黒の剣士に憧れし者 連載中止   作:孤独なバカ

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信じろ

 魔力駆動四輪が、行きよりもなお速い速度で帰り道を爆走し、整地機能が追いつかないために、天井に磔にしたティオには引切り無い衝撃を、荷台の男子生徒にはミキサーの如きシェイクを与えていた。

その時、ウルの町と北の山脈地帯のちょうど中間辺りの場所で完全武装した護衛隊の騎士達が猛然と馬を走らせている姿を発見した。

俺はそんなのに構っている暇ないので高速で魔力を消費しながら運転していると先生がサンルーフから顔を出して必死に両手を振り、大声を出してデビッドという騎士にに自分の存在を主張する。

 

「デビッドさーん、私ですー! 攻撃しないでくださーい!」

 

シチュエーションに酔っているのか恍惚とした表情で「さぁ! 飛び込んでおいで!」とでも言うように、両手を大きく広げている。

正直言って気持ちが悪いので俺は問答無用で魔力を思いっきりつぎ込んだ

距離的に明らかに減速が必要な距離で、更に加速した黒い物体に騎士達がギョッとし、慌てて進路上から退避する。

魔力駆動四輪は、笑顔で手を広げるデビッド達の横を問答無用に素通りした。愛子の「なんでぇ~」という悲鳴じみた声がドップラーしながら後方へと流れていきそして、次の瞬間には、「愛子ぉ~!」と、まるで恋人と無理やり引き裂かれたかのような悲鳴を上げて、猛然と四輪を追いかけ始めるのだった。

 

「飯塚君! どうして、あんな危ないことを!」

「騎士の笑顔が気持ち悪かった。」

「飯塚くん!!」

「……ん、同感」

「それに止まっている暇はないだろ?先生。止まれば事情説明を求められるに決まってる。そんな時間あるのかよ? どうせ町で事情説明するのに二度手間になるし」

「うっ、た、確かにそうですけど……」

「明らかに気持ち悪くて魔力を込めましたよね。いいぞもっとヤレ」

「だからなんでネタ知っているんだよ。って突っ込んでしまった。」

 

といつも通りの俺たちに少し苦笑してしまう。ウルの街まで後数時間だ。

 

 

ウルの町に着くと、悠然と歩くハジメ達とは異なり先生達は足をもつれさせる勢いで町長のいる場所へ駆けていった。ハジメとしては、先生達とここで別れて、さっさとウィルを連れてフューレンに行ってしまおうと考えていたらしいが、むしろ先生達より先にウィルが飛び出していってしまったため仕方なく後を追いかけた。

俺はその間に買い出しである。ユキと、屋台の串焼きやら何やらに舌鼓を打ちながらコメや香辛料などを買い込みその後冒険者ギルドに向かう

 

すると丁度話が纏まったのか場は無言になっているところだった

 

「話が終わったか?」

 

俺が声を上げるとすると先生は俺の方を見る

そして

 

「飯塚君。南雲君なら……君たちなら魔物の大群をどうにかできますか? いえ……できますよね?」

 

すると真剣な顔でこっちを見る先生に俺はキョトンとしてしまう

 

「いやいや、先生。無理に決まっているだろ? 見た感じ四万は超えているんだぞ? とてもとても……」

「でも、山にいた時、ウィルさんの南雲君なら何とかできるのではという質問に〝できない〟とは答えませんでした。それに飯塚くん〝こんな起伏が激しい上に障害物だらけのところで殲滅戦なんてやりにくくてしょうがない〟とも言ってましたよね? それは平原なら殲滅戦が可能という事ですよね? 違いますか?」

「よく覚えているな。」

 

さすがに苦笑してしまう。俺のヒントにちゃんと気づけたらしい。

 

「二人とも。どうか力を貸してもらえませんか? このままでは、きっとこの美しい町が壊されるだけでなく、多くの人々の命が失われることになります」

「……意外だな。あんたは生徒の事が最優先なのだと思っていた。色々活動しているのも、それが結局、少しでも早く帰還できる可能性に繋がっているからじゃなかったのか? なのに、見ず知らずの人々のために、その生徒に死地へ赴けと? その意志もないのに? まるで、戦争に駆り立てる教会の連中みたいな考えだな?」

 

ハジメの揶揄するような言葉に、しかし、先生は動じない。その表情は、ついさっきまでの悩みに沈んだ表情ではなく、決然とした〝先生〟の表情だった。

 

「……元の世界に帰る方法があるなら、直ぐにでも生徒達を連れて帰りたい、その気持ちは今でも変わりません。でも、それは出来ないから……なら、今、この世界で生きている以上、この世界で出会い、言葉を交わし、笑顔を向け合った人々を、少なくとも出来る範囲では見捨てたくない。そう思うことは、人として当然のことだと思います。もちろん、先生は先生ですから、いざという時の優先順位は変わりませんが……」

