黒の剣士に憧れし者 連載中止   作:孤独なバカ

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ブルッグにて1

遠くに町が見える。周囲を堀と柵で囲まれた小規模な町だ。街道に面した場所に木製の門があり、その傍には小屋もある。おそらく門番の詰所だろう。小規模といっても、門番を配置する程度の規模はあるようだ。それなりに、充実した買い物が出来そうだ

 

「……機嫌がいいのなら、いい加減、この首輪取ってくれませんか?」

 

 街の方を見て微笑むハジメに、シアが憮然とした様子で頼み込む。シアの首にはめられている黒を基調とした首輪は、小さな水晶のようなものも目立たないが付けられている、かなりしっかりした作りのもので、シアの失言の罰としてハジメが無理やり取り付けたものだ。何故か外れないため、シアが外してくれるよう頼んでいるのだがハジメはスルーしている。

まぁさすがに魔物を食べるクレデターって聞いたらさすがにきれるよな

 

「あれ?ボクはつけなくていいの?」

 

どうやら本当の理由に気づいているユキは首を傾げる

 

「あぁ。俺名義でなんとでもなるから大丈夫だな。」

「……?」

 

そろそろ、町の方からもハ視認できそうなので、魔力駆動二輪を〝宝物庫〟にしまい、徒歩に切り替える。流石に、漆黒のバイクで乗り付けては大騒ぎになるだろう。もちろんステータスも隠蔽済みだ。

道中、シアがブチブチと文句を垂れていたが、やはりスルーして遂に町の門までたどり着いた。案の定、門の脇の小屋は門番の詰所だったらしく、武装した男が出てきた。格好は、革鎧に長剣を腰に身につけているだけで、兵士というより冒険者に見える。その冒険者風の男がハジメ達を呼び止めた。

 

「止まってくれ。ステータスプレートを。あと、町に来た目的は?」

 

 規定通りの質問なのだろう。どことなくやる気なさげである。ハジメは、門番の質問に答えながらステータスプレートを取り出した。その隙に俺はユキと手を繋ぐ。するとえっって小さく呟くユキに軽く合図をする

 

「食料の補給がメインだ。旅の途中でな」

「ふ〜ん。」

 

門番がユエとシアとユキにもステータスプレートの提出を求めようとして、二人に視線を向ける。そして硬直した。みるみると顔を真っ赤に染め上げると、ボーと焦点の合わない目でユエとシアを交互に見ている。ユエは言わずもがな、精巧なビスクドールと見紛う程の美少女だ。そして、シアも喋らなければ神秘性溢れる美少女である。ユキも二人ほどではないが元々美人の枠に入る。ってつまり、門番の男は3人に見惚れて正気を失っているのだ。

 

ハジメがわざとらしく咳払いをする。それにハッとなって慌てて視線をハジメに戻す門番。

 

「さっき言った魔物の襲撃のせいでな、こっちの子のは失くしちまったんだ。こっちの兎人族は……わかるだろ?」

「そっちの兎人族は?」

「同じくといいたいけど。多分裏の奴隷商。檻の中に入れられていたんだよ。そこを助けたってわけ。これでも緑だし。」

 

俺はギルドカードを見せると驚いたようにしている

 

「……なるほど。んで奴隷として売りに来たのか?」

「いや?普通に家事ができるから手伝いとして雇おうと思ってな。」

「ほう。珍しいな。」

 

亜人族の場合ふた通りの扱いがある

一つ目は奴隷として扱うこと。

そして二つ目。それも冒険者の少数にいることだが冒険者のパートナーとして連れていくことだ。

 

「俺の家は元々獣人差別はなしの家で育ったからな。家で普通の獣人が働くとかよくあったぞ。」

「……なるほどな。冒険者の毛筋なら仕方ないか。」

「そういうことだ。」

「まぁいい。通っていいぞ」

「ああ、どうも。おっと、そうだ。素材の換金場所って何処にある?」

「あん? それなら、中央の道を真っ直ぐ行けば冒険者ギルドがある。店に直接持ち込むなら、ギルドで場所を聞け。簡単な町の地図をくれるから」

「おぉ、そいつは親切だな。ありがとよ」

 

 門番から情報を得て、ハジメ達は門をくぐり町へと入っていく。門のところで確認したがこの町の名前はブルックというらしい。町中は、それなりに活気があった。かつて見たオルクス近郊の町ホルアドほどではないが露店も結構出ており、呼び込みの声や、白熱した値切り交渉の喧騒が聞こえてくる。

 

「お前よくそんな情報知っていたな。」

 

ハジメが驚いたようにしているが

 

「俺は剣さえあれば戦えるからな。王都にいる時から夜中王宮から抜け出して冒険者ギルドで依頼を受けていたんだよ。」

「……お前。」

「夜は警備かなり薄いからな。侵入経路も確立してたし。」

 

ジト目で見るハジメにシアが涙目でこちらを見てくる

 

