ダンジョンでブラフマーストラを放つのは間違っているだろうか   作:その辺のおっさん

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実は前話の感想の返信を返しているときに気付いたのですが、エニュオさん『破壊者』名乗ってシヴァに喧嘩売った挙句、下界に狂乱を求めて秩序の崩壊を望んでるって某維持神にも喧嘩売っちゃってね?

あれ?ここだとエニュオさん、アポロン以上の自殺愛好家になってるような‥‥?



なお、ガネーシャとカルキはシヴァに目がいってて一切気付いていない模様


第29話

「(まあ、こういう場所で喧嘩はつきものだが……)」

 

目の前でベートと元【イシュタル・ファミリア】の戦闘娼婦(バーベラ)達の騒ぎが起こり、皿や椅子、血の欠片が飛び交う中、カルキは我関せずと気配を消して注文していた料理と酒を楽しんでいた

 

「(‥‥‥中々に美味だったな、ガネーシャ神やソーマ神がここにしたのも納得だ……うん?)」

 

食事を終え、満足していると、こちらに向かって一人のアマゾネスが吹き飛ばされてきたので仕方なく飛んできた方に蹴り返すと、飛んでいった先で別のアマゾネスにぶつかり店の壁を突き破って外に出て行ってしまった

 

『なっ…』

 

店にいたベート、アイズ、アイシャを含む全員が驚愕し動けなくなる中、蹴り飛ばした本人は空になった皿をテーブルの隅に置いて何事もなかったかのように蜂蜜酒を一口飲んでいるが、注目されていることに気付き

 

「ああ、こちらに来たから返しただけだ、気にするな」

 

喧嘩の続きでもしたらどうだと促すカルキの存在に今頃気付いたのか店のあちこちから「『百人斬り』だ…」「今、飛んでってた奴ってレベル3だよな…」「じゃあ、アイツってレベル4なのか…?」「ハァ!?じゃあ神々が嘘ついてたってのかよ」などと店内から動揺する声が聞こえてくる一方で喧嘩をしていたベートとアイシャ、さっきまでオロオロしていたアイズはカルキを敵のように睨みつける

 

「ふむ、どうやら興を醒めさせてしまったようだ、これは自分に非がある。大人しく出ていくとしよう」

 

そう言って店から出ていこうとするカルキに

 

「待てよ」

 

敵意を込められた声に振り返るとベートがカルキを睨みつけていた

 

***

「何か用か狼人(ウェアウルフ)?」

 

やれやれといった風に声を掛けるカルキの様子をベートは気に入らないのか

 

「てめぇ、あの赤髪の女の仲間か…?」

 

最早、敵意どころか殺気を放つベートに誰もが震える中

 

「(……赤髪の女?…自分が知っているのは【ガネーシャ・ファミリア】の副団長だが、彼女は自分を嫌っているし、そもそも自分は【ガネーシャ・ファミリア】の団員ではない……)いや、違うな」

 

「……そうかよ、じゃあ、てめぇは何の目的でここにいるんだ?あ?」

 

ベートの問いかけの意味が分からないカルキであるが、その答えをベートだけでなくアイズも聞き逃さないようにしていることに気付いたが、困る事でもないが誤魔化して「とある神からの命令だ」と答えると2人の顔つきが険しいものになるが、それは無視して

 

「では、こちらからも一つ問おう狼人(ウェアウルフ)、お前は先ほどから弱者を嫌う発言をする。それは何故だ?誰しも、それこそお前にも弱者であった時があるはずなのにな」

 

「‥‥ああ?」

 

どうやら、こちらと問答をする気はないらしい。これでは、あの求道者の方が話を聞く人間の部類になるなと苦笑いしつつ

 

「一匹狼を気取るか…知っているか狼人(ウェアウルフ)、一匹狼というのは人間から見れば孤高の存在と思われているが、その実態は群れの中で唯一生き残ったか、群れから追い出されたか……とにかく己の群れを無くした哀れでやせ細った狼らしいぞ?」

 

「ッツ!!」

 

激高したベートが殴り掛かり、アイズがベートを止めようとするがカルキはヒラリと躱し、店の外に出て暫く走り人通りのない裏通りまで移動して人払いの結界を張り、ベートと対峙する

 

