ダンジョンでブラフマーストラを放つのは間違っているだろうか 作:その辺のおっさん
うーん、ミノの強化これでええんか………
星4交換バサランテにしようかなと考えていた矢先に呼札1枚できたので段蔵ちゃんにしました。
幕間楽しみです
深夜、ダンジョンに潜る者はおらず、今ダンジョン13階層の広間には『フーッ、フーッ』と猛牛の吐く息の音しかしない
「どうした……終わりか?」
その猛牛と向かい合う男はもう既にミノタウロスを鍛えて数時間経っているにもかかわらず
『ヴ、ヴォォォ…』
「やはり怪物、学習しないか」
男はつまらなそうに言うとミノタウロスが認識できない速さで飛び廻し蹴りを突っ込んでくるミノタウロスの頭部に放ちミノタウロスを壁に叩きつける。ダンジョンの壁に叩きつけられたミノタウロスは力なく崩れ落ち意識をなくすのであった。
***
「(さて、これはどうしたものか)」
カルキは悩んでいた。あの求道者が鍛えていたミノタウロスを見つけ鍛えることを邪魔されないように下の階層へと叩き落したのは良かったのだが、一向にこの怪物は「技と駆け引き」というものを学習しないのである。大剣はただ使えるだけで突く・斬る・払うの3つの基本すらなくただ勢いに任せて振り下ろすだけで、これではレベルの低い冒険者でも次にどのような攻撃が来るのか判るほどの拙さであったため大剣を取り上げ、その巨体を生かした攻撃の出来る武器をと思っていたら地面から両刃斧を取り出したためそれを使うならばとしばらく手を抜いて様子を見ていたのだが、あくまでも使うことが出来るという範囲であって技が一つもないのである。カルキは「うーん」と左手を口に当てながら
「(分かってはいたことだが技は覚えない……となるとこの巨体の重さをどれだけ武器に乗せられるかだが)」
ちなみに武器に自らの体重を乗せるということもある意味一つの技であり、武器を使う際に共通する基本中の基本の技なのだが「え?そのくらい教えなくても出来るでしょ」とカルキにとって武術の師匠であるシヴァは技と認識していなかった為、何も教えずカルキもシヴァと修行しているうちに勝手に出来ていたので人間相手どころかモンスター相手にどう教えたらよいのか分かっていないのである。
暫くの間カルキがどう教えたものかと悩みながら大剣の手入れをしていると、どうやら意識を取り戻したらしいミノタウロスが起き上がったので再び鍛えようと向き合うと
『ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
とミノタウロスが大咆哮を上げるとその体躯が
「ほう…」
モンスターが見せた変化にはカルキも多少の興味を示す。漆黒となったミノタウロスは咆哮を上げながら今までとは比べ物にならない速さでカルキへと突貫しするが、その突貫をいとも容易く避けたカルキの横を通り過ぎた瞬間に右腕が斬り飛ばされていた
「なるほど、力と速さ、打たれ強さが多少上がったか。まあ、これなら技がなくても今のベルなら脅威になるだろう」
簡単に右腕を斬られ、激痛に膝を折ったミノタウロスに対してカルキは再び向き合い
「では、休憩は終わりだ………来い」
そう言って大剣を構えたカルキに漆黒のミノタウロスは再度決して傷一つつけることの出来ない相手に向かっていくのであった
***
朝、道化師のエンブレムが刻まれた団旗の下、【ロキ・ファミリア】は深層への遠征に出発し、バベルの最上階に座す美の女神は「————さあ、見せてみなさい?」と白兎の冒険を望み、その従者は主の望みを果たそうと暗躍し、何も知らない白兎は普段通りにサポーターの
「やはり、一晩ではあの程度が限界か」
などとひとりごちるカルキは9階層の通路にいた。結局、あれからあのミノタウロスを一晩鍛えたが体躯が漆黒となり、力、速さ、打たれ強さが上がっただけで技は一つも覚えず、武器の扱い方が多少マシになったという有様であった。
「(こんなことなら【ガネーシャ・ファミリア】の団員たちがモンスターを
らしくもなく後悔するカルキであったが、調教とは普通はモンスターに技を教えるということはしないので「そんなことはしないぞ!」といつもならガネーシャからのツッコミが入るところである。
「さて、どうやらベルもダンジョンに入ったようだ……他は無視しろ白髪の少年を襲え殺しても構わない……わかったな」
『ヴォ…』
カルキの言葉に同意するように漆黒隻腕の猛牛は声を出し、そのまま正規ルートの広間の一つに向かう。その後ろ姿を見ながらカルキは呟く
「さあベルよ、お前の『英雄の素質』を見せてみろ……」
戦って生き残れば良し死ねばそれまでの器と言外に語るカルキは物事を見極める際のヴィシュヌと同じ表情であるとその場に
***
最初に白髪の少年が漆黒隻腕の猛牛を見た時その瞳に浮かんだのは恐怖、サポーターであろう少女に突き飛ばされ、正気を取り戻しミノタウロスと向き合い魔法を乱発する。そのある種みっともないと称される姿をカルキは通路に隠れて眺めていた
