凶悪な装備と全身甲冑に身を固めた眼光鋭い巨体ゴーレムから、やたらと軽い挨拶をされた。頭がどうにかなる前に現実逃避しそうだった。俺以外も、包囲されているということも忘れてポカンと口を開けている。
そんな硬直する俺たちに、巨体ゴーレムは不機嫌そうな声を出した。声質は女性のものだ。
「あのねぇ~、挨拶したんだから何か返そうよ。最低限の礼儀だよ? 全く、これだから最近の若者は……もっと常識的になりたまえよ」
「いや……まぁいいや。」
突っ込むのもなんだし俺は少し苦笑する
「そいつは、悪かったな。だが、ミレディ・ライセンは人間で故人のはずだろ? まして、自我を持つゴーレム何て聞いたことないんでな……目論見通り驚いてやったんだから許せ。そして、お前が何者か説明しろ。簡潔にな」
「あれぇ~、こんな状況なのに物凄く偉そうなんですけど、こいつぅ」
「まぁ。これくらいのミニゴーレムくらいなら何とかなるしな。」
実際蹴散らせる実力はもっているしな
「ん~? ミレディさんは初めからゴーレムさんですよぉ~何を持って人間だなんて……」
「オスカーの手記にお前のことも少し書いてあった。きちんと人間の女として出てきてたぞ? というか阿呆な問答をする気はない。簡潔にと言っただろう。どうせ立ち塞がる気なんだろうから、やることは変わらん。お前をスクラップにして先に進む。だから、その前にガタガタ騒いでないで、吐くもん吐け」
「お、おおう。久しぶりの会話に内心、狂喜乱舞している私に何たる言い様。っていうかオスカーって言った? もしかして、オーちゃんの迷宮の攻略者?」
「ああ、オスカー・オルクスの迷宮なら攻略した。というか質問しているのはこちらだ。答える気がないなら、戦闘に入るぞ? 別にどうしても知りたい事ってわけじゃない。俺達の目的は神代魔法だけだからな」
ハジメがドンナーを巨体ゴーレムに向ける。ユエはすまし顔だが、俺、ユキ、シアの方は「うわ~、ブレないなぁ~」と感心半分呆れ半分でハジメを見ていた。
「……神代魔法ねぇ、それってやっぱり、神殺しのためかな? あのクソ野郎共を滅殺してくれるのかな? オーちゃんの迷宮攻略者なら事情は理解してるよね?」
「質問しているのはこちらだと言ったはずだ。答えて欲しけりゃ、先にこちらの質問に答えろ」
「こいつぅ~ホントに偉そうだなぁ~、まぁ、いいけどぉ~、えっと何だっけ……ああ、私の正体だったね。うぅ~ん」
「簡潔にな。オスカーみたいにダラダラした説明はいらないぞ」
「あはは、確かに、オーちゃんは話が長かったねぇ~、理屈屋だったしねぇ~」
巨体ゴーレムは懐かしんでいるのか遠い目をするかのように天を仰いだ。本当に人間臭い動きをするゴーレムである。ユエは相変わらず無表情で巨体ゴーレムを眺め、シアは周囲のゴーレム騎士達に気が気でないのかそわそわしている。俺とユキは武器に手をかけ警戒している
「うん、要望通りに簡潔に言うとね。
私は、確かにミレディ・ライセンだよ
ゴーレムの不思議は全て神代魔法で解決!
