比企谷八幡、古典部に赴く(仮)   作:通りすがりの魔術師

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相変わらず、比企谷八幡は振り回されている。

 

 

古典部という得体の知れない部活に入ったものの、不自由な足で部室棟の4階に赴くのは辛いものがある。なので、俺は少しずつフェードアウトしていくプランを取ろうと考えていた。俺が行かなくても部活熱心な千反田がいる。千反田というプロバガンダがいれば彼女目当ての下心のある男や女が集まってくるだろう。まあ、それは俺のお望みの展開ではないのだが、俺が行かなくてよくなるならそれに越したことはない。

それに俺は対人スキルが残念ながら不足している。千反田はファーストコンタクトに失敗がなかったから今も会話ができている。俺は彼女の家柄とかは全く詳しくないが、ホントにどこかのお嬢様なのではないかと疑うほどにできた人間だ。

 

 

「比企谷さん。部活に行きましょう」

 

 

しかし、お嬢様はゾンビが好きなのかこんな俺にも平気で手を差し伸べてくる。ホントは変なことを考えてそれを千反田に察せられたのかと疑問視したがそうでもないらしい。

結局、俺の部活フェードアウト作戦は失敗した。よく良く考えれば千反田は俺の隣の席であり、逃げようにも松葉杖がなければ歩けない俺が逃げることなんてできるわけが無い。あの純粋で眩い瞳を向けられ、更には制服の裾を握られていては俺に後退の余地はない。

 

 

「いや、けど荷物が.......」

 

 

「私が持ちますよ」

 

 

くそぉぅ!優しいなおい!俺からひょいと大して荷物の入ってないカバンを奪い取ると「さぁ」と俺に立ち上がるように促してくる。仕方ない。俺の足が治るまでの辛抱だ。

次の席替えを待つよりは俺の足が治る方が早い。仙豆やデンデがいればこの程度の怪我造作もなければ、死の淵から蘇ったサイヤ人は強くなれる。けれども、俺は地球育ちの地球人なので大して変わらない。

女子にカバンを持ってもらうのは情けない話だが、これも足を理由に逃げようとした罰だ。今度からはもっと建設的な嘘をついて逃げよう。そう誓った。

 

 

「足が治って良かったですね。さぁ、部活です。比企谷さん」

 

 

と思ってたんですがね。

足の包帯やらギプスやらが取れて俺の足もある程度身軽になっても、俺の隣で澄ましたように真っ直ぐに輝かせた瞳を向ける女は俺に手を伸ばしてきた。

 

 

「さぁ、比企谷さん。部室に行きましょう」

 

 

どうやら俺は千反田に大層気に入られてしまったらしい。彼女は気付いてないかもしれないが、千反田えるという女子高生には華がある。それも美しく崖の上にポツリと咲いた高嶺の花だ。そんなのと一緒にいるのはイケメン爽やかスポーツマンではなく、冴えない目の腐った陰湿な足に包帯を巻いたミイラマンだ。近頃、廊下で行き交う生徒たちは俺と千反田がいるのを見て動揺したり、恐れたり、慄いたりしている。主に俺の方を見てだが。千反田に手を引かれて廊下を歩くのはかなり精神がすり減るのだ。おかげで目が俺の中で6倍くらい腐っている感覚がある。

そんな男と歩く美少女は傍から見れば、弱みを握って脅されてるのではとか言われてたりするが、明らかに手を引かれてるのは俺であり、被害者は俺であるべきなのだ。なのに、一概に俺が悪いという噂話が蔓延っていることに自分の容姿の醜さに両親を恨むが、妹は可愛いので両親のせいではないのだろう。俺に大金があれば、世界一の藪医者に事情を話さずに整形手術して貰えるんだがな。

 

 

「比企谷さん、聞いてますか?」

 

 

「…ん?あぁ、今日もいい天気だな」

 

 

「今日は雨です」

 

 

ムッと怒ったように言う千反田に俺は直視出来ず目を逸らしてしまう。これがギャップ萌えというのかな。軽く怒ってるのは分かるんだが、パッチリとした目に整った鼻、清廉な口元、そして誰もが羨む綺麗な美肌。普段朗らかな彼女が多少怒ったところでそこまで恐怖を感じないどころか、むしろそれが可愛く見える。

しかし、そんな彼女だからファンというか「ワンチャンいける」とか思ってる男子も多いわけで。同じ部活だからと話しかけられる俺は彼らからすれば邪魔どころか殺してやりたいくらいなのだろう。今も、千反田と話しているだけで嫉妬の目線をジリジリと感じる。

 

 

「なぁ、千反田」

 

 

「なんですか?」

 

 

きょとんと首を傾げた千反田はやはり何も分かっていないのだろう。放課後になって残っている生徒の中には俺たちの会話に耳を傾けている人間もいる。俺はそいつらに聞こえるように口を開いた。

 

 

「もう足も治ったし、部室には別々に行かないか?」

 

 

最近こいつの隣にいて分かったことがある。千反田は賢い。俺が休んでいた間のノートを見せてくれたのだが、そのまとめ方は丁寧で誰が見ても分かりやすいものだった。数学アレルギーの俺でも「なるほどな」と唸れるものであった。

そんな千反田だが、この手の学内ヒエラルキーやピラミッドの序列には疎い。俺といるせいで千反田のイメージが落ちるのは申し訳ない。かと言って俺が古典部を去っても俺と千反田が隣である限り、このやり取りは続くだろう。