 

一つ一つ確かめるように言葉を紡いでいく。

 

「南雲君、あんなに穏やかだった君が、そんな風になるには、きっと想像を絶する経験をしてきたのだと思います。そこでは、誰かを慮る余裕などなかったのだと思います。君が一番苦しい時に傍にいて力になれなかった先生の言葉など…南雲君には軽いかもしれません。でも、どうか聞いて下さい」

 

 ハジメは黙ったまま、先を促すように先生を見つめ返す。

 

「南雲君。君は昨夜、絶対日本に帰ると言いましたよね? では、南雲君、君は、日本に帰っても同じように大切な人達以外の一切を切り捨てて生きますか? 君の邪魔をする者は皆排除しますか? そんな生き方が日本で出来ますか? 日本に帰った途端、生き方を変えられますか? 先生が、生徒達に戦いへの積極性を持って欲しくないのは、帰ったとき日本で元の生活に戻れるのか心配だからです。殺すことに、力を振るうことに慣れて欲しくないのです」

「……」

「南雲君、君には君の価値観があり、君の未来への選択は常に君自身に委ねられています。それに、先生が口を出して強制するようなことはしません。ですが、君がどのような未来を選ぶにしろ、大切な人以外の一切を切り捨てるその生き方は……とても〝寂しい事〟だと、先生は思うのです。きっと、その生き方は、君にも君の大切な人にも幸せをもたらさない。幸せを望むなら、出来る範囲でいいから……他者を思い遣る気持ちを忘れないで下さい。元々、君が持っていた大切で尊いそれを……捨てないで下さい」

 

するとしばらく考えハジメはこっちを見る

俺は手を振ってそれを返すと少し苦笑したように笑った

 

「……先生は、この先何があっても、俺の先生か?」

 

 それは、言外に味方であり続けるのかと問うハジメ。

 

「当然です」

「……俺がどんな決断をしても? それが、先生の望まない結果でも?」

「言ったはずです。先生の役目は、生徒の未来を決めることではありません。より良い決断ができるようお手伝いすることです。南雲君が先生の話を聞いて、なお決断したことなら否定したりしません」

 

なるほど言質とって先生と対立するのを防いだか

これで敵が。いや先生が味方だと判断すると分かりやすいな

 

「スバル。」

「あいよ。ユキ。行くぞ。」

「うん。分かった。」

 

そして俺達は立ち上がる

 

「?南雲くん?」

「流石に、数万の大群を相手取るなら、ちょっと準備しておきたいから。話し合いはそっちでやってくれ」

「南雲くん!!」

「俺の知る限り一番の〝先生〟からの忠告だ。まして、それがこいつ等の幸せにつながるかもってんなら……少し考えてみるよ。取り敢えず、今回は、奴らを蹴散らしておくことにする」

 

 そう言って、両隣のユエとシアの肩をポンっと叩くと再び踵を返して振り返らず部屋を出て行った。ユエとシアが、それはもう嬉しそうな雰囲気をホワホワと漂わせながら、小走りでハジメの後を追いかけてゆく。

 

「俺は話し合いに参加するよ。さすがに連絡が漏れて仲間を殺しましたとかなったら後味悪いし。ユキは街の人に話して事情を伝えてくれ。女性や商人などは保険をかけて避難命令。至急にな。」

「分かったけど。」

「園部。お前からも事情を話せ。勇者パーティーの名を使う。」

「わ、分かったわ。」

「ギルド長は護衛と一応であるけど冒険者を集めてくれ。予備の戦力としておいておきたい。」

「りょ、了承した、」

「先生は……ってたく。」

 

俺は軽く先生の頭を叩く。先生がどこか後悔の念を抑えていた

 

「先生、暗い顔すんなよ。あれが最善策だよ。俺よりもずっと上手いやり方でハジメに他者を思い遣ることと力に溺れないってことを指し示した。……まぁ俺から言ってもよかったけど誰か俺以外にもハジメの間違いを指摘できる人がいたほうがいいからな。いい薬だろ。」

「でも。」

「……信じとけ。」

 

俺の言葉に先生はこっちを見る

 

「後悔するくらいだったら前線に出さなければよかったより、結果が出なかった時に後悔しろ。ここで先生に生徒の決断を後悔するっていうのは先生の流儀に反するだろ。危険な場所に出させてしまったって後悔するよりも、これが最善策だと思うことがハジメにとっても。俺にとっても味方になるってことではないのか?」

 

すると先生はキョトンとしている

そして俺は他のやつに指示を出していき、そして戦争をする準備に追われた


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