「ど、どういうことですか!? ハジメさん! 父様達に一体何がっ!?」
「お、落ち着け! ど、どういうことも何も……訓練の賜物だ……」
「いやいや、何をどうすればこんな有様になるんですかっ!? 完全に別人じゃないですかっ! ちょっと、目を逸らさないで下さい! こっち見て!」
「……別に、大して変わってないだろ?」
「貴方の目は節穴ですかっ! 見て下さい。彼なんて、さっきからナイフを見つめたままウットリしているじゃないですか! あっ、今、ナイフに〝ジュリア〟って呼びかけた! ナイフに名前つけて愛でてますよっ! 普通に怖いですぅ~」
「……みんな。怖い。」
「ユキ?おいしっかりしろ。」
俺も気になってはいたのだがそれでも夢の中に現実逃避を仕掛けているユキを起こすことに専念する
埒があかないと判断したのか、シアの矛先がカム達に向かった。
「父様! みんな! 一体何があったのです!? まるで別人ではないですか! さっきから口を開けば恐ろしいことばかり……正気に戻って下さい!」
縋り付かんばかりのシアにカムは、ギラついた表情を緩め前の温厚そうな表情に戻った。それに少し安心するシア。
しかし現実はそう甘くはなかった
「何を言っているんだ、シア? 私達は正気だ。ただ、この世の真理に目覚めただけさ。ボスのおかげでな」
「し、真理? 何ですか、それは?」
「この世の問題の九割は暴力で解決できる」
「やっぱり別人ですぅ~! 優しかった父様は、もう死んでしまったんですぅ~、うわぁ~ん」
ショックのあまり、泣きべそを掻きながら踵を返し樹海の中に消えていこうとするシア。しかし、霧に紛れる寸前で小さな影とぶつかり「はうぅ」と情けない声を上げながら尻餅地を付いた。
小さな影の方は咄嗟にバランスをとったのか転倒せずに持ちこたえ、倒れたシアに手を差し出した。
「あっ、ありがとうございます」
「いや、気にしないでくれ、シアの姐御。男として当然のことをしたまでさ」
「あ、姐御?」
霧の奥から現れたのは未だ子供と言っていいハウリア族の少年だった。その肩には大型のクロスボウが担がれており、腰には二本のナイフとスリングショットらしき武器が装着されている。随分ニヒルな笑みを見せる少年だった。 そんなシアを尻目に、少年はスタスタとハジメの前まで歩み寄ると、ビシッと惚れ惚れするような敬礼をしてみせた。
「ボス! 手ぶらで失礼します! 報告と上申したいことがあります! 発言の許可を!」
「お、おう? 何だ?」
少年の歴戦の軍人もかくやという雰囲気に、今更ながら、少しやり過ぎたかもしれないと若干どもるハジメ。少年はお構いなしに報告を続ける。
「はっ! 課題の魔物を追跡中、完全武装した熊人族の集団を発見しました。場所は、大樹へのルート。おそらく我々に対する待ち伏せかと愚考します!」
「あ~、やっぱ来たか。即行で来るかと思ったが……なるほど、どうせなら目的を目の前にして叩き潰そうって腹か。なかなかどうして、いい性格してるじゃねぇの。……で?」
「はっ! 宜しければ、奴らの相手は我らハウリアにお任せ願えませんでしょうか!」
「う~ん。カムはどうだ? こいつはこう言ってるけど?」
話を振られたカムは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべると願ってもないと言わんばかりに頷いた。
「お任せ頂けるのなら是非。我らの力、奴らに何処まで通じるか……試してみたく思います。な~に、そうそう無様は見せやしませんよ」
どんな洗脳魔法を使ったんだよっと言いたくなるくらいの変わりように俺すら軽く引いてしまう
族長の言葉に周囲のハウリア族が、全員同じように好戦的な表情を浮かべる。自分の武器の名前を呼んで愛でる奴が心なし増えたような気もする。シアの表情は絶望に染まっていく。
「……出来るんだな?」
「肯定であります!」
