私達が出店のチェックついでに街を回っている間に、
バルテル兄さんはあの衣装で立派にオークショニアをこなし、
懐も暖まったようです。
それはそれとして、
身内感覚でシュトーラちゃんのレヘルンクリームをつまみ食いして、
後でしっかり請求されてぼやいていましたとさ。
おそらくカロッテマ市民祭全体含めて、
この催しはこの形を元に来年以降もやることになりそうです。
こんなんで大丈夫なんでしょうか……。
あ、そういえば、広場で各種告知を行った際に、
私が「魔法・職工両ギルド長」と紹介されました。
職工はともかく魔法は聞いてないんですけど!?
いや、分かりますよ?元々過疎の村だったんで、
職工だけじゃなくて魔法使える人もそうはいないって!
後から来た人にやってもらうのも何か違うし!
私は魔法技術はともかく、一応マジックアイテム作る錬金術士だし、
魔法自体も見た目クッソ派手なカオスホルン使えるし!
紹介されたその時に実際やったことは、
オイゲン村長……現市長の脇に立って頭を下げるだけでしたが、
何かものすごく噂になっているようです。
「両ギルド長誕生!?」だの「かわいいギルド長」だの。
カロッテマ市誕生とか竜騎士隊支部とか港整備とか、
もっと重要な情報あるのに何でよりによって私だけ噂になってるんですか!
こんなんで本当に大丈夫なんですかね?(大事なことなので以下略)
まあ私が心配する程でもなく、市民祭終了後しばらくして、
街の中央東寄りの小高い場所に竜騎士隊支部が完成。
ローラントさんが騎士隊を引き連れてやって来ました。
それを出迎えるオイゲン市長さんの隣に、
オッフェンさんに加えて私が立っているのは何の冗談ですかね?
「そう嫌がらんでくれ。迎える側のワシが1人2人では格好がつかんのじゃ」
「そういうものですか?」
「そういうものじゃ」
どちらかと言えば、
おじいさんとオヤジと孫娘的な目で竜騎士隊の皆さんに見られているような気がしますが、
実務的な話は市長さんとオッフェンさんが対応してくれて、
私は紹介されてよろしくしたり、
愛想のいい顔をして立ったり座ったり挨拶したりしてれば良かったので、
そういう面では心配は無かったのですが。
ええと、つまり、趣味がしたいのです!
私の自覚する所の趣味である錬金術、冒険、お店経営、
そのどれかに関わる事に触れていない時間は、ここ何年かで今だけ。
何か時間を無駄に過ごしているような気がして仕方ないのです。
あ、そうか。これが久々に感じる「我慢して仕事をしている」感覚か!
忘れていましたよ、自分が自分の意のままにならない時間の中にいるこの感覚を。
……お話が終わり、ローラントさんから正式な護衛依頼の手続き等の説明を受けた後、
仕事の時間は終わりました。
「ゾネさん、ゾネさん」
「何ですか?スフィアちゃん」
「……シミュレーションゲーム?」
久々に聞くその一言で、私は目覚めました。
そうです、これは退屈な仕事ではなく、
内政系のシミュレーションゲーム的な内容が動き出したと思えば?
「……これも趣味では?」
唐突にやる事が変わったので戸惑っていましたが、
私が趣味だと思えるような仕事なら何の問題もありません。むしろバッチコイです。
さようなら今までの私。こんにちはこれからの自分。
そうです、内政シミュレーションならむしろ大歓迎じゃないですか!
未熟だった自分を脱ぎ捨てて、新しい自分に進化しましょう。
ビバ!趣味に生きる自分!
