そして運命の日。1年目11月が始まった。
ヴィオラートの両親が村を出て、彼女が兄と一緒に自立生活を始める。
ゲーム原作とは違い私がいて、
ヴィオラートも既に中和剤位は作れるようになっているという違いはあるが、
格闘系病弱お嬢様のブリギットが引っ越して来たり、
ヴィオラートが私を誘って村唯一の酒場の月光亭に行ってマメのスープを出し、
ちょうど新しい料理を探していたマスターのオッフェンさんが感心して、
様々な仕事の依頼を紹介してくれるようになったり、
1人で村周辺の隣接草原に向かったヴィオラートにあわててついて行ったり、
村長さんと村おこしイベントについて考えたり……と、
盛りだくさんのゲーム開始時のチュートリアル的イベントをこなして行く。
前世でも思ったけどこの開始時の11月、イベント濃すぎだろ!
私はと言えば、ヴィオラートの助手っぽい何かだと周囲に認識されたらしく、
ヴィオラートのつけたゾネちゃんという愛称で親しまれていますよ?
「ゾネちゃんは、どこで錬金術を習ったのかな?あたしは、
いま村にいる錬金術士の人に教えてもらったんだけど……」
うん、知ってる。教えてもらったと言っても、
ヴィオラートはその錬金術士、
アイゼルさんに師事してたってわけでもなくて、
基礎の基礎を習ってちょっとした学習ノート的な、
「アイゼルの参考書」を渡されただけだって事も知ってる。
「えっと、そのアイゼルさんの参考書に載ってるのが……」
中和剤とチーズケーキ、ウニとクラフトとロウと調合用専用釜のレシピ。
「うん。あと雑貨屋のクリエムヒルトさんにもらったお料理入門もあるけど、
こっちはあんまり作れてないなあ」
ヴィオラートはそう言ってるが、
結構いいペースでアイテム作成出来てると思う。
必要な機材の乳鉢は真っ先に作ったし、
稼げる依頼のマメのスープ、中和剤(数で勝負)ウニ(ちょっとお高い)
あたりは優先的に作って依頼に対応出来るようにした。
あとは、数も揃い、HPMPLP回復にも使えて報酬額も高いアイテム、
伝統ケーキも作っておきたかったが……まだそれほど資金に余裕がなく、
そのレシピが載った参考書「伝統の味」を手に入れてないから仕方ない。
もう少し稼いでからでないと、自転車操業になりそうだし。我慢しよう。
「あ、そうだ!」
何ですか?ヴィオラートさん。
「じゃじゃーん!1000コールの『伝統の味』買っちゃいましたー!」
な、何ィ!?
「あたしもいつか買おうと思ってたものだし……ほら、
ゾネちゃんが選んでくれた依頼のウニとか中和剤とかで、結構稼げたから」
私が欲しそうに……我慢してるのが分かったからか?
どうやら「伝統の味」だけではなく、
雑貨屋にあった残りの参考書と機材も一気買いしたらしい。
ゲーム的には実に正しい攻略法だが、
まさかこの「本物」のヴィオラートが私の気持ちを汲み取って、
思い通りの「攻略」に付き合ってくれるとは思わなかった。
もしゲームみたいな好感度が私にあれば、+16とか一気に上がってそう。
原作の、店番対応するだけでガンガン上がる好感度は疑問だったが、
ああ、こりゃ好感度上がるわ、うん。
ま、まあマメのスープや中和剤は1日に10個単位作れるし、
中和剤は作り溜めしても劣化しないとか?
ウニは1個で1日かかるけど報酬は高いとか?
小麦粉も火薬材料として使えますよとか?
色々ゲーム知識を提供しましたので、情報料代わりです?
