「まあ、とりあえずこれをどうぞ」
私は休憩がてら、ヴィオラート専用に作ったにんじんのレヘルンクリームと、
新作の「ブドウソーダ」を取り出します。
「うわぁ、おいしーい!何これー!」
どうやら成功のようですね。
にんじんレヘルンクリームともう1つ、ゲヌークの壷から湧き出したパチパチ水と、
幸福のブドウを使って作成した炭酸飲料、ブドウソーダです。
砂糖の類が無くて甘味がハチミツになってしまったのが難点ですね。
出来れば行商人さんには、
「ザラメ」その他の甘味料を探し出して欲しい所です。
出来れば、材料として使いやすいように安く。
どうやらこのブドウソーダがヴィオラートの関心をこれでもかと引きつけたらしく、
パチパチ水の湧き出すゲヌークの壷の製作法を教えることになりました。
この反応と関心の高さ、これひょっとしてまたやばい商品では?
単独で大ブームが到来するレベルの大ヒット商品の予感がします。
ゲヌークの壷の作り方さえ分かればいくらでも湧き出す、
この世界には存在しなかった人工炭酸水を使った炭酸飲料。
正確には天然炭酸水は存在するでしょうが……。
人工的に、大量生産出来る点が重要です。これを使った炭酸飲料は、
「レヘルン12」の主力商品になるかも知れません。
とりあえずヴィオラートにこのゲヌークの壷のレシピを教え、
食材の湧き出す「ダグザの釜」の方の改良にも手をつける事にします。
こっちの食材はどういうものが出てくるのか楽しみですね。
ほねつき肉とかカリカリの実とか出てきてくれたら嬉しいんだけど。
資金はもうたっぷり稼げてるし、色々な雑事の合間をぬってやり遂げよう。
まあ、学術研究に終わりなんてないんですけどね……。
ヴィオラートも生き生きして、私のノートを見ています。
やっぱりヴィオラートは、具体的な目標に向かっている時が一番生き生きしますね。
私も負けずに頑張るとしましょう。
………………………………
そして数ヶ月。いや、違うんですよ。
本当は1ヶ月以内に切り上げようとしたんですが、
ゲヌークの壷の方ではまた新たにブドウソーダの湧き出す壷を作り上げて、
もう片方のダグザの釜の方では胡桃やアステリアなど、
フィンデン王国の食材を湧かせることに成功して、
つい夢中になって次々作成してしまい、
それを置くために南側の南港予定地の近くに新しく置き場を作って、
壷と釜をそこに保管するという話にまでことが進んでしまったのです。
だって、このゲヌークの壷とダグザの釜を売ったりはしたくないし、
かと言ってこれとここから出てくるアイテムの保管場所があるかって言われたら、
今の所そんなものないって言うしかない状況でしたからね。
仕方なかったのです。
しかもそれと平行して、
色々な街に営業に回ったりお店の様子を見たりといった通常営業は続いていて、
さらに「両ギルド長誕生!?」「かわいいギルド長」のうわさが流行ってしまったらしく、
私を見にお店……私がちょくちょく顔を出す2号店の方にお客さんが押し寄せました。
レヘルンクリームの素材アイテム探しとか、
私も他に色々やりたいことはあったのですが、
とてもじゃないけどこれ以上やる事を増やせない忙しさになってしまいました。
一応、ゲヌークの壷とダグザの釜の研究は一段落したので、それが救いですかね。
私には時折入るお勉強の時間や、ギルド長としてのお仕事もあったので、
深く考えなくても働き過ぎな気がしますけど仕方ないですよね。
仕方ないのじゃ。未来のために頑張る時なのじゃ。(のじゃロリ風)
そう言えば、私の身体も結構成長しました。主に体つきの面で。
一部が成長するたびに服とかを何度も買い換えなきゃいけないんでかなりの時間のロスです。
身長は全く伸びてないんですけどね!
見事なトランジスタグラマーとなりつつある私を見て、スフィアちゃんもご満悦。
自分より背が小さい所が特にいいらしい。子供か!子供だった!少なくとも見た目は!
さて、時はいつの間にか5年目の2月にさしかかりました。
もうすぐ……と言っても9ヶ月ぐらい後ですが、
「ヴィオラートのアトリエ」運命の最終日です。
ゲームとしてはフラグや数値で決まる分岐エンドでしたが、
今ここにあるのは大分状況が変わった現実です。
ヴィオラートが彼女にとってよい道を選択できることを祈りましょう。
え、私ですか?私はもう街に残って、
裏の支配者系のミステリアス美女になるという道を決めてるので……。
「小さな巨人?」
うっさい!成長期をあきらめない!成人までに急激に伸びて、
最終的には街を支配する妖艶な女ギルド長になるんです!
