黒の剣士に憧れし者 連載中止   作:孤独なバカ

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自分のこと

朝早くに俺たちは旅支度を終えウルの町の北門に向かう。そこから北の山脈地帯に続く街道が伸びているのだ。馬で丸一日くらいだというから、魔力駆動二輪で飛ばせば三、四時間くらいで着くだろう

 

ウィル・クデタ達が、北の山脈地帯に調査に入り消息を絶ってから既に五日。生存は絶望的だ。万一ということもある。生きて帰せば、イルワの俺達に対する心象は限りなく良くなるだろうから、出来るだけ急いで捜索するつもりだ。幸いなことに天気は快晴。搜索にはもってこいの日だ。

 

幾つかの建物から人が活動し始める音が響く中、表通りを北に進み、やがて北門が見えてきた。と、ハジメはその北門の傍に複数の人の気配を感じ目を細める。特に動くわけでもなくたむろしているようだ。

朝靄をかきわけ見えたその姿は……愛子と生徒六人の姿だった。

 

「……何となく想像つくけど一応聞こう……何してんの?」

 

ハジメが眼になって先生に視線を向ける。一瞬、気圧されたようにビクッとする先生だったが、毅然とした態度を取るとハジメと正面から向き合った。

 

「私達も行きます。行方不明者の捜索ですよね? 人数は多いほうがいいです」

「却下だ。行きたきゃ勝手に行けばいい。が、一緒は断る」

「な、なぜですか?」

「単純に足の速さが違う。先生達に合わせてチンタラ進んでなんていられないんだ」

「お前それじゃあ分からないだろうが。実物を見せたほうが早いだろ?」

 

俺は誰もいないことを確認し宝物庫から魔力駆動二輪を取り出す。すると驚く先生たちだったが

 

「理解したか? お前等の事は昨日も言ったが心底どうでもいい。だから、八つ当たりをする理由もない。そのままの意味で、移動速度が違うと言っているんだ」

 

 魔力駆動二輪の重厚なフォルムと、異世界には似つかわしくない存在感に度肝を抜かれているのか、マジマジと見つめたまま答えない先生。そこへ、クラスの中でもバイク好きだったはずの相川が若干興奮したようにハジメに尋ねた。

 

「こ、これも昨日の銃みたいに南雲が作ったのか?」

「まぁな。それじゃあ俺等は行くから、そこどいてくれ」

 

すると先生は引くどころか逆にハジメの方の耳元に言って何かを呟く。俺は聞こえないが昨日の話からねれなかったのであろう。目元に化粧で隠された濃いクマがあるのが分かった。

 

「わかったよ。同行を許そう。といっても話せることなんて殆どないけどな……」

「構いません。ちゃんと南雲君の口から聞いておきたいだけですから」

「はぁ、全く、先生はブレないな。何処でも何があっても先生か」

「当然です!」

 

 ハジメが折れたことに喜色を浮かべ、むんっ! と胸を張る先生。

 

「……ハジメ、連れて行くの?」

「ああ、この人は、どこまでも〝教師〟なんでな。生徒の事に関しては妥協しねぇだろ。放置しておく方が、後で絶対面倒になる」

「ほぇ~、生徒さん想いのいい先生なのですねぇ~」

「まぁ、そうだろうな。空回りやドジは多いけど昨日の話をしたら絶対食いつくと思ったよ。」

「…でもどうするの?さすがにこの人数は乗れなくないよね?」

「俺が4輪運転するしかないだろ。人数的にギューギューだと思うが。荷台に乗れば全員乗れるだろ。」

 

ハジメも頷くと俺は魔力駆動二輪を宝物庫にしまうと、代わりに魔力駆動四輪を取り出した。

 

「はよ行くぞ。席割りは勝手に決めろ。」

 

と俺は運転席へと向かい運転をするため操作を一通り確認するのであった。

 

 

運転席には俺が乗り、隣の席には愛子が、その隣にハジメとハジメの上にユエが乗っている。先生がハジメの隣なのは例の話をするためだ。まだ他の生徒には聞かれたくないらしく、直ぐ傍で話せるようにしたかったらしい。

