翌日。
文月学園では学年クラス問わずある一つの話題で持ちきりだった。
それは2年Fクラス姫路瑞希の手により2年Dクラス代表平賀源二が討死、しかし和睦で終結した、というもの。
学校というのはそれほど広い社会ではないためか、戦争は表向きには和睦と発表されていたにも関わらず、誰が広めたのかDクラスは何らかの条件を呑む代わりに設備交換を免れたことまで知られていた。
1年と3年にとっては異なる学年故に実害が及ばないため対岸の火事として見る程度だったが当の2年は違う。
ある者は戦火が自分達のクラスに飛び火するのではないかと警戒し、ある者は姫路瑞希というFクラスに不相応な逸材がなぜいるのかと首を傾げ、ある者は来るであろう戦争に向けて策を練らんとしていた。
とにかく様々な反応が見られたと言うべきか。
「今日は静かだね」
1日遅れで授業がスタートし、その合間の休み時間。
愛子は優子と美穂に話しかける。
言うまでもないだろうが静かなのはクラス全体のことではない。
昨日の一件のせいもあってむしろ他のクラスよりも戦争の話題で盛り上がっているぐらいだ。
何が静かなのかということは二人も察しており愛子の言葉に頷く。
「昨日はかなり激昂していましたよね」
「久保君とケンカもしちゃったし、代表に注意されて自重してるんじゃないかな?」
そう、正久のことである。
昨日の様子を見たAクラスの誰もが正久が再び怒り狂うのだと思ってその動向を注視していた。
しかし、その予想に反して正久は微塵の反応も見せず朝からひたすら数学の応用問題集の難問の数々と格闘しているだけだ。
頻繁に自ら淹れたコーヒーを啜るぐらいしか特筆する点が無い。
特筆する点が無いといっても昨日の書き取りの時と同じような様子、という意味であるため端から見れば異常に見えるのには変わらない。
「いや、あれは徹夜したみたい」
「えっ!?そんなこと分かるんですか?」
優子の言葉に美穂が驚く。
「正久は徹夜した日はコーヒーを沢山飲んでとにかくカフェインを摂取するの。そしてほら、少し目がギラギラしているというか活気があるでしょ?昔、徹夜をするとテンションが上がるって言ってたし」
「へぇ、さっすが彼女だね。松永君のことなら何でも知ってるんだねぇ」
「そうよ、知らないことはな・・・・て、何言わせんのよ!!」
「ははは・・・」
満更でもないんだろうな、と思いながら美穂は苦笑する。
しかし、内心優子は不安であった。
アイツ絶対に何かしでかす、と。
普段目が死んでいる正久の目に輝きがあるということは、普段よりもやる気を出しているということに等しい。
そして目の敵にしているFクラスの挙兵と進撃。
昨日の激昂と利光との口論。
一番苦手としている数学の勉強。
(まさか、ね・・・・)
優子の中である予測が導き出された。
「高橋先生、振り分け試験のリベンジをしたいのですが」
「え?再試験、ですか?」
放課後、職員室を訪れ高橋教諭に正久は願い出た。
「ええ。流石に、流石に戦争になるまで不完全燃焼で終わってしまった点数のままというのはあまり良い気がしませんので」
「確かに規則上、再試験自体に問題はありませんが・・・」
「ん?何でしょうか、先生?」
「松永君、体調の方は大丈夫ですか?今も顔色が悪いものですから」
「何を、何を仰いますか先生。俺の顔色の悪さなど今に始まったことではありませんよ」
自嘲気味に言う正久。
「いえ、そうではありません。松永君、貴方の学習姿勢に対しては私を含め教師一同目を見張るばかりです。しかし睡眠時間を極端に大きく削ってまですべきことではありません。貴方は誰よりも努力家なのでしょうが、自愛ということも大切にすべきです」
その正久の目を真っ直ぐに見つめ高橋教諭は説得するかのように言う。
「またもや、またもや何を仰いますか。俺ごときが誰よりも努力家などとは。今こうしている間にも一生懸命に努力されている方々がいることでしょう。彼らに追いつき追い越すために俺は少しずつでも前に進まなければなりません。真面目に努力を積み重ねることこそ正しいのです。・・・・とにかくまだまだですよ俺は」