もっと詳しく知りたければ見事、私を倒してみよ! って感じかな」
「結局、説明になってねぇ……」
「ははは、そりゃ、攻略する前に情報なんて貰えるわけないじゃん? 迷宮の意味ないでしょ?」
「それもそうだな。簡単でいいじゃんか。」
俺は少し笑う
「お前の神代魔法は、残留思念に関わるものなのか? だとしたら、ここには用がないんだがなぁ」
「ん~? その様子じゃ、何か目当ての神代魔法があるのかな? ちなみに、私の神代魔法は別物だよぉ~、魂の定着の方はラーくんに手伝ってもらっただけだしぃ~」
多分解放者の一人の名前を告げる
ミレディ・ゴーレムに死んだはずの本人の意思を持たせ、ゴーレムに定着させたようだ。
「じゃあ、お前の神代魔法は何なんだ? 返答次第では、このまま帰ることになるが……」
「ん~ん~、知りたい? そんなに知りたいのかなぁ?」
「……」
イライラしているハジメに俺は多分ミレディの本性をさぐる
「知りたいならぁ~、その前に今度はこっちの質問に答えなよ」
最後の言葉だけ、いきなり声音が変わった。今までの軽薄な雰囲気がなりを潜め真剣さを帯びる。
「なんだ?」
「目的は何? 何のために神代魔法を求める?」
「元の世界に戻るため。っていえばいいか?元々俺とハジメは違う世界からの人間だ。だから元の世界に帰るべく神代魔法を探しているわけだ。」
俺が答えるとミレディ・ゴーレムはしばらく、ジッと俺とハジメを見つめた後、何かに納得したのか小さく頷いた。そして、ただ一言「そっか」とだけ呟いた。と、次の瞬間には、真剣な雰囲気が幻のように霧散し、軽薄な雰囲気が戻る。
「ん~、そっかそっか。なるほどねぇ~、別の世界からねぇ~。うんうん。それは大変だよねぇ~よし、ならば戦争だ! 見事、この私を打ち破って、神代魔法を手にするがいい!」
「脈絡なさすぎて意味不明なんだが……何が『ならば』何だよ。っていうか話し聞いてたか? お前の神代魔法が転移系でないなら意味ないんだけど? それとも転移系なのか?」
「応える気がないってことだろってことで先制攻撃。」
俺はそういうと挨拶がわりロケット弾をぶっぱなした。
ズガァアアアン!!
凄絶な爆音が空間全体を振動させながら響き渡る。もうもうとたつ爆煙。
「やりましたか!?」
「……シア、それはフラグ」
「気配も魔力も感知した。攻撃が来るぞ。」
煙の中から赤熱化した右手がボバッと音を立てながら現れると横薙ぎに振るわれ煙が吹き散らされる。
煙の晴れた奥からは、両腕の前腕部の一部を砕かれながらも大して堪えた様子のないミレディ・ゴーレムが現れた。ミレディ・ゴーレムは、近くを通ったブロックを引き寄せると、それを砕きそのまま欠けた両腕の材料にして再構成する。
「ふふ、先制攻撃とはやってくれるねぇ~、さぁ、もしかしたら私の神代魔法が君のお目当てのものかもしれないよぉ~、私は強いけどぉ~、死なないように頑張ってねぇ~」
そう楽しそうに笑って、ミレディ・ゴーレムは左腕のフレイル型モーニングスターを俺達に向かって射出した。投げつけたのではない。予備動作なくいきなりモーニングスターが猛烈な勢いで飛び出したのだ。おそらく、ゴーレム達と同じく重力方向を調整して〝落下〟させたのだろう。近くの浮遊ブロックに跳躍してモーニングスターを躱す。モーニングスターは、ブロックを木っ端微塵に破壊しそのまま宙を泳ぐように旋回しつつ、ミレディ・ゴーレムの手元に戻った。
「やるぞ!ミレディを破壊する!」
「んっ!」
「了解ですぅ!」
「分かったよ。」
「はいはい。」
俺はそういうと剣を抜く
ハジメの掛け声と共に、七大迷宮が一つ、ライセン大迷宮最後の戦いが始った。
大剣を掲げたまま待機状態だったゴーレム騎士達が、ハジメの掛け声を合図にしたかのように一斉に動き出した。通路でそうしたのと同じように、頭をハジメ達に向けて一気に突っ込んでくる。
「はい残念。」
俺は一瞬で刀で分解されないうちに剣撃を飛ばし数十体のゴーレムを巻き込んでいく
二刀流とは違い正しい振り方で俊敏が攻撃のキモとなる刀は俺には合っていたのでハジメに作ってもらったのが幸いしたらしい。八重樫ほどではないが綺麗な剣筋を描く
「あはは、やるねぇ~、でも総数五十体の無限に再生する騎士達と私、果たして同時に捌けるかなぁ~」
嫌味ったらしい口調で、ミレディ・ゴーレムが再度、モーニングスターを射出した。シアが大きく跳躍し、上方を移動していた三角錐のブロックに飛び乗る。ハジメは、その場を動かずにドンナーをモーニングスターに向けて連射した。
同時に、上方のブロックに跳躍していたシアがミレディの頭上を取り、飛び降りながらドリュッケンを打ち下ろした。
「見え透いてるよぉ~」
「ユキ。」
「はいはい。」
と一閃して何度も切りつけるユキ。
高速で移動するユキは一見同じスピードに見えるが緩急をつけて攻撃している
「どりぃあああーーー!!」
ドリュッケンで、遠心力もたっぷり乗せた一撃をミレディ・ゴーレムに叩き込んだ。
ズゥガガン!!
