものが増えただけ。それ以上は何もない。」

「……そうか。」

「お前らの方はどうなんだよ?確かハウリア族の訓練だろ?」

 

すると目を逸らすハジメに少し嫌な予感がする

 

「……まぁ上手くはいったよ。 ただなぁ……ちょ~とだけ性格が変わってるかもしれないが……そこはほら。」

「……おい。すごく嫌な予感がするんだが。お前何をした。」

 

 と俺は責めているとユエとシアが到着した。全く正反対の雰囲気を纏わせているユエとシアに訝しそうにしつつ、ハジメは話を変えるべく片手を上げて声をかけた。

 

「よっ、二人共。勝負とやらは終わったのか?」

 

二人が何かを賭けて勝負していることは聞き及んでいる。シアのために超重量の大槌を用意したのは他ならぬハジメだ。シアが、真剣な表情で、ユエに勝ちたい、武器が欲しいと頼み込んできたのは記憶に新しい。ユエ自身も特に反対しなかったことから、何を賭けているのかまでは知らなかったし、聞いても教えてもらえなかったが、ユエの不利になることもないだろうと作ってやったのだ。

実際、ハジメは、ユエとシアが戦っても十中八九、ユエが勝つと考えていた。奈落の底でユエの実力は十二分に把握している。いくら魔力の直接操作が出来るといっても今まで平和に浸かってきたシアとは地力が違うのだ。

だがしかし、帰ってきた二人の表情を見るに、どうも自分の予想は外れたようだと内心驚愕するハジメ。そんなハジメにシアが上機嫌で話しかけた。

 

「ハジメさん! ハジメさん! 聞いて下さい! 私、遂にユエさんに勝ちましたよ! 大勝利ですよ! いや~、ハジメさんにもお見せしたかったですよぉ~、私の華麗な戦いぶりを! 負けたと知った時のユエさんたらもへぶっ!?」

 

身振り手振り大はしゃぎという様相で戦いの顛末を語るシア。調子に乗りすぎて、ユエのジャンピングビンタを食らい錐揉みしながら吹き飛びドシャと音を立てて地面に倒れ込んだ。よほど強烈だったのかピクピクとして起き上がる気配がない。

 

「でどうだった?」

「……魔法の適性はハジメと変わらない」

「ありゃま、宝の持ち腐れだな……で? それだけじゃないんだろ? あのレベルの大槌をせがまれたとなると……」

「……ん、身体強化に特化してる。正直、化物レベル」

「……へぇ。俺達と比べると?」

 

ユエの評価に目を細めるハジメ。正直、想像以上の高評価だ。珍しく無表情を崩し苦虫を噛み潰したようなユエの表情が何より雄弁に、その凄まじさを物語る。ユエは、ハジメの質問に少し考える素振りを見せるとハジメに視線を合わせて答えた。

 

「……強化してないハジメの……六割くらい」

「マジか……最大値だよな?」

「ん……でも、鍛錬次第でまだ上がるかも」

「おぉう。そいつは確かに化物レベルだ」

「てか良く考えたらこいつユエの魔法を耐え抜いていたからな。化け物レベルとは思うけど。ユキとならどっちが強い?」

「ユキ。」

 

即答だった。

まぁ、正直俺も最近は限界突破を使わないと避けきれないからなぁ。火力がないのはちょっとネックだけど

 

「……ん〜。」

「あっ。起きたか?」

「おふぁようございましゅ〜。」

「顔洗ってこい。目覚めるぞ。」

「ふぁい。」

 

と寝ぼけ眼をこすりながらユキはとことこと水のある方に向かう

 

「……ユキ懐いてますね。」

「懐いているっていうよりも好いてくれているんだろ?」

「お前そういうの本当に敏感だよな。」

「敏感ってより直感に全て反応するからな。」

「「あぁ。」」

 

ついでに直感は樹海でも作用することが判明し俺は行きたいところに直感で行動することができる

するとシアが動いた

 

「ハジメさん。私をあなたの旅に連れて行って下さい。お願いします!」

「断る」

「即答!?」

 

まさか今の雰囲気で、悩む素振りも見せず即行で断られるとは思っていなかったシアは、驚愕の面持ちで目を見開いた。

 

「ひ、酷いですよ、ハジメさん。こんなに真剣に頼み込んでいるのに、それをあっさり……」

「いや、こんなにって言われても知らんがな。大体、カム達どうすんだよ? まさか、全員連れて行くって意味じゃないだろうな?」

「ち、違いますよ! 今のは私だけの話です! 父様達には修行が始まる前に話をしました。一族の迷惑になるからってだけじゃ認めないけど……その……」

「その? なんだ?」

 

