さあ、何から手をつけましょうか。シュトーラちゃんが予想外に食いついて来た、
レヘルンクリームの開発をまたやることにしましょうか。
私もどちらかと言うと好きな方ですし。
まず保存の問題は、従属効果をコントロールすることにより解決しました。
【腐りにくい+3】【痛みにくい++】【腐りにくい+2】【祝福された】
等々の劣化を防ぐ従属効果を組み合わせて、
常識を覆す「溶けないアイス」を作れるようになったからです。
従属効果の調整に使う素材採取には、
何個も作ったゲヌークの壷とダグザの釜が活躍しました。既存設備の有効活用ですね。
レヘルンクリームの劣化係数が0.6、
【腐りにくい+3】での減少幅が0.4なので、
あと0.2の効果を重ねて付ければ劣化無しに出来るのです。
鉱石や雑貨類と同等になるって言えばその非常識さが分かると思います。
ここらへんは実際の調合でどうにか調整します。
次の問題はバリエーションの少なさなんですが、
ブドウ、ハニーミルク、フィルマーの3種は既に登録済み。
あと出来そうなのは、
ランドー、ヴァッサメローネ、メローネの新発見フルーツ3種と、
それぞれをシャーベット状にしたフローズン系のもの、計12種類を考えています。
この12種を初期の商品として、
レヘルンクリーム専門のテナント風ショップ「レヘルン12」を、
2号店の一角を改装してオープンしたいと考えています。
そのための拡張性の高い大型店舗ですからね。
今現在クリエムヒルトさんが、
ランドー、ヴァッサメローネ、メローネの「何かのタネ」化を進めているので、
上手く行けば今年の夏には改装オープン出来るはずです。
部門担当は食いつきのいいシュトーラちゃんを考えています。
本人にやる気があるし、能力的にも最高レベル以上なのでちょうどいいですね。
最終的には、必要経費と専用調整ワームコンパスを渡して、
量販店からの仕入れとシャーベット製造を彼女にやってもらおうと思うので、
案外もうこれで行けるんじゃないでしょうか。
レヘルンクリームやシャーベットの受け皿は、
「変な形」のデニッシュを専用に調整して量販登録すればいけるかな?
ヴェルンやリサの食料品系量販店は全然使ってないから、
素材用デニッシュに加えてチーズケーキもそっちに移して、
本体のレヘルンクリームは、劣化しないレヘルンクリームが登録出来るレベルの、
プロスターク量販店の6枠を目いっぱい使って……。
うん、クリエムヒルトさんとシュトーラちゃん次第だけど、これで行けそうですね。
と言うか、私自身も心ゆくまでレヘルンクリームを堪能したいので、
直接手伝いをしてでも実現出来るように頑張りましょう!
ヴィオラートには悪いけどにんじん味は無しの方向で。商売だからね。仕方ないね。
にんじん味は時々私が作って置いておきましょう。溶けないし。
デニッシュは堅めでカリカリで、水分に強い構造にして……。
うん、やっちゃいますか!とりあえずシュトーラちゃんと話し合って、
そのへんの細かいとこまで決めちゃいます。店の東側に看板と入り口を作って、
店内カウンターは透明なショーケースが絶対必要ですね。理想は透明樹脂の類ですけど、
無理なものは無理なので今作れるガラス製のものにしますか。
製造・在庫管理用の金属製レヘルンクリーム容器は溶鉱炉で作れるとして、
レヘルンクリームを盛る2重スプーンの方は……ちょっと分からないですね。
最初は普通のおたま的なものにする他ないか。仕方ないですね。
え?庭があるので野外テーブルが欲しい?そこでレヘルンクリームと、
それに合うお菓子でも食べられるようにした方が……って。
ああそうか、お店でもレヘルンクリームを作るなら、
その材料を利用したジュースやミルクは容易に提供出来ます。
軽食はデニッシュやチーズケーキ主体にすれば……。
あと量販登録出来る食料品でこの場所に合ってそうなのは、
アルファルの糧食と、カロッテマガストとか?
あれは宝石キャンディが材料にあるので多分甘いもののはず……。
あれ?カロッテマガストってもう作ってなかったかな?作ってない?
