カロッテ村のゾネさん   作:おかひじき

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特に用はなくても毎回シュネッケ湿地も大砂丘も出す


ウシマを討伐したらカオスホルンが生えた

 

 獲得したアイテムの確認作業は、

あとでメルクリウスの瞳も使って一つ一つやっていくとして。

ヴィオラートが帰還したので、また私が外に出る番ですね。

 

 今回はヴィスコー川南側の中流部、

ヴェストリヒナーベルとは別方向のシュネッケ湿地と大砂丘に向かい、

そこにある素材アイテムを回収しつつ、ヴィオラートのアトリエにおけるボス敵の1体、

「ウシマ」を倒すのが大きな目的です。

 

 湿地・砂丘どちらの採取地も、特にここでしか手に入らないという物はないのですが、

シュネッケ湿地では大量の蓮花が採れ、何かの宝石の原石、真珠玉、コメート原石、

猫目石の原石等の宝石類が手に入るのが特徴。大砂丘は、

白砂岩や真珠玉などの海系アイテムの高品質・高レベル従属のものが採取出来ます。

 

 シュネッケ湿地はともかく、大砂丘は遠すぎる上にウシマがいて、

普通の人が素材アイテム目当てに行くには厳しいですが、

私のフライングボードがあればそこは解決ですね。

 

 ゲーム原作では特に何かイベントに絡むわけでもないウシマも、

私はちょっと素材として興味があるので、

今回その素材採取のためだけにプロスターク武器屋で、

素材採取用にカスタマイズしてもらった作業専用の三日月斧、

ちょっと高めの3500コールも出して買って来ましたよ。フフフ……。

 

 メンバーはいつもの、私、スフィアちゃん、パメラさん、

そしてローラントさんで行こうと思います。

本当はハーフェンで鍛冶屋のダスティンも誘おうかと思ったんですが、

何というか、忙しそうだったので気後れしたというか、

実はヴィオラートとは知り合いでも私とはそれほどでもないので、

ちょっと躊躇したというか、気後れしたというか。

 

「ゾネさんなのに、引っ込み思案な乙女さんみたい……」

「元々乙女ですよ!?」

 

 錬金術と原作知識以外は人見知りする乙女さんなんですよ私は!

世界全ての初対面の人に気安く話しかけられる、

鋼の心臓のヴィオラートとは違うんです!

それにスフィアちゃん、ゾネさんなのにとは何ですか!

 

 まるで私が繊細な乙女じゃなくて、

人生の重さで既に身体のあちこちガタが来て、

日々の疲れで心の底まで悟り切った諦観に支配され、

もう他人の目とかどうでもよくなって、

堂々と昔手に入れた萌え萌えグッズを実用品として使い始めた、

くたびれた上に恥知らずのおっさんであるかのような……。

 

「……もう慣れた?」

 

 慣れた……って。うんまあ正直、今の身体で過ごしてもう14年、

成長を続ける今の心と身体に対して、「もう変わらない」心の中のおじさんの記憶なんて、

アルバムとか画像フォルダにしまっただけの思い出の写真みたいなもんだけどさ。

 

「慣れて来たとは言えるのかな」

 

 恋愛云々は思い悩む以前に全く興味持てないけどさ。

この身体の所作とか言葉遣いはもう外見だけじゃなくて、

自意識においても女の子に寄って来てるからね。

 

「まあ、なるようになるかなぁ……」

 

 元おじさん転生美少女特有の諦観で人生の悩みを棚上げすると、

私はいつものようにワームコンパスを取り出して、

発生した霧の中をハーフェンに向かいます。

 

 首都ハーフェンと発展著しいカロッテ村を繋ぐ、私特有のワームコンパス効果の白い霧。

 

「五里霧中って言葉、私は好きだなぁ」

 

 周囲、未来が見通せないという意味合いで、本来ネガティブな言葉である五里霧中。

しかし、私はその見通せない霧の中に、何か素晴らしいものがあるんじゃないか、

そう期待してしまう。

 

 私は結局楽天的で、好奇心旺盛なのだろう。

根っからの探検家と言うか研究者気質と言うか……。

 

 おじさんだった時代には、とにかく普通の職業を目指して、

贔屓目に見てもあまり……上手く行ったとは言い難い。まあ、本来、

錬金術士のような……何かを知る職業で、今のように……「こうなる」べきだったんだろうな。

 

 かつての私は最後の最後まで、その自分の本質に気づくことは出来なかったけど。

 