何やら急にモジモジし始めるシア。指先をツンツンしながら頬を染めて上目遣いでハジメをチラチラと見る。あざとい。実にあざとい仕草だ。ハジメが不審者を見る目でシアを見る。傍らのユエがイラッとした表情で横目にシアを睨んでいる。俺は今頃気持ち悪い笑顔をしているのだろう

 

「その……私自身が、付いて行きたいと本気で思っているなら構わないって……」

「はぁ? 何で付いて来たいんだ? 今なら一族の迷惑にもならないだろ?それだけの実力があれば大抵の敵はどうとでもなるだろうし」

「で、ですからぁ、それは、そのぉ……」

「……」

 

 モジモジしたまま中々答えないシアにニヤニヤしてしまう。

 

「ハジメさんの傍に居たいからですぅ! しゅきなのでぇ!」

「……は?」

 

あわあわしているシアを前に、ハジメは鳩が豆鉄砲でも食ったようにポカンとしている。

 

「いやいやいや、おかしいだろ? 一体、どこでフラグなんて立ったんだよ? 自分で言うのも何だが、お前に対してはかなり雑な扱いだったと思うんだが……まさか、そういうのに興奮する口か?」

「誰が変態ですか! そんな趣味ありません! っていうか雑だと自覚があったのならもう少し優しくしてくれてもいいじゃないですか……」

「いや、何でお前に優しくする必要があるんだよ……そもそも本当に好きなのか? 状況に釣られてやしないか?」

 

ハジメは、未だシアの好意が信じられないのか、いわゆる吊り橋効果を疑った。今までのハジメのシアに対する態度は誰がどう見ても雑だったので無理もないかもしれない。だが、自分の気持ちを疑われてシアはすこぶる不機嫌だ。

 

「状況が全く関係ないとは言いません。窮地を何度も救われて、同じ体質で……長老方に啖呵切って私との約束を守ってくれたときは本当に嬉しかったですし……ただ、状況が関係あろうとなかろうと、もうそういう気持ちを持ってしまったんだから仕方ないじゃないですか。私だって時々思いますよ。どうしてこの人なんだろうって。ハジメさん、未だに私のこと名前で呼んでくれないし、何かあると直ぐ撃ってくるし、鬼だし、返事はおざなりだし、魔物の群れに放り投げるし、容赦ないし、鬼だし、優しくしてくれないし、ユエさんばかり贔屓するし、鬼だし……あれ? ホントに何で好きなんだろ? あれぇ~?」

「正論すぎて草が生える。」

 

ついに笑いが堪えきれず笑ってしまう。

 

「と、とにかくだ。お前がどう思っていようと連れて行くつもりはない」

「そんな! さっきのは冗談ですよ? ちゃんと好きですから連れて行って下さい!」

「あのなぁ、お前の気持ちは……まぁ、本当だとして、俺にはユエがいるって分かっているだろう? というか、よく本人目の前にして堂々と告白なんざ出来るよな……前から思っていたが、お前の一番の恐ろしさは身体強化云々より、その図太さなんじゃないか? お前の心臓って絶対アザンチウム製だと思うんだ」

「誰が、世界最高硬度の心臓の持ち主ですか! うぅ~、やっぱりこうなりましたか……ええ、わかってましたよ。ハジメさんのことです。一筋縄ではいかないと思ってました」

 

 突然、フフフと怪しげに笑い出すシアに胡乱な眼差しを向けるハジメ。

正直同感なんだけどなぁ

 

「こんなこともあろうかと! 命懸けで外堀を埋めておいたのです! ささっ、ユエ先生!スバルさん お願いします!」

「は? ユエ?スバル?」

 

ユエは、やはり苦虫を百匹くらい噛み潰したような表情で、心底不本意そうにハジメに告げた。

 

「……………………………………ハジメ、連れて行こう」

「いやいやいや、なにその間。明らかに嫌そう……もしかして勝負の賭けって……」

「……無念」

「まぁ、俺は元々別にいいんだけどな。面白そうだし。それに覚悟を決めて命がけの賭けに勝ったほどの努力をして、その壁を壊したんだ。迷宮でも活躍はできると思うし。それに関わってしまった分見捨てるって選択肢は元々ないんじゃないのか?」

 

ハジメは、ガリガリと頭を掻いた。

 

一度深々と息を吐くとシアとしっかり目を合わせて、一言一言確かめるように言葉を紡ぐ。シアも静かに、言葉に力を込めて返した。

 

「付いて来たって応えてはやれないぞ?」

「知らないんですか? 未来は絶対じゃあないんですよ?」

 