まさにカロッテ村名物料理って感じなのに今まで忘れてました。
あとで作ってどこかに量販登録しておきましょう。
そして、そういう形式で売るとなると、
レヘルンクリームを含むメニュー全体が高級路線になりそうですね。
私的には出来るだけ安くしたいと思うんですが。
「それは、やめたほうがいいですの~」
「ん?なぜですか?」
「客層が違うですぅ~!安売りが好きな人は、
小洒落たお店でお高いレヘルンクリームを食べたりしないですの~!
安くなったら、いっぱい売れて忙しいのに儲からなくなるですぅ~!」
そっか。高級路線で行くと、高くてもレヘルンクリームを買うという、
高給路線に乗ったお客だけになる。
逆に安売り路線だと、お手軽に試してみようっていう客が増えるけど、
「死ぬほど忙しくなるのに単価が減る?」
そうじゃん。感謝祭や2号店オープンセールですらあの忙しさだったんだ。
それがレヘルンクリーム専門部門店っていう画期的な新商売、
それに低価格セールを重ねてしまったら、その忙しさは……。
うん、私の考えが足りなかったなこれは。
じゃあ価格は適正の高級路線で、軽食もあって、人手は……。
最初はシュトーラちゃんが指導するから、
何でもいいから3人ぐらいかき集めてきて欲しいって?
「やり方は簡単ですぅ~!ちょっと教えれば誰でも出来ますの~!」
だ、そうだ。年単位で指導してくれるらしい。
ありがたいけど、シュトーラちゃんは自分のお店はいいんだろうか?
「大丈夫だ、問題ないですの~!」
まあなんかこの人増殖するし、大丈夫なんだろう、多分。
それじゃ、2号店の東側を改造して、日の当たる庭にテーブルを置いて、
まあ夏はパラソルでも置いた方がいいかな?
金属製の南国風パラソル、木製の和傘風もいいかもしれない。
直射日光が店内に入らないようにカーテンもつけて、
ショーケースは商品が選べるように透明なガラス製、
裏は開けやすくしてそこに12個の金属製ボックスを用意。
在庫分も欲しいから金属製ボックスは多めに用意して、
その隙間には樹氷石をつめて……うん、いい感じじゃない?
追加の人員に関しては、村の中で私の世代の子達がそろそろ仕事を探してるんですよね。
私が知っている中で良さそうなのが2人。なのでその2人と、私の母親を。
そうです、私の母親です。母は昔から洗濯屋で働いていたのですが、
給料は仕事についたときから変わらず月200コール。
ハイ、洗濯屋のお仕事なんてこんなもんなんです。むしろいい方です。
定職あるだけで御の字でした。昔の村は。
いかに錬金術士と私達が規格外か分かりますね。
特別にひいきはせずに、3人とも見習いで月200コール、
1年以上勤めあげたらその時点で月400コール、
その後も能力に応じて昇給、ボーナスありの条件で雇うことにします。
……母さん、私を自慢するのはやめてください。
いえ、私がやったことは……確かにそうですけど。好きなことをやってただけで。
あーいけません、頭をなでてはいけません!死んでしまいます!(恥ずかしさで)
地獄のわが子自慢会場と化したお店の休憩室を抜け出して、
カロッテマガスト作成に向かいます。
とりあえず作ったら、ヴェルンの食料品系量販店にでも登録しておきますか。
これ、にんじんを使った料理で、HP・MP・LPが少量回復するってのは分かるんですけど、
それ以上の具体的な所は分からんのですよね。
にんじん好きのヴィオラートだからイベントでもあるのかと思ったら、
別にそんなことはなかったし。でも喜びそうだな、本当に。
全盛期のメッテルブルグみたいに複数の量販店が村に出来れば、
即登録して村の名物にするんですけど。量販店がずっと1つじゃ足りないですよね、実際。
原作じゃ、どんなに村……街を大きくしても発展はある程度で留まって、
量販店も1つ止まり、新しいお店も2つ止まり。
うーん、将来を考えて、村長さんに今からでも相談しておくべきですかね?