ついでに後ろの座席はシアとユキ、園部と菅原が乗っている

そしてしばらく運転しているとハジメと先生の会話が佳境を迎える。

当時の状況を詳しく聞く限り、やはり故意に魔法が撃ち込まれた可能性は高そうだとは思いつつ、やはり信じたくない先生は頭を悩ませている。心当たりを聞けば、ハジメは鼻で笑いつつ全員等と答える始末。

そして悩んでいる先生はいつの間にか眠ってしまい。俺の膝へと眠り込んでしまった。

 

まぁ俺たちの原因だしなぁ

どうしたものかと迷った挙句、そのままにすることにした。何せ、先生の寝不足の原因は、自分の都合で多大な情報を受け取らせた俺たちにもあるのだ。これくらいは、まぁ仕方ないかと思いつつ運転を続ける

 

「……二人とも、愛子に優しい」

「……まぁ、色々世話になった人だし、これくらいはな」

「……ふ~ん」

「ユエ?」

「……」

「ユエさんや~い、無視は勘弁」

「……今度、私に膝枕」

「……わかったよ」

「何で俺が膝枕しているのにお前らがいちゃつき始めるんだよ。」

 

二人の世界を作るハジメとユエに俺が突っ込むと、そんな二人を後部座席からキャッキャと見つめる女子高生、そして不貞腐れるウサミミ少女二人。

これから、正体不明の異変が起きている危険地帯に行くとは思えない騒がしさだった。

 

北の山脈地帯

 

標高千メートルから八千メートル級の山々が連なるそこは、どういうわけか生えている木々や植物、環境がバラバラという不思議な場所だ。日本の秋の山のような色彩が見られたかと思ったら、次のエリアでは真夏の木のように青々とした葉を広げていたり、逆に枯れ木ばかりという場所もあるらしい

その麓に四輪を止めると、しばらく見事な色彩を見せる自然の芸術に見蕩れた。女性陣の誰かが「ほぅ」と溜息を吐く。先程まで、生徒の膝枕で爆睡するという失態を犯し、真っ赤になって謝罪していた先生もさすがに鮮やかな景色を前に、彼女的黒歴史を頭の奥へ追いやることに成功したようである。

ハジメはその間に無人偵察機を飛ばして探索する

 

 おおよそ一時間と少しくらいで六合目に到着した俺達は、一度そこで立ち止まった。理由は、そろそろ辺りに痕跡がないか調べる必要があったのと……

 

「はぁはぁ、きゅ、休憩ですか……けほっ、はぁはぁ」

「ぜぇー、ぜぇー、大丈夫ですか……愛ちゃん先生、ぜぇーぜぇー」

「うぇっぷ、もう休んでいいのか? はぁはぁ、いいよな? 休むぞ?」

「……ひゅぅーひゅぅー」

「ゲホゲホ、南雲達は化け物か……」

「先生はともかく何で戦闘職組がそんなにへばっているんだよ。」

 

俺は呆れたようにしていると少し溜息をつく。そういえば俺たちはステータス上かなりの差があることをすっかり忘れてた。

そして休憩場所として立ち寄った川でハジメが険しい顔をした。

 

「川の上流に……これは盾か? それに、鞄も……まだ新しいみたいだ。当たりかもしれない。行くぞ」

「ん……」

「はいです!」

「うん。でも先生さんと生徒さんたちは限界みたいだけど。」

 

すると休憩をする暇もなかったしな

 

「はぁ。まぁ先生はしゃーないだろ。とりあえず先生は背負っていくから。」

「えっ?悪いですよ。」

「いいから。これ以上遅れると迷惑だし。」

「……うぅ。すいません。」

 

とそういえばと俺はおかしいことに気づく。

 

「ハジメ。そういえば気配感知をフルに使っているんだけど未だに魔物すら感知してないんだけど。」

「そういえば一度も戦闘はなかったよな?」

「確か魔物の群れがいるからこそ俺たちは呼ばれたはずなのにさすがに一度も魔物がいないっていうのはさすがにおかしいとは思わないか?」

 

すると全員がハッとする

 

「……何か嫌な予感がするな。」

「同感。それも面倒ごとの予感がプンプンする。」

 

