翌日。
昨日のFクラスがBクラスに宣戦布告したため、午前中は通常通り授業が行われるのだが午後からは戦争開始となるため自習となる。
Aクラス所属学年三位久保利光は不思議でならない。
何故なのか、と。
眼鏡の奥の瞳が視界にとらえているのは相も変わらずノートに何かを書き殴っている正久の姿だ。
初日にAクラスとしての品位を落としかねないほど最下位クラスであるFクラスを貶める正久の発言を利光が咎めたことから(これは建前で本音は想い人への侮辱への反発なのだが)少々口論へと発展した。
その時のことやこれまでの正久の様子から分かったのが正久は自身の価値観こそが絶対的正義であると狂信している、ということだ。
そうでなければあそこまで堂々とFクラスを貶めることはできないだろう。
しかし初日以降の正久の様子は違った。
Fクラスの進撃の報が入ってきても眉ひとつ動かすことなく無言で机に向かっているだけだったのだ。
利光は何度も初日のように論戦になると思っていたのだが。
短期間で改心したわけでもあるまい。
ではなぜ、正久は黙しているのだろうか?
利光は首を傾げる。
「よし、行ってこい!目指すはシステムデスクだ!」
『さー、イエッサー!』
昼休みが終了し、午後の授業の開始を告げるチャイムが鳴り響くのと同時に代表の雄二が進軍の命を下すとFクラスの面々は意気揚々とBクラス目掛けて廊下を駆け出す。
Dクラスの時とは違って個々の戦闘能力では圧倒的に不利であるため束になって押しながらBクラスの生徒の多くが苦手とする(それでもFクラスの平均よりもかなり高い)数学を始めとした理系科目を主軸に据えて挑まなければ戦線は維持できない。
「いたぞ、Bクラスだ!」
「高橋先生をつれているぞ!」
Fクラスの正面に10人程度のBクラス小隊が現れる。
また、Fクラスとは対照的に足取りはゆっくりで顔に余裕の笑みを浮かべてさえいる者もいる。
(ち、ちくしょう!今に見ていろ!)
四倍の頭数の差に対しても動じずむしろこちらを馬鹿にしているような態度を受けFクラス前線部隊にいる観察処分者、吉井明久は相手を睨みつける。
「生かして帰すなーっ!」
通常の学生生活ならまず発せられることはないような穏やかでない言葉が戦闘の幕を上げる。
『Bクラス 野中長男 総合 1943点』
VS
『Fクラス 近藤吉宗 総合 764点』
『Bクラス 金田一裕子 数学 159点』
VS
『Fクラス 武藤啓太 数学 69点』
『Bクラス 里井真由子 物理 152点』
VS
『Fクラス 君島博 物理 77点』
しかし悲しいかな、現実とは非常なものである。
勢いと数の暴力だけではそう簡単に兵力差は埋まらない。
Fクラスの尖兵達はことごとく散っていく。
(や、ヤバい!このままじゃ皆やられる!)
その様子を見た明久は体勢を立て直すべく思案を巡らせる。
「来たぞ!姫路瑞希だ!」
Bクラスの一人が叫ぶ。
Fクラスにとっては単身でBクラス生を圧倒できる瑞希の到着は逆転の好機であり、一様に表情を明るくする。
「姫路さん、来たばかりで悪いんだけど・・・」
「は、はい・・・・ええと、その・・」
「あれ、どうかしたの?」
明久が戦闘に加わるよう瑞希に声をかけるも彼女はただ歯切れ悪くおどおどしているだけだ。
「顔色が悪いよ、姫路さん。まさか、体調が悪いの?」
「ち、違うんです!ただ・・・・・」
目が涙で潤うも瑞希は一向に戦闘に加わる様子がない。
「姫路瑞希など恐るるに足らず!このまま雑魚を蹴散らすぞ!!」
Bクラス生の言葉通り、Fクラス側に次々と戦死者が出てしまう。
「姫路さん、ちょっと下がってて!」
明久は廊下に設置してある消火器を手に取る。
先の戦争でも用いた。
もちろん使い方は熟知している。
「くらえっ!!」
明久が辺りに消火剤をぶちまけると忽ち白煙がBクラス生の視界を悪くさせる。
「よし、皆!今のうちに囲んで一人ずつ叩くんだ!!戦力を消費した人は今のうちに補充に行って!」
明久が指揮官である瑞希の代わりに命を下すと小隊が混乱しているBクラス目掛けて突撃していく。
「・・・・・姫路さん、何か事情があるんだよね?ちょっと教室に戻ろう」
「・・・・」
瑞希は頷く。
「秀吉、少しの間任せたよ」
「分かったのじゃ」
木下秀吉に指揮を一任すると明久は瑞希を連れて教室へと向かった。
「何かあったのか、姫路」
戻った明久から事のあらましを聞いた雄二が瑞希に問い質す。
彼にとっても今の事態は想定外なのか若干の焦りが感じられる。
「・・・・・」
「黙ってないで訳を話してくれ!このままだと負けかねない!」
「ち、ちょっと雄二!」
沈黙し続ける瑞希に痺れをきらしたのか雄二は語気を荒げる。
「い、いいんです、吉井君。じ、実は・・・・」
涙を流しながら瑞希は口を開く。
曰く、今朝早くにBクラス代表の恭二に呼び出され、恭二は瑞希の『他人に見られては困る大事なもの』を持っており、返して欲しければ戦闘行為をしてはならず、戦闘に参加したり誰かに話したりしたら全校に暴露する、と言われたそうなのだった。
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい・・・」
泣きながら何度も頭を下げる瑞希。
ようやく明久は合点がいった。
Bクラスの連中が余裕を見せていたのは戦力差があったことだけじゃなくて姫路さんが攻めて来ないことを知っていたからなんだ、と。
「姫路さんは悪くないよ。悪いのは根本君、そうだよね、雄二?」
明久は恭二に対する怒りからか拳を握りしめる。
「ああ。しかしあのクズ野郎、やってくれるじゃねぇか」
「でもどうするのさ、雄二。このままじゃこっちが押しきられるよ?」
「・・・・・いや、それでいい。押しきってもらおう。予定よりもかなり早いが奥の手を使うぞ」
雄二自身に溢れた笑みを浮かべる。
ヒント:この世界ではとあるBクラスオリ主はいないので根本君は・・・・
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