中立商業都市フューレン
高さ二十メートル、長さ二百キロメートルの外壁で囲まれた大陸一の商業都市だ。あらゆる業種が、この都市で日々しのぎを削り合っており、夢を叶え成功を収める者もいれば、あっさり無一文となって悄然と出て行く者も多くいる。観光で訪れる者や取引に訪れる者など出入りの激しさでも大陸一と言えるだろう。
「賑やかだなぁ。王都よりも賑わいはあるんじゃないか?」
中央区の一角にある冒険者ギルド:フューレン支部内にあるカフェで軽食を食べながら俺たちは話し合う。
モットー率いる商隊と別れると証印を受けた依頼書を持って冒険者ギルドにやって来た。そして、宿を取ろうにも何処にどんな店があるのかさっぱりなので、冒険者ギルドでガイドブックを貰おうとしたところ、案内人の存在を教えられたのだ。
そして、現在、案内人の女性、リシーと名乗った女性に料金を支払い、軽食を共にしながら都市の基本事項を聞いていたのである。
「そういうわけなので、一先ず宿をお取りになりたいのでしたら観光区へ行くことをオススメしますわ。中央区にも宿はありますが、やはり中央区で働く方々の仮眠場所という傾向が強いので、サービスは観光区のそれとは比べ物になりませんから」
「なるほどな、なら素直に観光区の宿にしとくか。どこがオススメなんだ?」
「お客様のご要望次第ですわ。様々な種類の宿が数多くございますから」
「そりゃそうか。そうだな、飯が上手くて、あと風呂があれば文句はない。立地とかは考慮しなくていい。あと責任の所在が明確な場所がいいな」
「連れが目立つからな。結構巻き込まれるんだよ。」
俺は説明するとそして、納得したように頷いた。確かに、この美少女3人は目立つ。現に今も、周囲の視線をかなり集めている。特に、シアとユキの方は兎人族だ。他人の奴隷に手を出すのは犯罪だが、しつこい交渉を持ちかける商人やハメを外して暴走する輩がいないとは言えない。
「しかし、それなら警備が厳重な宿でいいのでは? そういうことに気を使う方も多いですし、いい宿をご紹介できますが……」
「ああ、それでもいい。ただ、欲望に目が眩んだヤツってのは、時々とんでもないことをするからな。警備も絶対でない以上は最初から物理的説得を考慮した方が早い」
「ぶ、物理的説得ですか……なるほど、それで責任の所在なわけですか」
完全にハジメの意図を理解したリシーは、あくまで〝出来れば〟でいいと言うハジメに、案内人根性が疼いたようだ、やる気に満ちた表情で「お任せ下さい」と了承する。そして、ユエとシアの方に視線を転じ、二人にも要望がないかを聞いた。出来るだけ客のニーズに応えようとする点、リシーも彼女の所属する案内屋も、きっと当たりなのだろう。
「……お風呂があればいい、但し混浴、貸切が必須」
「えっと、大きなベッドがいいです」
「ぼくは何もないよ。ただ観光区のパンフレットがもらえるところがいいけど。」
少し考えて、それぞれの要望を伝える三人。なんてことない要望だが、ユエが付け足した条件と、シアの要望を組み合わせると、自然ととある意図が透けて見える。
「……俺もないなぁ。一人部屋があればその部屋に泊まりたいけど。」
それから、他の区について話を聞いていると、俺達は不意に強い視線を感じた。特に、シアとユエ、ユキに対しては、今までで一番不躾で、ねっとりとした粘着質な視線が向けられている。
俺とハジメがチラリとその視線の先を辿ると……ブタがいた。体重が軽く百キロは超えていそうな肥えた体に、脂ぎった顔、豚鼻と頭部にちょこんと乗っているベットリした金髪。身なりだけは良いようで、遠目にもわかるいい服を着ている。