……また1つやる事が増えただけのような気がするけど、
これは社会的にやらなきゃまずいことになるような感じのお仕事だし……。
また、人を増やすしかないかな。
おかしいなぁ。オーナー店主でウハウハ計画を立てたおぼえはあるけど、
バリバリのキャリア組でカローシ寸前ラインを生き延びる予定は無かったんだけどなぁ。
「ジゴージトク?」
はい、その通りです。
ちょっと、私の出来る事を無自覚に広範囲で見せ過ぎたのかもしれないな。
私自身だって、私みたいな人が他にいたら積極的に仕事を頼んでいたと思うから、
何とも言えない。確かに自業自得という言葉が一番似合う。
仕方ないのでそこらへんは諦めて、いつもの錬金術の研究に移りましょう。
………………………………
まずはゲヌークの壷でパチパチ水を湧かせるにはどうしたらいいかですね。
うーん、「リリーのアトリエ」では普通に作れていたものが、
こっちのやり方では湧かなくなってる理由。
確かリリーのアトリエとヴィオラートのアトリエでは、
同じゲヌークの壷でもアイテム効果もレシピも違うんですよね。
リリーの方では「同じ液体が延々湧き続ける効果」で、
ヴィオラートのアトリエの「液体がランダムに湧き出す」効果ではないのです。
リリーの方では確か、樹氷石を別の石に換えて効果も変えていたと思うのですが。
レシピの違いもあるので何とも言えませんね。
とりあえず、レシピを色々変えて、
樹氷石だけでなく他の石も使って色々試すしかないですかね。
10個ぐらい条件を変えて作って試してみますか。
……結論から言うと、出来ました。「パチパチ水」は「日影石」から、
「超純水」は「プラティーン」から、
美容に良い「ホッフェン水」は「シュヴェアメタル」の壷から、
「ろ過水」が「グラビ石」の壷から、
かなり綺麗な「蒸留水」が「フェスト」の壷から、
それぞれ湧き出す効果の物を作る事が出来ました。
途中からはアイゼルさんも加わって、あーでもないこーでもないの試行錯誤。
あーこれです、私今生きてるって実感あります!
ラスト1つ、「鋼の心臓」を材料にした壷は、
何と「暗黒水」が湧き出すアレな壷になってしまいました。
これは全く新しいアイテム効果で、凄いことなんですが……。
「あんまり……イメージ良くないわね」
そうですね、攻撃アイテムの薬、一般的に言えば毒薬が湧き出す効果ですからね。
こんな効果もあるなんて知れたらゲヌークの壷の評判が落ちるかも。
これは、私達の心に秘めておきましょう。
新しい未知の効果が存在すると分かったので、
ゲヌークの壷と、多分ダグザの釜もそうですがその価値がうなぎのぼりですね。
色々な液体の薬を湧かせたり、貴重な食品を湧かせたり出来れば。夢が広がります。
そうやって、私が望み通りに錬金術三昧だったその頃。
ヴェストリヒナーベルでの死闘を繰り返していたヴィオラートが、
上層のヴェストリヒヨーコーロで存分に武器防具(伝説級)を作り倒し、
ついに帰って来ました!
ロードフリードさんは「グラム」「天使の盾」「光の鎧」の3点装備、
何気に鍛冶屋のダスティンさんも「雷神の槌」と「光の鎧」でガッツリ装備を固めています。
天使の盾に至っては追加で3つも作って来たようです。
ラピスちゃんと、ブリギットと、あとはパウルにでも持たせておきましょうか。
みんなが固くなるのは良いことです。きっと。
さて。ヴィオラートが最下層まで行って、
参考書「伝説の勇者の伝説」を手に入れたようなので、やることがあります。
これが手の中にあるうちに写本作りです!
どういうことかって?実はですね、この「伝説の勇者の伝説」ですが、
PSPリメイクの追加要素として登場した参考書で、
光の鎧やグラムなどの伝説級の武具が作れるようになるのですが、
バグなのか仕様なのか、電源を落とすと、
参考書はあるのにそのアイテムが作れない状態になるのです。
今、現実においてそんな状態がありうるのかは知りませんが、
指をくわえて見ているわけにはいきません。せめて写本ぐらいはやっておきたい。
というわけで、最近思うがままに錬金生活を送って気力体力の充実しまくったこの私が、
一心不乱に昼夜を惜しんで写本を完成させておくことにします。
お店関連はユーディウスさんとシュトーラちゃんに、
街のあれこれは市長さんとオッフェンさんに頼んでおきます。
ほんのしばらくなのでご容赦願いたい。
と、気合いを入れて写本に取り掛かったはいいですが、
必要な部分の写本は数時間で終わってしまいました。
ほとんどがラノベみたいな勇者の物語で、
レシピと製法は巻末の設定資料集みたいなものの中に書かれていただけでしたので。
いやー、ゲームの設定資料集とか読み漁った記憶が蘇りますね。