「どうしたんだ? せっかくの町なのに、そんな上から超重量の岩盤を落とされて必死に支えるゴリラ型の魔物みたいな顔して」

「誰がゴリラですかっ! ていうかどんな倒し方しているんですか! ハジメさんなら一撃でしょうに! 何か想像するだけで可哀想じゃないですか!」

「……脇とかツンツンしてやったら涙目になってた」

「まさかの追い討ち!? 酷すぎる! ってそうじゃないですぅ!」

「最終的に肉だけ取るために三枚下ろしにおろしたからな。」

「酷すぎますよ!!」

 

怒って、ツッコミを入れてと大忙しのシア。手をばたつかせて体全体で「私、不満ですぅ!」と訴えている。

 

「これです! この首輪! これのせいで奴隷と勘違いされたじゃないですか! ハジメさん、わかっていて付けたんですね! うぅ、酷いですよぉ~、私達、仲間じゃなかったんですかぁ~」

「あのなぁ、奴隷でもない亜人族、それも愛玩用として人気の高い兎人族が普通に町を歩けるわけないだろう? まして、お前は白髪の兎人族で物珍しい上、容姿もスタイルも抜群。断言するが、誰かの奴隷だと示してなかったら、町に入って十分も経たず目をつけられるぞ。後は、絶え間無い人攫いの嵐だろうよ。面倒……ってなにクネクネしてるんだ?」

 

話を聞いている内に照れたように頬を赤らめイヤンイヤンし始めた。ユエが冷めた表情でシアを見ている。ユキは頭を抱えている

 

「も、もう、ハジメさん。こんな公衆の面前で、いきなり何言い出すんですかぁ。そんな、容姿もスタイルも性格も抜群で、世界一可愛くて魅力的だなんてぇ、もうっ! 恥かしいでっぶげら!?」

「すみません。お姉ちゃんがこんなんで。」

「お前シアに容赦ないんだな。」

 

顔めがけて膝打ちとかかなりえげつないんだが

 

「あっ。それとユキ。」

 

俺は小さな宝石が複数埋め込まれているチョウカーを渡す。

 

「一応念話石と特定石が組み込んであるから、必要なら使え。直接魔力を注いでやれば使えるから」

「念話石と特定石か?」

「あぁ。さすがに奴隷扱いするのは嫌だったからな。アクセサリーとしてハジメに作ってもらったんだよ。」

 

これは実際俺のわがままといえる

 

「……せっかくだし普通の女の子としてこの街を見てこい。もし連れ出されたりしたらそいつらを潰しに行くから。」

「っ!!」

 

すると涙を目に貯めるユキ。カムから聞く機会があってよかったよ

ユキはまるで男のように育ってきたらしい。

誰にも知らないで魔物を狩ったり長老として育てるべく英才教育を受けている。

だから口調も自然男口調になるのは当たり前だったのだが

女性としておしゃれや幻想的な物語に憧れたらしい

本当にどこぞの剣士みたいだなっと思ってしまう

 

「……む〜今違う女のこと考えなかったかい?」

「……」

 

少し怖いんだけど事実なので黙り込む

 

「そういやまず金だよなぁ?少しは持っているけどそんなに俺持ってないぞ?」

「樹海か奈落のやつを売ればいいだろ?」

「……それもそうだな。」

 

そんな風に仲良く? メインストリートを歩いていき、一本の大剣が描かれた看板を発見する。かつてホルアドの町でも見た冒険者ギルドの看板だ。規模は、ホルアドに比べて二回りほど小さい。

俺たちは看板を確認すると重厚そうな扉を開き中に踏み込んだ。

 

 

ここの冒険者ギルドはおとなしいな

王都の冒険者ギルドが荒くれ者達の場所というイメージだったので意外に清潔さが保たれた場所に少し驚いてしまう。俺たちが入ると冒険者達が当然のように注目してくる。最初こそ、見慣れない5人組ということでささやかな注意を引いたに過ぎなかったが、彼等の視線がユエとシアとユキに向くと、途端に瞳の奥の好奇心が増した。

 

カウンターには笑顔を浮かべたオバチャンがいた。恰幅がいい。横幅がユエ二人分はある。どうやら美人の受付というのは幻想のようだ。地球の本職のメイドがオバチャンばかりという現実と同じだ。ハジメは別に、美人の受付なんて期待していたのでまだ足りないのかと冷たい視線を送る。

 

「両手に花を持っているのに、まだ足りなかったのかい? 残念だったね、美人の受付じゃなくて」

 

 ……オバチャンは読心術の固有魔法が使えるのかもしれない。ハジメは頬を引き攣らせながら何とか返答する。

 

「いや、そんなこと考えてないから」

「あはははは、女の勘を舐めちゃいけないよ? 男の単純な中身なんて簡単にわかっちまうんだからね。あんまり余所見ばっかして愛想尽かされないようにね?」

「……肝に銘じておこう」

「資材の売却とそこのハジメのギルドの登録を頼む。」

 

俺は千ルタを宝物庫から取り出しおばちゃんに渡す

 

