……はっ!寝てません、寝てませんよ!?
ギルド長としてのお仕事を終えて、気がついたら、
私は新しく作ったレヘルンクリーム専用の掻き出し用2重おたま?をカチカチ鳴らして、
ようやく終わった3つの同時大流行、
「かわいいギルド長」と「レヘルン12新装開店!」と「謎のシュワシュワジュース?」
の目の回るような忙しさに思いをはせている所でした。
3つの流行が合体して同時に襲い掛かってくるとかどういうことだよ!
ゲームじゃありえなかったこの忙しさ!流石リアル先輩は格が違うぜ!
へへっ、業務が重なりすぎて本当にぶっ倒れる寸前だったってのに、
何だかオラわくわくして来たぞ!
私が直前に念のため用意しておいた、
チーズケーキ・カロッテマガストその他回復アイテムの山を、
店員一同でちょくちょくつまんでおかなければマジで倒れていたかもしれない。
備えあれば憂い無しです。
回復量減少+1の量販店店主さんも、
その在庫量は今回とても役に立ったのでマジで感謝ですよ。
まあそれ以上に、今回も頑張ってくれたシュトーラちゃんには頭が上がらないわけですが。
何人分もの、いや実際に何人も居たような働きで複数の仕事を常にこなし、
私自身の忙しさのせいでかなり遅れていた「レヘルン12」の新装開店をやり遂げて、
同時に自分のお店の店番もして、ついでにファスビンダーの酒蔵にも時々行っているようで、
一体それをどう成し遂げているのか理解出来ません。
まあおそらくシュトーラちゃんだけの特別枠的な何かで、
他の人に真似は出来そうにないんですが。私にも出来れば凄く助かったのに。無念です。
他に特筆すべき事としては……私に歳の離れた姉が居た事実が発覚しました。
いや自分の姉を知らないってどーなの?と自分でも思いましたが、母に聞くと、
私が物心つく前に、カロッテ村を嫌って両親と大喧嘩の末出て行って、
ハーフェンで結婚しましたという手紙だけ届いたとのことなので、
そりゃ私は知らんでも不思議はないですよね。
以前のカロッテ村にはこの手の話がごろごろ転がっていて、
中にはそのまま冒険者や兵士になって、
モンスターとの戦いでそのまま消息不明の便りを聞く……なんて話も結構あったようで、
まあ、それを考えたら生きてるだけでマシな状態って事ですね。
私とヴィオラートの頑張りが無ければ村はその状態が続いて、
私自身もどうなっていたか……と、そう考えると、
マジで全てのきっかけとなったヴィオラートさんリスペクトです。最高です。
まあ、私が加わったことでさらに大きな事を成し遂げていますけどね!
(隙あらば自画自賛)
話がそれましたね。姉の事ですが、大人の都合と私の都合となんやかやのために、
レヘルン12かクリエムヒルトさんのフラワーショップ、
もしくは東と南の倉庫の管理の仕事を用意しています。
私的には、降って湧いた僥倖なんですよ、実は。
急激に発展したカロッテマ市は、とにかく人が足りないんです。
誰でもいいなら別ですが、最低限盗賊とかじゃない証明をするのは結構大変ですので。
私がワームコンパスを使って、
各地の酒場で人材確保についてちょっとお話をしていたりはしますが、
そっちは最近始めたばかりで、成果と言えるものはまだありません。
流石に他の町から、カロッテマ市に移住して欲しいとなるとなかなか難しいのです。
最悪私がワームコンパスでも何でも使って送迎するしかないですが……。
それは私の時間が取られるので本当に最終手段ですね。
私がその、街の人手不足の状況に本気で気づいたのは、
酒場で毎日酒を飲んでいた酔っ払いおじさんが、
お酒で釣られてシュトーラちゃんのお店でお店番をしているのを見た時です。
店番しながらいつも通り酔っ払ってましたけど。
まあ、それくらい今のこの街は人手不足なので、
見知らぬ姉が、息子と夫をひっくるめて一家で面倒を見て欲しい!
などと切羽詰った要求をして来ても許容範囲です。
私の身内ということで何か勘違いしてたら、
私自らカオスホルン(未発動)かヴェクター(雷撃)で一発かますので、
問題は起きないでしょう。多分。
……私がこの歳でおばさんの称号を得ていた事に気づいたのは、
その息子さんに実際におばさんと呼ばれた後でした。
お前なぁっ!私みたいな美少女に向かってなぁっ!おばさんとかなぁっ!