と俺たちは警戒を強めながらたどり着いた先にはハジメが無人偵察機で確認した通り、小ぶりな金属製のラウンドシールドと鞄が散乱していた。ただし、ラウンドシールドは、ひしゃげて曲がっており、鞄の紐は半ばで引きちぎられた状態で、だ。

注意深く周囲を見渡す。すると、近くの木の皮が禿げているのを発見した。高さは大体二メートル位の位置だ。何かが擦れた拍子に皮が剥がれた、そんな風に見える。高さからして人間の仕業ではないだろう。ハジメの指示を受け俺、シア、ユキ全力の探知を指示しながら、自らも感知系の能力を全開にして、傷のある木の向こう側へと踏み込んでいった。

先へ進むと、次々と争いの形跡が発見できた。半ばで立ち折れた木や枝。踏みしめられた草木、更には、折れた剣や血が飛び散った痕もあった。それらを発見する度に、特に愛子達の表情が強ばっていく。しばらく、争いの形跡を追っていくと、シアが前方に何か光るものを発見した。

 

「ハジメさん、これ、ペンダントでしょうか?」

「ん? ああ……遺留品かもな。確かめよう」

 

 その後も、遺品と呼ぶべきものが散見され、身元特定に繋がりそうなものだけは回収していく。どれくらい探索したのか、既に日はだいぶ傾き、そろそろ野営の準備に入らねばならない時間に差し掛かっていた。

未だ、野生の動物以外で生命反応はない。ウィル達を襲った魔物との遭遇も警戒していたのだが、それ以外の魔物すら感知されなかった。位置的には八合目と九合目の間と言ったところ。山は越えていないとは言え、普通なら、弱い魔物の一匹や二匹出てもおかしくないはずで、逆に不気味さを感じていた。

しばらくすると、再び、無人偵察機が異常のあった場所を探し当てた。東に三百メートル程いったところに大規模な破壊の後があったらしい。俺たちはハジメの指示を受けその場所に急行した。

そこは大きな川だった。上流に小さい滝が見え、水量が多く流れもそれなりに激しい。本来は真っ直ぐ麓に向かって流れていたのであろうが、現在、その川は途中で大きく三つ抉れており、小さな支流が出来ていた。まるで、横合いからレーザーか何かに抉り飛ばされたようだ。

そのような印象を持ったのは、抉れた部分が直線的であったとのと、周囲の木々や地面が焦げていたからである。更に、何か大きな衝撃を受けたように、何本もの木が半ばからへし折られて、何十メートルも遠くに横倒しになっていた。川辺のぬかるんだ場所には、三十センチ以上ある大きな足跡も残されている。

 

「ここで本格的な戦闘があったようだな……この足跡、大型で二足歩行する魔物……確か、山二つ向こうにはブルタールって魔物がいたな。だが、この抉れた地面は……」

「とりあえずまずはほっとこう。一応下流で捜索しこれ以上見つからないようだったら降りるしかないだろうな。」

 

するとハジメが頷く。引き際に関してはそれが限界だろう

ハジメは、無人偵察機を上流に飛ばしながら自分達は下流へ向かうことにした。ブルタールの足跡が川縁にあるということは、川の中にウィル達が逃げ込んだ可能性が高いということだ。ならば、きっと体力的に厳しい状況にあった彼等は流された可能性が高いと考えたのだ。

ハジメの推測に他の者も賛同し、今度は下流へ向かって川辺を下っていった。

すると、今度は、先ほどのものとは比べ物にならないくらい立派な滝に出くわした。ハジメ達は、軽快に滝横の崖をひょいひょいと降りていき滝壺付近に着地する。滝の傍特有の清涼な風が一日中行っていた探索に疲れた心身を優しく癒してくれる。と

 

「いた。気配感知に引っかかった。一人だけだけど人間だな。場所は……あの滝壺の奥だ」

「生きてる人がいるってことですか!」

 

シアの言葉に頷く。先生達も一様に驚いているようだ。それも当然だろう。生存の可能性はゼロではないとは言え、実際には期待などしていなかった。ウィル達が消息を絶ってから五日は経っているのである。もし生きているのが彼等のうちの一人なら奇跡だ。

 

「ユエ、頼む」

「……ん」

 