咄嗟に左腕でガードするミレディ・ゴーレム。凄まじい衝突音と共に左腕が大きくひしゃげる。しかし、ミレディ・ゴーレムはそれがどうしたと言わんばかりに、そのまま左腕を横薙ぎにした。
「きゃぁああ!!」
「シア!」
悲鳴を上げながらぶっ飛ぶシア。何とか空中でドリュッケンの引き金を引き爆発力で体勢を整えると、更に反動を利用して近くのブロックに不時着する。
「はっ、やるじゃねぇの。おい、ユエ。お前、あいつに一体どんな特訓したんだよ?」
「……ひたすら追い込んだだけ」
「……なるほど、しぶとく生き残る術が一番磨かれたってところか」
「生き残ることが一番大事だからな。俺も正直殺す気でユキを鍛えたからな。」
遠目にシアとユキがピョンピョンと浮遊ブロックを飛び移りながら戻ってくるのを確認しつつ内心感心する
ハジメは、〝宝物庫〟からガトリング砲メツェライを取り出す。そして、俺はロケットランチャー(手榴弾)をとりだしダメージを与えて行くことにする
ドゥルルルルル!!
ドゴン!!ドゴン!!
瞬く間に四十体以上のゴーレム騎士達が無残な姿を晒しながら空間の底面へと墜落した。時間が経てば、また再構築を終えて戦線に復帰するだろうが、しばらく邪魔が入らなければそれでいい。
「ちょっ、なにそれぇ! そんなの見たことも聞いたこともないんですけどぉ!」
「手榴弾の作り方覚えておいて正解だったな。」
家が忍者屋敷だったこともあり、覚えたくないのに爆発物を覚えた俺。なお危険物取扱の試験を二年になったら取るつもりだった。
「ミレディの核は、心臓と同じ位置だ! あれを破壊するぞ!」
「んなっ! 何で、わかったのぉ!」
再度、驚愕の声をあげるミレディ。
「飯塚流剣術水月。」
俺は魔力を纏わずに二刀流で切り刻むが
「硬いな。これアザンチウムか。」
少し傷をつけるくらいにとどまる。
「おや? 知っていたんだねぇ~、ってそりゃそうか。オーくんの迷宮の攻略者だものねぇ、生成魔法の使い手が知らないわけないよねぇ~、さぁさぁ、程よく絶望したところで、第二ラウンド行ってみようかぁ!」
ミレディは、砕いた浮遊ブロックから素材を奪い、表面装甲を再構成するとモーニングスターを射出しながら自らも猛然と突撃を開始した。
「ど、どうするんですか!? ハジメさん!」
「まだ手はある。何とかしてヤツの動きを封じるぞ!」
「……ん、了解」
「足止め頼むぞユキとユエ。今度はアザンチウムでできた刀で切り込むから。」
「任せて。」
「スバル主体で攻める他なさそうだな。」
「シアもアタッカー手伝え。確実に削っていく」
「はい。分かりました。」
火力不足を危惧して高速移動で俺とユキは高速移動していく。ユエとシアが迫り来るモーニングスターを回避すべく近くの浮遊ブロックに飛び移ろうとする。しかし、
「させないよぉ~」
「やば回避。」
ミレディ・ゴーレムの気の抜けた声と共に足場にしていた浮遊ブロックが高速で回転する。俺は直感でギリギリ避けられたものの他の奴はバランスを崩してしまう
そこへ狙いすました様にミレディ・ゴーレムがフレイムナックルを突き出して突っ込んだ。
「くぅう!!」
「んっ!!」
「うっ。」
直撃は避けたものの強烈な衝撃に、女性陣の口から苦悶の呻き声が漏れる。
すれ違い様にユエは〝破断〟をミレディ・ゴーレムの腕を狙って発動し、シアはドリュッケンのギミックの一つである杭を打撃面から突出させて、それを鎧に突き立て取り付いきユキもそれに付随する