そのブタ男は重そうな体をゆっさゆっさと揺すりながら真っ直ぐ俺達の方へ近寄ってくる。どうやら逃げる暇もないようだ。
リシーも不穏な気配に気が付いたのか、それともブタ男が目立つのか、傲慢な態度でやって来るブタ男に営業スマイルも忘れて「げっ!」と何ともはしたない声を上げた。
ブタ男は、俺達のテーブルのすぐ傍までやって来ると、ニヤついた目でユエとシアをジロジロと見やり、シアの首輪を見て不快そうに目を細めた。そして、今まで一度も目を向けなかったハジメに、さも今気がついたような素振りを見せると、これまた随分と傲慢な態度で一方的な要求をした。
「お、おい、ガキども。ひゃ、二百万ルタやる。この兎どもを、わ、渡せ。それとそっちの金髪はわ、私の妾にしてやる。い、一緒に来い」
「うっさい黙れ。」
俺は軽く威圧を放つとひっと小さな声を上げる
「ユエ、シア、ユキ行くぞ。場所を変えよう」
ハジメは女性陣に声をかけて席を立つ。リシーが「えっ? えっ?」と混乱気味に目を瞬かせた。リシーが俺の殺気の効果範囲にいても平気そうなのは、単純にリシーだけ〝威圧〟の対象外にしたからだ。
「先行ってろ。うっとうしいから迷惑行為としてギルド本部に報告する。多分爵位ありの人間だ。殺すよりも絶望を見せた方がいい。」
「お前鬼だろ。」
だが、〝威圧〟を解きハジメたちがギルドを出ようとした直後、二人の大男がハジメ達の進路を塞ぐような位置取りに移動し仁王立ちした。ブタ男とは違う意味で百キロはありそうな巨体である。全身筋肉の塊で腰に長剣を差しており、歴戦の戦士といった風貌だ。
その巨体が目に入ったのか、ブタ男が再びキィキィ声で喚きだした。
「そ、そうだ、レガニド!ゼリファー そのクソガキを殺せ! わ、私を殺そうとしたのだ! 嬲り殺せぇ!」
「坊ちゃん、流石に殺すのはヤバイですぜ。半殺し位にしときましょうや」
「やれぇ! い、いいからやれぇ! お、女は、傷つけるな! 私のだぁ!」
「了解ですぜ。報酬は弾んで下さいよ」
「い、いくらでもやる! さっさとやれぇ!」
どうやら、レガニドとセリファーと呼ばれた巨漢は、ブタ男の雇われ護衛らしい。ハジメから目を逸らさずにブタ男と話、報酬の約束をするとニンマリと笑った。珍しい事にユエやシア、ユキは眼中にないらしい。見向きもせずに貰える報酬にニヤついているようだ。
俺が剣を抜こうとした時に
ゼリファーの首筋にユキの短剣が向けられた。ナイフを当てられゼリファーの首筋からは血が垂れている
「……仲間に手をだそうっていうんならぼくが相手になるよ。あの四人は手加減とかしらないし。」
「い、いつのまに。」
ユキの動きは本当に素早く簡単に補足されたゼリファーを簡単に押さえつける。
「アホ殺すかよ。」
俺はそして銃弾を回すとトリガーを引く。
すると銃弾から放たれるトゲ付きの針がゼリファーに刺さる
「……なんだ。なんか眠く。」
「ただの麻酔弾だ。殺しはしねーよ。しばらく眠っとけ。」
そうやって俺は銃をしまう。
「舞い散る花よ 風に抱かれて砕け散れ 〝風花〟」
ユエのオリジナル魔法第二弾〝風爆〟という風の砲弾を飛ばす魔法と重力魔法の複合魔法だ。複数の風の砲弾を自在に操りつつ、その砲弾に込められた重力場が常に目標の周囲を旋回することで全方位に〝落とし続け〟空中に磔にする。そして、打ち上げられたが最後、そのまま空中でサンドバックになるというえげつない魔法だ。
