散々、愛子が吠えた後、他の客の目もあるからとVIP席の方へ案内された俺達。そこで、愛子や園部優花達生徒から怒涛の質問を投げかけられつつも、ハジメは、目の前の今日限りというニルシッシル(異世界版カレー)。に夢中で端折りに端折った答えをおざなりに返していく。
Q、橋から落ちた後、どうしたのか?
A、超頑張った
Q、なぜ白髪なのか
A、超頑張った結果
Q、その目はどうしたのか
A、超超頑張った結果
Q、なぜ、直ぐに戻らなかったのか
A、戻る理由がない
そこまで聞いて先生が「真面目に答えなさい!」と頬を膨らませて怒る
俺は気配遮断をふんだんに使い話の輪から抜け出しニルシッシルを食べている
その様子にキレた騎士がいた。拳をテーブルに叩きつけながら大声を上げた。
「おい、お前! 愛子が質問しているのだぞ! 真面目に答えろ!」
「今食事中だろ?おとなしくしてろよ。」
俺が忠告すると顔を真っ赤にした。そして、何を言ってものらりくらりとして明確な答えを返さないハジメから矛先を変え、その視線がユキとシアに向く。
「ふん、行儀だと? その言葉、そっくりそのまま返してやる。薄汚い獣風情を人間と同じテーブルに着かせるなど、お前の方が礼儀がなってないな。せめてその醜い耳を切り落としたらどうだ? 少しは人間らしくなるだろう。」
すると俺も、ハジメも箸を止める。ユキやシアのうさ耳が少し垂れて顔もしゅんとしている
よく見れば、他の騎士達も同じような目でシアとユキを見ている。
「……はぁ。ユキ。気にすんな。」
俺は頭を撫でてやると少し涙目になっている。今まで俺たちや周りの人に恵まれていたために差別用語などは言われたことがなかったはずだ。
冷ややかな目を送る
「何だ、その眼は? 無礼だぞ! 神の使徒でもないのに、神殿騎士に逆らうのか!」
「……小さい男。」
「……異教徒め。そこの獣風情と一緒に地獄へ送ってやる」
すると剣を抜く騎士に俺とハジメが目があう。それが開始の狼煙になった
俺とハジメが同時に引き金を引くと
ドパンッ!
乾いた破裂音が全体に響きわたり、同時に、今に騎士の頭部が弾かれたように後方へ吹き飛ばした
「……いい加減にしろよ。」
俺の冷たい声プラス威圧を乗せて騎士に向ける
「てめぇらが亜人に差別をしようがユキやシアは俺の仲間だ。傷つけようとしたやつは地獄を見せる。」
「俺は、あんたらに興味がない。関わりたいとも、関わって欲しいとも思わない。いちいち、今までの事とかこれからの事を報告するつもりもない。ここには仕事に来ただけで、終わればまた旅に出る。そこでお別れだ。あとは互いに不干渉でいこう。あんたらが、どこで何をしようと勝手だが、俺の邪魔だけはしないでくれ。今みたいに、敵意をもたれちゃ……つい殺っちまいそうになる」
わかったか? そう眼で問いかけるハジメに、誰も何も言えなかった。直接、視線を向けられた騎士は、かかるプレッシャーに必死に耐えながら、僅かに頷くので精一杯だった。
「……たく。」
「……スバルさん。」
「はぁ。気にするなとは言わない。これがこの世界の普通だろ?でも俺はお前のうさ耳は可愛いと思うぞ。」
「っ!本当?」
「てかお前はもうちょっと自分に自信をもて。毎回理性を削られるんだよ。必死に我慢している俺の身にもなれ。ついでにハジメもシアのうさ耳時々もふもふしているらしいぞ。」
「……ハジメのお気に入り。シアが寝てる時にモフモフしてる」
「スバル!?ユエッ!? それは言わない約束だろ!?」
「ハ、ハジメさん……私のウサミミお好きだったんですね……えへへ」
するといつもの調子に戻る俺たち。やっぱりこの二人は笑顔が似合うんだよな。
軽く視線を感じるがガン無視しているとすると一人の騎士がこっちにくる
「南雲君と飯塚君でいいでしょうか? 先程は、隊長が失礼しました。何分、我々は愛子さんの護衛を務めておりますから、愛子さんに関することになると少々神経が過敏になってしまうのです。どうか、お許し願いたい」
どうでもいいので俺は溜息を吐きガン無視を決め込んでハジメも黙って手をヒラヒラと振るに止めた。
「そのアーティファクト……でしょうか。寡聞にして存じないのですが、相当強力な物とお見受けします。弓より早く強力にもかかわらず、魔法のように詠唱も陣も必要ない。一体、何処で手に入れたのでしょう?」
ハジメが、チラリと騎士を見る。そして、何かを言おうとして、興奮した声に遮られた。クラス男子の玉井淳史だ。
「そ、そうだよ、南雲。それ銃だろ!? 何で、そんなもん持ってんだよ!」
「銃? 玉井は、あれが何か知っているのですか?」
「え? ああ、そりゃあ、知ってるよ。俺達の世界の武器だからな」
玉井の言葉にチェイスの眼が光る。そして、ハジメをゆっくりと見据えた。
「ほぅ、つまり、この世界に元々あったアーティファクトではないと……とすると、異世界人によって作成されたもの……作成者は当然……」
「俺だな」
ハジメは、あっさりと自分が創り出したと答えた。
「あっさり認めるのですね。南雲君、その武器が持つ意味を理解していますか? それは……」
「この世界の戦争事情を一変させる……だろ? 量産できればな。大方、言いたいことはやはり戻ってこいとか、せめて作成方法を教えろとか、そんな感じだろ? 当然、全部却下だ。諦めろ」
あらかじめ用意していた言葉をそのまま伝えたのだろう
「ですが、それを量産できればレベルの低い兵達も高い攻撃力を得ることができます。そうすれば、来る戦争でも多くの者を生かし、勝率も大幅に上がることでしょう。あなたが協力する事で、お友達や先生の助けにもなるのですよ? ならば……」
「なんと言われようと、協力するつもりはない。奪おうというなら敵とみなす。その時は……戦争前に滅ぶ覚悟をしろ」
ハジメの静かな言葉に全身を悪寒に襲われ口をつぐむ騎士。
先生が執り成すように口を挟む。
「チェイスさん。南雲君には南雲君の考えがあります。私の生徒に無理強いはしないで下さい。南雲君も、あまり過激な事は言わないで下さい。もっと穏便に……南雲君は、本当に戻ってこないつもり何ですか?」
「ああ、戻るつもりはない。明朝、仕事に出て依頼を果たしたら、そのままここを出る」
「どうして……」
「俺たちの居場所は今はここなんだよ。」
俺の言葉に先生はこっちを見る
「俺もハジメも大切な人がいてその人を守ることで精一杯なんだよ。俺らにとってはこの世界は地獄でしかない。勝手に連れ去られて虐められて死にかけて。そんな中でも大事な仲間、ハジメに限ったら恋人ができたんだぞ?先生ならどう思う?恋人や仲間のことを侮辱されて、下心満載で話しかけられて。ついでに戻ってこいだ。」
「そ、それは。」
俺は少し威圧を込め本心を叫ぶ
「バカにするのも大概にしろよ。」
低く冷たい声がこの部屋に響く
「言っておくけど俺もこの世界はどうでもいいしな。今の居場所はそこにはない。それだけだ。」
俺は立ち上がり少し溜息を吐く。
「んじゃご馳走さん。」
席を立つとそれに続いて全員が立ち上がる。
そして俺たちは二階に向けて歩きだした。