黒の剣士に憧れし者 連載中止   作:孤独なバカ

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再会

広大な平原のど真ん中に、北へ向けて真っ直ぐに伸びる街道がある。街道と言っても、何度も踏みしめられることで自然と雑草が禿げて道となっただけのものだ。この世界の馬車にはサスペンションなどというものはないので、きっとこの道を通る馬車の乗員は、目的地に着いた途端、自らの尻を慰めることになるのだろう。

 

「気持ちいいなぁ。やっぱ。」

 

80kmは出ているだろう魔力駆動二輪で並びながら走る。風圧についてはアーティファクトで阻害しているので絶好のツーリング日和と言える。

 

「まぁ、このペースなら後一日ってところだ。ノンストップで行くし、休める内に休ませておこう」

 

どうやらシアが寝ているらしい。ハジメの言葉通り、ハジメ達は、ウィル一行が引き受けた調査依頼の範囲である北の山脈地帯に一番近い町まで後一日ほどの場所まで来ていた。このまま休憩を挟まず一気に進み、おそらく日が沈む頃に到着するだろうから、町で一泊して明朝から捜索を始めるつもりだ。急ぐ理由はもちろん、時間が経てば経つほど、ウィル一行の生存率が下がっていくからだ。しかし、いつになく他人のためなのに積極的なハジメに、ユエが、上目遣いで疑問顔をする。

 

「……積極的?」

「ああ、生きているに越したことはないからな。その方が、感じる恩はでかい。これから先、国やら教会やらとの面倒事は嫌ってくらい待ってそうだからな。盾は多いほうがいいだろう? いちいちまともに相手なんかしたくないし」

「……なるほど」

 

実際、イルワという盾が、どの程度機能するかはわからないし、どちらかといえば役に立たない可能性の方が大きいが保険は多いほうがいい。まして、ほんの少しの労力で獲得できるなら、その労力は惜しむべきではないだろう。

 

「でもそれだけではないんですよね。」

「聞いたところによるとこれから行く町は湖畔の町で水源が豊かなんだと。そのせいか町の近郊は大陸一の稲作地帯なんだそうだ」

「……稲作?」

「おう、つまり米だ米。俺の故郷、日本の主食だ。こっち来てから一度も食べてないからな。同じものかどうかは分からないけど俺とハジメにとっては懐かしい味になりそうだし。」

「ぼくも食べてみたいです!!」

「……ん、私も食べたい……町の名前は?」

 

米にテンションが上がりそういえば伝えていたことを忘れてた。ハジメも同じだったのか、ハッと我に返ったハジメは、ユエの眼差しに気がついて少し恥ずかしそうにすると、誤魔化すように若干大きめの声で答えた。

 

「湖畔の町ウルだ」

 

 

ギルドで依頼を受けた冒険者と報告した後俺たちは今日は早めに寝るってことで宿屋に直行していた

そしてご飯の時間になると自然と足が進む

 

「ご飯♪ご飯♪」

「お前浮かれすぎだろ。」

「だって白ご飯だぞ。久しぶりにパンから解放される。」

 

俺は断然パンより白飯が好きなので楽しみだ

 

「なんか子供っぽいですね。」

「こいつご飯に関してはかなり厳しいからな。」

「これからの飯のレパートリーも増えるから楽しみにしとけよ。」

「それは楽しみだね。」

「……悔しいけど。美味しい。」

 

とだべりながら話す

 

「でもハジメさん。私を放置してユエさんと二人の世界を作るのは止めて下さいよぉ。ホント凄く虚しいんですよ、あれ。聞いてます? ハジメさん」

「聞いてる、聞いてる。見るのが嫌なら別室にしたらいいじゃねぇか」

「んまっ! 聞きました? ユエさん。ハジメさんが冷たいこと言いますぅ。」

「……ハジメ……メッ!」

「へいへい、てかユキとスバルは同じ部屋だろ?不満はないのかよ。」

「別に。こっちは普通に話して寝るだけだからな。俺は夜間でも稼ぎにいくことが多いし。」

「……スバルさん時々すぐに気配消してどこかにいっちゃうから。」

 

と話していると急にカーテンが開く

俺たちはぎょっとしてそっちを見てしまうとそこには

 

「南雲君!飯塚君」

「あぁ? ……………………………………………先生?」

「……うわぁ。」

 

俺は少し溜息を吐く。そういえば先生の職業は作農師だったな。

 

「南雲君、飯塚君……やっぱり南雲君と飯塚君なんですね? 生きて……本当に生きて…」

「いえ、人違いです。では」

「へ?」

 

