黒の剣士に憧れし者 連載中止   作:孤独なバカ

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夜の会合

俺たちはメルド団長率いる騎士団員複数名と共に、【オルクス大迷宮】へ挑戦する冒険者達のための宿場町【ホルアド】に到着した。新兵訓練によく利用するようで王国直営の宿屋があり、そこに泊まる。

 

「ハジメ。もう寝るのか?」

「うん。ちょっと疲れたから・」

 

しばらく、借りてきた迷宮低層の魔物図鑑を読んでいたハジメだが、少しでも体を休めておこうと少し早いが眠りに入ることにした。学校生活で鍛えた居眠りスキルは異世界でも十全に発揮されるらしい

 

「んじゃ魔物図鑑貸してくれ。俺も見ておくから。」

「うん。それじゃあお休み。」

 

すると居眠りスキルは今日も好調らしくすぐに寝息を立て始めるハジメに苦笑し俺はそれを読み始める

 

「……やっぱり直感の不安感は抜けないな。」

 

俺は軽く溜息を吐く

この訓練で何かが起こるのかわからないし

 

「……どうしようか。」

 

俺は気楽に寝ているハジメに俺は溜息を吐く

一応こっそり冒険者ギルドに登録し食料と砥石と予備の武器を買い揃えた。

宝物庫に眠っていた何故か分からないが放置してあったのでパクってきた空間に物を入れられる魔道具の中に入れてある

もちろん投擲用の剣も一緒に買ってある

……後から様子見ついでに軽く運動しておくか

と思った矢先だった

トントンとノックの音が聞こえる

 

「昴くん、起きてる? 白崎です。ちょっと、いいかな?」

 

 なんだ?と、俺はは慌てて扉に向かう。そして、鍵を外して扉を開けると、そこには純白のネグリジェにカーディガンを羽織っただけの香織が立っていた。

 

「……」

 

俺はその姿に少し見とれてしまう。バイトとかが第一だった俺は恋愛なんてさっぱりだった俺でもさすがに刺激が強い

 

「昴くん?」

「えっ。あっ。悪い。なんか用か。」

「ううん。その、少し昴くんと話したくて……やっぱり迷惑だったかな?」

「別にいいけど。ハジメ寝てるから静かにな。」

 

俺はそういうとドアを開き部屋に招き入れる

 

「うん!」

 

 なんの警戒心もなく嬉しそうに部屋に入り、香織は、窓際に設置されたテーブルセットに座った。

俺は手慣れたようにティーパックのようなものから抽出した水出しの紅茶モドキだが。香織と自分の分を用意して香織に差し出す。

 

「ん。」

「ありがとう。」

 

やっぱり嬉しそうに紅茶モドキを受け取り口を付ける香織。窓から月明かりが差し込み純白の彼女を照らす。黒髪にはまるで本当の女神のようだ。

 

「……はぁ。んでなんのことだ?」

 

俺が聞くと香織はさっきまでの笑顔が嘘のように思いつめた様な表情になった。

俺はなんとなく不安げな表情を浮かべると

 

「明日の迷宮だけど……昴くんには町で待っていて欲しいの。教官達やクラスの皆は私が必ず説得する。だから! お願い!」

 

すると香織はそんなことを言い出す

 

「……理由を聞いていいか?」

 

香織は突拍子ないことが多いが何か理由がないとそんなことを言い出すことはない

そう思っている

 

「あのね、なんだか凄く嫌な予感がするの。さっき少し眠ったんだけど……夢をみて……昴くんが居たんだけど……声を掛けても全然気がついてくれなくて……走っても全然追いつけなくて……それで最後は……」

 

 その先を口に出すことを恐れるように押し黙る香織。落ち着いた気持ちで続きを聞く。

 

「最後は?」

 

 香織はグッと唇を噛むと泣きそうな表情で顔を上げた。

 

「……消えてしまうの……」

「……」

 

確かに不吉な夢だ。しかし、所詮夢である。それでも、俺も同じような経験がしたことがあった

 

「悪い。それはできないな。」

「……」

「っていうよりも家族をおいていけないんだよ。一応俺はハジメに恩だってあるし、それに身内のゴタゴタの時に庇ってくれたのはハジメの家だったしな。」

 