「……ギルドに登録するといいことがあるのか?」

「買収が1割高くなったりギルドと提携している宿や店は一~二割程度は割り引いてくれる。移動馬車を利用するときも高ランクなら無料で使えたりするから登録はしといた方がいい。樹海くらいソロで行動できる腕前があるんならな。」

 

俺はそういって樹海で獲った物を差し出す

 

「これ買収頼む。」

「ほお。とんでもないね。確かお前さんは緑だろ?」

「元々旅人だからな。上に上がれば指定依頼とかも嵩むし自由気楽にしているってことだ。実力的には金はあることを自負しているぞ。」

 

女性陣やハジメからのジト目が刺さる。嘘は言っていないから大丈夫だ

 

「やっぱり珍しいか?」

「そりゃあねぇ。樹海の中じゃあ、人間族は感覚を狂わされるし、一度迷えば二度と出てこれないからハイリスク。好き好んで入る人はいないねぇ。亜人の奴隷持ちが金稼ぎに入るけど、売るならもっと中央で売るさ。幾分か高く売れるし、名も上がりやすいからね」

 

それからオバチャンは、全ての素材を査定し金額を提示した。買取額は二人合わせて八十八万七千ルタ。かなりの額だ。

 

「ところで、門番の彼に、この町の簡易な地図を貰えると聞いたんだが……」

「ああ、ちょっと待っといで……ほら、これだよ。おすすめの宿や店も書いてあるから参考にしなさいな」

 

手渡された地図は、中々に精巧で有用な情報が簡潔に記載された素晴らしい出来だった。

 

「もしかして書記持ちですか?」

「おや鋭いねぇ。」

「地図を書く時には有能ですからね。でも戦闘能力もちの書記はなかなかいないですしね。」

 

こういう時は何も聞かないのがギルドの鉄則だ。

 

「そうか。まぁ、助かるよ」

「いいってことさ。それより、金はあるんだから、少しはいいところに泊りなよ。治安が悪いわけじゃあないけど、その三人ならそんなの関係なく暴走する男連中が出そうだからね」

 

オバチャンは最後までいい人で気配り上手だった。ハジメは苦笑いしながら「そうするよ」と返事をし、入口に向かって踵を返した。ユエとシア、ユキも頭を下げて追従する。食事処の冒険者の何人かがコソコソと話し合いながら、最後まで女性陣を目で追っていた。

 

 

 

もはや地図というよりガイドブックと称すべきそれを見て決めたのは〝マサカの宿〟という宿屋だ。紹介文によれば、料理が美味く防犯もしっかりしており、何より風呂に入れるという。最後が決め手だ。その分少し割高だが、金はあるので問題ない。

宿の中は一階が食堂になっているようで複数の人間が食事をとっていた。ハジメ達が入ると、お約束のようにユエとシアに視線が集まる。それらを無視して、カウンターらしき場所に行くと、十五歳くらい女の子が元気よく挨拶しながら現れた。

 

「いらっしゃいませー、ようこそ〝マサカの宿〟へ! 本日はお泊りですか? それともお食事だけですか?」

「宿泊だ。このガイドブック見て来たんだが、記載されている通りでいいか?」

 

 ハジメが見せたオバチャン特製地図を見て合点がいったように頷く女の子。

 

「ああ、キャサリンさんの紹介ですね。はい、書いてある通りですよ。何泊のご予定ですか?」

「一泊でいい。食事付きで、あと風呂も頼む」

「はい。お風呂は十五分百ルタです。今のところ、この時間帯が空いてますが。」

「この時間帯で2時間でいいか?」

 

俺がいうと全員が頷く。「えっ、二時間も!?」と驚かれたが、日本人としては譲れないところだ。

 

「え、え~と、それでお部屋はどうされますか? 二人部屋と三人部屋が空いてますが……」

「二人部屋と三人部屋一部屋ずつ。」

「……ダメ。二人部屋3つで」

 

するとそんなことを言い出す

 

「……私とハジメ、ユキとスバルで一部屋。シアは別室」

「ちょっ、何でですか! 私だけ仲間はずれとか嫌ですよぉ! 三人部屋でいいじゃないですかっ!」

「俺もシアは勘弁だけど男女別でいいんじゃねーのか?」

 

俺は最初からそう頼んでいたのだが

 

猛然と抗議するシアに、ユエはさらりと言ってのけた。

 

「……シアがいると気が散る」

「気が散るって……何かするつもりなんですか?」

「……何って……ナニ?」

「ぶっ!? ちょっ、こんなとこで何言ってるんですか! お下品ですよ!」

「……ボクは部屋割りあまり気にしないけどさっさと決めてくれないかな?少し街をスバルさんと見て回りたいんだ。」

「まぁ。俺は買い出しいくし料理の材料を買いに行くから別にいいんだけどな。」

「……お前が抜けるとストッパーいないんだが。」

「お前に惚れている女くらい自分で何とかしろよ。」

 

と俺はため息を吐く。それで妥協点としてユキと俺、ハジメとユエとシアの部屋にすることによって何とか落ち着いたんだが

……この言葉を俺は死ぬほど後悔することになるとは思いもしなかった


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