「・・・・・・試験は明日と明後日の放課後に分けておこないます。良いですか?」
「ええ。お手数をお掛けして申し訳ありません」
一礼をすると正久は引き返して行った。
「どうすれば良いのでしょうか」
正久が去り、高橋教諭はため息をつく。
正久のような生徒は初めてである。
大概の生徒は勉強をした分だけ成績が上がると大いに喜ぶものなのだが正久にそれはなくその上成績に満足せずにむしろまだまだ頑張りが足りないと言っては睡眠時間を削りに削って勉強する。
そのせいで体力や免疫力が著しく低下し体調を崩しやすくなってしまっている。
さらにはそれを止めるように言ってもきかず、生徒が恐れおののく西村教諭や正久の両親の言葉を以てしても不変なのだ。
実はこの問題には教師一同頭を抱えており、会議の議題にあがるほどだ。
しかし、未だに解決策は見当たらない。
「松永君、何が貴方をそこまで駆り立てるのですか?」
「さて、早く戻って続きを・・・・・ん?何ですかこれは?」
昇降口の前を通り過ぎた時、廊下に落ちていた封筒が目に入り正久は手に取る。
「ハートマークのシールで封をしているということはまさか、まさか恋文ですかな?差出人は姫路瑞ーー」
「あ、あれ?この辺りで落としたの、かな?」
背後から女生徒の声が聞こえ少し驚いた正久は封筒をポケットに突っ込み、声の主の方を見る。
驚いたのも無理はない。
封筒の持ち主である瑞希本人が現れたのだから。
封筒を探しているらしい。
「これは、これは姫路さん。何やらお困りのようで」
「あ、ま、松永君。冬休みの講習以来ですね。・・・・あの、ええと・・・・落とし物をしちゃいまして」
「それは大変ですね。因みにどういった物で?」
「そ、それは・・・」
顔を恥ずかしそうに赤らめる瑞希。
「ああ、失礼。プライバシーに関する物のようですね。申し訳ありません、俺の配慮が足りなかったようです」
「・・・大事なお手紙なんです」
「それは、それはますます大変ですね。誰かに読まれでもしたら不味い。俺もできる限りのことをしましょう。それらしき物を見つけたらお届けしますよ」
「あ、ありがとうございます、松永君!」
瑞希は好意(的な言葉)が嬉しいのかしどろもどろだったが表情を明るくする。
「ところで姫路さん、聞きましたよ振り分け試験のこと。とても、とても辛かったでしょうに」
「一応、体調管理は万全にしていたつもりだったんですけど・・・・急に熱が出ちゃって」
「しかし体調管理も実力のうちとは言いますが、普段努力されている姫路さんがFクラス行きとは何と、何と理不尽な!録な設備も無ければ録な人間もいないでしょう?」
「そ、そんなことはありません!明るくて、楽しくて、それに・・・・優しい人もいます。皆悪い人じゃありません。だから、そんな酷いことを言わないでください!」
正久から表情が消えた。
「・・・・・・これは失礼致しました。では、お体に気をつけてお達者で」
「え?ま、松永君?」
困惑する瑞希を置き去りにして正久は教室へと戻りだした。
誰もいない教室。
正久はポケットからあの封筒を取り出した。
「いささか、いえ、非常に、非常に残念です。本来ならば彼女はクズ共を正しい道へと導ける存在なはず。しかし、
しかししかし共に堕落せんと欲すかのような言葉、雰囲気。戦争では自ら進んで奴らに与していたということですか。俺を否定したということは
彼女も間違っているのか」
指に力が入る。
「そうだ、確かFクラスはBクラスに宣戦布告したとか。Bクラスの代表は・・・・・・根本君でしたっけ?手段はともかくとして勝つためにあらゆる努力をする人でしたね。気は進みませんが仕方がない。これも正しくあるため。それではすこし用を済ませてから・・・・」
とあるバカテス二次創作のBクラスのオリ主が、姫路さんが一生懸命に書いたラブレターを踏みにじったそうですね。いったいどこの誰がそんな酷いシナリオを・・・
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