ダンジョンでブラフマーストラを放つのは間違っているだろうか   作:その辺のおっさん

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ちらほらと核地雷がオラリオに埋まっていることに気付き始めた一部の神々、さあ、誰がこの地雷の爆破スイッチを押すのか!




第35話

「随分と混乱しているな」

 

翌朝、早朝からずっと慌ただしく行き来するギルド職員をロビーのソファーに座り、出されたお茶を飲みながら眺めカルキは呟く

 

結局、あれからミイシャの溜まった仕事(3ヶ月前の書類もあった)を朝まで手伝わされ、朝になってギルドに出勤してきたエイナに見つかり、ミイシャは「外部の人間に仕事を手伝わせるなんてっ!」と怒られ、カルキにはカルキが「そこまでしなくても…」と思うくらい謝られ、一睡もしていないからと仮眠室に通され、寝る必要はないがせっかくの厚意を無駄にするわけにもいかないので数時間眠り、現在に至るのである

 

「しかし…たかが一匹のモンスターにここまで神経質になるとはな………」

 

今もギルドの受付で「どうなっているのか」とヒステリック気味に叫ぶ男女の対応をしている受付嬢に少しばかり同情していると

 

「む、ベルか」

 

「あ……カルキさん…………」

 

見知った気配が近づいてきたので振り返ってみればどこか落ち着きのないベルがギルド本部を訪れていた……が

 

「ベル、もう少し堂々とするべきだ、今のお前は誰にでも『自分は何か隠し事をしています』と言っているようなものだぞ?」

 

「うええぇぇぇっ!?本当ですか?」

 

「いや、肩をすぼませ、視線を左右に動かすどころか首を動かしながら辺りを見回している奴がいたら誰だってそう思うだろう…………」

 

「じゃ、じゃあ、今まで僕はそんな風に見られてたって……」

 

自分の挙動不審さに今頃気付いたベルに軽くため息をつくカルキであったが、ふとあの異端児(ゼノス)について思い出したのでソファーから立ち上がり、ベルの耳元に近づき小声で話しかける

 

「(そういえば、あの竜女(ヴィーヴル)…ウィーネだったか?あれからどうした?)」

 

「(あれから夜遅くになってからウィーネを人目につかないように隠しながら僕たちの本拠(ホーム)に戻りました)」

 

「(そうか……)」

 

「(えっと……やっぱり戻らなかった方がよかったですか?)」

 

ウィーネを【ヘスティア・ファミリア】の本拠(ホーム)に戻したことについて少し考えるカルキにベルが不安そうにするが、「それは問題ない」とカルキは答え

 

「(……消臭の匂い袋(アイテム)はどれほど使った?)」

 

「(ええと、リリ達と一緒に念入りに使いました)」

 

「(それは……悪手だな)」

 

臭いを消したことを悪手というカルキに「えっ?」とベルが驚いた声を上げ、周りにいる人々が何事かとこちらを見てくるので何事もなかったかのように振る舞い、完全にこちらに向けられる視線が無くなって暫くしてから簡単に説明する

 

「(いいか?追手には間違いなく鼻の利く獣人…狼人(ウェアウルフ)犬人(シアンスロープ)猫人(キャットピープル)あたりが来る、確かに消臭の匂い袋(アイテム)を使えば匂いが消え、鼻は誤魔化せる…だが、それと同時にそこで不自然に匂いが途切れていたら、そこでモンスターをかくまっていた証拠になるぞ?)」

 

「(あっ……)」

 

理性のない獣でさえ、不自然さを感じれば罠に気付くものだと諭され、自分達のミスに気付いたベルは顔を青ざめるが、今もあの教会跡には人払いの結界が張ってあるので不自然さを感じてもどこの【ファミリア】が使ってたかは思い出せない、もしくは大したことはないと思うようにしていることを伝えると安心した雰囲気になっていると

 

「あっ、ベル君とブラフマン氏」

 

こちらに気付いたのか受付カウンターの奥からからベルとカルキにエイナが声を掛けてきたので「呼び出されたのか?」とベルに聞けば頷いて「じゃあ」とエイナの元に行くベルを見ながら考える

 

「(あのウィーネが異端児(ゼノス)であることはギルド上層部…ウラノス神やフェルズは知っているはず、それに、昨日の騒動で今だオラリオ中が混乱しているというのに直ぐに接触してきたということは考えられるのはこの混乱に乗じているか、もしくは何かしらの問題があるということ‥‥‥)」

 

そこまで考えてふとこのオラリオに誰もが気付かぬうちに張り巡らされた迷宮のような人工物と、そこに潜んでいる残党について思い出す

 

「(……なるほど目的は分からないが闇派閥(イヴィルス)の一部、もしくはそれに近しい【ファミリア】が異端児(ゼノス)を狩っているか、利用しているか、それならばここまで性急なことも納得できる)」

 

暫く様子を見ていると、どうやらベルはエイナに呼び出されてギルド本部に来たようで、以前、ベルの歓楽街朝帰り事件で一緒に入ったこともある面談用ボックスへと通されていくので、今回も一緒に入ろうとするとエイナは少し複雑そうな顔をする

