比企谷八幡、古典部に赴く(仮)   作:通りすがりの魔術師

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予告詐欺は基本。


平塚静からの招集

 

放課後というのは学生たちが学業という檻から解き放たれ、思い思いの時間を過ごす。部活動をやってる者は部活動に勤しみ、やっていない者は居残ってクラスメイトや友人と会話を楽しんだり、教師から出された課題に取り組んだりと様々だ。

そして、俺はと言うと。

 

 

「折木、この作文についてなにか弁明はあるか?」

 

 

職員室に呼び出され、教師から叱責を受けていた。

 

 

「弁明も何も俺は課題通りに書きましたよ」

 

 

「それがどうしてこんな悲痛な作文になるんだ」

 

 

俺を呼び出していきなり、入学してまもなくに出された作文課題『中学校生活を振り返って』を読み上げた平塚先生は呆れたという表情で紙束を叩く。

黒く長い髪にシャツの上に黒チョッキ、さらには白衣を着ている。国語の教師であるはずだが、彼女はスタイルがよくサマになっており、誰も咎めないし気にもとめない。本人が着たいのだからそうさせておこうという考えなのかもしれない。

 

 

「事実ですから」

 

 

「事実?」

 

 

書いたのは出されて一週間後、期限があと数日と迫ったところで、友人である里志に促されたからだ。だから、自分で何を書いたのかは今でも割と覚えていたので、平塚先生が読み上げる必要はなかった。平塚先生は俺の言葉に考える所作をとる。

 

 

「まぁ君の言う通り、部活動に入っている者や恋人や友達が居る者の学校生活が充実していて色付いているのは否定はしない」

 

 

しかし、と彼女は脚を組むと俺の目を見据える。

 

 

「それがわかっていて君が福部以外と友人を作らない理由や部活動に入らないワケが分からないんだが?」

 

 

「俺は不必要なエネルギーを使いたくないんですよ」

 

 

やるべき事は最小限のパーフォーマンスで、やらなくていいことはやらない。それが俺のモットーだ。友達は多いに越したことはないというが、人との付き合いが増えればトラブルが増える。校則上、部活動への入部義務がないのならば、わざわざ無駄なエネルギーを使う必要もあるまい。それに部活動に入ると否が応でも人間関係が広がってしまう。

 

 

「人間関係を構築することが無駄だと?」

 

 

「そうは言いません。けど、不必要にやることはないって話です」

 

 

「なるほどな…」

 

 

平塚先生はあまり納得いっていないようだが仕方ないと言った感じで言葉を漏らした。

 

 

「…恋人とかはいるのか?」

 

 

「いませんよ」

 

 

「やはりそうか」

 

 

なんでちょっと嬉しそうなんだ。まぁいい。

 

 

「それで話ってのはこれの書き直しってことでいいですか?」

 

 

「あぁそれもある」

 

 

意味深な言い方に俺は首を傾げた。そして、何故か嫌な予感がした。

 

 

「君の灰色の青春を私が色付けてやろう」

 

 

「頼んでないんですが…」

 

 

「いいからいいから」

 

 

平塚先生はこの程度気にするなと上機嫌だが、俺からすればいい迷惑だ。椅子から立ち上がった平塚先生は「ついてきたまえ」と職員室の戸を開く。

面倒だな。これはアレだ。生徒に手を差し伸べる私っていい教師みたいな自己陶酔によるお節介だ。この手のやつは嫌がっても本人が満足しなければ終わらない。おそらく、無限ループになる。

こちらも仕方ないと後ろに続こうとすると、反対側の扉が開く。目を向けて見ると、目が特徴的な男子生徒が松葉杖をついているのが見えた。その生徒は近くの先生に声をかけ、指をさされた鍵のかかっているボックスに向かう。そして、手早く鍵を取ると無言で頭を下げて退室していった。この時間帯だと部活動だろうか。足に怪我を負っているのにその姿には敬意を評したい。

 

 

「折木、何をしている。いくぞ」

 

 

「あぁ、はい」

 

 

平塚先生に急かされ、俺も職員室を出た。

 

 

###

 

 

平塚先生の後に続き、廊下を歩く。窓からは体育会系の部活動に励む者たちがグラウンドで汗水垂らしているのが見える。体験期間や見学期間も終わって、1年生も部活動に参加しておりチラホラと名前は覚えていないクラスメイトが見える。

 

 

「それでこれからどこに向かうんです?」

 

 

外の景色も見るのが飽きたので、平塚先生に尋ねてみる。しかし返ってきた答えは「着いたらわかる」と要領を得ないものだ。歩いていくと文化部の部室が集まる特別棟へとやってきた。4階に上がり、しばらく進むと平塚先生が立ち止まる。他の文化部の部室から離れた位置にあるその教室は特に変わり映えしない。ただ上を見ると、プレートに何も書かれていない。これは妙だ。普通教室には何かしら名称がある。教室、準備室、教官室、音楽室とか。けれどここにはそれがない。

 

 

「あの、ここは一体」

 

 

尋ねようとしたところで平塚先生はその教室の扉を勢いよく開いた。

 

 

「先生、入る時はノックをしてください」

 

 

そいつは教室の窓際で本を読んでいた。平塚先生が入ってきて本をパタリと閉じたその少女の長いまつ毛が揺れた。俺はそいつを見た瞬間、目を見開き人知れずため息を吐いた。

 

 

これは嫌な予感がするな、と。

 




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話の進め方

  • 俺ガイル準拠
  • 氷菓準拠
  • ごちゃ混ぜ
  • オリジナル

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