そのまま左の肩から頭部目掛けてドリュッケンをフルスイング。そしてユキは
「ごめんね。」
手榴弾ピンを抜きそしてすぐに回避しようとすると
「「きゃあ!」」
悲鳴を上げるシアとユキ。俺はそして空力を使いユキを回収する。シアの方はハジメが回収していたので大丈夫だろう
「スバルさん。」
「一度体制整えるぞ。焦ってダメージ与えにいったら相手の思う壺だ。」
と抱きかかえて近くの島に飛び降りた時だった
「ハ、ハジメさん!?」
「もっかい逝って来い!」
義手に装填されたショットシェルがガシュンという音と共にリロードされ激発する。発生した衝撃の反動で回転するハジメは、その遠心力を利用してシアをミレディ・ゴーレムに向かって投げ飛ばした。
「こんちくしょうですぅー!」
敵に向かって特攻させられるという何ともやりきれない状況に、自棄くそ気味な雄叫びを上げながらドリュッケンを構えるシア。
若干、ミレディも引いているようにしているが俺も攻撃に移る
「飯塚流抜刀術一強。」
たった一振りで右腕に大ダメージを与え下方から水のレーザーが迸り、先ほど入れられた切れ込みに寸分違わず命中した。そして、その傷口を更に抉り切り裂いて、遂にミレディ・ゴーレムの右腕を切断した。
「ナイスユエ。」
「……してやったり」
そう言ってほくそ笑んだのは、もちろんユエである。
「っ、このぉ! 調子に乗ってぇ!」
ミレディが、イラついた様子で声を張り上げた。
両腕を失ったミレディが何故か、周囲の浮遊ブロックを呼び寄せて両腕を再構成することもなく、天井を見つめたまま目を強く光らせている
「みんな降って来るよ。」
ユキが冷静にいうと俺らは全員上を向く
その直後、それは起こった。
空間全体が鳴動する。低い地鳴りのような音が響き、天井からパラパラと破片が落ちくる。いや、破片だけではない。天井そのものが落下しようとしているのだ。
「っ!? こいつぁ!」
「ふふふ、お返しだよぉ。騎士以外は同時に複数を操作することは出来ないけど、ただ一斉に〝落とす〟だけなら数百単位でいけるからねぇ~、見事凌いで見せてねぇ~」
この空間の壁には幾つものブロックが敷き詰められているのだが、天井に敷き詰められた数多のブロックが全て落下しようとしているのだ。一つ一つのブロックが、軽く十トン以上ありそうな巨石である。そんなものが豪雨の如く降ってくるのだ。
俺は〝瞬光〟落ちくる死の欠片の一つ一つを明確に認識できるようにすると最短ルートでユキと合流する
「ユキ。後は隠蔽しながらアシストに回るぞ。」
この岩の塊に絶対に俺とユキは捕まらない自信がある。ユキも余裕がないので頷くだけだったがすぐに行動に移った。
どうやらミレディはハジメ達に集中しているらしい
『ユエ。俺とユエ凍らせるから詠唱して準備してろ。最後任せたシアとハジメ。』
『……了解。」
巨石群の落下に呑み込まれ地に落ちていた浮遊ブロックが天上の残骸と共に空間全体に散開するように浮かび上がる。としばらくして落下がやむ
「う~ん、やっぱり、無理だったかなぁ~、でもこれくらいは何とかできないと、あのクソ野郎共には勝てないしねぇ~」
ミレディは、どうやら死んだと思ったらしい。いい思い過ごしだ。
「そのクソ野郎共には興味ないって言っただろうが」
「えっ?」
驚愕と僅かな喜色を滲ませた声を上げて背後を振り返るミレディ。
そこには、確かに、荒い息を吐き、目や鼻から血を流してはいるものの五体満足のハジメが浮遊ブロックの上に立ってミレディを睥睨していた。