最後の確認をするハジメに元気よく返事をしたのは少年だ。ハジメは、一度、瞑目し深呼吸すると、カッと目を見開いた。
「聞け! ハウリア族諸君! 勇猛果敢な戦士諸君! 今日を以て、お前達は糞蛆虫を卒業する! お前達はもう淘汰されるだけの無価値な存在ではない! 力を以て理不尽を粉砕し、知恵を以て敵意を捩じ伏せる! 最高の戦士だ! 私怨に駆られ状況判断も出来ない〝ピッー〟な熊共にそれを教えてやれ! 奴らはもはや唯の踏み台に過ぎん! 唯の〝ピッー〟野郎どもだ! 奴らの屍山血河を築き、その上に証を立ててやれ! 生誕の証だ! ハウリア族が生まれ変わった事をこの樹海の全てに証明してやれ!」
「「「「「「「「「「Sir、yes、sir!!」」」」」」」」」」
「答えろ! 諸君! 最強最高の戦士諸君! お前達の望みはなんだ!」
「「「「「「「「「「殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!」」」」」」」」」」
「お前達の特技は何だ!」
「「「「「「「「「「殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!」」」」」」」」」」
「敵はどうする!」
「「「「「「「「「「殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!」」」」」」」」」」
「そうだ! 殺せ! お前達にはそれが出来る! 自らの手で生存の権利を獲得しろ!」
「「「「「「「「「「Aye、aye、Sir!!」」」」」」」」」
「いい気迫だ! ハウリア族諸君! 俺からの命令は唯一つ! サーチ&デストロイ! 行け!!」
「「「「「「「「「「YAHAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」」」」」」」」」」
「うわぁ~ん、やっぱり私の家族はみんな死んでしまったですぅ~」
ハジメの号令に凄まじい気迫を以て返し、霧の中へ消えていくハウリア族達。温厚で平和的、争いが何より苦手……そんな種族いたっけ? と言わんばかりだ。変わり果てた家族を再度目の当たりにし、崩れ落ちるシアの泣き声が虚しく樹海に木霊する。流石に見かねたのかユエがポンポンとシアの頭を慰めるように撫でている。
そうと関わらず戦場に向かっていくハウリアに軽く舌打ちをするのだった
「ほらほらほら! 気合入れろや! 刻んじまうぞぉ!」
「アハハハハハ、豚のように悲鳴を上げなさい!」
「汚物は消毒だぁ! ヒャハハハハッハ!」
ハウリア族の哄笑が響き渡り、致命の斬撃が無数に振るわれる。そこには温和で平和的、争いが何より苦手な兎人族の面影は皆無だった。必死に応戦する熊人族達は動揺もあらわに叫び返した。
「ちくしょう! 何なんだよ! 誰だよ、お前等!!」
「こんなの兎人族じゃないだろっ!」
「うわぁああ! 来るなっ! 来るなぁあ!」
「なんか言うことはないか?ハジメ。」
俺はジト目でハジメを見る。俺たちは木の上でハウリアと熊人族との戦いをみていた
俺はとあることをハジメに説教をした後に実際にその戦いの姿を見させることが一番効くことだと思い戦場に出ていた
「……悪かったよ。」
「……容赦ないですね。」
叱った内容が内容なので俺はため息を吐く
「当たり前だ。畜生道に落ちさせるためにハウリアをハジメに任せたわけがない。確かに強くなりたいと願った。でもいきなり強さを与えたら暴走することをハジメは知っているはずだ。この世界に召喚された時にハジメは才能がなくてイジメられていたんだから。」
「……あぁ。」
「その話本当だったんですね。」
「強いものも最初から強いことはありえない。」
俺はそういうと全員がこっちを見る
「最初は全員弱いんだよ。それが夢や気持ち願望がある。強くなりたいって気持ちと才能があればいくらでも強くなることはできる。それをシアが証明しただろ?」