というわけで、頼んだ人に終了の挨拶をして、
通常通りに帰って、新アイテムの構想を練って、眠りにつきます。
これでこのレシピを失わないで済むでしょう、多分。
それでは、戻ってきたヴィオラートに詳しい状況の確認と、
これからの話をしておきましょう。ここらへんで話し合っておかないと、
細かい話をつめずにヴィオラートが旅立ってしまう事にもなりかねませんからね。
もう予想されるその時まで1年ちょっとしかないんで。
来年の11月頃にヴィオラートとバルテル兄さんの両親が帰って来て、
ヴィオラートが決断し、私も色々将来を決めることになるでしょうから。
概ね予想通りといいますか、ヴィオラートは錬金術と商売の才能はありますが、
その上にかぶさってくる社会・政治面の適性は壊滅的なようです。
当たり前と言えば当たり前ですが。
これについては、社会とか政治とか基礎教養として持ってる私の方がおかしいんです。
ヴィオラートは、
「さっすがゾネちゃん!」
と言って、勝手に両ギルド長に祭り上げられた私を応援してくれます。
これは、学級委員長やら自治会長やらのなり手が誰もいない時に、
その役職を誰かが引き受けたことにホッとする一般人ムーブそのものですね。
まあ、変にこじれたりするよりはいいですけど。
実際私しか出来る人がいないってのは分かってますし。
どうやらヴィオラートは、
錬金術アカデミーがあるザールブルグやケントニスに行ってみたいと思い始めている模様。
そうだよね。この周辺、カナーラントやフィンデン王国で行ける所は大体行ったよね。
残ったのはファクトア神殿とマイバウムの塔ぐらいだけど、
錬金術士的な意味での回収はおそらく終わっているので、
あとは現地の冒険者に任せようと思います。ヴィオラートがどうしてもと言うなら行くけど、
私は冒険者になるつもりは無いし。
私には、お店経営から発展した内政系発展ゲームみたいな楽しみや、
原作に直接関係ない色々なゲーム知識、
はたまた「科学」知識を使った新アイテム作成の道がこれから先も見えている。
しかしそれは、どちらもヴィオラートの目指す道ではないとも思う。
だってヴィオラートってお店も錬金術も実践派だったし。
言ってみれば、その、私みたいに、
何日間も家の中で各種設計図をあーでもないこーでもないとこねくり回したり、
街や自分の将来像を願望まじりの妄想を入れつつ予測を立てて話したりというような、
理論・知識・願望が先立った理想を形に落とし込む作業よりも、
あるものを実用化したり発展させたりといった作業の方が得意。
というか、ゲームの期間内はそれ中心でしたよね。
そう考えると、それ以上の何かを求めるのなら、
村から旅立つしかなかったというのも道理です。
原作ではヴィオラートが旅立った後の村は描かれておらず、
若干その後が気になる感じでしたが……今は、私がいます。
錬金術士で、かつての人生においての基礎教養と経験があり、
しかも16歳の美少女。1号店を元に大規模店舗2号店をどっしりと構え、
街に居座る気マンマンです。
ああ、うん、これは何の心配も無く旅立てちゃいますよね。
ついでに言えばワームコンパスもフライングボードも秘密バッグもあって、
帰るのも容易で旅も快適。
どこまで通用するのか分かりませんが、
日帰りで遠距離旅行も出来るんじゃないですかね。
……ん、あれ?
この3点アイテムってもちろん原作でもありましたよね?
そうなると、エンディングの旅立ちの解釈自体が変わってくるような。
結構帰ってこれそうですよね。これは。
とりあえずそのあたりを聞いてみると、はい。
流石に日帰りとは行きませんが、新しい街についたら一旦帰ってくるというのです。
そこで私に、秘密バッグと繋がったコンテナの管理を任せたいとの事。
悪くない話ですね。私が何か入れる代わりに旅先のアイテムを入れてもらえば、
居ながらにして遠距離交易が出来る魔法のコンテナの完成です。
連絡はそこを介した手紙や、ワームコンパスで出来ますし。
ヴィオラートに一時的に同行すれば、私もカロッテマ市に居ながらにして旅行が出来る?
いいですね、それ。
「あ、でも、今のところは村を離れるには早いかな」
ああ、そうでしたね。ヴィオラートが村にとどまった理由は、
両親がにんじんの出来ない遠い場所に移住しようとしたからでした。
実際移住してしまった現在、その件はまだ片付いていません。
私の知識上ではあと1年ほどで解決する問題なのですが、
今それを言っても根拠ゼロだし、何とも、もどかしい感じですね。
「伝説の勇者の伝説」は消費アイテムと考えればいい!
一斉に作りたいだけ作ってしまえばいい、いいんだ……(1敗済み)