思わず無意識に雷属性を身に纏って、
呼び方を「ゾネさん」に訂正させたのは間違っていなかったと思う。
その直後、なぜか「雷属性のギルド長」の噂が発生したみたいだけど、
私は悪くねぇ!何なんだよ何で私がずっと話題になってんだよ!
雷属性の錬金術士ゾネさんが……って、私のことがそんなに面白いのかよ!
「あのー、ゾネちゃん?」
「ん?」
憤慨している私に、ヴィオラートが話しかけて来ました。
そう言えば直接会話するのはひさしぶりですね。
「その……豪華なメガネは?」
「これですか?これは凄いですよ!」
これは黄金色に輝くメルクリウスの瞳!これを通せば、素材や錬金アイテム、
人やモンスターのステータスまでアイコン化・数値化して見える優れものです。
もうこれ無しではいられません!
「その……背中で交差させてる2本の杖は……」
「これはご存知ブリッツスタッフですね」
護身用です。雷属性は私が使えるので、氷と炎属性の杖ですね。
サンゴとガラス玉を使ってちゃんと色分けしています。
赤いサンゴが氷属性、青いガラス玉が炎属性で若干ややこしいですが、
まあ慣れれば判断は簡単です。
やはり私のような純後衛美少女は常に武装している必要がありますので。
「その2つの真っ赤なバッグは」
「これはもちろん秘密バッグですよ!」
真っ赤な秘密バッグは作ったアイテムとの繋がり。
もちろん錬金術士のたしなみとして1セット2つ、常に携帯していますとも。
「ゾネちゃん……目立ってるよ?」
「え?そんなわけないじゃないですか。私のような闇の住人が目立つなんて」
私がそう言うと、
ヴィオラートだけでなく近くに居たシュトーラちゃんとスフィアちゃんも、
何言ってんだこいつみたいな顔で私を見ます。
「私って……目立ってます?」
そう言ったら、主にシュトーラちゃんが懇切丁寧に教えてくれました。
「霧を出して瞬間移動するですぅ~?」
……うっ。
「怒ると雷が鳴るですぅ?」
それは、その。
「見た事がないド派手に輝くメガネをつけて、
真っ赤なバッグを常に持ち歩いて、
何かあったら2本の杖で敵を倒すですの~?」
そう言われると、私のこのスタイル、
何かこう勧善懲悪系ヒーローみたいな格好に見えてきたぞ?
超目立つ風貌ですね?
「なるほど……確かに私は目立っていたようですね」
その他大勢の一人だった、昔の記憶に引きずられ過ぎていたみたいですね。
散々派手なことをして、目立つ容姿で注目を集めているのに、
いまだに私は自分が誰にも注目されないと頑固に思い込んでいたようで。
そうだよな。見た目も行動も目立ってる美少女が周囲の街ごと巻き込んで成功して、
そりゃ噂になって当然だよな。カナーラント王国どころか、
隣のフィンデン王国も巻き込んでの大流行になってしまうのは流石に想定外だけど。
みんなのお陰で、私はまた1つ自覚出来たようだ。感謝感謝。
さあ、新しい素材アイテムの検討に移りますか。
本来私とヴィオラートはそのために錬金ハウスに来たのですから。
………………………………
さて、とり出したるはクリエムヒルトさんから受け取った、
「飛びカズラの綿毛」数十個分。
そう、このカナーラント王国でメジャーな「ジョロウグモの糸」よりも何倍も高価な、
「布材」系のアイテムです。正直、これはそのまま売ってもいいのですが、
これで布材系アイテムの自家生産が出来るようになったのが大きいですね。
ジョロウグモの糸は普及品の店売りで我慢するか、
採取地に出向いて厳選するしかなかったので。
布系だけでなく、ヴィオラートのアトリエの舞台において、
繊維系の素材はほぼこれだけが使われているのに、ですね。これを、
従属効果を管理出来る「何かのタネ」から作れるようになったのは大きいですよ。
「まあ、まずは試しにそのまま売ってみますか。結構いい値段つきますので」
ある程度の「飛びカズラの綿毛」を店頭に並べて、
私とヴィオラートはその間、「布材」系アイテムの作成に入ります。
「ケルンズノット」「レーンクラント」「みがわり人形」の3種、
今回は店売りまで考えてはいますが、
試作品としての意味合いが強い作業です。
