ダンジョンでブラフマーストラを放つのは間違っているだろうか   作:その辺のおっさん

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ふぅ、今回も危うくレナを殺すところだった…ベートとレナのコンビはダンまちでも好きな組み合わせなんだけどなぁ…なんでなんだろうか




第30話

【ガネーシャ・ファミリア】の本拠(ホーム)は深夜にもかかわらず、団員達が駆け回り慌ただしさに包まれていた

 

「急げっ、急げぇー!」

 

「魔導士の待機と万能薬(エリクサー)高級回復薬(ハイ・ポーション)の準備完了しましたっ!」

 

「倉庫にあった漆黒色のローブは必要枚数ありました!」

 

団長であるシャクティからもたらされた「オラリオに闇派閥(イヴィルス)の残党及び暗殺者(アサシン)が潜んでおり、元【イシュタル・ファミリア】の団員達を狙っている」という情報に、初めは誰もが半信半疑であったが鬼気迫るシャクティの様子から偽りではないと確信し、5年前まで続いていた闇派閥(イヴィルス)との一般人すら巻き込んだ悲惨な抗争を知っている団員たちを中心に決して被害は出さないと都市の平和と安全を守ることが使命だと【ガネーシャ・ファミリア】の団員たちは全力を持って当たろうとしていた

 

「まだ、元【イシュタル・ファミリア】の冒険者達の居場所は分からないか?」

 

その喧騒の中で冷静に報告と指示を出すシャクティの雰囲気に【ガネーシャ・ファミリア】の団員達は飲まれてしまっていた。確かにシャクティは普段から何かと騒がしい【ガネーシャ・ファミリア】の中でも冷静沈着であるが、今日はさらに冷静さの中に鬼気迫る迫力があり、団員たちは、オラリオの平和と秩序を乱す闇派閥(イヴィルス)が許せないのだろうと思い、ならば自分たちはその思いを少しでも叶えてあげようと奮起していたがシャクティがここまで鬼気迫っていたのは、団員達が思っている理由以外にもあった

 

「(決してあの男に介入などさせん……)」

 

シャクティの脳裏によみがえるのは、あの日、カルキによって燃やされる歓楽街と劫火に逃げ惑う人々の姿であった

 

「(ガネーシャはあの男に協力してほしいと頼むようだったが‥‥あの男の言うことが正しければ暗殺者(アサシン)はオラリオ中にいる。ならば、このオラリオが歓楽街のようになるかもしれないということではないかっ!)」

 

カルキやガネーシャが聞けば苦笑しながらその辺りの分別はあるぞと否定するところであるが、シャクティはカルキの桁違いともいえる強さに恐怖とガネーシャがカルキが歓楽街の時のように暴れることを許容してしまうのではないかという不安を抱いていた

 

「姉者!ほとんどの元【イシュタル・ファミリア】連中の所在は掴んだ!姉者の言う通りその周辺に怪しい連中もいたぞ!!」

 

「マジで団長の言うとおりだった訳かよ!!闇派閥(イヴィルス)の残党どもめ!こうなったら俺の火炎魔法の業火の渦で焼き尽くしてやるぜええええええええええええええ!!」

 

「ちょっ、イルタさん、これ隠密作戦なんですから静かにしないと、あとイブリうるせぇ!!」

 

隠密作戦だというのに騒がしい団員達にため息をつきつつもシャクティは指示を出す

 

「奴らは夜が明けると同時に仕掛けてくる‥‥一人も犠牲者を出すなっ!!」

 

***

「おい!どうなっている!!何故【ガネーシャ・ファミリア】が……ぐあああああっ」

 

明け方、一斉に元【イシュタル・ファミリア】の団員達を襲撃しようとしていた暗殺者(アサシン)と彼らの雇い主である闇派閥(イヴィルス)の残党である【タナトス・ファミリア】は逆に【ガネーシャ・ファミリア】の団員に急襲され混乱していた

 

「一人たりとも逃すなっ!」

 