勘違いしないで欲しいのです?うん。
ええと、残りの参考書は……「平野部の山草」に「家庭食材」、
あと機材が「ミルクパン」と「とんかち」か。
参考書は「伝統の味」以外はレシピのない素材採取系なので、
その分の作成アイテムは増えないが……伝統ケーキの他にも、
琥珀湯が作れるようになったのは大きい。
琥珀湯はMP回復アイテムだが目標作成レベルが20であり、
手軽に作れる錬金レべリングアイテムとして一部界隈で名をはせている。
ゲームではなく現実世界と化し、データの見えないこの世界で、
頼れるのは己の過去の記憶だけである。
しかし、散々やり込んだこのゲームの世界で、
琥珀湯の最適作成術(自己流)位は心得ている。
「1日2個!」
ゲーム攻略的にはここで琥珀湯を一気に作れるだけ作って、
錬金レベルを一気に上げるのだが、今私は現実に生きていて、
しかもヴィオラートを巻き込むことになる。それは出来ない。
だから無理をしない範囲での最適作成術でじんわりレベルを上げる。
それでも、目標作成レベル20の経験値に身をさらせば、
次の街ファスビンダーまでは確実に、
おそらくその次の街のハーフェンまでの道は開かれるだろう。
「ヴィオラート先輩、ありがとうございます。
この瞬間、勝ちは確定しました!」
「えーと……ゾネちゃん?」
見せてやるぜ、転生知識ってやつをよぉ!
俺のテンションから若干おいてけぼりのヴィオラートを見ながら、
私は琥珀湯じんわりレベリングの詳細計画を立てるのだった。
……………………
琥珀湯レベリングだけでなく、依頼もこなして資金を稼いでおく。
そろそろ素材アイテムも心もとなくなってきたし、
調合の連続でMPやLPも減ってきたので、
村の南の「近くの森」から「南部平原」まで一回りして、
素材集めと冒険者レベルのアップに努めよう。
MPやLPを回復するには、冒険の旅に出るのが一番!
なんか奇妙だけど、ゲームではとにかく日数が経てば回復する仕様で、
バトルで受けるダメージはほぼHPだから、
冒険に出るとMPとLPはマジで回復していったんだよね。
それを確かめる意味でも、この状態で探索に行ってみたい。
「南部平原かぁ。ちょっと遠いから……」
ヴィオラートに相談したら、お兄さんのバルトロメウスさんと、
彼女の幼馴染のロードフリードさんがついてきてくれることになった。
……お兄さんですらちょっとお小遣いを欲しがるのに、
無料でついてきてくれるとか結構露骨だよな、ホントに。
で、私とヴィオラートのダブル錬金術士に前衛2人、
探索と採取作業は何事も無く終わり、MPとLPも全快。
各種素材アイテムを手に入れて村に帰りついた。途中ピンクの熊さんが、
【いい香り】のハチミツを落としてくれたのは運が良かった。
なぜ熊がピンク?と思われるかもしれないが、
この世界で一番弱くて村の近くにいる熊はピンクなんです、ガチで。
手に入れた素材を使って、次の街で必要となるアイテムを作る。
ハチの巣からロウ、マシなフェストから普通の品質の研磨剤、
ニューズからクラフト(爆弾)。一番いい琥珀湯を選別し、
ファスビンダー現地でのフラム作成用に、
フロジストン・中和剤・クラフトを用意する。そうこうしているうちに、
酒場のオッフェンさんから次の街、ファスビンダーの話を聞く。
よし、次の街という名の次の参考書という名の次の作成アイテムだ!
(錬金キチ並感)
「色々買いたいものもあるので、ちょっと稼いでからにしましょう」
「そうなんだ、ゾネちゃんはしっかりしてるなぁ」
とある理由で日程調整し、その分依頼で稼いで、
たるとワインの街、ファスビンダーへと向かう。
途中1回盗賊には遭遇したものの、
兄・騎士・ダブル錬金術士の私達なら全部一撃で終了。
さすがエンゲルスピリットは最強だぜ!
