「えーと、スフィアちゃんにラピスちゃん、話って何ですかね?」
私はのんきにも、私をここに連れて来た幼じ……いや、
2人の「精霊」に対して、いつも通りに話しかけた。
「ゾネさんは……ムゲンループって信じる?」
「無限ループ?」
いつものようなおちゃらけの一切ない、
なんか光ってハロー(後光)まで見せ始めた2人に対して、
私は間抜けなおうむ返しの反応しか出来なかった。
仕方ないじゃん!唐突過ぎて!
「今、この世界の刻がループしてる。何か知ってること無い?」
ラピスちゃん!言葉が足りないですよラピスちゃん!
その後。断片的な2人の話をまとめて、総合すると。
いつの頃からか、この世界の刻がループし始めた。
刻の精霊であるスフィアちゃんが詳しく調べると、
5年前の10~11月の頃から今位までの5年間がループしていると。
色々試行錯誤はしたけど、有効な手が打てないまま、
もう何度目かのループが近づいて、
自分達もどうしたら良いのかわからないと。
ん?あれ?これは……。期間的に、もしかして。
「あの、ええと、『5年後』の状態で、『5年前』に現れたアイテムとかは無い?」
私がそう話すと、2人は驚きの表情を浮かべてこう答えた。
「あなたの……あなたの確保した、あの『錬金ハウス』だけど……あれは、
最初はあんな風じゃ無かった。本当に、何年も前に捨てられただけの、
ただの廃屋だった。今のあれは1つ前の、あなた自身が作り上げたもの」
衝撃の事実。私はその1つ前の時間の中でも、
錬金術……錬金術の真似事、「れんきんじつし」まではたどり着いていた?
今回の私の最初の状態を考えると、前回で既に完全に記憶が戻る以前、
わけも分からずわずかに記憶が漏れ出していた状態になっていて、
一応は専用の工房を持つ所まではたどり着いたのか。
しかし、という事は最終的な錬金術施設としての環境が、専用調合釜も無く、
錬金用具もいかにも拾い物や貰い物を修理して何とか使っているような、
本当にギリギリの状態だったという事で。
私自身のレベルも含めて、
村の発展はあまり良い結果には繋がっていなかったように見える。
村がちゃんと発展しているなら、
間違いなくヴィオラートに目をつけられて連れ回されていたはずだし。
少なくとも私のやったヴィオラートのアトリエのゲームに「ゾネさん」がいたら、
これ以上なく有効活用してると思うからね。
「前回は……一応村は存続して発展はしてたけど、
今みたいな感じじゃなくて普通だった。
あなたは完全に独学で5年目ぐらいにやっと参考書を読めるようになって、
素材だけなら採取出来るレベルに達したけど、
ヴィオラートはあなたを知らずに、記憶がほとんど戻らなかったあなたは、
酒場の依頼に出せる普通品レベルの調合の段階までたどり着けないで、
それを簡単に成し遂げたヴィオラートに一方的に対抗心を燃やして、
ヴィオラートは最後まで1人で頑張って、それで……」
あ、あれれー?その先を聞くと、なんかアトリエらしからぬ、
ハードモードで鬱展開ありのドロドロ話を聞くことになる気がするぞー?
「あんまり私も思い出したくないから……その……最後にヴィオラートが願って、
それでスフィアが光って、それで……気がついたら戻ってた。スフィアは?」
その問いかけに、スフィアちゃんは端的に答えた。
「……私も」
さらに聞くと、そのさらに1回前のループ以前はさらにハードでアレで、
ただ村が廃村になって終わる「泥船エンド」こそ無かったものの、
苦労の連続だったという。
んー、やっぱり、リアルとなると違うのかな……。原作で言う、
泥船エンドか最低限存続エンドをスフィアちゃんエンドで上書きしたみたいな感じだけど、
それだと原作ではスフィアちゃんエンドには入れなかった気がするんだけど。
話は続く。2人は常にヴィオラートと仲良くなり、
そのスフィアエンドもどき状態を繰り返して、状況が少しずつ良くなって行った。
そしてとうとう大きな変化があった。
そう、私の奇妙な行動と、村に引き継がれた「錬金ハウス」である。
正確には、その周回前はただの廃墟だったが、
1回前のループで私が自力で修繕し、錬金ハウスとして利用し始めていたものだ。
前回はそこで限界だったようだが、最低限錬金術に使えそうな大鍋や、
錬金器具に使えそうなものが色々転がっていたのはそれが理由か。
器具の修繕具合を見るに、前回の私の苦労が手に取るように分かる。
苦労したんだな……。
とりあえず考察すると、スフィアちゃんエンドで、
「引き継ぎモード」「無限モード」が解放されるのは周知の事実ですが、
何かの不具合か、あるいは未完成な引き継ぎにより、
引継ぎの対象が私もしくは私の錬金ハウスになっていた?