俺は直感でハジメに何かが起こることが分かっている。親しい者を守る。それが家の流儀だった。

 

「…てかお前なら俺のこともハジメのことも守れるだろ?」

「え?」

「香織は治療師だろ?治癒系魔法に天性の才を示す天職。何があってもな……たとえ、俺が大怪我することがあっても、香織なら治せるよね。その力で守ってくれよ。それなら、絶対俺たちは大丈夫だ。それに」

 

俺は少しだけ目線をそらし

 

「……ここに居たらお前と八重樫が守れないだろうが。」

 

俺は自分でも恥ずかしいと思う言葉に頰を掻く。

元々友達のために俺は剣を振るうのであってこの世界が別にどうであっても関係はない

 

「……変わらないね。昴くんは。」

「何が?」

 

香織の言葉に訝しそうな表情になる。その様子に香織はくすくすと笑う。

 

「昴くんは、私と会ったのは高校に入ってからだと思ってるよね? でもね、私は、中学一年の時から知ってたよ」

「……?」

 

あったことあったか?

俺は少し考え一つだけ引っかかっていたことが思い浮かぶ

 

「あっ。もしかしてナンパされていたあの時の少女か。」

「えっ?覚えていたの?」

 

いや、思い出した。そういえばどこかで見たことがあると思ったんだよ。

 

「あぁ。結構覚えている。ちょっと漫画で見たやり方で助けたから。ってそれがよく俺って分かったな。あの時俺は警察に電話かける振りしただけで名前も何も話してなかっただはずだと思うけど。」

「助けてくれた人の名前くらい覚えているよ。それに高校二年生の時もお婆さんを南雲くんと助けていたでしょ?」

「……そんなことあったか?」

「私がその時見た昴くんは南雲くんが土下座して昴くんがクリーニングのお金を払っていただけだしね。」

「……あぁ。そういえばあったな。」

 

ハジメの厨二時代か。それなら少し覚えているな

俺も黒の剣士に憧れていたのもあり。ちょっと恥ずかしい時期と重なっている

 

「ちょっと恥ずいな。結構黒歴史かも。」

「なんで?むしろ、私はあれを見て二人のこと凄く強くて優しい人だって思ったもの」

「……は?」

 

俺は耳を疑った。そんなシーンを見て抱く感想ではない。

 

「だって、二人共。小さな男の子とおばあさんのために頭を下げてたんだもの」

 

あぁ。そういうことか

 

「うん。強い人が暴力で解決するのは簡単だよね。光輝くんとかよくトラブルに飛び込んでいって相手の人を倒してるし……でも、弱くても立ち向かえる人や他人のために頭を下げられる人はそんなにいないと思う。……実際、あの時、私は怖くて……自分は雫ちゃん達みたいに強くないからって言い訳して、誰か助けてあげてって思うばかりで何もしなかった」

 

別にそれが間違っているわけではない。それが普通なのだ。

この世のほとんどが理不尽で固められている。平等社会って言っているものの弱いものは強いものに従うしかないのだ

 

「だから、私の中で一番強い人は昴くんなんだ。高校に入って昴くんを見つけたときは嬉しかった。工事現場で働いているときは驚いたけど。」

「……給料一番高いんだよ。今できる仕事では。」

「うん。でも、雫ちゃんも私も。昴くんのことを心配しているんだよ。だからかな、不安になったのかも。迷宮でも昴くんが何か無茶するんじゃないかって。不良に立ち向かった時みたいに……でも、うん」

 

香織は決然とした眼差しで俺を見つめる。

 

「私が昴くんを守るよ」

 

その決意を受け取る。真っ直ぐ見返し、そして頷いた。

 

「それなら俺もお前を守らないとな。」

 

俺はそういうと頰を緩ませる

 

それからしばらく雑談した後、香織は部屋に帰っていった。

……八重樫のことも心配だったのだがまぁ、今日はいいか。

俺は眠りに着く。香織が俺たちの部屋を出て自室に戻っていくその背中を無言で見つめる者がいたことを知らないまま。


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