Aクラス対Fクラス一騎討ち第三戦の勝敗は二戦目と同じく一合かつ一瞬で決した。
『Aクラス 工藤愛子 保健体育 446点』
VS
『Fクラス 土屋康太 保健体育 572点』
試験において単科目400点以上を取った成績優秀者に与えられるアドバンテージ、特殊能力。
(ちなみに召喚獣同士の勝負は通常ならば取得した点数相応の武具を用いた戦いであり、一応点数差があっても操作技術次第では低得点者は高得点者に勝利することは可能である。)
学年でも数える程の者しか有していない賢者の特権である。
「そ、そんな・・・・!この、ボクが・・・!」
敗戦のショックからか床に膝をつく愛子。
当然、愛子も特殊能力を使用したのだが康太の方が遥かに点数が高かったこと、重く鈍重な戦斧に雷を纏わせて一撃必殺を狙った愛子の戦法に対して軽装かつ特殊能力で目視が不可能な程まで加速して切り裂くという康太の戦法の方が相性が良かったことが要因と言えよう。
そしてもう一つ、愛子の敗因を挙げるとすればーー
「おやおや、工藤さん。油断をしないように忠告したはずなのですがねぇ」
「やっと出てきやがったか・・・」
人だかりを掻き分けその中心へと進み出る者が一人。
先程まで一団に加わることなく自習を続けていた正久その人である。
首の皮が一枚つながるも新たに立ちはだかる強敵の出現に雄二は気を引き締める。
「あなたの努力は並々ならぬものなのでしょうが彼には及ばなかったようですね。いや、それ以前に工藤さんは慢心していたのではありませんか?保健体育において自分の右に出る者はいない、と。駄目ですよ、満足は慢心を呼び、慢心は油断を呼び、油断は失敗と敗北をもたらすのですから」
「・・・・・・返す言葉もないよ」
「まあこの失敗から学ぶことが肝心です。さて、工藤さんは下がっていてください。俺が決めますので。本来なら勉強にあてるべき貴重な時間の浪費をこれ以上続けるべきではありません。愚かなFクラス諸君には即刻お帰りいただかねば。無論、憐れな負け犬として」
愛子と入れ替わるようにして進み出ながらFクラスを見渡して言う正久。
不眠と疲労によって死んだようになっていた目をギラつかせる。
「負け犬に成り下がるのはどっちだろうな、松永。・・・姫路、頼んだぞ」
「・・・・はい、がんばりますっ」
雄二にFクラスの命運を託された瑞希は頷くと正久の正面に立って相対する。
その面持ちは非常に真剣なもので、固く結ばれた口と正久を見据える目からは意気の高揚や生来穏やかな性格である彼女にしては珍しく怒りなどが感じられる。
「これは、これは姫路さん。やはりあなたですか。この四戦目は落とせませんからねぇ、当然と言えば当然ですが。ああ、そういえば、経緯がどうであれ無事に手紙がお手元に届いたようで何よりです。全く、根本君は許せませんな、卑劣な手を使ってあなたを陥れるとは」
「松永君、どの口がーーもがっ!?」
「うるせぇから黙ってろ、明久」
飄々と言ってのける正久に明久はもの申そうとするがこれ以上話が拗れれば瑞希の集中力が乱れかねないと判断した雄二が口を塞ぐ。
「それにしても、姫路さんも大変ですな。体調管理も実力のうちとはいえ懸命な努力の甲斐なく愚かで怠惰な一団の中に放り込まれたのですから。本来ならばこのAクラスにいるべきなだけに非常に残念です」
「・・・・・違います、松永君」
「違う?・・・・はて、俺は何か間違ったことを言いましたかね?」
瑞希の言葉に思い当たる節がないと言わんばかりに正久は首を傾げる。
「Fクラスは、Fクラスの皆さんは愚かなんかじゃありません。確かにお勉強に関してはちょっぴり怠け者なのかもしれません。でも、この数日間、皆と一緒に過ごして分かりました。皆、何かの為に、人の為に一生懸命になれる優しい人達なんです。体の弱い私を気遣ってくれるんですから。その本質は一生懸命に勉強している他のクラスの皆さんや松永君とも変わらないはずです。・・・・私は大好きなんです。優しい優しいFクラスが。だから松永君、これまでの言葉を取り消してください 」
「姫路さん・・・・」
「何か、照れ臭いわね」
瑞希の言葉に嬉しさや照れがこみ上げてきたのか明久や美波をはじめとするFクラスの面々は笑顔を浮かべる。
「(ま、まずい!!)」
反面、優子らAクラスは内心穏やかではない。
思い出されるのは初日の光景。
このような流れはデジャヴかもしれない。
確かに瑞希の言い分も分からないことはない。
外からしかFクラスを見ていない自分達とは違って内からFクラスを見ている瑞希にしか分からないことがあるはずである。
瑞希は自分達には知ることができないFクラスの生徒達の一面を知ったからこそFクラスが好きになったのだ。
しかし、瑞希はそれを最も言ってはならない人物に吐露してしまった。
「ふざけるな!!!!」
瑞希の言葉を受けて先程までの態度を一変させ、その細身からは信じられないほど大声で怒鳴り散らす正久。
瑞希を筆頭に予期してしていなかった者は肩を跳び上がらせる。
激昂しているためか米神には青筋を浮かべている。
