お試し品なので人気というか他の皆様に需要がなければ消します。よろしくお願いします。
比企谷 八幡殿
前略
貴方がこれを読んでいる頃には私は会社にいます。貴方が怠惰な入院生活を送っている間もせっせとお金を稼いでは、貴方や小町が将来立派な人間になれるようにと貯金しています。でも、そろそろお風呂をリフォームしたいので小町と相談しているところです。お父さんの意見は聞いていません。そもそもあの人、シャワーばかりだから関係ないと思うのです。
本題です。高校入学と退院おめでとう。前者は口で言ったけど、後者はお父さんに任せてちゃんと言えてなかったね。
実はこの手紙は入学式の次の日に渡したかったんだけど、あんなことになって渡すに渡せませんでした。けれども、こうして寝る間も惜しんで息子のために手紙を書く私ってポイント高いと思います。
私もお父さんも、小町も貴方のことは大切に思っています。だから、誰かのためだからと自分の身を投げ出さないでください。例え、友達が居なくても、恋人が居なくても、高校生活は1度きりだから貴方なりに楽しんでくれることを祈っています。
けれども、こんなこと言ってもお父さんに似て人付き合いの苦手な貴方には難しいでしょう。だから、私から学校生活を円滑にする方法を伝授します。
部活に入りなさい。
なんでもいいけど、運動部は貴方には合いません。絶対に。できれば、人数が少なくて廃部寸前くらいの文化部がいいと思います。
総武高校は古来より部活が多いと聞きます。そして、その中でも一際歴史があるのが古典部だそうです。これは私の知り合いから聞いた話なので、真偽は私には分かりません。けど、その人の話を要約すると近年入部希望者が減っていて、嫌味な上司や、態度の悪い後輩はいないとの事なので個人的にはオススメしたいです。どうせ、やりたいことも目標もないんだから。
とりあえず、見学してきて良さそうなら入部届けを出してみてください。それだけで貴方の学校生活は変わると思います。
それとリハビリにはしっかり通うこと。勉強はかなり遅れてると思うけど、中間テストで数学以外の欠点は許しません。
では、母はこれから6時間寝てから出勤です。お互いに頑張りましょう。
貴方の母より
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ゴールデンウィークが開けた朝方。松葉杖をついて周囲の奇異なものを見る目線に耐えながらも学校に辿り着いた俺のカバンから出てきたのは、棚の奥にでも仕舞われていたのだろう。少し色褪せた花柄の封筒には母ちゃんからの手紙が入っており、そこには俺のために貯めたという貯蓄で風呂をリフォームし、俺を励ましたいのか貶したいのか分からない内容であった。だが、1番言いたいのは何か部活に入れということなのだろう。そして、母ちゃんは古典部というのをオススメしてきた。
口下手で不器用で家の中でも俺の次に人権のない親父は友好関係が狭い。休日はゴルフやパチンコに行かず、寝て過ごして起きてきたと思えばトイレに行くくらいとアレが俺の未来の姿かと思うと泣けてくる休日だ。昔は俺や小町と公園でよく遊んだが、今は身体を休めることに時間を割いている。
……どうやら、本題に入る前に道草を食うのは母に似たらしい。何が言いたいのか。おそらく、母ちゃんはそんな親父の交友関係の無さから1日家にいられるのは困ると言いたいのだろう。1番稼ぎのある親父がそんなに邪険に扱われるのは仕方の無い。父親はどの家でも嫌悪されないにしろ、煩わしいと思われるのかもしれない。友達がいないから他の家の事情など知らないが。
しかし、部活か。中学の時は強制じゃなかったから入らなかったし、高校も入院中に見た学生証に書かれていた校則によればこちらも強制ではない。だから、入る気などサラサラないのだが、母ちゃんには足の骨折の件で少なからず心配をかけている。入れとは言われていない。せめて、見に行けと書かれている。手紙通りの話であれば、古典部とやらは部員がいるかいないかの状態で廃部寸前。俺の予想通りならば俺が入部すれば部員は1人で、部室は俺のプライベートスペースとなる。
入学ぼっちが確定し、昼食の場所に困っている俺にとっては得難い自由な空間だ。
とりあえず、放課後の予定が確定したところで俺は自分の席を探す。しかし、どうやら既に出席番号順ではないらしく、自分の席が分からずウロウロしていた俺に心優しいジャージを着た女子が俺の席を教えてくれる。陽光に照らされた淡く白いショートヘアが眩しくて直視出来なかったが、会釈して感謝を伝える。これがコミュ障コミュニケーション。言葉を発せずに気持ちを表す。マジで社会不適合者。こんなんじゃ社会に出れないぞ!プンプン!
と、人に優しくされて自分の小ささを知った俺は、引き出しに入っている入院中に溜め込まれたプリントを見る。その中に部活動紹介の紙を見つけ、古典部の教室を探したのだが。
「4階かよ……」
プライベートスペースにするには松葉杖が無くなってからだなとため息をついた。
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高校初授業は教科書を読んで、世界の破壊者並の理解力でだいたいわかったと諦めた俺は人の波の落ち着いた廊下を歩く。我が総武高校は部活が盛んらしく、グラウンドを見れば運動部諸君がランニングや準備体操に取り組んでいる。俺の脚では一流のラガーマンやストライカーにはなれないから、俺の分まで頑張ってくれ。まぁ、脚が良くても目指さないが。
時既に部活動見学に体験入部の期間は終わっているらしく、本来なら本入部という形を取られねばならないのだが、怪我で入院していた俺には見学をする権利が与えられた。これにより、古典部が母ちゃんから聞いていた実態と違っていても俺は言葉巧みに逃げることが出来、良い方に転んでも、悪い方に転んでも大丈夫ということになった。
コツンコツンと松葉杖を鳴らして階段を上がりきると地学準備室と書かれたプレートの教室を見る。どうやら古典部の活動はこちらで行われているらしいのだが、窓の縁に溜まったホコリを見るに、あまり掃除がなされていない。これが意味をするのは掃除が行き届いていないという小姑的発想ではなく、単に掃除をする人間がいないのだろうと想像できる。つまり、現在古典部には部員がおらず、今なら俺の個人的スペースとして確保できるということだ。
部活なんて腹の足しにも金にもならないくだらないモノと思っていたが、こうして自室以外に自分だけの部屋を持てるというのは素晴らしいことだ。きっと、一国一城の主となった過去の侍達もこのような気持ちだったのだろう。
あらかじめ、職員室から借りてきた鍵を戸についた鍵穴に刺して回す。ドアが開く音がし、ガタガタと年季が入って開けにくくなっているその戸を開く。準備室というから地図や地球儀、地理に関する資料で散らかってると思ったが、そうでもなくて地図やら地球儀は隅っこにかためられ、資料はきちんと整頓されている。そして、教室の中央には椅子が4つとテーブルが1つ。まさに吹奏楽や芸術のような特別な道具や器材を必要としないThe 文化部って感じのシンプルな部屋である。
ただし、ある一点を除いては。窓から一陣の風が吹き、ほとんど散っているはずの桜の花びらが舞い込んでくる。そして、その風の飛び込んできた開かれた窓の傍には、えらい美人がそこにいた。
感想とか待ってます。
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