「正久が関わっておったのか?いや、ありえなくはーー」
「秀吉、さっきから浮かない顔をしてるけどどうかしたの?」
「う、うむ、少し気になることがあっての」
戦争とその後処理が一通り終わり、その結果の産物である恭二が女装させられる様を見てFクラスのほとんどが引きながらも笑っているなか、何やら一人で難しい顔をながら独り言を呟く秀吉の様子が気になったのか、明久が尋ね
る。
「気になること?」
「正久のことじゃ」
「正久ってさっき根本君が名前を出した松永君?」
「そうじゃ。実は正久とワシと姉上は幼なじみでな、小学校卒業までずっと一緒だったのじゃ」
「な、なんだって!?くっ、美女二人を独り占めしていたなんて松永君、なんて羨ましいんだ!」
「ワシは男じゃぞ!そして涙を流してまで悔しがることではなかろう!・・・・正久とワシら姉弟は本当に仲が良くてのう、気丈で優しくて真面目で頼りがいもあったのじゃ。ワシも本当の兄のように慕っておったわ」
過去の思い出を思い浮かべながら秀吉が言う。
「でも松永君が根本君に手を貸したってさっき・・・優しかったんだよね?何かあったの?」
「・・・・正久は中学に上がるときに親の仕事の都合で他所に引っ越すことになってのう。初めてワシらと離れ離れになったのじゃ。別れるのが辛くて辛くて泣いてしもうたわい、姉上は強がっておったがの。それから2年ぐらいは手紙でやり取りをしておったのじゃが急に返事が来なくなったのじゃ。電話をしても同じじゃった。それ故にこの学園に入って、入学式のしおりの新入生一覧の名簿に正久の名前を見つけた時はうれしくて堪らなかったわい。・・・・じゃが、そこにはもうワシが兄と慕った男の面影などなかった。今のように髪はボサボサで目は血走り隈だらけ、頬も痩せこけ明らかに正常でないと分かる容貌じゃ。おまけに何かに憑かれたかのように一心不乱に勉強するだけの男になってしもうた」
懐かしそうにしながらも徐々に悲しげな表情になっていく秀吉の話を聞きながら、明久は正久の姿を思い浮かべる。
「そういえば去年すごいガリ勉がいるって話題になってたよね。廊下で偶然目が合った時、僕はなぜか冷たい目で見られたけど」
「変わってしまってから正久は何であれ努力をしている者を称賛はするがそうでないものはとことん蔑むようじゃ」
「・・・・・」
「む?なぜ黙るのじゃ、明久」
秀吉には悪気は無いものの遠回しにバカと言われ、その言葉は明久に容赦なく突き刺さったようだ。
「ワシは正直言って根本の話を信じたくはない。じゃが一方で、努力をしていない者の集まりとみなしたFクラスに協力する姫路を正久が快く思わなかったとすれば説明がついてしまうのじゃ・・・」
「秀吉・・・」
項垂れる秀吉に明久はかける言葉が見つからなかった。
「あぁ、もう!なんだったのよ、あれ!!」
学校が終わって自宅に帰った優子はベッドに寝転びながら大好きな小説を読んで楽しもうとしたが悪態をつく。
「あれは汚すぎよ!!せめてもっと綺麗なの寄越しなさいよ!!」
あれ、とはFクラス及び裏切ったBクラスのクラスメート達の手によって女装させられた恭二のことである。
女装姿でいきなりAクラス教室に現れた時は驚いたものだ
『お、俺たーー』
『おい違うだろ、根本。Fクラスの連中の指示通りやれよ』
『ぐ、ぐぬぬぬぬっ!!!・・・わ、私達BクラスはAクラスとせ、戦争す、する用意が、がある、る、るわ!べ、別にあ、アンタ達とた、戦いたいわ、訳じゃないんだ、だからね!』
おまけにこのセリフ(裏声)である。
男子の女装、というのは優子の趣味嗜好に比較的合致するものだが恭二はお気に召さなかったようだ。
クラスメートが聞いたら突っ込みどころが違うと言いそうなものだが学校では猫を被っているため、家でしか表に出さない地を知られることはそうそうあるまい。
「あぁもう、イライラするっ!!」
「あ、姉上、少し良いか?」
開けっ放しにしていた部屋のドアの隙間から秀吉が顔を出す。
廊下まで聞こえていたのだろうか、このタイミングで話しかけて良いものか思案していたようだ。
「あら、秀吉。何?」
「正久のことなのじゃが、ここ数日何か変わった様子はなかったかの?」
「正久?・・・・・初日にFクラスがDクラスに戦争を仕かけたことを聞いてクラス全員の前でFクラスを罵ってたし、擁護しようとした久保君と喧嘩になったわ。でも逆にBクラスの時は何事も無いように落ち着き払っていたわね。あ、でもBクラスの汚物(変態)が来た時はつまらなそうにしてたわね・・・・絶対に何か企んでいるわよ、アイツ」
「やはり姉上もそう思うか・・・」
揃ってため息をつく双子。
「で?そっちは何かあったの?」
「うむ、余り詳しくは言えんのじゃがーー」
秀吉は優子に瑞希の手紙の件に関して手短に伝える。
「確かにやりかねないけど・・・・」
「姉上」
「何?」
「正久は過激になっておる。去年は大人しくしておったが、今では姫路の件のように自分の正しさを証明するためには手段を選ばなくなりつつあるのじゃ」
「・・・・・」
「ワシはただ前のように三人で仲良くできればそれで良い。じゃが、正久はどんどん遠くへ行ってしまいおる。・・・・もう、叶わぬのかのう」
「・・・・・まだ、アイツは帰って来ていない」
「姉上?」
「アタシ達が会いたかった正久はまだ帰って来ていないのよ。きっとどこかで道に迷ってる。暗い暗い夜道をね」
「・・・・そうじゃな」
「だから二人で道を照らしてあげるの。まっすぐ帰って来られるように。そして秀吉、二人でお帰りって迎えてあげましょう。・・・だから・・・だから諦めちゃダメ・・・」
二筋の涙が流れた。
「それにしても、姉上の口から演劇の台詞のような言葉が出るとはのう」
「ば、バカ!言わないでよ!今になってちょっと恥ずかしくなってきたじゃない!!」
ちょろっと正久君の過去登場。
クローズアップされるのはまだ先です。
根本君、すまん・・・・
別の世界の君はちゃんと代表やってるから・・・
ご意見、感想などお待ちしております。
次回、FクラスとAクラスの戦いに突入!