「ショッギョムッジョ?」

「それは何か違う」

 

 

 

………………………………

 

 

 

 何も言わなくてもついて来るスフィアちゃんとパメラさんに、

ハーフェンでローラントさんを加えて、

例のごとくフライングボードでヴィスコー川を越えて、

カナーラント中南部あたりを占めるシュネッケ湿地へ向かいます。

 

 途中に落ちている素材は……ちょっと保管場所に余裕がないので、

スルーして行きます。保管場所も何とかして増やしたいよなぁ。

錬金ハウスの時とは村の状況が変わってるけど、また村長さんに相談してみようかな。

 

 そんなことをつらつら考えながらも何度か野営して、

特に何事もなくシュネッケ湿地に到着しました。ここからは積極的に採取していきます。

 

 まずはとにかく大量に採れる蓮花。これという使い道はないので、売却用にでもしますか。

お店に並べておくと若干高く売れるんですよね。

 

 あとは宝石類も結構回収出来ます。何かの宝石の原石がメインですが、

天然の真珠玉もあるんですね。貝の種類が違うからなのかそうでないのか、

こちらの方が他よりも高品質なようです。

 

 シュネッケ湿地を回り、目に付く素材アイテムを回収して、

わずかに乾いた地面を見つけてそこでキャンプして、

ついに道を塞ぐボス、「ウシマ」と対峙します。

 

 ウシマとはその名の通り、「ウシ」と「島魚(クジラ)」を合わせたような見た目。

ウシのような黒白まだら模様の身体と、額の大きな一本角がチャームポイントです。

 

 そもそも倒してもゲーム的には何があるわけでもなかったのですが、

エアトシャッターに続いてローラントさんの目に見える戦果(その2)

にしてもらえれば、価値は生まれると考えて倒すことにしました。

 

 リアルと化した現状、ゲーム内期限の5年が過ぎても、

私の人生もカロッテ村も続いて行くわけですからね。持ちつ持たれつですよえっへっへ。

 

 ウシマとの戦い自体は装備も整って、アイテムで火力も回復も過剰なほどなので勝ち確です。

ローラントさん、パメラさん、スフィアちゃん、3人の前衛に隠れて時折回復を混ぜつつ、

毎回ヘルフェンダイスを投げていれば……ほら。倒しました。

 

 盛り上がりもへったくれもありませんが、

こういうアイテムを充実させて敵を押しつぶすのも、

アトリエ錬金術士のたしなみ……ですよね?

 

 そこ、ローラントさん微妙な顔しない。

 

 いくらカタログスペック上は耐えられると言っても、

私があの巨体の攻撃を食らうなんて想像すらしたくないんです。

火力で圧倒して、私への直接攻撃はパメラさんに分散したり、

ローラントさんにブロッキングしてもらって防ぐ。

これが私の生存戦略なのです!怖いものは怖いのです!

 

「ゾネさんは堂々と情けないことを言う」

 

 スフィアちゃん、変なこと憶えなくていいんです。

私を参考にするとダメ人間の完成ですよ!今更ですが。

 

 さあ、それじゃそこで伸びてるウシマから剥ぎ取れるものを剥ぎ取っておきましょう。

ゲームでは真珠玉くらいしか落とさなかったこのウシマですが、

実際そんなことはないですよね?

 

 用意して来た三日月斧をローラントさんに渡して、

ご立派な一本角を折ってもらいます。折れると同時に、

豪快な音と共に大地が揺れ、天に雷の柱が降り注ぎましたが、

角の根元を若干残して大部分を折り取ることが出来ました。いい仕事ですね。

 

 早速手に取って、実際どういう素材なのか確かめます。

どうやら、角質系の柔らかい角ではなく、骨や歯のような硬さがありますね。

頑丈な装飾品素材として扱うのがよさそうですが……。

 

 そうだ、この世界には魔法っていう概念がありましたね。

少しMPを通してみましょう。お、いい具合です。先端部を中心に静電気が発生しています。

ウシマの攻撃に雷属性がありましたから、それかな?

 

 え?何ですかスフィアちゃん。その奇妙なジェスチャーと叫び声は。上?空?