「でも、才能は必要なんだよな?」
「魔物を食わない限りはな。才能がなければそりゃ意味ないだろうし。」
厳しいだろうが事実だ
「才能があるからハウリアも勝機があった。それを理解していたからハジメはこの戦法を選んだわけだしな。ただ戦わないからこうなる。ハウリアは昔のハジメみたいだから余計にイラってきているんだろ。」
「ハジメさんがですか?」
「あぁ。こいつ元々小さい頃から、人と争う、誰かに敵意や悪意を持つということがどうにも苦手だったから、誰かと喧嘩しそうになったときはいつも自分が折れていたんだよ。自分が我慢すれば話はそこで終わり。喧嘩するよりずっといいって。」
すると三人とも驚いてハジメの方をみる
「……お前は昔の俺の方がよかったのか?」
「それは時と場合によるだろ。ただ俺はハジメの間違っていると思ったら指摘するし。合っていると思ったら賛同する。性格が変わろうが見た目が変わろうが俺にとってはハジメは親友だ。それは今も昔も変わらないさ。」
「……お前な。よくそんな恥ずかしいセリフ言えるよな。」
「別にいいだろ。見知った仲なんだし。それでどうするの?俺は目が覚ます為にはユキかシアが止めるべきだと思うけど。」
俺はそういうとユキとシアが頷く
「もちろん。そうするよ。」
「はい。」
というとシアが巨大な鉄槌と共に天より降ってきた挙句、地面に槌を叩きつけ、その際に発生した衝撃波で飛んでくる矢や石をまとめて吹き飛ばした
「……お前どんな武器をあいつに持たせているんだよ。」
「他にも木を引き抜いて私に投げてきたりした。」
「……うわぁ。」
さすがに少し戦い方に引いてしまう
「もうっ! ホントにもうっですよ! 父様も皆も、いい加減正気に戻って下さい!」
そんなシアに、最初は驚愕で硬直していたカム達だが、ハッと我を取り戻すと責めるような眼差しを向けた。
「シア、何のつもりか知らんが、そこを退きなさい。後ろの奴等を殺せないだろう?」
「いいえ、退きません。これ以上はダメです!」
シアの言葉に、カム達の目が細められる。
「ダメ? まさかシア、我らの敵に与するつもりか? 返答によっては……」
「いえ、この人達は別に死んでも構わないです」
「「「「いいのかよっ!?」」」」
「いいに決まっているだろう?殺意を向けて来る相手に手心を加えるなんて心構えでは、スバルさんの特訓には耐えられないからね。それにボクは子供の時に甘い考えは全部捨てたよ」
するとユキが他のハウリア族を全て捕縛し帰ってくる
「……そういえばユキの火を纏っていたのは?」
「付加魔法だった。勇者パーティーの時に見覚えがあったしな。だから攻撃魔法ではなく遊撃って形の中衛型だな。俺が持っている武器にもエンチャできたくらいだから。」
「……アーティファクトに付加できる付加師かよ。」
すげぇなとハジメが呟く。勇者くらいしかアーティファクトにパフを付与できる奴はいなかったしな
「そんなの決まってます! 父様達が、壊れてしまうからです! 堕ちてしまうからです!」
「壊れる? 堕ちる?」
訳がわからないという表情のカムにシアは言葉を重ねる。
「そうです! 思い出して下さい。ハジメさんは敵に容赦しませんし、問答無用だし、無慈悲ではありますが、魔物でも人でも殺しを楽しんだことはなかったはずです! 訓練でも、敵は殺せと言われても楽しめとは言われなかったはずです!」
「い、いや、我らは楽しんでなど……」
「今、パパ達がどんな顔しているかわかるかい?」
「顔? いや、どんなと言われても……」
ユキの言葉に、周囲の仲間と顔を見合わせるハウリア族。ユキは、ひと呼吸置くと静かな、しかし、よく通る声ではっきりと告げた。
「……まるで、ぼく達を襲ってきた帝国兵みたいだよ。」
「ッ!?」
すると全員が頭をガツンと叩かれたようにしている
そして目線にはこの隙逃げようとしている熊人族がいたので