「(ここまで激高するということは図星か…ならば弱者を嫌うのはかつての己を見ているように感じるからか)‥‥‥存外しつこいな」

 

どこまでも冷静にベートを分析するカルキにベートは襲い掛かるが軽く足を払われて地面へと激突する寸前で体勢を立て直し拳を放つがあっさりと躱され、カルキに腕を掴まれ放り投げられる

 

「クソがああああああああ!」

 

着地してすぐに叫びながらこちらに突っ込んでくるベートにカルキは一歩も動かずに軽く体を横にずらし顔面を掴むと一歩前に足を出してそのまま地面へと叩きつける

 

「がっ…」

 

衝撃で意識が飛んだベートであったが自分の触れられたくない()に触れた……間違いなく自分相手に手加減をしている目の前の怪人(クリーチャー)擬きへの怒りに突き動かされるまま起き上がるが、カルキは既にベートのことなど、どうでもよくなっているようで、家の屋上に飛び乗り、立ち去ろうとするので「待ちやがれぇ!!」と叫ぶが、カルキはため息をついて見下ろし

 

狼人(ウェアウルフ)、お前自身気付いているだろうが、人間はどれほど強くなろうとも己の手で守れるのは、せいぜい目の前か隣にいる1人か2人だけ……ましてや、自分から守りたいと思う者を自分から遠ざけ、自分の手が届かぬ先で守りたかった者が死んでしまえば、それこそ何の意味もなく、見殺しと変わらんぞ?」

 

「黙りやがれッ!」

 

まあ、目に映るすべての人間を救う者はそれこそ『英雄』と呼ばれるものだがそんな者はそう居ないがなと心の中で思うカルキに堪忍袋の緒が切れたベートが跳躍し、再び襲い掛かるが

 

「ハァ…」

 

ベートが屋上に着地するより早く、カルキも空中へと身を翻しベートへ裏拳を腹に手加減して打ち込み、再び地面へと叩き落す

 

「ク…ソがっ……」

 

それでもまだ起き上がろうとするベートにカルキは「ふむ」と口に手を当て

 

「何故そこまで激高する………ああ、最近、己の考えを理解してくれていた心優しい女でも己の手の届かぬ場所で亡くしたか狼人(ウェアウルフ)?」

 

「ッツ!?てめぇええええええええ!!」

 

ベートの反応に図星だったかと肩をすくめたカルキは、ベートを見下ろしながら

 

「余計なことを聞いたことは詫びよう、だがな、お前がその傷に真正面から向き合い、己がどうするべきか決められない限りはお前は一生そのままだぞ狼人(ウェアウルフ)?」

 

「んだとぉ…」

 

ベートに冷たい眼を向け、それだけ言って踵を返して一瞬で消えたカルキにベートはただカルキがいた場所を睨みつけることしかしかできなかった

 

その後、【ガネーシャ・ファミリア】の本拠(ホーム)に戻ったカルキは【ガネーシャ・ファミリア】の団員達から「またコイツは働いていないのか」と非難の目を向けられ、ベートは自分に纏わりついてきた天真爛漫な少女に歓楽街跡地へと連れていかれるのであった

 

***

次の日の朝、ベル達の所にでも行こうかと思っていたカルキだったが、知っている赤髪の女、もとい【ガネーシャ・ファミリア】の副団長イルタから「人手が足りないからお前も遊んでないで手伝え」と歓楽街跡地の後始末へ駆り出され、カルキが歓楽街を消滅させた犯人であることを知っているシャクティは苦い顔をし、ガネーシャは自分のしたことの後始末だなと笑っている頃

 

「この呪い、私が殺します」

 

「‥‥‥頼む」

 

【ディアンケヒト・ファミリア】の施設の奥にある商談部屋でアミッドとリヴェリアが人造迷宮(クノックス)で【ロキ・ファミリア】を苦しめた『呪詛具(カースウェポン)』の対策、解呪薬について話し合っていたところに「アミッドさんっ!」と【ディアンケヒト・ファミリア】の団員が飛び込んできた

 

「どうしましたか?」

 

「入院している【猛者(おうじゃ)】が…………」

 

それだけで察したのかため息をついて「失礼します」とリヴェリアに謝り、病室に向かおうとしたアミッドだったが

 