シャクティの号令に合わせて【ガネーシャ・ファミリア】の団員が暗殺者(アサシン)に一斉に襲い掛かり、無力化していく。それでも傷を負ってしまう者が出てくるが、傷に不治の呪詛(カース)がかかっていることに気付いた【ガネーシャ・ファミリア】の団員達は既に待機させていた魔導士たちによって一時的に傷を凍らせた後、迅速に【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院へと運んでいく

 

が、やはり短い時間では把握しきれなかった者達もおり、さらには闇派閥(イヴィルス)からの増援が襲撃に参加したことで、次第に【ガネーシャ・ファミリア】だけでは手が足りなくなっていく

 

「くっ、まさか増援とはっ‥‥」

 

「おいっ!他の【イシュタル・ファミリア】の団員の情報を知っているだけ言え!!」

 

「うるさいっ!今思い出してるんだよっ!!」

 

まだ犠牲者は出ていないが、闇派閥(イヴィルス)の増援、それも全員が不治の呪詛(カース)を付与されている武器を持っていることにシャクティの表情は苦渋に歪み、イルタと襲われていたところを助けた後、事情を話し協力を取り付けたアイシャが言い合いながら10人以上の暗殺者(アサシン)と【タナトス・ファミリア】の団員と戦う中、今度は【ガネーシャ・ファミリア】に増援が現れる

 

「【九魔姫(ナイン・ヘル)…【ロキ・ファミリア】かっ!!」

 

「すまない、遅くなった」

 

丁度いいタイミングでの援軍にイルタ達【ガネーシャ・ファミリア】の団員達が喜びの声を上げ巻き返し、一気に戦況は【ガネーシャ・ファミリア】有利になっていくが、戦況が落ち着き、サミラが合流したことで冷静になったアイシャが何かに気付いたように顔を上げ呟く

 

「レナ‥‥」

 

「何っ!?」

 

「レナだ‥‥」

 

未だ【ガネーシャ・ファミリア】で把握していない元【イシュタル・ファミリア】の団員の名前が出たことに驚くシャクティを無視してアイシャは走り出す

 

「レナがヤバい!」

 

***

「犠牲者はなし、軽傷多数、重態はこの娘だけか……」

 

「ッツ!ここは関係者以外立ち入り禁止です。直ぐにご退出を」

 

【ディアンケヒト・ファミリア】が経営する治療院内の重傷・重体者専用の治療室に音もなくフラリと現れた男にアミッドはすぐに出ていくように注意するが、男はその言葉を無視するかのようにベッドに寝かされ、不治の呪詛(カース)によって負わされた負傷により虫の息になっているアマゾネスの少女の元に近づいていく

 

「まあ、アシュヴィン双神もお許しになるだろう」

 

男はそう呟くと懐から小瓶を取り出し蓋を開けると、寝かされている少女を無理矢理起こす

 

「何をしているのですっ!!」

 

勝手に治療室に入ってきた挙句、今にも命の灯が消えてしまいそうな患者に不審な液体らしきものを飲まそうとする男にアミッドは叫び、周囲の【ディアンケヒト・ファミリア】の団員達も慌てて男を取り押さえようとするが、男は彼・彼女らを一瞥することもなく、小瓶に入っている液体を少女に呑ませると

 

「ば、馬鹿な‥‥」

 

アミッドが呆然と呟くが、それも無理はないだろう、男が少女に薬を飲ませた途端、少女を蝕んでいた呪詛(カース)は跡形もなく消え、傷も完治したのである。これにはアミッドも【ディアンケヒト・ファミリア】の団員達も絶句する

 

闇派閥(イヴィルス)の残党たちが使用する呪道具(カースウェポン)、それに付与されている不治の呪詛(カース)を解呪するための秘薬は今だ完成しておらず、今は、この少女の体力を何とかアミッドの回復魔法や万能薬(エリクサー)高級回復薬(ハイ・ポーション)をもちいて維持しつつ秘薬の完成を待つしか方法はなかったのに急にやって来たこの男がナニカを飲ませただけで解呪され、傷が完治したのだ。驚くなというのが無理な話である

