「ホント、アイツら何やってるんだか・・・」
Fクラスの数少ない女子の1人である島田美波は呆れ返ったように呟く。
その視線の先では男子による野球の試合が行われており、バッターボックスに立つ須川がピッチャーを務める明久に対して何やら宣っていた。
よくそんな元気があるものだ、しかも今はLHRの時間で清涼祭で何をやるのか早急に決めなければならないのに、と美波は頭を抱えたくなる。
「鉄人に怒られるのがオチよ。まったく懲りないんだから」
「あはは・・・皆さん、元気ですね・・・」
「まあそれだけが取り柄じゃからな」
美波と同じく野郎の一団には加わらずに傍観していた瑞希と秀吉が言う。
「それより瑞希、体調は大丈夫なの?」
「え、ええ、美波ちゃん。大丈夫ですよ」
美波の問いかけに苦笑いしながら答える瑞希だが、時折咳き込んだり健康的でなさそうな汗をハンカチで拭ったりと、明らかにやせ我慢している節があるため説得力に欠ける言葉であった。
「それなら良いけど、つらかったらすぐにウチや木下に言ってよね?・・・まったく、これも全部アイツのせいよ!」
そのやせ我慢に対して敢えて触れずに美波は恨めしげにAクラスがある校舎の方を見る。
現状を作り出した元凶たる正久がいるであろう位置を。
思い起こせば腹が立ってくるのだ。
Dクラスに下克上を果たした勢いそのままBクラスへと侵攻し、作戦に基づいて恭二の首を獲らんと意気揚々と挑んだまでは良かった。
しかしそこで戦争の要たる瑞希が恭二に手紙を盾に脅迫されて行動不能に陥るという想定外のハプニングに見舞われてしまった。
雄二の臨機応変な采配によってなんとか恭二を討ち取って手紙を奪取することができた。
そして恭二が手紙を正久から渡されたことが発覚。
それをAクラス戦の際に当の本人に問い詰めたところ知らぬ存ぜぬ証拠が無いと一蹴、挙句の果てに自分達Fクラスをクズだの愚か者だのと罵る始末。
極めつけに命令として押し付けられたのがこの新しい教室である。
教室とは名ばかりで風雨も日光も満足に遮ることもできず、校舎からも遠い。
比較的体は丈夫な方である自分や男子や秀吉はまだ良いが問題は瑞希である。
体が弱く体調を崩しやすい彼女には過酷かつ劣悪な環境だ。
このままでは・・・。
「島田よ、顔が怖いぞ」
指をパキパキと鳴らし始めた美波に秀吉が言う。
「あんな卑怯なヤツ、いつか絶対思い知らせてやるわ!」
「み、美波ちゃん・・・」
美波の意気込みに苦笑いするしかない瑞希。
「卑怯、か。本人はそんなこと毛ほども思っておらんじゃろうな。むしろ正しいことをしたと思っておるはずじゃ」
「それはそうでしょ、根本と同じよ」
「いや、違うのじゃ島田。根本の場合は目的のためなら悪事だと理解しつつ手を染めておる。じゃが正久の場合は目的、努力をしない愚か者と判断したFクラスを潰すためにすることは全て正しい、自分は間違っていない。そう思っておるはずじゃ」
「な、何よそれ」
「だから松永君は一騎討ちの時に激昂していたんですね?」
美波は驚嘆し、瑞希は納得したように頷く。
「あれでも、昔はーーと言っても小学生の頃じゃがーーワシと姉上をいじめようとした隣町の上級生を退けたり、授業について行けない同級生に勉強を教えたりと、皆に慕われ正義感あふれる男だったのじゃ」
「そういえば前にもそんなことを言ってたわね。中学校の時に何かがあったらしいって」
「そこまで考え方が変わるなんて、余程のことがあったとしか考えられないですね」
「それが分かればのう・・・・・・」
秀吉がため息をつく。
「そういえば松永で思い出したんだけど、Aクラスからの命令ってもう一つあったわよね?あれってーー」
「こらっ!貴様ら今の時間を何だと思っている!!」
美波の言葉は鉄人こと西村教諭の怒声でかき消された。