 

「あの‥‥ブラフマン氏は今回は……」

 

「なに、分かっている。大方、極秘の強制任務(ミッション)だろう?それもギルド上層部からのな……」

 

「「!?」」

 

あっさりと言うカルキにベルとエイナが驚くが「ほら、早く入れ」とボックスに押し込められ、混乱する二人を無視してカルキはベルを部屋の隅に移動させ肩を組みながらしゃがみ、顔を近づけ小声で話しかける

 

「(間違いなく強制任務(ミッション)は『【ヘスティア・ファミリア】全員でダンジョンにウィーネと一緒に向かえ』だろうが、あの受付嬢は無関係だ慌てなくてもいいだろう)」

 

「(ッツ!?じゃ、じゃあギルドは……)」

 

「(自分達だってお前達がウィーネを匿った次の日から観察していたんだ、ギルド上層部はウィーネをダンジョンから連れ出したことにすぐに気づいていて今まで観察していただろうな)」

 

「あ、あの、ベル君?ブラフマン氏?」

 

面談用ボックスに入るなり、隅に移動し何やらコソコソ話し合う野郎2人(ベルとカルキ)にエイナが怪訝そうな顔をして何事かと問いかけるが「気にするな」とカルキに返され、ベルは覚悟を決めたようにエイナから封書を受け取り、開けていいか尋ねた後、ゆっくりと封を切る

 

「――――――ッツ!!」

 

どうやら自分が話した内容と同じだったようだとカルキはベルの反応を見て判断し、自分も見ていいかエイナに尋ねるが

 

「えっと……流石に【ヘスティア・ファミリア】でないブラフマン氏が見るのはちょっと……」

 

そう申し訳なさそうな顔で断られてはカルキもそれ以上無理強いはできず、大人しく引き下がる。そう、カルキはどこぞの我が強すぎる神々のように自分の意見を無理矢理押し通そうとはしないのである

 

「(まあ、自分が考える通りならヘスティア神に直接接触するだろうしな)」

 

間違いなくベル達が出払った後、ヘスティアだけでウラノスと接触させ異端児(ゼノス)について説明するだろうと確信するカルキであった

 

***

「ハアッ…ハアッ……クソッ!!何だってんだあの野郎はッ!」

 

深夜、人工迷宮(クノックス)で息を上げながら悪態をつくのは片腕を失くし、腹から左腕を生やしている【イケロス・ファミリア】の【暴蛮者(ヘイザー)】ディックス・ベルディクスと【イケロス・ファミリア】の団員数人である

 

彼等は、ウラノスやフェルズが危険視している異端児(ゼノス)を狙っている狩猟者(ハンター)であり、今回は竜女(ヴィーヴル)を匿っているであろう【ヘスティア・ファミリア】を見張っており、夜に【ヘスティア・ファミリア】が竜女(ヴィーヴル)を連れてどこかに行こうとしていたので後をつけ、襲撃しようと画策していたが、その途中で逆に襲撃され、20人近くいた第二級冒険者のほとんどを殺されたのである

 

「ハアッ……ハアッ…ディックス、ありゃあ……ゼエッ…間違いない、『百人斬り』だぜ……あの戦争遊戯(ウォーゲーム)で【アポロン・ファミリア】を壊滅させた‥‥‥」

 

「くそったれ‥‥‥あんなの第一級冒険者以上じゃねえか‥‥途中で【ヘルメス・ファミリア】に譲ったみてえだから逃げ切れたけどよ‥‥‥」

 

まず犠牲になったのは【ヘスティア・ファミリア】をディックス達より先行していた5人の獣人であった。いきなりその5人の首が無くなり鮮血が噴水のように吹き上がったかと思うと、その場にいたのは手刀を振りぬいたであろう『百人斬り』がおり、動揺するディックス達を無視するように「なるほど……どうやら狩猟者のようだ」というなやいなや、数(ミドル)ある距離を一瞬で詰め、ディックスの左腕を引きちぎり、その腕をディックスの腹に突き刺したのである。何が起こったのか分からないディックスの周りにいた団員4名は次の瞬間には物言わない肉片と化し、それを好機ととらえたのか【ヘルメス・ファミリア】と【ガネーシャ・ファミリア】の【象神の杖(アンクーシャ)】がディックス達を襲撃したが、ディックス達にとっては幸いなことに、【ヘルメス・ファミリア】と【象神の杖(アンクーシャ)】を確認した『百人斬り』はディックス達を【ヘルメス・ファミリア】と【象神の杖(アンクーシャ)】に任せるかのように夜の闇に消えたのである。

 

そのため、ディックス達は命からがら逃げきり、その襲撃と呼ぶにはあまりにも一方的であった殺戮劇に生き残った【イケロス・ファミリア】の団員達は震え上がっていたが

 

「……あの野郎はともかく【ヘルメス・ファミリア】と【ガネーシャ・ファミリア】が嗅ぎまわってるってことは俺らの密輸はバレてるって考えた方がいい…………ってことはギルドもかよ、ちっ、面倒くせぇ」

 

「ど、どうするんだディックス?怪物共(モンスター)の『巣』は分からねぇし、ギルドが嗅ぎまわってるんだったらよ」

 

