ライセンの迷宮に入ってから今日でちょうど一週間がたった。その間も数々のトラップとウザイ文に体よりも精神を削られ続けた。
食料は潤沢にあるし、身体スペック的に早々死にはしないのが不幸中の幸いだ。休息を取りながら少しずつ探索を進めている。その結果、どうやら構造変化には一定のパターンがあることがわかった。空間把握とマーキングを利用して、どのブロックがどの位置に移動したのかを確かめていったのだ。
そして、俺達は、一週間前に訪れてから一度も遭遇することのなかった部屋に出くわした。最初にスタート地点に戻してハジメ達を天元突破な怒りを覚えさせてくれたゴーレム騎士の部屋だ。ただし、今度は封印の扉は最初から開いており、向こう側は部屋ではなく大きな空間がある
「ここか……また包囲されても面倒だ。扉は開いてるんだし一気に行くぞ!」
「んっ!」
「はいです!」
「了解。」
「分かったよ。」
ゴーレム騎士の部屋に一気に踏み込んだ。部屋の中央に差し掛かると、案の定、ガシャンガシャンと音を立ててゴーレム騎士達が両サイドの窪みから飛び出してくる。出鼻を抉いて前方のゴーレム騎士達を銃撃し蹴散らしておく。そうやって稼いだ時間で、俺達は更に加速し包囲される前に祭壇の傍まで到達した。ゴーレム騎士達が猛然と追いかけるが、間に合いそうにない
しかし、今までとは違いゴーレム達はも扉をくぐって追いかけてきたからだ。しかも……
「なっ!? 天井を走ってるだと!?」
「……びっくり」
「重力さん仕事してくださぁ~い!」
「すげぇ。やってみたい!!」
「……ぼくも。」
追いかけてきたゴーレム騎士達は、まるで重力など知らんとばかり壁やら天井やらをガシャンガシャンと重そうな全身甲冑の音を響かせながら走っているのである。
「どうなってやがるんだ?」
「神代魔法だろうな。重力か空気を操る魔法だろう。でもすげえな。」
「何がだ?」
「一歩間違えればどっちにしろゴーレムごと多分ぶっ壊れるはずなのに綺麗に保っている。よほどの使い手じゃないとこの迷宮が成り立たないってことだ。」
俺の言葉にユエも頷く。同じことを思っていたらしい。
猛烈な勢いで迫ってきたゴーレム騎士の頭部、胴体、大剣、盾を屈んだり跳躍したりして躱していく。通り過ぎたゴーレム騎士の残骸は、そのまま勢いを減じることなく壁や天井、床に激突しながら前方へと転がっていった。
「おいおい、あれじゃまるで……」
「ん……〝落ちた〟みたい」
「重力さんが適当な仕事してるのですね、わかります」
「……そんな事言っている暇ないだろ。これ囲まれるぞ。」
ハジメ曰く俺は見てないが再構築できるらしい。
「ハジメ使っていいか?」
「あぁ。全員耳塞げ。」
俺が宝物庫から十二連式の回転弾倉が取り付けられた長方形型のロケット&ミサイルランチャー:オルカンでを取り出す。ロケット弾は長さ三十センチ近くあり、その分破壊力は通常の手榴弾より高くなっている。弾頭には生成魔法で〝纏雷〟を付与した鉱石が設置されており、この石は常に静電気を帯びているので、着弾時弾頭が破壊されることで燃焼粉に着火する仕組みらしい。
「ん」
「えぇ~何ですかそれ!?」
バシュウウ!