野球をしていた男子は蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。
「ったく、ひどい目にあったぜ」
放課後になり、青空教室で頭頂部にできたタンコブをさすりながら雄二がぼやく。
あれからクラスの男子の多くは西村教諭の手から逃れることができたのだが、それはターゲットを絞り首謀者に認定した雄二と明久のみを狙ったからである。
悪運尽きた二人はあっというまに捕縛され(肉体言語による)生徒指導の後に教室まで連行、そして美波と明久に清涼祭の出し物の議事を任せ、決定して今に至る。
かくして『中華喫茶 ヨーロピアン』に決定したわけだがこれを見た担任の西村教諭が呆れたようにため息をついたのは言うまでもないだろう。
「雄二が自分一人だけ助かろうとするのが悪いんだよ。道連れするに決まってるじゃないか」
同じくタンコブをこさえた明久がざまあみろ、と言う。
「俺だって内心つらかったんだ。大事な親友であるお前を見殺しにしなければならないなんて」
「ゆ、雄二、君はそんなに僕のことをーー」
「ああ。笑いをこらえるのに精一杯だった」
「ぶっ殺す!」
「ぐおっ!!」
「い、痛いーーっ!!」
明久は雄二のタンコブめがけて頭突きをくらわせたがそれが結果として自分のタンコブにまで衝撃がおよび、二人して頭を押さえながら痛みに悶え苦しむ羽目になってしまう。
「お主ら、ホント仲が良いのう」
「二人してバカなだけでしょ」
バカ二人に秀吉と美波が言う。
その後ろでは康太がカメラをいじっており、先ほどの瞬間を撮影していたらしく写真の確認をしていた。
「アキ、坂本。話があるんだけど」
「痛たたたた・・・・。え?美波、僕達に話?」
「明久、覚えてろよ・・・・で、話って何だ?」
お互いを睨みながら起き上る二人。
「うん。瑞希の転校のことなんだけど・・・・・」
「ほぇ?」
「おい明久、バカ面がさらにこの上なくバカみたいになってるぞ」
「む。まずい、明久が処理落ちしかけとるぞ」
「このバカ!不測の事態に弱いんだから!」
いきなり衝撃的な事実を突き付けられたことにより、明久の貧しい思考回路では処理しきれず固まってしまう。
「もういい、バカは放っておこう。島田、続けてくれ」
「そ、そうね。本人は誰にも言わないでって言ってたんだけど・・・。このままだと瑞希は転校しちゃうかもしれないの」
「姫路が転校じゃと?」
「理由はこのFクラスの生徒、環境、健康被害そして劣悪な設備ってところか」
先ほどまでとは違って真剣な表情で雄二が言う。
「以前のオンボロ教室ならまだ何とか首の皮一枚つながっただろうが、この有り様じゃあ決定的だな。ま、それもあの松永の野郎は計算してたんだろう」
忌々しげに雄二が言う。
「姫路がFクラスからいなくなればはっきり言って俺達に試召戦争の勝ち目が無くなるからな」
「・・・・・厳しい」
雄二の言葉に康太が同意する。
「で、転校を防ぐために対策を練って欲しいってところか?」
「そうなのよ。一応、ウチと瑞希で召喚大会に出てイメージを上げたり、喫茶店を成功させて少しでも設備を良くしたいと思っているんだけど・・・」
「・・・・・それだけじゃ難しい」
「美波!姫路さんが転校ってどういうことさ!」
「む、明久よ、ようやく処理が追いついたか」
復活した明久が美波に言い寄る。
「まあ俺としてもクラスの戦力が落ちるのも、姫路本人の意思に反するのは不本意だからな。やってやろうじゃねぇか。おい、明久、行くぞ」
にやり、と笑みを浮かべて明久の襟首を掴む雄二。
「え?事情が分からないんだけど・・・・。行くってどこにさ?」
「決まってんだろ。この学園の学園長のところだ」
雄二は明久を引き摺りながら校舎へと歩いて行った。