「…………何はともあれ、まずは傷をいやすことだ…こんなに面白いことを今更止められっかよ」

 

それにだいたいの『巣』のある階層の目星はついたしなと吐き捨てるディックス達は人工迷宮(クノックス)で次の行動の準備を始める

 

***

「どうやらヘスティア神も来たようだな」

 

ベル達の後をつけていた不審者たちを襲撃し、シャクティ達が来たので不審者たちは彼女らに任せ、『祈祷の間』に続く隠し通路で気配を殺しヘスティアが来るのを待っていると、暫くするとヘスティアを連れ、フェルズが隠し通路にやってきて、通路の最奥に辿り着くとフェルズが壁に手をやりヒラケゴマと唱えると閉ざされていた扉が完全に開くと開けた空間――――――『祈祷の間』へと続き、フェルズに促され、ヘスティアが入っていく後ろからカルキもこっそり入る

 

「(流石は『大神』と称されるウラノス神だ……神威を封印しているにもかかわらずあの神々と変わらぬ雰囲気がある)」

 

神威を封印しているにも関わらずオラリオにいる神々とは比較にならない程の神威を発するウラノスに思わず感心するカルキであったが、ヘスティアとウラノスが異端児(ゼノス)について話し始めたので聞き耳を立てる

 

「(なるほど……どうやらガネーシャ神から聞いていたこととそう変わらないらしい………しかし、『強烈な憧憬』とは………ごく稀に幼少期のうちであれば前世のことを覚えている………などという例もあるらしいが、それと似たようなものか?)」

 

暫く考えるカルキであったが、ウラノスは自神の見解を述べる。それは、輪廻転生―――――――――即ち、『魂』の循環がダンジョン内で起こっているということである。これにはカルキも驚いたが、どうやらウラノスに何か言いたい神がいるようなので体を渡す

 

「――――――それで?何故ダンジョンで『魂』の循環が起こったと考える?なあウラノス?」

 

「「!?」」

 

『祈祷の間』の暗闇から現れたカルキにヘスティアとウラノスは驚くがそんな二柱を無視して、カルキに憑依している神は問いかける

 

「『魂』の循環とは即ち、我ら冥府神や死神の天界での仕事だ……それが何故ダンジョンで起こっている。お前の見解はどうなっているウラノス?」

 

「この声と雰囲気、君はヤマかい?」

 

「まさか、天界でも屈指の仕事人(ワーカーホリック)であるお前が介入してくるとは」

 

「そんなことはどうでもいい、早く話せ」

 

驚くヘスティアとウラノスのリアクションなぞどうでもいいとばかりに急かすヤマに、もしここにガネーシャがいれば「相変わらずだな!」と笑い話になるのだが、ガネーシャはいないのでウラノスは「ふぅ」と一息ついてから見解を話す

 

「恐らくは千年の永き時を経てモンスターに『変化』が起こり始めている。それがモンスター達の強い憧憬、願望………あるいはダンジョンの意思か」

 

「なるほど、『古代』から幾星霜、永き時を経ての変化か‥‥‥」

 

それならば致し方ないとため息をつくカルキもといヤマにヘスティアとウラノスはヤマがここで怒り暴れなくて良かったと安堵し、そういえばとヘスティアがカルキの方を向き

 

「ところでカルキ君はまさかだと思うけど神造武器やあの奥儀を使えるなんてことは…………っていないぃ!?」

 

既に音もなくカルキが『祈祷の間』からいなくなっていることに気付いたヘスティアの叫びが『祈祷の間』に響くのであった

 

***

「(さて……ベル達の所にでも行ってみて実際の異端児(ゼノス)を見に行くか)」

 

『祈祷の間』を抜け出し、誰にも気づかれずギルド本部を通過したカルキはダンジョンに今から潜り、ベル達の気配を探りながら異端児(ゼノス)と接触しようと考え、ダンジョンの入り口に向かって歩いていたのだが

 

「……おい」

 

「?」

 

ダンジョンの入り口、『バベル』の前でカルキを待ち構えていたかのようにシャクティがおり、カルキに話しかけてきた

 

「少しお前とガネーシャに話がある…本拠(ホーム)まで来い」

 

「いや、自分は……」

 

「いいから来い!!」

 

何やらご立腹のようなのでこれは大人しくついて行った方が自分というよりガネーシャのためになると悟ったカルキは大人しくシャクティと【ガネーシャ・ファミリア】の本拠(ホーム)に戻るのであった

 




カルキに目をつけられた【イケロス・ファミリア】の明日はどっちだ!?


おまけ カルキの今日のスケジュール

朝までミイシャの護衛(手伝い)→エイナの厚意を受け取り仮眠→ギルド本部で情報収集

→ベルと会う→ガネーシャに事情説明→ベル達にバレないように待機→ベル達を追う不審者たちを襲撃

→隠し通路に移動してこっそり『祈祷の間』に侵入→ダンジョンに行こうかと思ったらシャクティに連行される(今ここ)

カルキ「やる事が……やる事が多い……………」(走りながら)


次回 カルキ、シャクティの前で正座
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