割とあっさりファスビンダーに到着し、
ヴィオラートのアトリエ名物、初回イベントラッシュに遭遇する。
やり手女剣士に見えて意外に夢乙女っぽいカタリーナさん、
元シーフ系酒場の渋マスターのザヴィットさん、
ワイン倉の店番眼鏡っ娘でその実格闘系重戦士のミーフィスさん。
で、そのミーフィスさんの「早飲み」イベントで、
原作通りにヴィオラートがニンジン酒を飲み干してぶっ倒れた。
ええと、ああ、運ぶの私とロードフリードさんですね、ハイ。
お兄さんは宿でヴィオラートを寝かせてそのまま看ててくれました。
やっぱりゲームじゃ見えない所で役に立ってるよね……うん。
想定通りというか予想外というか、私に暇が出来たので、
まず村から持ってきたアイテムをこの街の「量販店」に登録した。
量販店と名前はついてるけど、これ手工業者の工場だよね、多分。
登録アイテムをコピーして、この店では8個ずつ並べてくれる。
大量に利用する中間素材アイテムや薬、爆弾など、
登録しておくとおかないでは総作業時間が段違いになる。
そして重要なことだが、この量販店の商品入荷と、
酒場の依頼更新は1のつく1・11・21日になるのだ。
それが日程調整の理由である。
酒場の依頼は「おおむね」その通りの日程で更新されていたから、
量販店もその通りに登録した商品を並べてくれるかな?並べて欲しい。
一通り登録のあとは、ワイン倉の販売店で参考書と機材を大人買い。
インゴットと祝福のワインも買い込んでおく。
そしてその参考書の中の一つ「続・俺とばくだん」に記された、
新アイテム「フラム(炎爆弾)」を作成、
ギリギリで量販店に登録し、その後丸1日はあえてそのまま休日に。
と思ったら酒場の依頼に「井戸水」「中和剤」があったので、
ただ水を運んでくる仕事と、その水を中和剤にする仕事に1日を費やした。
まあ、ヴィオラートはまだ頭が痛いとか言いながら、
申し訳なさそうな顔して寝込んでたし丁度いいと言えば良かったんだけど。
満を持して量販店の在庫を確認すると……良し!あった!
登録した6つのアイテムは完璧に在庫が揃って、
フラム・研磨剤・クラフト・琥珀湯・ロウ・ハチミツが、
全て8つずつコピーされて売り出された。
お金の許す限り買い込もう。
ここで攻略的には、ある程度ファスビンダーで依頼をこなして、
カロッテ村以外での営業度を稼ぐというやり方もあるのだが、
実際現実となればそういう極端な攻略寄りの姿勢はとりにくい。
なので、量販グッズを仕入れられた所で良しとして、村に戻った。
……………………
村に戻って次に向かうのは、南部平原の片隅にあるカロッテ遺跡である。
遺跡への道は爆弾での破壊が必要な岩に隠れていて、
破壊力のあるフラムが必要なのでその時を待っていたのだ。
ファスビンダーで仕入れた爆弾に、伝統ケーキを追加で作成して、
まだ村に滞在しているアイゼルさんを追加で雇い、いざ遺跡へ!
この人ゲーム開始前とか途中でいなくなりそうな師匠キャラなのに、
ゲーム中はずっと村で普通に滞在してるんだよな……。
私は「この間の探索中にチラッと見えた!」と言い張って、
邪魔な岩をクラフトとフラムで破壊して、首尾よく遺跡を発見する。
感心する皆を引き連れて、
まず最初に1階の木箱から武器と防具を回収した。
はっきり言ってしょぼいものだが初期装備よりは強くなれる。
とりあえず結構強い両手剣、バイキングの剣が出てきたので、
バルテル兄にあげておいた。「いいのか?」って言ってたので、
そのうちちょっと仕事を手伝ってもらいますって言っておいた。
労働力ゲットだぜ!
さて。これならもう勝てるだろう。
今回遺跡に入った最大の目的、それは参考書「四季の植物」である。
これを手に入れるためには、
石の守護者……石人ゴーレムを倒さなくてはならない。
原作は3人でも「大体倒せる」から、5人いれば絶対倒せるよね?
結果。勝てました。
バルテル兄とロードフリードさんの前衛ブロッキングもそうですけど、
私・ヴィオラート・アイゼルさんのトリプル錬金術士は強かったです(小並感)
クラフト・ケーキ・魔法が飛び交ってあっという間に終了でした。
主に遺跡耐久度を見極めてクラフトを投げていた私が、
なぜかこの命知らずめ的な目で見られているのはなぜなんだぜ?
ちゃ、ちゃんと見極めてたから!フラム投げるほどギリギリ攻めてないから!
ま、まあとりあえず今の目標は達成しました。
疲れたし村に帰りましょう。ね?
クラフト=はじける木の実を詰め込んだ=ベアリング弾系圧力手榴弾