ま、まあ私は子供じゃないので?
次点で、年齢不詳の母さんになってくれる系黒幕美少女で妥協しても良いのですよ?
その将来のために、今死ぬほど忙しいのですが……。
と、ここで色々と探してもらっていた行商人さんが大きな成果を持ち帰ってくれました。
なんと、参考書「珍味の旅」と「今日の食卓」、「銘酒探訪の旅」を見つけて来てくれたのです。
これはまた別作品に出てくる参考書で、「ヴィオラートのアトリエ」では手に入らないもの。
これでそれぞれ、新しい食品類、酒類等の調合が出来るようになりました。
その中でも最も重要なのは、「珍味の旅」です。
この内容には「粉ミルク」「カステラ」「ヨーグルト」等々重要なアイテムのレシピがあります。
その中でも一番、今の私にとって飛びぬけて価値があるのが「乳糖」、
シャリオミルクから乳糖を作るレシピです。
現状ハチミツや果物ぐらいしか甘味料がない環境を一変させる神アイテム。
シャリオミルクは、妖精の森かリサの街に行けば無料で分けてもらえるので、
早速試作に入ろうかと思います。出来れば量販登録出来れば嬉しいのですが。
まあそこは出来上がってから考えるとしましょうか。
………………………………
はい、またやってしまいました。今回は1ヵ月半程ですが。
忙しくなるとどうしても余裕が無くなりますね。
私が食品系、ヴィオラートがお酒とその他のアイテムを試作して、
登録出来るものは量販店に登録しておきました。
登録出来たものは、
「乳糖」「粉ミルク」「カステラ」「ヨーグルト」って所ですかね。
ヴェルンとリサの量販店に分散登録しておきましょう。
他は量販登録出来なかったり、材料が揃わなかったりでダメでした。
この中で、「乳糖」は在庫が並ぶと同時に目いっぱい買い込んで、
お菓子の試作用の材料としてお店に置いておきます。
私の知識からアイディアだけは色々メモしておいたのですが、
時間に余裕が無くて未作成のお菓子が溜まっていたので、
希望する従業員さんに、お菓子作成の訓練がてらに試作を任せようと思います。
お菓子作りの基本の甘味料、そこに安い「乳糖」が加わって、
特にシュトーラちゃん、ラピスちゃん、スフィアちゃん3人が一緒になって、
積極的にお菓子の試作に挑戦してくれました。
これには私も稀に参加して、他の様々な材料と新しいお菓子レシピの提供をしています。
……私がない記憶を振り絞って書いたレシピが曖昧すぎて、
ほぼ完成品はシュトーラちゃん頼りになってしまいましたが、まあ仕方ないですよね。
おじさんはお菓子は食べるけどお菓子作ったりはしなかったもんね。
最も基本的な乳糖の製法は3人共すぐに理解して、
他にも大量の仕事を抱えているシュトーラちゃん以外、
今まで冒険に出ない時はマスコット枠状態だったラピスちゃんとスフィアちゃんは、
見事に乳糖の調合から始めるお菓子作成マシーンと化しています。
まだ始めたばかりですが、
既に「クッキー」「カップケーキ」「パウンドケーキ」は成功しました。
しかし錬金レシピでは無く、私の知識も不確かだったので、
特別な効果は何もありませんでした。仕方ないですね。
……3人とも、よく試作に挑戦してくれるのはいいんですが、
完成品のお菓子で常に3つ巴の戦いを繰り広げるのはどうかと思いますが。
量は十分あるんだから、最初から取り決めておけばいいじゃないですか。
「シュトーラは全部売ろうとするから」
……あのさぁ。まあ、結果として3人の中でバランスが取れてるみたいだから、
別に悪いわけじゃないけどさぁ。
「ヴィオラートもゾネさんも甘いですの~、マスコット枠って何ですぅ~?」
ああ、うん。この2人の裏事情を知らない第3者から見ると、
この2人ってただ何もしないでぶらぶらしてるだけに見えるよね。
実際は精霊としての何がしかの仕事はしてるんだろうけど、それは説明出来るものじゃないし。
2人に何かさせて最低限の格好つけさせようってのも、全く正しいって言えば正しいんだよね。
うーん、この形もベターなのかな。はたから見れば。
何か上手いやり方はないものかな。
………………………………
結構悩んでも解決策や改善策が出なかったので、
とりあえず問題は起きないっぽい所は置いといて、問題が発生した所のお話に移ります。
そうです。今までが奇跡的というか、人が少なかったから問題は発生しなかったのですが、