上空には、いつのまにか黒い雷雲が広がって……。

 

「ぬわーーーーーー!!!」

 

 

 

………………………………

 

 

 

《ゾネさん、ゾネさん》

《あれ?スフィアちゃん、何がどうなったんです?》

 

《ゾネさんに雷が落ちた。頭頂部にゆかいな円形ハゲが出来たけど、回復魔法で治した》

 

《ゆかいなとか言わないで下さい!回復してくれたのは感謝ですけど》

 

 不用意に未知の素材、しかもボスクラスのものに手を出して、

あわれゾネさんは好奇心の代償を支払うことになったわけですね。

 

 参考書でも見たことがない未知の素材に、不用意にMPまで流すべきではなかったのです。

今まで概ね上手く行っていた分の反動というか慢心の報いですねこれは。

 

《それで、回復したならいつ目覚めるんです?》

《もうすぐ……あ、ゾネさんの魔法に何か変化が……》

《え、変化って何?起きかけの時にそういう事言われると……ああっ!?》

 

「しゃげーーーー!!!」

 

 わけのわからない叫び声を上げて飛び起きた私が目にしたのは、

限りなく視界を埋め尽くす砂浜とヤシの木、南国の日差し。

 

「大砂丘だー!」

 

 そう、ウシマと戦った湿地帯の周囲で休むよりは、

砂地とはいえ普通の土地で休む方がまだマシと、

私以外の2人+1人で私をフライングボードに乗せて、

南の大砂丘まで運んでくれていたのだ。マジ感謝。

 

 もう日も落ちてきているので、今日はこのままヤシの木の下、

小高くなった場所でキャンプですね。

ローラントさんの用意した軍用テントとキャンプセットで一眠りです。

 

 幽霊のパメラさんがいると、夜の警戒をお任せ出来るので本当に楽ですね。

しかしローラントさんは1人別のテントを使った上に、

宵の入りと夜明け前に普通に警戒に立ってくれました。本当にクソ真面目ですね。

 

「お前はもう少し、雇用主であり守られる側であるという自覚を持て」

「うーん、そうなんですかね?そんなに自覚ないですか?」

 

 私のその言葉に、ローラントさんは呆れたようにこう答えた。

 

「お前はここに来るまで何で気を失っていたのか憶えていないのか?」

 

 ……はい、その節はまことに。唐突に危険行為で自爆されたら止めようがないですもんね、

 

「雇い主のお前と、報酬をもらっていない彼女達、

それと私とでは立場が違う。対価をもらう以上出来ることはやらんとな」

 

 そう言えば、スフィアちゃんもパメラさんも賃金0でしたね。2人ともありがたいですねぇ。

 

 そうか、今更ながら気づかされた。アトリエの錬金術士って、一緒に冒険に出てはいても、

立ち位置としては護衛を雇う側の立場なんだ。私はそれを今ようやく実感した。

 

 この感覚は大事にしないとな。もうゲームじゃなくて、

何かこう、本当に人を雇って動かしている感覚というか。

今更ながら、お店のワンオペ禁止とかちゃんとしといて正解だったな。これからも頑張ろう。

 

 というわけで、大砂丘の探索を始める私達。上質の真珠玉と白砂岩を筆頭に、

海系素材アイテムを次々と回収していきます。

 

 そして、この辺りに生息するモンスター、

マーマンとローレライの混成部隊を倒したその時に、

私の中に新たな魔法スキルが生まれた事を自覚しました。

 

「……カオスホルン?」

 

 本来ウシマが使う、敵全体に雷属性ダメージを与える大技です。

正直、既に各種攻撃アイテムが充実しているので、

これが身についたからといって今更何か変わるというわけでもないのですが、

「自力で大魔法が使える」ってのはやっぱりロマンでしょう!

 

 いやあ一時はどうなることかと思ったウシマ討伐ですが、

私的にはものすごい大収穫ですね!これも私の日頃の行いが良いからでしょう!

 

 帰ったら、そろそろ攻撃アイテムの吟味と厳選もしないとなぁ。

大砂丘の雑魚敵に、無駄に大技のカオスホルンを叩き込みながら、

私は攻撃アイテムの強化調整計画を立てるのだった。

 

 ゲームならいつも早めに攻撃アイテムは強化調整したんだけどな。

お店の実際の忙しさを見誤ったのもあるし、なかなか想定のスケジュール通りには行きません。

 

 私の新技「カオスホルン」が、

初期値でも大体敵に70~300くらいのダメージを出せるようなので、

半端な攻撃アイテムはいらなくなってしまいましたからね。

 

 まあ、実際もうアイテムの従属効果を再調整して強化する時期なので、

そっちにしっかりと注力して徐々に完成させようと思います。ハイ。

 

 

 




ここの蓮花は使い道なくてコンテナの邪魔に……
アッハイ!感謝祭で売ります!

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