「(初動は最悪だったが、すぐに戦意を取り戻したか……それにしても見境なく魔法を打ちすぎだろう、アレは間違いなく初速が早い代わりに威力が低い、確実に的確に当てなければ意味がないのに……恐怖に飲まれているか)」
いっそ残酷といえるほど冷静にカルキは今のベルの動きを評する。案の定、ミノタウロスには傷一つ負わすこともできておらず、それどころかミノタウロスが振り下ろした両刃斧が地面をうがちすぐ下の階層が見えるほどの大穴を開け、その衝撃だけで数十
「(さて、ここからどうする……?)」
広間に別の通路から入り、ミノタウロスに恐れをなして逃げ出した冒険者に気付きながらカルキはベルを少し驚きながら眺める。技や駆け引きがない力任せの攻撃、一晩だけとはいえ自分が鍛えた怪物の攻撃をベルは紙一重であるが確かに躱して見せたのだ、ならば後はどれだけ恐怖に飲まれずに一歩前に出れるかどうかだがどうにもその一歩が出ずにただミノタウロスの攻撃から逃げ回っているだけになっている。が、それが功を奏したのであろう、ベルに突っ込んでいったミノタウロスはその突進を躱され、そのまま壁をぶち破りながら別の通路に行ってしまったのである
「(やはり獣は獣か)」
カルキがミノタウロスに対して思わず呆れているとベルがサポーターの少女に向かって叫んだ
「リリ、逃げて!」
「(!?)」
ベルの余裕のない悲痛な叫びを聞いて思わずカルキは目を開く
「(この状況で仲間に「逃げろ」というのか「逃げよう」ではなく)」
暫くやり取りをしていた二人であったが、リリと呼ばれていた少女は顔がくしゃと歪めてベルに背を向け走り出す。しかし、ベルは逃げずにミノタウロスがいる方向を睨みつけている。そう、「逃げろ」と「逃げよう」というのは似て非なる言葉なのである。しかもベルから感じられるのは自分が逃げたら彼女が死ぬ彼女を死なせたくないけど逃げたい生きたいというぐちゃぐちゃな感情であった。
するとすぐに先ほど突き破った壁からミノタウロスが出てきたのを見てベルは右腕をプロテクターに突っ込み短剣を抜剣し、ミノタウロスと向き合う。が、やはり力の差は歴然でどうにか逃げ回りながらやり過ごすという先ほどとあまり変わらない光景が繰り広げられた。
「(どうやら覚悟は決まったようだ、ならばこの後はどうするベル……?)」
カルキはベルが少女を逃がすために戦うと覚悟を決めたことについては満足したが、その後どうなるのか、どうするのかについて興味が移っていた。勝利するなら最上、隙を見て逃げ出し己の未熟を恥じ自らを鍛え上げ再び挑もうとするのも良し、だが誰か助けが来てその人物にすべてを任せ戦っているミノタウロスを倒してもらうとするならばここで骸となるのが良い、とカルキが考えていると、先ほどベルが逃がした少女が走っていった通路の先から何者かが戦っている気配が感じられた。
「(ふむ、邪魔をされたら厄介だな、少し見に行ってみるか)」
そう思ったカルキは戦っている一人と一匹の近くに持っていた大剣を投擲した後、その通路へと向かった
***
「(―――――抜けた!)」
【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインは都市最強冒険者【猛者】オッタルの横を駆け抜けた。遠征の途中、7階層ですれ違ったパーティから漆黒隻腕のミノタウロスに白髪の少年が襲われていることを聞き、居ても立っても居られず、隊列から離れ向かった9階層で【猛者】オッタルの妨害を受け、自らの
「……復讐者か」
耳元で声をかけられたと思った瞬間、首を掴まれたかと思うと急に浮遊感を感じ、投げられたと分かったのは受け身も取れず地面に叩きつけられ、後からやってきた【九魔姫】リヴェリアに受け止められた時だった。
「アイズ!?」と驚きアイズに駆け寄る仲間や無表情だが通路の奥を警戒しているオッタルがにらみつける中、ゆっくりとアイズを投げ飛ばした人物が通路の暗闇から現れる
「お前は……」
オッタルが少し驚いた声を出すがそれは【ロキ・ファミリア】の幹部たちも同じ気持ちになった。なぜならその男は約1ヶ月前、自分達【ロキ・ファミリア】相手に大胆不敵な物言いをした人間だったからだ。
「なるほど、何者かが戦っている気配を感じたから来てみれば……求道者と【ロキ・ファミリア】だったか」
などとここにいる第一級冒険者などさしたる脅威ではないと謂わんばかりにやってきたのは『豊穣の女主人』でアイズが隠していることを言い当て、【ロキ・ファミリア】に喧嘩を売るような言動をした
次回
『オッタルさん胃に穴が開く(物理)(仮)』
追記
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