 

「な、何故お前のような…‥‥いや、人間がその薬を持っている」

 

動揺しているアミッド達を現実に返したのは、治療室の出入り口に立ち、団員達が今まで見たこともない険しい顔をした自分たちの主神ディアンケヒトのようやく絞り出したと感じられる声が静かな部屋にやたら響いた時であった

 

「ああ、この薬は貴神が想像している御方から自分が授かった物、ならば自分が持っていても不思議なことはないでしょう?」

 

何を当たり前のことをと言外に言う得体のしれない男にディアンケヒトは恐怖さえ覚えるが、男はディアンケヒトに一礼すると「どうかこのことは他言無用でお願いしたい」と言うとそのまま呆然とする彼らを一瞥することもなく、この部屋に来た時と同じように音もなく消えるるのであった

 

***

「結果的には犠牲者はなし!うむ!最高の結果だな!!」

 

闇派閥(イヴィルス)によるアマゾネス襲撃事件から2日後、【ガネーシャ・ファミリア】の主神ガネーシャはシャクティから事件の最終報告書を受け取り満足そうに頷いていた

 

『敵を騙すには味方から』ととある少女は死んだということにされていたが、そんなことはなく、ほとぼりが冷めるまで【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院の奥で閉じ込められていただけであり、他の襲われて傷ついていた元【イシュタル・ファミリア】の団員達も【ガネーシャ・ファミリア】の迅速な措置と【ディアンケヒト・ファミリア】所属の治療師(ヒーラー)と薬師達の努力の甲斐あって秘薬は完成し、無事に解呪され傷一つなくなり、元の生活へ戻っていた

 

「ロキの所からは何故カルキが闇派閥(イヴィルス)の襲撃を知っていたのかと聞かれたが……まあ、言い訳はどうにか上手くなったな!!」

 

アマゾネス襲撃事件が起こる前、アイズとレフィーヤに分かりにくい忠告をしたカルキが何故元【イシュタル・ファミリア】の団員が狙われることを知っていたのかと【ロキ・ファミリア】から【ガネーシャ・ファミリア】に質問状が来たが、たまたま元【イシュタル・ファミリア】の団員達をつけている怪しい男達がいたからと言い訳をして【ロキ・ファミリア】もこれ以上はと思ったのか詳しく突っ込んでこなかったことをガネーシャは笑いながら振り返る

 

「ガネーシャ、あの男は‥‥カルキ・ブラフマンはどこだ?」

 

「?カルキならばこの2日、部屋でヨーガを組み、瞑想しているが?」

 

唐突にカルキのことを聞いてきたシャクティにガネーシャは首をひねりながら答え、「まあ、そろそろ終わる頃だろう」と付け足すと「そうか」とだけ言ってシャクティは部屋から出ていき、部屋にはガネーシャがポツンと一柱だけ残されていた

 

「あの武神(インドラ神)はロキ神のことを嫌いすぎではなかろうか‥‥‥…」

 

丁度同じ頃、カルキが居候している部屋でカルキは瞑想を終えてこの2日を振り返る。

 

まずは薬を使用したことへのアシュヴィン双神への報告、これはアシュヴィン双神がカルキが以前のような使い方ではなく人を救うために使用したことを喜び何も言わなかったのですぐに終わったのだが、問題は唐突にカルキの精神に入ってきたインドラであった

 

インドラ曰く、自分とスーリヤの喧嘩中に地面を泥にしてアイラーヴァタとスーリヤの戦車が嵌っていたのを見て嗤っていたクソ女神の眷属なんぞに忠告するとは何事か、闇派閥(イヴィルス)だか『穢れた精霊』だかエニュオだか知らんからそれらを滅ぼすついでに皆殺しにしろということであった

 

無論、そんなことは出来ないとカルキは断ったのだが、インドラの機嫌は直らず、今度ロキの眷属と敵対するならばインドラ自身が介入し、味方をしようものなら、どうなるか分かるなと軽い脅しをかけられ、今後どうしたものかと深く大きなため息をつく