「【戦場の聖女(デア・セイント)】とリヴェリアか…………」

 

「「!?」」

 

腹部に包帯を巻き多少見知っているリヴェリアが今まで見たこともない姿のオッタルが奥から現れたのである

 

「ッツ!!いくら貴方がオラリオ唯一のレベル7で高い耐久のステータスがあると言っても僅か数ヶ月の間に2度も腹部を欠損するほどの大怪我を負っているのです!せめて一週間は安静にと…!」

 

もう大丈夫だと治療の礼を言うオッタルにまだ安静にしているよう注意するアミッドと【ディアンケヒト・ファミリア】の団員達を万能薬(エリクサー)高級回復薬(ハイ・ポーション)を使えば問題ないと半ば無視するように出ていこうとするオッタルに、ようやくオッタルが重傷という衝撃から立ち直ったリヴェリアはアミッド達の言い分が正しいとオッタルに説いて納得させてから何事かと問いかける

 

「それで…お前にここまでの重傷を負わせたのは何者だ?」

 

「むぅ…」

 

本来であればそんなことを言う義理はないのだが、アミッドの言うことを無視して勝手に退院しようとした手前、どうにも弱みを握られた気がしてならないオッタルは大人しくあの日、歓楽街で、そして自分達【フレイヤ・ファミリア】に何があったかをリヴェリアに話す

 

「馬鹿なッ!あの惨事を見ながら神ガネーシャが笑っていただとッ!!」

 

「…………嘘ではない、あれは確かにガネーシャだった」

 

一般人程度の力しかないはずのソーマが【フレイヤ・ファミリア】の第一級冒険者の幹部達を一瞬で半殺しにしたこと以上にリヴェリアを驚愕させたのは、オラリオにいる神々の中でも屈指の善性を持つ神格者であり、常にオラリオの人々に寄り添い5年前まで続いていた闇派閥(イヴィルス)との戦いではロキ・フレイヤの両【ファミリア】や今は壊滅してしまった【アストレア・ファミリア】と共にギルド側の【ファミリア】として戦った【ガネーシャ・ファミリア】の主神であるガネーシャの豹変ともいうべき姿であった

 

「お前が疑うのも無理はない、俺達もあのガネーシャを見た時、本当に自分たちが知っているガネーシャなのかと目を疑ったからな」

 

「…………まさか」

 

そこでリヴェリアは何故ガネーシャが豹変してしまったのかと考え、ふと、最近【ガネーシャ・ファミリア】で居候をしていて、とある酒場で【ロキ・ファミリア】との因縁があり、【ファミリア】内で「怪人(クリーチャー)では?」との疑いのある男が頭をよぎる

 

「豹変の理由はカルキ・ブラフマンか…?」

 

最近、【ソーマ・ファミリア】の酒蔵にも出入りしているという情報のある男の名をつい口に出したリヴェリアに

 

「あの男とは関わらぬ方が良い」

 

「…………どういう意味だ」

 

仮想敵派閥の団長からの意見に眉を寄せるリヴェリアにオッタルは【ロキ・ファミリア】の【遠征】の途中、白兎が猛牛を倒したあの日、カルキが都市最強冒険者である自分を遊ぶように一方的に嬲り、腹に穴をあけたことを話して最後に

 

「あの時、もしあの男が本気で戦っていたら俺はここにいない……間違いなく今このオラリオ最強はあの男…カルキ・ブラフマンだ」

 

その嘘偽りなく真剣に語る武人の言葉にリヴェリアは何も返せずただ病室には沈黙が広がるのであった

 

***

まさかの自分で焼き尽くした歓楽街跡地の後始末を自分でするという、とんだマッチポンプをしてしまった日の夜、カルキは歓楽街周辺…否、オラリオのあちこちから漂う不穏な気配に気づく

 

「(これは…殺気か、それもこの雰囲気は暗殺者(アサシン)か?)」

 

オラリオ中に展開し気配を殺しているであろう暗殺者(アサシン)の人数を気配だけで把握し、少し考える

 

「(………この暗殺者(アサシン)達の狙いは何だ?)」

 

人数は把握できても目的と標的がわからない以上どうしようもないなと考えるカルキであったが、やがて「ああ口封じか」と納得する。イシュタルは闇派閥(イヴィルス)の残党と繋がっており、そのイシュタルがカルキによって天界に送還された、ならば闇派閥(イヴィルス)の残党は自分たちの情報を他派閥に渡さないよう口封じをすることは容易に想像できるのである