 ハジメは滝壺を見ながら、ユエに声をかける。ユエは、それだけでハジメの意図を察し、魔法のトリガーと共に右手を振り払った。

 

「波城 風壁」

 

すると、滝と滝壺の水が、紅海におけるモーセの伝説のように真っ二つに割れ始め、更に、飛び散る水滴は風の壁によって完璧に払われた。

 

「ユキ、行くぞ。」

「はい。」

 

そして機動力が高い俺とユキが洞窟の中に入る

洞窟は入って直ぐに上方へ曲がっており、そこを抜けるとそれなりの広さがある空洞が出来ていた。

俺とユキが先頭でその空間の一番奥に横倒しになっている男を発見した。傍に寄って確認すると、二十歳くらいの青年とわかった。端正で育ちが良さそうな顔立ちだが、今は青ざめて死人のような顔色をしている。だが、大きな怪我はないし、鞄の中には未だ少量の食料も残っているので、単純に眠っているだけのようだ。顔色が悪いのは、彼がここに一人でいることと関係があるのだろう。

仕方ないし起きなければ身元の確認が取れないので俺は軽くその男性の頰を軽く叩く

するとイタタと声をあげ目覚める男性に俺たちは声をかけた

 

「お前が、ウィル・クデタか? クデタ伯爵家三男の」

「いっっ、えっ、君達は一体、どうしてここに……」

 

状況を把握出来ていないようで目を白黒させる青年に俺がギルドカードを見せる

 

「冒険者ギルド所属のスバルだ。フューレンのギルド支部長イルワ・チャングからの依頼で捜索に来た。」

「イルワさんが!? そうですか。あの人が……また借りができてしまったようだ……あの、あなたも有難うございます。イルワさんから依頼を受けるなんてよほどの凄腕なのですね」

「俺だけじゃないけどな。」

「スバル。居たか?」

 

するとハジメ達が遅れてやってくる。

 

「はい。居ましたよ。」

「ってことだ。詳細を聞いて後から遺留品についても報告したい。詳細を頼む。」

 

ウィルの話によるとウィル達は五日前、ハジメ達と同じ山道に入り五合目の少し上辺りで、突然、十体のブルタールと遭遇したらしい。流石に、その数のブルタールと遭遇戦は勘弁だと、ウィル達は撤退に移ったらしいのだが、襲い来るブルタールを捌いているうちに数がどんどん増えていき、気がつけば六合目の例の川にいた。そこで、ブルタールの群れに囲まれ、包囲網を脱出するために、盾役と軽戦士の二人が犠牲になったのだという。それから、追い立てられながら大きな川に出たところで、前方に絶望が現れた。

漆黒の竜だったらしい。竜は、ウィル達が川沿いに出てくるや否や、特大のブレスを吐き、その攻撃でウィルは吹き飛ばされ川に転落。流されながら見た限りでは、そのブレスで一人が跡形もなく消え去り、残り二人も後門のブルタール、前門の竜に挟撃されていたという。

ウィルは、流されるまま滝壺に落ち、偶然見つけた洞窟に進み空洞に身を隠していたらしい。

 

「わ、わだじはさいでいだ。うぅ、みんなじんでしまったのに、何のやぐにもただない、ひっく、わたじだけ生き残っで……それを、ぐす……よろごんでる……わたじはっ!」

 

洞窟の中にウィルの慟哭が木霊する。誰も何も言えなかった。顔をぐしゃぐしゃにして、自分を責めるウィルに、どう声をかければいいのか見当がつかなかった。生徒達は悲痛そうな表情でウィルを見つめ、先生はウィルの背中を優しくさする。ユエは何時もの無表情、シアとユキは困ったような表情だ。

でも死にかけたことある俺たちからいうとそれがすごくイラってくる。ハジメは、ツカツカとウィルに歩み寄ると、その胸倉を掴み上げ人外の膂力で宙吊りにした。

 

「生きたいと願うことの何が悪い? 生き残ったことを喜んで何が悪い? その願いも感情も当然にして自然にして必然だ。お前は人間として、極めて正しい」

「だ、だが……私は……」

「死んだ方からしたら助けた奴が死んだほうがよっぽどの無念だろうよ。お前には未だ心配してくれる家族がいるんだろ?それならまずは家族の元に帰ることだけ考えておけ。」

「それでも、死んだ奴らのことが気になるなら……生き続けろ。これから先も足掻いて足掻いて死ぬ気で生き続けろ。そうすりゃ、いつかは……今日、生き残った意味があったって、そう思える日が来るだろう」