多くの人に関わる役職、魔法・職工両ギルド長となったことで、
初めて街のトラブルの種と言うべき段階で対処することになったのです。そのためには……。
「ローラントさん、わざわざすいません」
「ん?何、お前に受けた恩を思えば何という事もない。いつでも声を掛けてくれ」
ローラントさんは何気に私のお誘いで上げた戦果に恩義を感じてくれているようで、
何と言うか当初の思惑通りなのですが、こうまっすぐな感謝を返されると、
ちょっと利用ばかり考えていた罪悪感のようなものが湧いてきますね。
私はこういう結果が欲しくて彼を雇ったわけですし、
正当な謝礼以上に色々渡してるんですけど。
こういうのは私の心持ち1つなんですけどね。
打算ありきで行動してると、こういう心境になることもあるんですね。
ちょっとそういうの控えようかなと、思い立った日でありましたとさ。まる。
ええと、話がそれましたが、ローラントさんの話はいいんですよ。ええ。
私一人じゃ絶対に押しが足らないので、
私の知る限りで一番いかつい人について来てもらっただけですから。
ギルド長としての仕事、ギルド員の監査のようなものが必要になったんです。
すっかり忘れてましたが、原作ゲームでも登場していたメッテルブルグからの移住者、
夜逃げしてきたらしいメッテルブルグ食料品系量販店の元店主が、
このカロッテマ市でも量販店を開いていたのです。
それだけなら何の問題もないのですが、
この店主は【回復力減少+1】というマイナス従属効果が付いた商品を、
平気で店頭に並べるというデメリットつきの「ワケあり店」だったのです。
しかも、デフォルトで並べる商品の1つに「レヘルンクリーム」があるので、
「レヘルン12」のオーナーとしても見過ごすわけにはいきません。
レヘルンクリーム自体の評判を落とす商品を堂々と売られるわけにはいきませんから。
ちょっと無理を言いますが、ここは硬軟織り交ぜた交渉で押し切りたいですね。
ローラントさんと、あんのじょうついて来たスフィアちゃんと一緒に、
開店準備中の食料品系量販店に乗り込みます。
「ちょっといいですか?」
私が声を掛けると、小太りのいかにも料理人風な男が顔を出しました。
「ん、おや?これは騎士様、何か御用ですかな?」
まあ、最初に反応するのは一番でかくて目立つローラントさんですよね。
分かってました。
「私私。私ですよ」
「え?」
怪訝な顔をされましたが、何とか説明します。
結局予想通り、ローラントさんの無言の圧力に頼り切りの感じでしたが、
私の見た目はただの美少女だからね。仕方ないね。
条件としては、「乳糖」「チーズケーキ」「デニッシュ」「ブランクシチュー」
その他食品類の良い物のレシピを提供する代わりに、
レヘルンクリームの取り扱いをやめてもらう。それだけです。
通常の量販店の業務にちょっと条件を付け足した感じですね。
良い物として、登録品には【回復力増加+3】をつける予定なので、
彼の付けてしまうマイナス効果が実質無効化するのがいい所。
チーズケーキなどの従属効果枠の少ないものは上手く行かないのが難点ですが、
最終的には乳糖に代表される基本的な素材を作ってもらう予定です。
この店主にも取り得はあって、在庫上限が何と30あるのが強みなのです。
とりあえず供給が足りてない「乳糖」なんかは最優先ですね。
安価な調味料としてとにかく普及して欲しいのです。
市内全域でのお菓子作りの活性化に期待したいので。
この街の魂であるカロッテマガストもどこか市内の量販店に登録したいですが、
最初の量販店は登録枠いっぱいだしこっちに登録する気にもなれないですね。
これはオッフェンさんにメニューとして提供した方が良さそうな気がします。
一応、ヴェルンかリサのお店の空きに暫定的に登録しておきましょうか。
チーズケーキもレアチーズケーキやヨーグルト系のやつも欲しいし、
私にとっては懐かしの新お菓子の登場に期待したいですね。
大分無茶を押し通しましたが、私が実際にサンプルを提出すると態度が一変。
まあ、こんな美少女が錬金術士なんてのは信じられない、
という気持ちだけは理解できますから大目に見ましょう。
ここには、定期的に様子を見に来る必要がありそうですね。
ゲームでは平気で粗悪品とか無価値とか腐りやすい+3とか並べてました……(自白)