「この学園の教頭先生ともあろうお方が一介の生徒に何の頼みがあるというのでしょうか?」
階段を一段一段ゆっくりと踏み進みながら正久が訪ねる。
「一介の生徒、か。現在の学年主席の霧島さんはおろか高橋先生をはじめ教師陣に匹敵するような点数をたたき出す生徒を一介の生徒などと言わないだろう。謙遜は美徳だが過ぎたるは無礼にあたるからやめた方が良いと思うがね」
「ご忠告どうも」
手帳を閉じてポケットに突っ込みながら正久が言う。
「・・・・・さて、このままだと話が逸れかねないからさっさと本題に移ろうか。松永君、君はこの学園についてどう思う?」
「この文月学園について、ですか。他校では実現不可能であろう試験召喚システムを軸に据えた独自の教育システムは上手くできていると思いますよ。点数によって設備のグレードが変わったり、試召戦争によって上位クラスの設備を奪ったりと。設備という目に見える努力に対する報酬があるのですから生徒が勉学に励む動機としては申し分ないですね。そして歴史を辿れば自明の理、上位クラスは下位クラスのようになりたくない、下位クラスは上位クラスのようになりたいという心理も働いて相乗効果が期待できるでしょう、特に上位クラスは。人は自分よりも下位の存在がいると安心してしまう生き物ですからね」
「その通り。・・・しかし、利点ばかりじゃないだろう?」
教頭が続きを促す。
「ええ。問題は現在のFクラスのような努力もせずに怠けている連中が上位クラスを引き摺り下ろすことができる環境にあるということです。これが文月学園のルールだと言ってしまえばそれまでですが非常に、非常に理不尽なことですよ、俺たちにとっては」
「同感だ。私も彼らには手を焼いていてね。事があまり外部に漏れないように根回しするのが面倒で疲れる。一教育者としても彼らのような不良が真面目な生徒達が勝ち取った成果を脅かすのはもう看過できない。・・・そこで、だ。」
教頭は一度間を置き、再び口を開く。
「私はね、この腐りきった文月学園の体制を壊してしまおうと考えているんだ。今の学園長は自分の研究に没頭することしか頭にない。それでいて生徒を軽視するのだからなおさらたちが悪い」
「それはそれは・・・。どのような方法で?」
「今度の清涼祭でメインイベントとして召喚獣を用いたタッグトーナメントが開かれるのを君も知っているだろう?」
「ああ、そういえば先日出場者の募集が始まったばかりですね」
正久が頷く。
「そのトーナメントの優勝者にはある特別な腕輪が贈られることになっていてね。戦争を優位に進めることができる代物なんだが、これが問題を抱えている。ある得点、おそらく100点以上取得した生徒が使用すると召喚獣が暴走するというバグを、だ。・・・・生徒の保護者やスポンサーのお偉い方々がそれを見たらどうなるか、分かるだろう?」
「なるほど。スポンサーの方々が来ることになっているということはもうすでに招待状を送っていて引っ込みがつかない状況になっているということですか」
「頭の回転が早くて助かるよ」
「しかし、しかし事が成って文月学園をどん底まで貶めた後に、生徒達はどうなるのですか?」
「それなら心配ない。文月学園には優秀な生徒が多いからね、引く手あまただ。この計画は一部の他校がバックアップしてくれることになっているから安心すると良い。・・・その中に、神無月大学付属高校の名前がある」
正久が顔を強ばらせる。
「その学校の理事と私は親しくてね、彼は数年前に学校の体裁を優先するあまりにとある優秀な生徒の推薦入学を取り消してしまったことを酷く後悔しているそうだ。正当防衛とはいえ、暴力事件だったからやむを得なかったらしい。そして彼はできることならその生徒を再び迎え入れたい、とも言っていたよ」
正久にゆっくりと説く教頭。
「さあ、どうだね?松永君。私達に協力してくれないか?」
そしてそのまま右手を差し出す。
「・・・・・・その生徒はこう思っていることでしょう。全てを水に流して新たな学生生活に臨みたい、と」
「それでは協力してくれるのかな?」
「優勝さえすればこちらの好きにして良いのなら」
「ああ、構わんよ」
「では成立、ですね」
正久は教頭の手をとった。
教頭との詳細な話を終えた正久は彼と別れた後に立ち止まり、ポケットに手を突っ込みながら一考する。
「これは、これは機が巡って来ましたね。上手く立ち回って行きたいものです。このチャンスを手にしてこそ、道が拓ける」
笑みを浮かべながら正久は歩を進めた。
バカテスの二次創作だと明久達と一緒に姫路さんの転校阻止するものが多いですよね。
さてさて、主人公の真意やいかに。
次回から正久視点は減って行くと思います。