「……生き続ける」

 

 涙を流しながらも、ハジメの言葉を呆然と繰り返すウィル。ハジメは、ウィルを乱暴に放り出した。

先程のウィルへの言葉は、半分以上自分への言葉だった。少し似た境遇に置かれたウィルが、自らの生を卑下したことが、まるで「お前が生き残ったのは間違いだ」と言われているような気がして、つい熱くなってしまったのである。

俺もハジメも経験があるからこそ言えることだ。俺にはもう家族はいないけどハジメには待っていてくれている人はいるだろう。

だからこそ疎外感を覚えてしまうし羨ましいって思ってしまう

俺はどうだろうか?

誰かが俺が死んだ時悲しんでくれるだろうか

分からない。

時々生きている意味さえ分からなくなる

そんなことを考えていると

 

「……大丈夫ですよ。」

 

すると先生が背伸びをしながら俺の頭を撫でる。

 

「ちょ。先生。なんすか。」

「大丈夫です。飯塚くんはもう一人じゃないんです。南雲くん、ユエさん、シアさん。ユキさんだって居ます。クラスでは白崎さんや八重樫さんだって心配しています。……もちろん私だって君の味方です。」

「……」

 

すると俺は少しキョトンとしてしまう。

 

「飯塚くんはもう少し周りのことだけではなくて自分のことを心配するべきだと思います。確かに君のご両親はすでに亡くなっています。でも自分のことに大事に思っている人がいるんじゃないのですか?」

「……」

 

クラスメイトが俺の方を驚いたように見るが俺図星を突かれいたためなくなってしまう

 

「君は優しい。でも少しばかり自分の事を気にするべきだと思います。自分の居場所を作るのに精一杯かもしれませんが。それでも今、大切な人が側にいませんか?飯塚くんを心配してくれる人がいるんじゃないですか?」

 

分かっている。そんなことは分かっている

でも改めて言われると、結構効くものがあった。

 

「……いっ。」

 

俺はパンと背中を思いっきり叩かれる。耐久値が高いのでダメージがないのだが

 

「…先生さんのいう通りだよ。いつも無茶や危ないことは僕たちが居ない時にこっそりやっているのも汚れ役を引き受けているのもスバルさんでしょ?」

「まぁ、キャサリンさんから夜中に特別危険な依頼を受けていることは聞いてましたしね。」

「……もうちょっと私たちを信用すべき。」

 

するとこことぞばかりに追い打ちを食らわせてくるみんなに苦笑してしまう

 

「……はぁ。守られてばっかで俺が言える事じゃないが、お前は俺の家族だろうが。簡単に死んだりしたら地獄の先まで追いかけてまで生き返させるからな。」

「……いやテメェが死んだらダメだろ。」

 

俺は軽く突っ込みを入れる。

 

「……はぁ。まぁ善処する。」

「それ絶対しない奴だろ。」

 

何とか皆気を持ち直し、一行は早速下山することにした。日の入りまで、まだ一時間以上は残っているので、急げば、日が暮れるまでに麓に着けるだろう。

 

 ブルタールの群れや漆黒と純白の竜の存在は気なるが、それはハジメ達の任務外だ。戦闘能力が低い保護対象を連れたまま調査などもってのほかである。ウィルも、足手まといになると理解しているようで、撤退を了承した。他の生徒達は、町の人達も困っているから調べるべきではと微妙な正義感からの主張をしたが、黒竜やらブルタールの群れという危険性の高さから愛子が頑として調査を認めなかったため、結局、下山することになった。

 

 だが、事はそう簡単には進まない。再度、ユエの魔法で滝壺から出てきた一行を熱烈に歓迎するものがいたからだ。

 

「グゥルルルル」

 

 低い唸り声を上げ、漆黒の鱗で全身を覆い、翼をはためかせながら空中より金の眼で睥睨する

……それはまさしく〝竜〟だった。


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