 

「危険だらけの旅だ」

「化物でよかったです。御蔭で貴方について行けます」

 

「俺の望みは故郷に帰ることだ。もう家族とは会えないかもしれないぞ?」

「話し合いました。〝それでも〟です。父様達もわかってくれました」

 

「俺の故郷は、お前には住み難いところだ」

「何度でも言いましょう。〝それでも〟です」

 

 シアの想いは既に示した。そんな〝言葉〟では止まらない。止められない。これはそういう類の気持ちなのだ。

 

「……」

「ふふ、終わりですか? なら、私の勝ちですね?」

「勝ちってなんだ……」

「私の気持ちが勝ったという事です。……ハジメさん」

「……何だ」

 

 もう一度、はっきりと。シア・ハウリアの望みを。

 

「……私も連れて行って下さい」

 

 見つめ合うハジメとシア。ハジメは真意を確認するように蒼穹の瞳を覗き込む。

 

 そして……

 

「………………はぁ~、勝手にしろ。物好きめ」

 

 その瞳に何かを見たのか、やがてハジメは溜息をつきながら事実上の敗北宣言をした。

 

「……よかった。」

 

ユキがうれしそうに姉の勇気を讃える。その頭を俺はゆっくりと撫でた

 

 

「えへへ、うへへへ、くふふふ~」

 

 同行を許されて上機嫌のシアは、奇怪な笑い声を発しながら緩みっぱなしの頬に両手を当ててクネクネと身を捩らせてた。それは、ハジメと問答した時の真剣な表情が嘘のように残念な姿だった。

 

「……キモイ」

 

 見かねたユエがボソリと呟く。シアの優秀なウサミミは、その呟きをしっかりと捉えた。

 

「……ちょっ、キモイって何ですか! キモイって! 嬉しいんだからしょうがないじゃないですかぁ。何せ、ハジメさんの初デレですよ? 見ました? 最後の表情。私、思わず胸がキュンとなりましたよ~、これは私にメロメロになる日も遠くないですねぇ~」

 

 シアは調子に乗っている。それはもう乗りに乗っている。そんなシアに向かってハジメとユエは声を揃えてうんざりしながら呟いた。

 

「「……ウザウサギ」」

「んなっ!? 何ですかウザウサギって! いい加減名前で呼んでくださいよぉ~、旅の仲間ですよぉ~、まさか、この先もまともに名前を呼ぶつもりがないとかじゃあないですよね? ねっ?」

「「……」」

「何で黙るんですかっ? ちょっと、目を逸らさないで下さいぃ~。ほらほらっ、シアですよ、シ・ア。りぴーとあふたみー、シ・ア」

「お姉ちゃんうっさい。」

「……うぐぅ。」

「辛辣だな。」

 

そんな風に騒いでいると(シアだけ)、霧をかき分けて数人のハウリア族が、ハジメに課された課題をクリアしたようで魔物の討伐を証明する部位を片手に戻ってきた。よく見れば、その内の一人はカムだ。

 

シアがさっきのことを報告しようとしたのだろう。しかし話しかける寸前で、発しようとした言葉を呑み込んだ。カム達が発する雰囲気が何だかおかしいことに気がついたからだ。

 

「ボス。お題の魔物、きっちり狩って来やしたぜ?」

「ボ、ボス?と、父様? 何だか口調が……というか雰囲気が……」

 

 父親の言動に戸惑いの声を発するシアをさらりと無視して、カム達は、この樹海に生息する魔物の中でも上位に位置する魔物の牙やら爪やらをバラバラと取り出した。

 

「……俺は一体でいいと言ったと思うんだが……」

 

ハジメの課した訓練卒業の課題はクリアはしていたらしい。だが眼前の剥ぎ取られた魔物の部位を見る限り、優に十体分はある。カム達は不敵な笑みを持って答えた。

 

「ええ、そうなんですがね? 殺っている途中でお仲間がわらわら出てきやして……生意気にも殺意を向けてきやがったので丁重にお出迎えしてやったんですよ。なぁ? みんな?」

「そうなんですよ、ボス。こいつら魔物の分際で生意気な奴らでした」

「きっちり落とし前はつけましたよ。一体たりとも逃してませんぜ?」

「ウザイ奴らだったけど……いい声で鳴いたわね、ふふ」

「見せしめに晒しとけばよかったか……」

「まぁ、バラバラに刻んでやったんだ、それで良しとしとこうぜ?」

「あの、みんな。」

 

ユキの言葉も通らずにただ呆然としてしまう

 

 それを呆然と見ていたシアは一言、

 

「……誰?」


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