『・・・・・・は?』
『な、何だよあれ・・・』
『霧島翔子どころか教師に匹敵、いやそれ以上か!?』
『どうやったらあんな点数がとれるんだよ・・・』
少しの静寂の後に陣営問わず生徒達が声を上げる、いや辛うじて絞り出したと言った方が正しいだろう。
Fクラスは目前だったはずの勝利が急に出現した高い絶壁の前に阻まれ迫って来た敗北への絶望から、Aクラスはある程度の高みにいると思っていた自分達の学力に対する自信やプライドが正久の規格外な点数の前にちっぽけな物であったことを痛感し、同時に少しの尊敬と畏怖をの念抱いたことで録に声が出せやしない者が多かったのだ。
それは両クラスの中心人物も例外ではない。
「(俺は夢でも見ているのか?)」
Fクラスの曲者ならず者達を扇動し纏めあげここまで勝ち進んできた雄二だが流石にこれは想定外であった。
正久の実力に対する情報の収集が不十分だったのかもしれないが例え知っていたとしても自分はこの男を破ることができただろうか?
どうにかして、何とかして、どんな手を使ってでも勝たなければならないのに頭が回らない。
普段ならかつて神童とまで呼ばれた頭脳を無駄遣いさせた悪知恵が働くというのに。
どうあがいても敗北という名の絶望にしか行き着かないビジョンばかりが浮かぶ。
そしてふつふつと感じる悔しさ。
ただただ拳を握りしめることしかできなかった。
「嘘、だよね・・・・?」
明久は空いた口が塞がらない。
総合科目で8000点オーバー、そんな我が目を疑うような点数を叩き出したのは目の前にいる憎き松永正久である。
瑞希の大切な手紙をクズと名高い根本恭二に引き渡し、脅させるように仕向けたにも関わらず当の本人はしらを切り通し、反省して謝罪するどころかFクラスを罵倒する酷いガリ勉野郎。
それが明久に正久に対するイメージだった。
だからこそ悪者は倒さなければならない、恭二を皆で破ったように。
だが、この男はどうだろうか。
酷いことを言うだけの、言えて当たり前の実力を兼ね備えていたのだ。
瑞希が負けるとは思いたくない。
しかし、敵はあまりにも強大過ぎた。
「そ、そんな・・・・」
正久と対峙している瑞希は顔を青くする。
思わず目眩がしそうだ。
正久についてはある程度知っているつもりだった。
一年生の時、特に年度末は異常なまでの勉強ぶりに相応しく学年でも成績がトップクラスであることは知られていた(ただ瑞希自身や翔子、利光や優子など受けの良い猛者達ばかりが注目されていたが)。
それを実感したのは冬休みの特別講習の時だ。
成績を元に習熟度別で分けられたクラスで最上位のクラスに割り当てられたのだが、隣の席にいたのが正久であった。
誰よりも授業を熱心に受け、難関大学の数学の過去問を教師に指名されて黒板で解答して見せた時も完璧な解答をし、締めくくりのテスト(上限のある通常のテスト)では唯一の全教科満点だった。
上には上がいる、自分もがんばらなければ、と奮起させられたものだ。
しかし最近の正久はどうだったか。
瑞希にとってはまさしく悪夢のような出来事の裏で糸を引き、自分の大好きなFクラスを蔑む。
本当に同じ人物かと信じられなかったほどである。
でも、確かに酷い仕打ちは受けはしたがひょっとしたら何か事情があってこうなっているのではないか?