だからループしても、
原作ゲームのようにヴィオラートの成果物が引き継ぎされず、
引き継ぎ対象が錬金術士未満の私で、なかなか状態が改善しなかった?
前回でついに、引き継ぎ対象の私がわずかながら行動して、事態が動いた。
根本的な疑問、
なぜ「前回」と「今回」の私にこんな記憶があるのかっていう理由は?
「わからない。でも前回のあなたは怪しかったから、今回はよく観察した」
ああ、うん、怪しいですよね私。
「そうしたら、中に漏れてる何かがあったから、今回……完全に開けておいた」
記憶に完全に目覚めたのはそれかー!
ラピスちゃん最初から村にいるからね。ついでにスフィアちゃんが私に、
ラピスちゃんがヴィオラートに最初から懐いて見えたのは……。
それでラピスちゃんに記憶を開かれた私は覚醒して、ごらんの有様と。
「それで……カギとか何か……知らない?」
いやその、そう言われても。なんか焦ってる?
不具合か、暴走した引き継ぎモード実行で困ってるのがどうやら当たりなのかな?
「カギですか?唐突に言われても。知ってるかというのは、
パスワードみたいなものですか?」
「パスワードかは分からないけど……カギ、キーワードとか……」
「あ、キーワード的なものなら分かりますよ?今の状態は『引き継ぎモード』で、
普通の状態は『無限モード』だと思います。
多分スフィアちゃんに属する権限と言うか、何か切り替え出来るものだと思いますけど」
ゲームだと、モード選択はゲーム開始時からしか出来ないけど、
今はリアルで、スフィアちゃんが本物の刻の精霊なら、
それは自分が使える権限、能力として持っているはず。だと言ってくれ。
「…………あった!」
スフィアちゃんが、しっかりとキーワードに反応してくれました。
スフィアちゃんが一段と光って、ガチャコンガチャコンと何かを切り替えるような音がして、
そして刻は、あっさりと、無限モードの流れへ乗り換えた。
「まあ、ただ普通に流れるようになっただけとも言う。言うよね?」
「良かったぁ……!」
スフィアちゃんは感無量といった感じで涙ぐんで、そのままへたり込んだ。
そうか、これ切り替わらなかったら、また最初から、
スフィアちゃんからしたら自分のせいで、
今の大成功した「カロッテマ市」を捨ててやり直しになる所だったのか。
錬金ハウス引き継ぎだけじゃどう考えても割に合わん、そりゃこの2人も焦るわ。
「じゃあ、帰ろっか」
見た目は美少女3人。
お手々は別に繋がないけどカロッテマ市に帰ります。
この先に、無限の未来が広がっていると信じて。
………………………………
「おーい、ゾネさん!エーデカクテル追加してくれ!」
「簡単に言わないで下さい!最高級扱いで数は出せないって言ったでしょう!」
こんにちは。ゾンネンブルーメ・トロイメントです。
時の流れは速いもので、もう翌年の市民祭。
私ももうすぐ18になります。
ヴィオラート、アイゼルさんとのお別れ……お別れは、
錬金アイテムのお陰で別にお別れってワケでもなく、
月1くらいで帰って来て錬金談義をする関係が続いています。
そのやり取りと行き来の中で、
私もザールブルグ、カスターニェ、ケントニス等、
ヴィオラートの立ち寄った街に連れ出してもらい、
積極的に参考書や機材、新たなアイテムを買い漁りました。
特に常備薬系のアイテムが作れるようになる「ヘルメスの薬」が最近一番の収穫でしたね。
材料の「アザミ」の入手が少し困難でしたが、
「アルラウネの根」「フィルマー」「世界樹の葉っぱ」この3つ全てで代用できました。
それぞれ強く出るアイテム効果、薬効が違うようですが。
常備薬の社会的な立ち位置から考えて、
最も安価な「フィルマー」を元に量産するのが無難でしょうか。
さらにその常備薬を素材とする「フェニクス薬剤」と「フェニクス気化薬」、
夢が広がります。
そうそう、今からさらに先の話になりますが、
ザールブルグから錬金術士を招いて私塾をやってもらう事になったんですよ!