将来的に鍛冶屋や港なんかの誘致や整備もお願いしたいのです。
現在、市街地は街道に沿って南北に伸びていて、ちょっと東西にはみ出し始めた形。
結果的に南部平原や獣人原の海岸部へのアクセスが繋がって来ているので、
港は特に現実味を帯びて来ているはずです。
北に作るか南に作るか、いっそ両方に作るかは関係各所の判断によるでしょうが、
砂浜を掘って大きな港を作るなら北側、
河口部や遺跡、古代の通路を利用するなら南側ってとこですかね。
もちろん両方って手もあります。
「うむ、どれがいいと思う?」
え?いやいや村長さん、私に聞かれても。
「何を言うか。この村で、国外や将来まで見据えて大きな計画を立てることにかけて、
お前以上の者はおらんではないか」
「だ、断言された!?」
そうでした。地球のおじさんとしてはせいぜい、
大卒条件のお仕事に応募して落とされる程度の役にしか立たなかった教養ですが、
この世界じゃその無駄だと思っていた国社英数理その他の内容だけでも国政レベルです。
特に政治や戦略、その概要だけでも学んでるのはお貴族様や騎士様しかいません。
当然ですけど。つまりガチです。これも村には私しかいないんです!
「ええと、竜騎士隊の支部が出来るんですよね?
なら、南側を軍港として作ってもらって、
北には商船の出入りする大きな貿易港を整備するのが良さそうですね。
軍港は分けたほうがいいでしょう。
両方整備するのに足りないものがあるなら、私も色々提供しても良いのですが……」
この時代、かなりお金がかかりそうな爆弾類と、
エアドロップは私が提供出来るでしょう。
思いつきで提案した私でしたが、村長さんの反応は良いものでした。
「うむ、それなら北の港は村営で行けるかも知れん。
去年と今年見込みの税金を引いた村の諸経費残りが、
とんでもない額になっていたからのう」
マジか……。村だけで港を運営出来るならそれに越したことはない。
細かい国の制度は知らんけど、最終的に自治都市レベルまで行けるんじゃないか?
元々廃村寸前の村だったとはいえ、政治体制とかどうなってるんだろうな。
「……あれ?」
私、何で自然に村長と話し合って、
村の将来が自治都市云々とか大それた絵図を未来に描いてるんだ?
いや、足し合わせた年齢から見れば不自然なもんでもないけどさ。
元々錬金術士で商人っていう存在になりたかっただけで、
そういう政治的な動きには興味ないと自分では思っていたんだが。
ああそうか、分かった。私しかいない、ってのが原因かも。
私しかいないから、私の描いた稚拙な未来図であっても皆引っ張られて、
私もそれに答え続けていつの間にか中心人物になって、という無自覚なサイクル。
もう逃げ道ないじゃないですか。輪の中を走り続けるハムスターじゃないですか私。
「それとな、例の大木と花畑が明日完成するからの。一応、見に来て欲しい」
あ、オークションで私が1位になって、
大木を保存して、その周りをにんじんの花壇にするって言っちゃったやつ、
やっと完成したんだ。
結構時間がかかってたけど、どういう感じになったんだろうな?
とりあえずカロッテマガストの調合は、明日それを見に行ってからにしよう。
………………………………
普通だった。でも私以外にはすっごく評価高かった。
私の言う「大木を取り囲む花壇」って、
ようは駅前のオブジェとそれの周囲を囲む花壇なわけですよ。
本当に私にとっては当たり前の光景……だったわけですね。
多分、このあたりではまだ生まれていなかったか、
知られていない設計だったんでしょう。
ごく普通の大木を取り囲むのは、リクエスト通りのにんじんの花の円。
何重にもなったその円の内側には、
何と「サンゴ」と「蓮花」と「ドンケルハイト」の花の円もありました。
全て【変な形】なのはキワモノ趣味に合わせたのですかね。多分。
「ゾネさんの花壇……ユニーク?」
「村の中心って感じが出るし、面白いんじゃないか?」
はい、スフィアちゃんに酒場のオッフェンさん、代表的なご意見ありがとうございます。
建設途中で何度か詳細な設計要望を聞かれたので、とっさに色々答えたのですが、
おおむね好評で良かったですよ。中心部の錬金キワモノ花畑で、
キワモノ村にふさわしいユニークさも表現出来ていますので、
ちょうどいいんじゃないですかね。うん。
「さて、それじゃ私はお仕事に戻りますか……」
稚拙な未来図→見た事のない理想郷の神話語り