 

カルキがやれやれと首を振ってから外を見ると既に西日が差しこんでおり、晩飯でも食べるかと立ち上がると同時に自室の戸を叩く音がするので入ってもいいと返すとシャクティが入ってきた

 

「‥‥謝罪と礼を言う」

 

「何の話だ?」

 

部屋に入ってくるなり頭を下げるシャクティに本当に何のことか分からないカルキであったがシャクティは顔を上げ

 

「お前が我々が最後まで居場所が分からなかったせいで重態となったレナ・タリーを救ったとアミッドから聞いた‥‥意固地になってお前の手を借りなかったことの謝罪と我々の不手際の後始末をしてくれた礼だ」

 

「ああ、それならば気にするな、こちらがそちらへの借りを返したと思えばいい」

 

他言無用だといったはずだがなと内心シャクティに話したアミッドという人間に舌打ちしつつも気にするなと答えるカルキに「借り…?」とシャクティは疑問を漏らす

 

「自分がダンジョンに入るための特別許可証をギルドが発行する際に口添えしたのだろう?今回はその礼だ」

 

机の中から特別許可証を取り出し、ひらひらと動かすカルキに「ああ…」と思い出したかのように声を上げたシャクティに

 

「それにな」

 

「?」

 

「お前が『犠牲者は一人も出さない』と一見、荒唐無稽な理想を叫んだ時、そして実際に一人も犠牲者が出ないように奮戦していた時には手を貸そうと決めていた」

 

あっさりと言うカルキに「それはどういう…?」とシャクティが聞くと、ふぅと一息ついてカルキは話す

 

「確かに、自分という異物(イレギュラー)はいた。だが、お前は、いや、お前たちは誰一人犠牲者を出さないという『理想』を掲げ、実際にやり遂げ『現実』にしようとしていた……ならば、それに少し手を貸そうと思うのは当然ではないか?」

 

それに自分が救わなくても解呪の秘薬は間に合いそうだったがなと付け加えるカルキにシャクティはフッと笑うと

 

「お前は本当に分からん男だな」

 

そうカルキを褒めているのか貶しているのか分からない言葉をかけた後、カルキを見て

 

「お前のその埒外の強さにも興味が湧いた。夕食はまだだろう?【ガネーシャ・ファミリア】の行きつけの店があるからそこでお前がどんな修行をしていたのか聞かせてもらおうか」

 

探るような目つきで晩飯に誘うシャクティに

 

「…………あまり修行のことは思い出したくないこともあるのだが?」

 

「ほぅ?お前の青ざめた顔が拝めるのか、それは旨い酒が飲めそうだな?」

 

「趣味が悪いぞ…」

 

そう言って二人で夜のオラリオに繰り出す姿をたまたま【ガネーシャ・ファミリア】の団員が目撃してしまい、『まさかシャクティ団長はあの居候のことを‥‥‥!?』というとんでもない誤解が生まれてしまったのは余談である

 




新アイテム【アシュヴィン双神の薬】
・カルキが医神アシュヴィン双神から授かった小瓶に入った薬…………という名の蜂蜜。甘さ控えめらしい
・一滴だけで呪いや怪我を一瞬で解呪もしくは治癒させるが、カルキ自身は一々懐から出して蓋を開けるよりもアグニの炎で(アポクリファのカルナみたいに)自分の体を焼いた方が早いとしているため半分死蔵していた
・ちなみに薬以外の使い方をしたのは2回、2回とも【ヘスティア・ファミリア】で一緒に暮らしていた時であり、1回は夕食のスープの隠し味として、1回はヘスティアがいない時、朝食がパンだけだったのを見かねて普通の蜂蜜としてベルに分けてベルがパンに塗って食べた



以前、あとがきで書いたシンフォギアでアーラシュの弓を聖遺物にした女オリ主…………何回考えてもステラァァァァァ!して死ぬ未来しか見えないのは何故なのか

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