本当は「レーンクラント」作成のために、
ネコさんから「猫のヒゲ」を採る必要があったのですが、
あの、猫ちゃんのヒゲを直接抜くという残酷劇はとても私には出来ないので、
「島魚のヒゲ」で代用したらちゃんと出来ました。
値段を考えたらちゃんと猫のヒゲを使ったほうがいいんでしょうけど。
これも結構売れ行きが良さそうなアイテムですね。
「レーンクラント」はこの「飛びカズラの綿毛」で作ると、
【受けた衝撃を吸収】になりましたし、
「みがわり人形」はそこそこの【普通の人形】に、
「ケルンズノット」は【邪悪な攻撃を防ぐ】で、
どれも結構いい効果になっています。
特にケルンズノットは見た目リボンですから、
お守り代わりとして需要は高そうですね。
この布系アイテムもまた、部門別で分けて誰かに任せるのもありでしょう。
まあ、今すぐはちょっと手が足りないので自重して、
しばらくは2号店に置いたりオークションに出したりする、
一品モノ扱いのレアアイテムって事にしておきますか。
飛びカズラの綿毛は素材のまま売ってもおいしい商品ですしね。
今の人手不足状態が解消した後の話でいいでしょう。
幸か不幸か、カナーラント王国内に余剰人員はいっぱい居ますから。
ファスビンダー東の大貫道ルートは廃れて、西のホーニヒドルフとの街道も廃れて、
ホーニヒドルフに行く道は曲がりくねって長い山道を登った、
ハーフェンからの山道を通る一本道ルートしか使われてなくて、
カロッテ村は元は廃村寸前で、かと言って首都ハーフェンも、
南の渡し舟が危険だからと止めてしまうぐらい余裕がなくて……。
船での交易はやっているらしいですが、
それってもう外国に色々吸われてる感がビンビンです。
特にファスビンダー周辺の街道が東西南全て廃れてるのが全てを物語ってます。
実際交易が儲かるなら、陸路を使わないどころか、
「廃れていて忘れ去られている」状態になることは絶対ないし、
東側の海岸あたりに避難待機ついでの交易港があって良いと思うんですよ。
河口から川を遡ってハーフェンに直行するしか航路がないなんて、
航路が危険過ぎます。短い距離でもなく、何日もかかる航路ですからね。
……今の、交易や避難の為の港が無い事と、
ここカロッテマ市に竜騎士隊の支部と港が同時に出来ること、
何らかの関係がある気がしますね。そうしないと港が作れないか、
維持できないとか?政治的な問題かな。
流石に中央の政治に突っ込む気はないので、100%想像ですけどね。
まさか、恩売れないかなーとかてきとーな感じでやった事が、
ここまで大きな結果になって帰ってくるなんて、
ちょっとお返しが大きすぎて収まりが悪いですね。
これを私がお返しするには、将来的に、
竜騎士隊の御用聞きみたいな部門を作って貢献するのが一番ですかね。
平和な世界とは違って、常にモンスターの脅威に晒されるこの世界。
それくらいなら「癒着」ではなく立派な社会貢献と見なされるでしょう。
つくづく今、人手が足りなくなってるのが痛いなぁ。
直接他の街に行けるんだし、
私の方から出向いて積極的に人材スカウトするのもありかな?
でもそれをやると、私がそれに時間をとられて他の仕事がおろそかになるし。
あちらを立てればこちらが立たず、ですねぇ。
「じゃあ、あたしが行って来るよ」
「ヴィオラート、いいんですか?」
「うん、あたしはもう少ししたら旅に出ようと思ってるから、
その分人を集めてこようかなーって思って」
あらまあ、律儀ですね。しかし今は猫の手も借りたい気持ち。
しっかりと頼らせてもらいますよ。
「うん、呼んだあとの判断はお任せするから」
「錬金術か、お店か、裏方か、どれかに使えそうな人をお願いしますね」
「そうだね、うん、それじゃ、そういう人探して呼んでくるね」
ヴィオラートはそう言うと、ワームコンパスを起動させ、
出現したマジックミラーの中に消えた。
いつ見てもこのアイテムの効果はおかしい。
自分もこれを作れるって所が最高におかしい。
やはり錬金術士は最強だな……。
川を何日も遡る首都ハーフェン直行の他に港が無くて、
最寄の港が隣国のメッテルブルグっていうのがもう、末期戦やってる感まである