「ど、どうやって……」
自分の目には確かに巨石群に呑まれたように見えたハジメが、目の前にいることに思わず疑問の声を上げるミレディ。そんな彼女に、ハジメは、ニィと口の端を吊り上げて笑う。
「答えてやってもいいが……俺ばかり見ていていいのか?」
「えっ?」
先程と同じ口調で疑問の声を上げるミレディ。だが、その疑問は、直後、魔法の直撃という形で解消された。
「〝破断〟!」
ユエの凛とした詠唱が響き渡り、幾筋もの水のレーザーがミレディ・ゴーレムの背後から背中や足、頭部、肩口に殺到する。着弾したウォーターカッターは各部位の表面装甲を切り裂いた。
「こんなの何度やっても一緒だよぉ~、両腕再構成するついでに直しちゃうしぃ~」
「いや、そんな暇は与えない」
振り向きもせず余裕の雰囲気でユエの魔法を受けきったミレディ・ゴーレムに、ハジメがアンカーを打ち込みながら一気に接近する。片手にはシュラーゲンを持っている。
「あはは、またそれ? それじゃあ、私のアザンチウム製の装甲は砕けないよぉ~」
ハジメに取り付かれ、胸部にシュラーゲンを突きつけられても撃ちたきゃ撃てば? と言わんばかりだ。周囲の浮遊ブロックで妨害しようともしない。それも当然といえば当然だろう。何せ、ハジメの武器がミレディ・ゴーレムの装甲に歯が立たないことは実証済みである。その為、ミレディは、この段階で代わり映えしない攻撃手段を選んだということから、万策尽きて悪足掻きをしていると判断した。
「ナイスだスバル。」
ハジメの言葉と共にシュラーゲンからスパークが走り、電磁加速されたフルメタルジャケットモドキがミレディ・ゴーレムの胸部をゼロ距離から吹き飛ばす。轟音と衝撃にミレディ・ゴーレムが弾かれ吹き飛ぶ。
「こ、こんなことしても結局は……」
「ユエ!スバル。」
ミレディの言葉を無視して、ハジメがユエの名を呼ぶ。すると、跳躍してきたユエが更に魔法を発動した。
「凍って! 〝凍柩〟!」
「冷たい空気で全てを凍え。氷結。」
ユキのパフが分解する前に俺たちは動きを止めるためにこの魔法にかける
「なっ!? 何で上級魔法が!?」
驚愕の声を上げるミレディ。ユエが上級魔法である氷系統の魔法を使えたのは単純な話だ。〝破断〟と同じく、元となる水を用意して消費魔力量を減らしただけである。あらかじめ、ミレディ・ゴーレムを叩きつけるブロックを決めておき水を撒いておく。そして、隙をついてミレディ・ゴーレム自身の背面にも水を撒いておく。最初の〝破断〟はそれが目的だ。
俺もユエも仲間の魔晶石を使っての攻撃でさすがに息が上がる
体を固定されたミレディ・ゴーレムの胸部に立ち、ハジメは〝宝物庫〟から切り札を取り出す。虚空に現れたそれは全長二メートル半程の縦長の大筒だった。外部には幾つものゴツゴツした機械が取り付けられており、中には直径二十センチはある漆黒の杭が装填されている。下方は四本の頑丈そうなアームがつけられており、中程に空いている機構にハジメが義手をはめ込むと連動して動き出した。
ハジメはそのまま、直下の身動きが取れないミレディ・ゴーレムをアームで挟み込み、更に筒の外部に取り付けられたアンカーを射出した。合計六本のアームは周囲の地面に深々と突き刺さると大筒をしっかりと固定する。同時に、ハジメが魔力を注ぎ込んだ。すると、大筒が紅いスパークを放ち、中に装填されている漆黒の杭が猛烈と回転を始める。
キィイイイイイ!!!