「俺が間違っている!?俺は俺なりに必死に努力をしているつもりです。他のAクラスの皆さんには及ばないかも知れませんが。粉骨砕身全身全霊一所懸命にやっているはずですし、彼らも真剣に取り組んでいます。だがしかし、Fクラスはどうですか。遅刻も平気でする、真面目に授業や課題に対して真剣に取り組まない、バカの一つ覚えか騒ぎ喚き立てる、最近では付き合いをしている男女の仲を引き裂かんと徒党を組んで襲撃する動きがあるとか。はたまた先日判明したそうですが盗撮盗聴した物を密売する者もいれば昨年他人の物を盗む者までいる始末。健全な努力をしている者など数える程でありませんか!!それなのに姫路さん」
瑞希を睨み付ける正久。
「間違っているのは俺だとあなたは言うではありませんか!・・・・・あなたはFクラスがジャン・バルジャンだとでも言うつもりですか!?姉の子供達が飢え苦しんでいたからとパンを盗んだこそ泥、悔い改め罪を償うと称して脱獄した犯罪者だけど他人を救ったから正しいと!!自分がコゼットやファンティーヌになったつもりか!!?」
「じ、じゃんばるじゃん?」
「れ、レ・ミゼラブルじゃ、明久」
何を言っているのかわからない、とキョトンとしている明久に答える人物が。
袖口に赤い染みがついている気もするが気のせいであろう。
「ひ、秀吉!?死んだはずじゃあ・・・」
「勝手に殺すでない、明久・・・・死ぬかと思うたのは事実じゃが」
「・・・・・トリック?」
「何をわけ分からぬことを言っておるのじゃ、ムッツリーニ。・・・・・明久、ジャン・バルジャンとはフランスの文豪のユーゴーの作品、レ・ミゼラブルの主人公のことじゃ」
「へぇ、詳しいんだね」
「演劇でやったことがあるからの。なぜかコゼット役じゃったが」
「説明ご苦労です、秀吉。・・・・・姫路さん、あなたから見れば罪を犯してもなおコゼットやファンティーヌ、マリユスなどを助けようとするジャン・バルジャン、Fクラスが正しいのでしょうが、それよりも正しいのはバルジャンを捕らえて罰さんとするジャベール警部の方です」
横目で秀吉を見ながら正久が言いきる。
「そ、そんなつもりで言ったんじゃありません。ただ松永君にも分かって欲しーー」
「もう良いです。早いところ終わらせましょう。平行線なのにいつまでも交わるのを待っているのは不毛です。勝利を以て俺が正しいことを証明しますよ。・・・・・高橋先生、科目は総合科目でお願いします」
幾分か落ち着いたのか元の調子に戻る正久。
状況を見守っていた高橋教諭に注文する。
「分かりました。よろしいですね、姫路さん」
「は、はい」
「それでは両者召喚を開始してください」
「お先にどうぞ、姫路さん」
「はい。試獣召喚(サモン)!!」
レディーファースト、と瑞希に正久が促した。
召喚のキーワードを瑞希が口にするとほぼ同時に足元に光を発する魔方陣のような物が浮かび上がり、その光の中から召喚獣が出現する。
現れたのは背丈の数倍ほどもある大剣を両手に握りしめた召喚獣。
Dクラス代表の平賀源二の召喚獣を一刀で葬り去った得物も目を見張るものだがそれ以上に注目されているものがあった。
『Fクラス 姫路瑞希 総合科目 4409点』
『ま、マジか!?』
『いつの間にこんな実力を!?』
『この点数、霧島翔子に匹敵するぞ!』
双方から動揺と共に驚きの声があがる。
Aクラスの生徒は目を見開いて唖然とし、三戦目の康太のこともあってか初めてAクラスの敗北を覚悟する者もいた。
一方のFクラスは驚きつつもその目は輝いており、FクラスがAクラスに勝つという当初は荒唐無稽だと思っていたものにようやく手が届きそうになったことで興奮する者もいた。
どちらにせよ、想像もしていなかっただろう。
これが前座だということを。
「・・・・・本当に残念ですよ、姫路さん。その素晴らしい努力の成果を棒に振るったのですから。試獣召喚(サモン)」
正久はつまらなそうに言い捨てると召喚を開始する。
現れたは召喚獣は黄金に輝く鎧を身に纏っており、そしてその手には同じく黄金の大きな大きな大槌。
瑞希や愛子の召喚獣の得物も巨大な物であるが正久の召喚獣の大槌はそれらよりも遥かに大きく、人間の子供程の大きさである。
とにかく小さな召喚獣に不釣り合いなほどに大きい。
しかし、驚くべき光景であるのにも関わらず得物に関して何か言う者などほとんどいなかった。
そう、瑞希の時と同じである。
皆の目はある一点に釘付けだったのだから。
『Aクラス 松永正久 総合科目 8102点』
Fクラスにとっての絶望がそこにはあった。
乗り越えようという気すら失せる高い高い絶壁が。
正久君、チートだったでござるの巻。
チート(規格外な努力の成果)
正久の召喚獣の武器はダークソウルのスモウハンマーだと思ってください。
クリアそっちのけでひたすら平和→大竜牙で初心者狩りをしていたのは良い思い出です。
レ・ミゼラブルといえば小説よりもミュージカルや世界名作劇場の少女コゼットを思い浮かべた方も多いことでしょう。
原作はかなりの大長編ですが中々深い作品ですので興味がある方は読んでみることをオススメします。