そんな音と共に、後方に火花の尾を引きながらロケット弾が発射され、狙い違わず隊列を組んで待ち構えるゴーレム騎士に直撃した。
次の瞬間、轟音、そして大爆発が発生する。通路全体を激震させながら大量に圧縮された燃焼粉が凄絶な衝撃を撒き散らした。ゴーレム騎士達は、直撃を受けた場所を中心に両サイドの壁や天井に激しく叩きつけられ、原型をとどめないほどに破壊されている。再構築にもしばらく時間がかかるだろう。
一気にゴーレム騎士達の残骸を飛び越えて行く。
「ウサミミがぁ~、私のウサミミがぁ~!!」
ハジメ達と併走しながら、ウサミミをペタンと折りたたみ両手で押さえながら涙目になって悶えているシア。兎人族……それは亜人族で一番聴覚に優れた種族であるからこそ一番辛いのでしょう
「だから、耳を塞げって言っただろうが」
「ええ? 何ですか? 聞こえないですよぉ」
「……気が抜ける。」
「……ホント、残念ウサギ……」
「お姉ちゃんは昔からこうでしたから。」
呆れたようにしているユキ。ユキはしっかりと防いだらしい
「全員飛ぶぞ。」
ハジメの掛け声に頷く背後からは依然、ゴーレム騎士達が落下してくる。それらを迎撃し、躱しながら俺達は通路端から勢いよく飛び出した。
身体強化されたハジメ達の跳躍力はオリンピック選手のそれを遥かに凌ぐ。世界記録を軽々と超えてハジメ達は眼下の正方形に飛び移ろうとした。
が、思った通りにいかないのがこの大迷宮の特徴。何と、放物線を描いて跳んだハジメ達の目の前で正方形のブロックがスィーと移動し始めたのだ。
「なにぃ!?」
「空力。」
俺は全員の足元に足場を作ると一気に魔力が抜かれる。
「もう一度飛ぶよ。」
ユキの声に全員がもう一度ジャンプをする
未だに離れていこうとするブロックに追いつき何とか端に手を掛けてしがみつくことに成功した
「ナイスだ。スバルとユキ。」
「……流石。」
「魔力結構抜かれたけどな。」
「スバルさん回復薬。」
俺はユキから受け取りそれを飲みほすと俺は魔力を引かれる
「全員避けろ。」
すると怒涛もないくらいにゴーレム達が押し寄せ戦闘に入る。そして何度か繰り返し
「くそっ、こいつら、重力操作かなんか知らんが動きがどんどん巧みになってきてるぞ」
「……たぶん、原因はここ?」
「あはは、常識って何でしょうね。全部浮いてますよ?」
シアの言う通り、周囲の全ては浮遊していた。
俺達が入ったこの場所は超巨大な球状の空間だった。直径二キロメートル以上ありそうである。そんな空間には、様々な形、大きさの鉱石で出来たブロックが浮遊してスィーと不規則に移動をしているのだ。完全に重力を無視した空間である。だが、不思議なことにハジメ達はしっかりと重力を感じている。おそらく、この部屋の特定の物質だけが重力の制限を受けないのだろう。
「ここに、ゴーレムを操っているヤツがいるな。」
ハジメの推測に俺たちも賛同するように表情を引き締めた。ゴーレム騎士達は何故か、ハジメ達の周囲を旋回するだけで襲っては来ない。取り敢えず、何処かに横道でもないかと周囲を見渡す。ここが終着点なのか、まだ続きがあるのか分からない。だが、間違いなく深奥に近い場所ではあるはずだ。ゴーレム騎士達の能力上昇と、この特異な空間がその推測に説得力を持たせる。
次の瞬間、シアの焦燥に満ちた声が響く。
「逃げてぇ!」
「「!?」」
俺はとっさに飛び退いた。運良く、ちょうど数メートル先に他のブロックが通りかかったので、それを目指して現在立っているブロックを離脱する。
直後、
ズゥガガガン!!
隕石が落下してきたのかと錯覚するような衝撃が今の今までいたブロックを直撃し木っ端微塵に爆砕した。隕石というのはあながち間違った表現ではないだろう。赤熱化する巨大な何かが落下してきて、ブロックを破壊すると勢いそのままに通り過ぎていったのだ
「……うわぁ。殺意高。」
感知出来なかったわけではなかった。シアが警告をした直後、確かに気配を感じた。だが、落下速度が早すぎて感知してからの回避が間に合ったとは思えなかったのである。
「シア、助かったぜ。ありがとよ」
「……ん、お手柄」
「えへへ、〝未来視〟が発動して良かったです。代わりに魔力をごっそり持って行かれましたけど……」
「生きていただけマシだよ。本当に死んだと思った。」
俺たちは冷や汗を垂れると改めて戦慄を感じながら、俺は通過していった隕石モドキの方を見やった。ブロックの淵から下を覗く。と、下の方で何かが動いたかと思うと猛烈な勢いで上昇してきた。
「おいおい、マジかよ」
「……すごく……大きい」
「お、親玉って感じですね」
「ボスだな。気を引き締めろよ。」
目の前に現れたのは、宙に浮く超巨大なゴーレム騎士だった。全身甲冑はそのままだが、全長が二十メートル弱はある。右手はヒートナックルとでも言うのか赤熱化しており、先ほどブロックを爆砕したのはこれが原因かもしれない。左手には鎖がジャラジャラと巻きついていて、フレイル型のモーニングスターを装備している。
巨体ゴーレムに身構えていると、周囲のゴーレム騎士達がヒュンヒュンと音を立てながら飛来し、ハジメ達の周囲を囲むように並びだした。整列したゴーレム騎士達は胸の前で大剣を立てて構える。まるで王を前にして敬礼しているようだ。緊張感が高まる。辺りに静寂が満ち、まさに一触即発の状況。そんな張り詰めた空気を破ったのは……
「やほ~、はじめまして~、みんな大好きミレディ・ライセンだよぉ~」
「「「「「……は?」」」」」
そんなゴーレムのふざけた挨拶だった