高速回転が奏でる旋律が響き渡る。ニヤァと笑ったハジメの表情に、ゴーレムでなければ確実に表情を引き攣らせているであろうミレディ。凶悪なフォルムのそれは、義手の外付け兵器〝パイルバンカー〟である。〝圧縮錬成〟により、四トン分の質量を直径二十センチ長さ一・二メートルの杭に圧縮し、表面をアザンチウム鉱石でコーティングした。世界最高重量かつ硬度の杭。それを大筒の上方に設置した大量の圧縮燃焼粉と電磁加速で射出する。
「存分に食らって逝け」
そんな言葉と共に、吸血鬼に白木の杭を打ち込むがごとく、ミレディ・ゴーレムの核に漆黒の杭が打ち放たれた。
ゴォガガガン!!!
凄まじい衝撃音と共にパイルバンカーが作動し、漆黒の杭がミレディ・ゴーレムの絶対防壁に突き立つ。胸部のアザンチウム装甲は、一瞬でヒビが入り、杭はその先端を容赦なく埋めていく。あまりの衝撃に、ミレディ・ゴーレムの巨体が浮遊ブロックを放射状にヒビ割りながら沈み込んだ。浮遊ブロック自体も一気に高度を下げる。ミレディ・ゴーレムは、高速回転による摩擦により胸部から白煙を吹き上げていた。
……しかし、ミレディ・ゴーレムの目から光は消えなかった。
「ハ、ハハ。どうやら未だ威力が足りなかったようだねぇ。だけど、まぁ大したものだよぉ?四分の三くらいは貫けたんじゃないかなぁ?」
「知っているさ。それだけじゃ貫けないってことは。」
俺は軽く笑い合図を出す
「やれ! シア!」
ハジメは、〝宝物庫〟に杭以外のパイルバンカーをしまうと、ミレディ・ゴーレムの胸部から勢いよく飛び退いた。 代わりに現れたのは、ウサミミをなびかせ、ドリュッケンを大上段に構えたまま、遥か上空から自由落下に任せて舞い降りるシア
「チェックメイト。」
ドゴォオオ!!!
轟音と共に杭が更に沈み込む。だが、まだ貫通には至らない。シアは、内蔵されたショットシェルの残弾全てを撃ち尽くすつもりで、引き金を引き続ける。
ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ!
「あぁあああああ!!」
シアの絶叫が響き渡る。これで決めて見せると強烈な意志を全て相棒たる大槌に注ぎ込む。全身全霊、全力全開。衝撃と共に浮遊ブロックが凄まじい勢いで高度を下げていく。
そして、轟音と共に浮遊ブロックが地面に激突した。その衝撃で遂に漆黒の杭がアザンチウム製の絶対防御を貫き、ミレディ・ゴーレムの核に到達する。先端が僅かにめり込み、ビシッという音を響かせながら核に亀裂が入った。
地面への激突の瞬間、シアはドリュッケンを起点に倒立すると、くるりと宙返りをする。そして、身体強化の全てを脚力に注ぎ込み、遠心力をたっぷりと乗せた蹴りをダメ押しとばかりに杭に叩き込んだ。
シアの蹴りを受けて更にめり込んだ杭は、核の亀裂を押し広げ……遂に完全に粉砕した。
ミレディ・ゴーレムの目から光が消える。
「お疲れさん。」
俺の言葉で全員の気が緩み座り込む。
七大迷宮が一つ、ライセン大迷宮の最後の試練が確かに攻略された瞬間だった。