「どこに行こうとしてんだ?」
俺は俊敏任せに先回りをし剣を下に突き刺す。
「話が終わるまで正座しとけ。お前らは負けたんだから。敗者が敗者らしく捕虜になってもらうぞ。」
「クソ。人間どもが!!」
すると一人の熊人族が俺に向かって殺気を向ける
「スバルさん。」
俺は静かに息を吐き刀を抜刀し一瞬で首を刈り取る。
「悪いけど俺はハジメみたいに手加減できないからな。」
殺気を漏らした以上は殺すことが前提だ。
すると剣筋が見えなかったのだろう明らかに動揺している。逃げ出そうと油断なく周囲の様子を確認している熊人族に、霧から出たハジメは〝威圧〟を仕掛けて黙らせた。ガクブルしている彼等を尻目に、シア達の方へ歩み寄るハジメとユエ。俺もそっちへと向かう
ハジメはカム達を見ると、若干、気まずそうに視線を彷徨わせ、しかし直ぐに観念したようにカム達に向き合うと謝罪の言葉を口にした。
「あ~、まぁ、何だ、悪かったな。自分が平気だったもんで、すっかり殺人の衝撃ってのを失念してた。俺のミスだ。うん、ホントすまん」
ポカンと口を開けて目を点にするシアとカム達。まさか素直に謝罪の言葉を口にするとは予想外にも程があったのだろう
「ボ、ボス!? 正気ですか!? 頭打ったんじゃ!?」
「メディーック! メディーーク! 重傷者一名!」
「ボス! しっかりして下さい!」
「お前日頃の態度見直せよ。」
この反応に俺は呆れたようにしてしまう
ハジメは、取り敢えずこの件は脇に置いておいて、一人の熊人族のもとへ歩み寄ると、その額にドンナーの銃口をゴリッと押し当てた。
「さて、潔く死ぬのと、生き恥晒しても生き残るのとどっちがいい?」
あぁ俺は何を言いたいのか分かったため頭を抑える
やろうとしていること完全にやくざじゃねーか。
「……どういう意味だ。我らを生かして帰すというのか?」
「ああ、望むなら帰っていいぞ? 但し、条件があるがな」
「条件?」
あっさり帰っていいと言われ、レギンのみならず周囲の者達が一斉にざわめく。後ろで「頭を殴れば未だ間に合うのでは……」とシアが割かしマジな表情で自分の大槌とハジメの頭部を交互に見やり、カム達が賛同している声が聞こえる。
そろそろ、マジで止めるべきだろうと思ったけどユキがこっそりこっちにきたので俺は放っておくことにした
「ああ、条件だ。フェアベルゲンに帰ったら長老衆にこう言え」
「……伝言か?」
条件と言われて何を言われるのかと戦々恐々としていたのに、ただのメッセンジャーだったことに拍子抜けするレギン。しかし、言伝の内容に凍りついた。
「〝貸一つ〟」
「……ッ!? それはっ!」
「で? どうする? 引き受けるか?」
「悪いけどお前らの自業自得だ。あんたの部下の死の責任はあんた自身にあることもしっかり周知しておけ。ハウリアに惨敗した事実と一緒にな。早く決めないんなら5秒ごとに一人ずつ殺していくからな。」
そう言ってイーチ、ニーと数え始めると熊人族は慌ててしかし意を決して返答する。
「わ、わかった。我らは帰還を望む!」
「そうかい。じゃあ、さっさと帰れ。伝言はしっかりな。もし、取立てに行ったとき惚けでもしたら……」
ハジメの全身から、強烈な殺意が溢れ出す。もはや物理的な圧力すら伴っていそうだ。ゴクッと生唾を飲む音がやけに鮮明に響く。
「その日がフェアベルゲンの最後だと思え」
後ろから、「あぁ~よかった。何時ものハジメさんですぅ」とか「ボスが正気に戻られたぞ!」とか妙に安堵の混じった声が聞こえるが、取り敢えずハジメに任せよう。
霧の向こうへ熊人族達が消えていった。それを見届けると
「ユキ悪い。」
「へ?」
俺はユキを持ち上げると念話石でハジメに一言入れる
『ユキは何もしてなかったから先に大樹に向かっておく。思いっきりヤレ。』
『サンキュー。』
その後俺は顔を真っ赤にしたユキを連れ先に大樹に向かうと後ろから大きな悲鳴が聞こえてきたのは何も聞かなかったことにしよう。