これは酷い。俺は別に話してもいいがハジメは無視する気満々のようだ。

 

「ちょっと待って下さい! 南雲君ですよね? 先生のこと先生と呼びましたよね? なぜ、人違いだなんて」

「いや、聞き間違いだ。あれは……そう、方言で〝チッコイ〞て意味だ。うん」

「それはそれで、物凄く失礼ですよ! ていうかそんな方言あるわけないでしょう。どうして誤魔化すんですか? それにその格好……何があったんですか? こんなところで何をしているんですか?何故、直ぐに皆のところへ戻らなかったんですか? 南雲君! 答えなさい! 先生は誤魔化されませんよ!」

「はいはい。そこまで。ハジメ、その返しは例え先生の告白してきた人たちが全員ロリがつく人だったとしてもそこまでにしとけ。」

「なんでそんなこと知っているんですか!!」

 

マジだったのかと少し引きながらも俺は少し笑う

 

「ほら、先生もハジメも他のお客様の迷惑になるから。先生とりあえず落ち着いて。ハジメもさすがにその返しはないぞ。」

「うっせほっとけ。」

 

少し拗ねたようなハジメに苦笑する

 

「先生もさすがにハジメって分かったのはいいんですけどせめて他の人のこと考えましょうよ。だからいつまでたっても大人ぶった子供みたいにクラスのみんなにからかわれるんですよ。」

「うぅ。」

 

俺はそういうと全員が俺の方を向く。まぁこういう時の俺は滅多に見せてなかったしな

 

「すいません、取り乱しました。改めて、南雲君と飯塚君ですよね?」

「ああ。久しぶりだな、先生」

「お久しぶりです。」

「やっぱり、やっぱり南雲君と飯塚君なんですね……生きていたんですね……」

 

 再び涙目になる愛子に、ハジメは特に感慨を抱いた様子もなく肩を竦めた。

 

「まぁな。色々あったが、何とか生き残ってるよ」

「よかった。本当によかったです」

 

それ以上言葉が出ない様子の愛子を一瞥すると、ハジメは近くのテーブルに歩み寄りそのまま座席についた。それを見て、ユエとシアも席に着く。シアは困惑しながらだったが。ハジメの突然の行動にキョトンとする愛子達。ハジメは、完全に調子を取り戻したようで、周囲の事など知らんとばかりに、生徒達の後ろに佇んで事の成り行きを見守っているフォスを手招きする。

 

「ええと、ハジメさん。いいんですか? お知り合いですよね? 多分ですけど……元の世界の……」

「別に関係ないだろ。流石にいきなり現れた時は驚いたが、まぁ、それだけだ。元々晩飯食いに来たんだし、さっさと注文しよう。マジで楽しみだったんだよ。知ってるか? ここカレー……じゃわからないか。ニルシッシルっていうスパイシーな飯があるんだってよ。想像した通りの味なら嬉しいんだが……」

「……なら、私もそれにする。ハジメの好きな味知りたい」

「あっ、そういうところでさり気ないアピールを……流石ユエさん。というわけで私もそれにします。店員さぁ〜ん、注文お願いしまぁ〜す」

「あっ。俺もそれにしよっと。」

「ぼくも。」

 

「南雲君、飯塚君まだ話は終わっていませんよ。なに、物凄く自然に注文しているんですか。大体、こちらの女性達はどちら様ですか?」

「依頼のせいで一日以上ノンストップでここまで来たんだ。腹減ってるんだから、飯くらいじっくり食わせてくれ。それと、こいつらは……」

「……ユエ」

「シアです」

「ハジメの女」「ハジメさんの女ですぅ!」

「お、女?」

 

 愛子が若干どもりながら「えっ? えっ?」とハジメと二人の美少女を交互に見る。上手く情報を処理出来ていないらしい。後ろのクラスメイトも困惑したように顔を見合わせている。いや、男子生徒は「まさか!」と言った表情でユエとシアを忙しなく交互に見ている。徐々に、その美貌に見蕩れ顔を赤く染めながら。

 

「おい、ユエはともかく、シア。お前は違うだろう?」

「そんなっ! 酷いですよハジメさん。私のファーストキスを奪っておいて!」

「いや、何時まで引っ張るんだよ。あれはきゅ『南雲君?』……何だ、先生?」

 

こっそり隠密を使い緊急脱出をする

 

「……面白い人だね。」

「まぁな。いじりがいがある人だな。」

 

俺はハジメに全部押し付けて笑いながらそのやりとりを見るのであった

 

 


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