目指せメージイシン!私塾からの私立大学誕生!
何よりも大切なのは、ヴィオラートの旅立ち以来、
やっとこの街に私以外の錬金術士が定住するってことです!
この街に錬金術士が私1人、たまに来る月1ヴィオラートとアイゼルさん、
という無理ゲー状態が改善するのです!
最初は教師1人の個人塾状態ですが、
後々ザールブルグ錬金術アカデミー卒業生の受け皿の1つとして道を開いておく予定です。
最初アイゼルさんの紹介で、あちらのアカデミーに話を持ちかけた時は、
「何言ってんだこいつ」とばかりに若干引かれてましたけど、
まー契約金の額で一発でしたね!まー世の中金ですよ!
「それは嘘」
え?いやいや何を言ってるんですかラピスちゃん。
「紹介してもらって、何度も通って話を通して条件をつめて、
候補者の中からカロッテマ市に一番興味がある人を最初に呼ぶことにして、
残った候補者も呼べるようになったら呼べるように、
縁を切らずに交流を維持しているのは、『お金を積んだ』とは言わない」
いやまあその。それはそうですけど。
地道に下準備をして目的達成して、まだ話は継続中です、
って普通に言っちゃうのはなんかこう、つまんないじゃないですか。
「ゾネさんは、話を盛る?お話モリモリ?」
モリモリだぜ!……いやこれは違うな、うん。
まあ、というわけで私塾を育てて私立大学を作る作戦も始まって、
街と私の未来も順風満帆なわけですよ。
私も一応、最初は月に何度かぐらいの臨時講師として指導を行うことになりそうですが。
後に拡大するとはいえ、講師1人では流石に不安ですからね。
一時的に私の時間が取られるのは仕方が無いです。
ここは未来を見据えてぐっとこらえて、趣味のお店番と冒険の時間を断念しましょう。
他の人が出来る仕事は他の人にやってもらうべきです。
私もいつまでも全部自分で片付けるロードーシャ気分ではいられないのです!
街の仕事と錬金術、わぁ、仕事が減ったように見えるぞ、ふしぎ!
そうそう、スフィアちゃんとラピスちゃんですが、
原作ラピスエンドのような精霊的事情はあるにせよ、
繰り返された刻のループのバグ修正?の方がはるかに大事なので、
その不具合修正とアップデート?作業のために、
不具合の中心だった私とヴィオラートの周囲で、
精霊的な何やかやの作業をやる必要があるとの事。
見た目が変わらなくても怪しまれない方法はないか、
とか聞かれたので、もう10年単位で居座る気満々なようですね。
「そんな事よりですね、お2人に聞きたい事があるんですよ。
スフィアちゃんにラピスちゃん」
「ん?」
あの、10月下旬のカロッテ遺跡でのお話の時、
「刻がループしている事」と、「私の記憶を解き放った事」を言われて、
その衝撃でうっかり抜けてたけど、
そもそもの話でこの私の記憶がどうしてここに存在するのか、
その肝心要の話はなかったんですよね。
「そう言われても……」
「私達は、あなたを見つけただけ」
えっ?それってつまり。
「ゾネさんがいるのは……自然現象?」
マジで!?じゃあ、また似たような、私みたいなのが来る可能性もある?