 

「となると、狙いは【イシュタル・ファミリア】の生き残りか……」

 

暗殺者(アサシン)達の狙いと目的を把握したカルキであったが、仮に暗殺者(アサシン)を今から数人倒しても直ぐに他の暗殺者(アサシン)が動いたらどうしようもないので、どうしようか思案していると

 

「あ……」

 

目の前にアイズと見慣れぬエルフの少女が現れ、2人とも此方に気付いたらしく少し驚いた声を出して佇んでいる

 

「(確か…【ロキ・ファミリア】はあの地下迷宮にいたな。ということは闇派閥(イヴィルス)とも何かしら敵対しているということ‥‥)」

 

地下迷宮から出ていく際に【ロキ・ファミリア】を追い越したことを思い出したカルキは忠告だけはしておこうとした

 

「あの‥‥」

 

「………【イシュタル・ファミリア】の生き残りには注意しておくことだ」

 

千の妖精(サウザンド・エルフ)】レフィーヤが何か話そうとしていたがカルキはそれを無視するかのように自分の言いたいことだけ話すと振り向き立ち去ろうとする

 

「え?それって…」

 

どういうことかわからず意味を問いかけようとするレフィーヤとアイズに振り向いたカルキは「それくらい自分達で考えろ」と言わんばかりの視線を送り雑踏の中に消えていった

 

***

「成程!【イシュタル・ファミリア】の生き残りを狙う暗殺者(アサシン)か!」

 

その夜、【ガネーシャ・ファミリア】の本拠(ホーム)のガネーシャの自室には、ガネーシャとシャクティがカルキに呼び出され、今オラリオに暗殺者(アサシン)が展開していることについて聞かされていた

 

「数は50程、既にオラリオ中に展開していて、おそらくは明日の明け方にも仕掛けるだろうな」

 

あくまでも冷静に状況を判断するカルキに「むぅ…」と顔を歪めるガネーシャとカルキを警戒しつつもその情報が嘘ではないとガネーシャが話したため信じているシャクティであったが、やがてガネーシャは顔を上げて真剣な雰囲気になると

 

「シャクティ、お前は今からイルタ達と元【イシュタル・ファミリア】の団員達が今はどこの【ファミリア】に所属していて今どこにいるのかをを調べ、分かった端から誰にも気づかれぬように警護しろ。それから、万能薬(エリクサー)高級回復薬(ハイ・ポーション)の準備‥‥だけでは不足だな、氷雪系と炎熱系の魔導士達にも直ぐに動けるように待機させておけ、もし居場所を把握できず、襲われたとしても急行して息があれば、薬を用いて体力の消耗を抑えつつ、傷口を凍らせるか焼いて塞ぎつつ迅速に【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院に運べるように手配しておいてくれ」

 

的確なガネーシャの指示に「わかった」と頷くシャクティに「頼んだぞシャクティ!」と普段通りに返したガネーシャはカルキの方を向くと

 

「カルキよ、これは本来、我々の、ひいてはオラリオの問題‥‥だがどうか力を貸してほし…」

 

「その必要はない!!」

 

カルキに助力を求めようとしたガネーシャの言葉を遮り、大声で拒否したシャクティにガネーシャとカルキは何事かと眉を顰めるが、シャクティは何かを決意した眼差しでガネーシャとカルキを睨みつけ大きな音を立てて扉を閉めて部屋から出ていくのであった

 




ガネーシャ「ところで、どうして俺達には暗殺者のことを詳しく教えたのに【ロキ・ファミリア】には詳しく教えなかったのだ?」

カルキ「実はロキ神のことをインドラ神が嫌っていてな、あまりロキとその眷属に肩入れすると自分にヴァジュラが飛んでくる」

ガネーシャ「うわぁ…」

ちなみにカルキはオラリオに向かう際、ロキとその眷属とドンパチするならアイラーヴァタとヴァジュラ、ヴァサヴィ・シャクティ貸すよとインドラに言われています。ただし、カルキ自身は使う気はさらさらありません(え?なんでかって?そんなのオーバーキルになるからですよ)



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