空中での一方的なリードによるダンスを終えると、レガニドは、そのままグシャと嫌な音を立てて床に落ち、ピクリとも動かなくなった。実は、最初の数撃で既に意識を失っていたのだが、知ってか知らずか、ユエは、その後も容赦なく連撃をかまし、特に股間を集中的に狙い撃って周囲の男連中の股間をも竦み上がらせた。苛烈にして凶悪な攻撃に、後ろで様子を伺っていたハジメをして「おぅ」と悲痛な震え声を上げさせたほどだ。
そして俺とハジメは歩き豚の元に向かう
「ひぃ! く、来るなぁ! わ、私を誰だと思っている! プーム・ミンだぞ! ミン男爵家に逆らう気かぁ!」
「……地球の全ゆるキャラファンに謝れ、ブタが」
「仲間を侮辱したぶん報いは受けてもらうぞ。」
ハジメは、ブタ男の名前に地球の代表的なゆるキャラを思い浮かべ、盛大に顔をしかめると、尻餅を付いたままのブタ男の顔面を勢いよく踏みつけた。
「プギャ!?」
「ハジメ離れろ。」
俺はそうやって少し離れ助走をつけハジメが離れた瞬間豚を蹴り飛ばした。
「おい、ブタ。二度と視界に入るな。直接・間接問わず関わるな……次はない」
というと俺たちは溜息を吐く。敵意がないとわかるとさらに追い討ちをかけようとしたハジメを止める
「追撃はやめとけ。これ以上はもっと面倒くさくなる。」
「ちっ。」
「……てめぇらも覚えとけ連れに手を出したら。そいつらみたいになるぞ。」
すると頷く冒険者たち。
「じゃあ、案内人さん。場所移して続きを頼むよ」
「はひっ! い、いえ、その、私、何といいますか……」
ハジメの笑顔に恐怖を覚えたのか、しどろもどろになるリシー。その表情は、明らかに関わりたくないと物語っていた。それくらい、ハジメ達は異常だったのだ。何となく察しているが、また新たな案内人をこの騒ぎの後に探すのは面倒なので、リシーを逃がすつもりはなかった。ハジメの意図を悟って、ユエとシアがリシーの両脇を固める。「ひぃぃん!」と情けない悲鳴を上げるリシー。
ギルド職員が今更ながらにやって来た。
「あの、申し訳ありませんが、あちらで事情聴取にご協力願います」
そうハジメに告げた男性職員の他、三人の職員がハジメ達を囲むように近寄った。もっとも、全員腰が引けていたが。もう数人は、プームとレガニドの容態を見に行っている。
「そうは言ってもな、あのブタが俺の連れを奪おうとして、それを断ったら逆上して襲ってきたから返り討ちにしただけだ。それ以上、説明する事がない。そこの案内人とか、その辺の男連中も証人になるぞ。特に、近くのテーブルにいた奴等は随分と聞き耳を立てていたようだしな?」
周囲の男連中を睥睨すると、目があった彼等はこぞって首がもげるのでは? と言いたくなるほど激しく何度も頷いた。
「それは分かっていますが、ギルド内で起こされた問題は、当事者双方の言い分を聞いて公正に判断することになっていますので……規則ですから冒険者なら従って頂かないと……」
「とは言っても被害者はこっちであいつは殺すって言っていた。何もしてなかったら俺たちは殺される可能性だってあったんだぞ?冒険者規則では確かこちらの被害に合いそうな時になった時ばかりは反撃は許可されていたはずだが?」
俺がそういうと職員が溜息を吐く。
「とりあえず起こすか。痛みでも数発与えれば起きるだろ。」
とハジメが言った時
「何をしているのです? これは一体、何事ですか?」
そちらを見てみれば、メガネを掛けた理知的な雰囲気を漂わせる細身の男性が厳しい目でハジメ達を見ていた。
「ドット秘書長! いいところに! これはですね……」
職員達がこれ幸いとドット秘書長と呼ばれた男のもとへ群がる。ドットは、職員達から話を聞き終わると、俺達に鋭い視線を向けた。
また面倒ごとかと思うと俺はまた溜息をつくしかなかった