「大丈夫。はね返した」
ラピスちゃんはそう言って、空の手にはたきを持つ真似をしながら、
高速で何度も何度も振り下ろした。
「それはね返したじゃないよね?叩き返しただよね?」
「……?」
実際私の記憶がなぜ世界を超えたのかは謎で、
普通は壁みたいなものにはね返されるらしい。
壁じゃ駄目でもラピスちゃんがはね返すんだって。普通は。
「何でゾネさんは通ったのかな?」
「ゾネさんは、ゾネさん専用入り口があるから……」
「あー……」
「納得するの!?それで!?」
ワケがわからない。
「ええと、その『記憶』の話からだと、最初の最初の始まりは、
『泥船エンド』?とか、『最低限存続エンド』?に近かった、と思う」
記憶を搾り出すようなスフィアちゃんの言葉だが、
私の考えていたことが大体合っていたんじゃないかな、と感じた。
最初の最初、ヴィオラートと仲良くなったスフィアちゃんは、
同時に1人で村の過疎に立ち向かったヴィオラートの苦労……苦悩も知る。
そして、ヴィオラートか、はたまたスフィアちゃん自身の願いか、
その願いからスフィアちゃんが無自覚の刻のループを引き起こしてしまい、
ループしたにもかかわらず遅々として進まない状況改善と、中途半端な修復作業と、
自力では止められないループへの焦りが原因で不具合が時空を越えて、
そのアンサーである「攻略法」と「ループ終了のキーワード」の双方を持ち合わせた、
私の意識……記憶を引き寄せた。と。そういうこと?
「まあ、精霊の事なんて何も知らない私の推論だけど」
スフィアちゃんとラピスちゃんはどうやらこの推論で納得したようだが、
まだこれだけでは完全ではない。
「何で私はこの姿になったのか」
これが分からない。元ネタのある姿でもないし……。
「あ、それはわかる」
「え?」
ラピスちゃんが意外なことを言いました。
どうやら今の私のガワだけじゃなくて、魂の形も、その中にある記憶の形も、
髪や目の色以外寸分違わず一致した美少女ボディだと言う。
どこかで変わったとかじゃなくて、生まれた時から自然に。
「おじさんはおじさんの時から、もう乙女だった……?」
「マジかよぉぉぉぉ!」
知りとうなかった!そんな事実!道理で簡単に適応してるはずだよ!
バーチャル美少女受肉ならぬ、リアルおっさん受肉状態だったんじゃん!私!
「大丈夫」
「スフィアちゃん?」
「私はおじさんを忘れない」
「むしろ忘れてよぉぉぉ!」
スフィアちゃんはおじさんボディとは出会って無いのに、
何で憶えてる風なフリしてるの!?
「楽しいから?」
「ぬああああ!」
こ、これが性別的理由での葛藤?は、恥ずかしい!
今はむしろ、もうどこにも存在しないおじさんボディに関する話題の方が恥ずかしい!
……はぁ。一通りのたうちまわったら冷静になりました。
もう存在しないおじさんボディを恥じるなど、何と時間の無駄だったのかと。
今の私はいやおう無しに、
もうすぐ18歳の美少女として生きて行かなければならないのですから。
「ゾネさ~ん、新しいのが届いてるですぅ~!」
「今行くから置いといて!」
シュトーラちゃんは完全にこちらに重心を移して、
「レヘルン12」メインの支店を出すことを目標にしているようです。
むしろ個別ブランドとして多数の店を任せてもいいかも知れません。
クリエムヒルトさんやバルテル兄さん、ユーディウスさんとステファニさん。
ここにはいませんがヴィオラートも、今や私とは切っても切れない仲間です。
「私は?」
「もちろんスフィアちゃんもそうですよ?」
「仲間……友達?」
「そうですね。スフィアちゃんは友達と言っていいと思います」
「私もゾネさんの友達」
それは良かった。一方通行は寂しいですからね。
「私より小さいから」
「最後の最後までそれですか!」
こうして私の錬金ライフは続いて行くのです。
無限モード……いや、リアル特有の、
全てのものに平等に開かれた無限の未来へと。
ゾネさんの物語に今までお付き合いいただきありがとうございました。
あと、エピローグ1話で完結となります。