そう思いたい、だから何とか勝負に勝って正久に尋ねてみよう、自分の思いを分かってもらおう。
そんな瑞希の願いは叶いそうにもない。
「(やっぱり・・・・)」
比較的優子は落ち着いていた。
側にいる愛子と美穂は目を見開いて、弟の秀吉の方を見れば隣の明久のようにあんぐりと口を開けて驚いているのが分かったが。
周囲の人間よりも正久のことを気にかけてきた優子にとって正久の爆発的な成績の上昇など想像するのは容易いことである。
ただ、この点数に対しては不安しかない。
普通の人間なら成績が上がれば喜びそれに満足するだろうが正久は違う。
もっとできるはずだ、まだまだ努力が足りないのではないかとますます勉強にのめり込んでしまうだろう。
それは更なる体の酷使を意味する。
今までがそうであったように睡眠時間や休憩時間をより削って勉強に充てるはず。
「あのバカ・・・・・」
何で身体を大切にしないのか。
何で何も言わないのか。
何でそこまでするのか。
正久は何も答えてはくれない。
「馬鹿な・・・・・!?」
利光は圧倒されるしかなかった。
瑞希との点差に驚いていた先ほどまでの自分が馬鹿らしくなるほどに。
正久の(利光にとっての)暴論を咎めてきたものの、その腹の中にはいつか正久に勝って鼻を明かしてやろうという思いがあった。
しかし利光が思っていた以上に彼我の差は開き過ぎていた。
「(僕は何をやっていたんだ)」
テストの成績が物を言う実力主義の文月学園においては確かに正久の成績は正義である。
だがその考えまで正義と認めるわけにはいかない。
それを認めてしまえば自分を否定することになるのだから。
「おや?Fクラスのクズ共はともかく、我がAクラスからも驚かれるとは。これはもしや、もしや皆さんは俺を口だけの輩だと思っていたということでしょうかね?だとしたらそんな軽薄な輩だと思われていたことは些かショックではありますが、正直この成績に関しては自分でも驚いていておりますのでその線はなさそうですね」
AクラスとFクラスを交互に見ながら正久が言う。
「まあ、手早く終わらせましょうか」
言い終わらないうちに正久の召喚獣が巨大な大槌を振りかぶりながら瑞希の召喚獣目掛けて駆け出す。
「は、速い!?」
明久が言う。
普通に考えれば愛子や瑞希の召喚獣のように大きく重量のある武器の運用方は小さく軽量な物と異なるものだ。
大きく重いが故に見た目通り一撃の攻撃力は非常に高い。
しかしその分早さや小回りなどの機動性を犠牲にしなければならないため、慎重な取り回しが求められる。
隙が生じやすいためである。
だが正久の召喚獣はどうだろう。
軽量の武器を扱う召喚獣のスピードに引けをとっておらず、瞬く間に距離を詰めていく。
瑞希の召喚獣に肉薄するまでさほど時間はかからなかった。
正久の召喚獣は勢いそのまま自身より遥かに大きい大槌を降り下ろす。
「あ!いけないっ!」
正久の点数に呆気にとられていたのと想像以上のスピードに反応が遅れてしまった瑞希はとっさに大剣での防御の構えをとらせる。
「いや、駄目だ姫路!!避けろ!!」
雄二が叫ぶ。
槌などの重量のある武器には確かにデメリットが多い。
しかし、同時に絶対的なメリットも存在する。
どんなに名工があしらった鎧で身を固めようとも、どんなに重厚な盾や武器を構えようとも、それら諸とも叩き潰すことができるのである。
すなわち、防御など無意味なのだ。
黄金の大槌が大剣の戦士を喰らい潰したのは言うまでもない。
「・・・・この勝負、松永君の勝利です。よって三対一でAクラスの勝利です」
高橋教諭が終わりを告げる。
「どうして・・・・・どうやってそんなに強くなったんですか、松永君」
泣きそうになりながら震える声で瑞希が尋ねる。
「なぜと言われましてもねぇ・・・・昨年の五月の下旬頃。俺は思うように成績が伸びないことに思い悩んでいました。その時一生懸命に勉強している方々を見て思ったんです。もっともっと努力をしなくては、と。だから何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も覚えるまで英単語や年号などを書いて暗記するようにしましたし、単語カードなども作って復習しました。分からないことは理解するまで何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も先生方に尋ねました。できない問題はできるようになるまで何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回もやり直しました。寸暇も寝る間も惜しみながら。しかしその集大成であった降り分け試験当日、体調を崩して40度以上の熱が出てしまいましてねぇ、満足に解けませんでしたよ。ですから俺も再試験を受けたんです。そしたら何と、幸運にも今までやってきたような箇所ばかりが出ましてね、こんな点数になってしまいました。いやしかし、天狗になってはいけません。今回は運が良かっただけでしょう。偶然比較的得意な問題が多かっただけです。慢心していては成績が下がってしまいます。よりいっそう励まねばなりませんね」
その目には狂気が宿っていた。
そしてさらに狂気は加速する。
「あ、そうそう。Fクラス諸君には先に俺からの命令を出しましょう。きっと少しは更正の助けになることでしょう」
正久は雄二の方へ顔を向ける。
「青空教室、というのはどうでしょう。君達は学校の設備を破壊するのですから、いっそのこと教室なんて要らないでしょう?」
それはそれは楽しそうな笑顔を。
青空教室、すなわち校舎から出ていけ、と。
普通のオリ主とかだったら姫路さんに同情して配慮するんだろうな。
姫路さんをAクラスに移籍させるとか。
でも、悲しいけどこれアンチFクラスなのよね。
青空教室の詳細は次回です。