 

 

「そうですね」

 

 

無理に一緒に行く必要もありませんし、と千反田が付け足す。すると、周りの目線は俺達から一時的に外れる。そして、彼ら彼女らの迷惑な思慮を晴らすべく俺は席から立つ。

 

 

「今まで荷物持ってくれてありがとな」

 

 

「いえいえ、お気になさらず」

 

 

フィニッシュだ。これで俺と千反田が邪な関係でないことが学内に伝わればいいと思う。一応、周りからは「千反田さんって優しいよねー」みたいな会話が聞こえる。

 

 

「じゃ、ちょっと俺は自販機行ってから行くから」

 

 

「では、鍵は私が取っておきますね」

 

 

そう言って互いに別の方向へと向かう。出来ればこのまま家に帰りたいところではあるが、そうするとまた明日が面倒になる。千反田のにこりと笑った大きな目が不機嫌に歪むのが目に浮かぶ。

それはそれでいいな。なんて思いながら俺は自販機のボタンを押した。

 

 

 

 

###

 

 

 

 

 

思い返せば古典部という部室で何をするのが正解なのか。それを知る生徒はこの学校にいるわけもなく、教師に聞くほど俺は興味が無い。

古典部での活動は部活というよりは昼休みの昼食後の憩いの時間のようだ。部室である地学講義室はプライベートスペースとならずとも、学内に居場所がない俺にとっては安らぎの場所となっている。

好奇心旺盛な千反田も喋らなければ清楚で可憐な美少女でしかない。そんな彼女と二人きりでいるのは俺にとって耐え難い苦痛と考えていたのだが、そうでも無い。

千反田は無理やり連れていくものの、話を強要したりすることは無い。基本的にお互いに無言で本を読み、たまにお菓子を食べながら雑談をしたりと。部活というより倶楽部だな。

そして、千反田は話していて気を遣わない。中学時代の女子と違って俺を貶さないしバカにしないし蔑まない。ホントに人間かと疑ったこともあったが、お嬢様気質の彼女の事だ。そのような差別や偏見を知らないのかもしれない。やはり天使か女神の血を引く末裔なのではと、横目で千反田を見ていると彼女は読んでいた本を閉じた。

 

 

「不毛です」

 

 

俺が見ているのに気づいたわけでなく、ただの独り言のようであった。しかし、独り言にしては大きすぎる。だが、唐突に言われた言葉に俺は返答に困った。

 

 

「親父の話か?」

 

 

「いえ、父の髪は健在です」

 

 

どうやら違うらしい。不毛、というとこの時間のことだろうか。生産性もなければ、時間を有効に活用できてるわけでもない。

 

 

「まぁ部活としては意味が無いわな」

 

 

それで何がしたいんだと暗に聞いてみると千反田は頷きを返した。

 

 

「はい。なので、10月の文化祭に文集を出します」

 

 

なんだろう。生徒や先生のスキャンダルでも暴露するのだろうか。俺としては面白そうだが。ってこれは文春ですね。と自らツッコミを入れる。

 

 

「文集か」

 

 

「はい」

 

 

千反田は胸ポケットから几帳面に四つ折りになった紙を出し、俺にみせてくる。仄かに残る温かみに唾を飲み、俺は紙を開く。すると、今年度の古典部の予算と大きく打たれた紙には雀の涙帝都であるが予算が出ていた。名目は「文集制作費」であった。

 

 

「顧問の大出先生からも作ってくれと頼まれてます。古典部の文集は三十年以上の伝統があるのであまり途絶えさせたくないそうです」

 

 

「ほーん.......」

 

 

知らねぇよそんなの。自然と眉根が寄ってしまう。面倒事はなるべく避けたいのだが、彼女は易々と折れる人間ではないことは初対面の時によく理解した。

 

 

「わかったやろう」

 

 

文集を作るのと千反田を説得するのどちらが面倒かは考えなくても分かる。

 

 

「それで、文集ってどんなやつなんだ?」

 

 

「どんな、ってどういうことですか」

 

 

「言い方が悪かった。内容の話だ」

 

 

例えば、古典部にちなんで紫式部や清少納言の書いた作品の考察とか、もしくは現代語訳をさらに煮詰めた今風源氏物語を書くだとか。そんなのを書くのならこちらとしても安請け合いはできない。駄文は書けても、伝統を重んじるような堅苦しい文章は俺の苦手とすることだ。

 

 

「さあ、分かりません。どうだったんでしょうね」

 

 

「知らねぇのかよ」

 

 

なのに作りたいとはどういうことなのだろうか。聞こうにも恐らく彼女はこう答えるはずだ。

 

 

「一身上の都合です」

 

 

「.......いや、何も聞いてねぇんだけど」

 

 

「目が言ってました」

 

 

目は口ほどに物を言う。千反田ほどの博識ならこれくらい知ってて当然だろう。俺は目を逸らすと咳払いをした。

 

 

「それじゃあ、どうするんだ?」

 

 

「バックナンバーを探しましょう」

 

 

いい提案だ。しかし。

 

 

「どこにあるんだ?」

 

 

「部室、とか」

 

 

「ここどこ」

 

 

「...あ、ここが部室でしたね」

 

 

「ま、部活してる感じではなかったからな」

 

 

万年帰宅部の俺でも「これって部活なの?」と不安になるくらいには部活してなかった。けれども、アニメとか漫画の部活動でもスポコンではなかったから割と俺たちに近しい部分はある。SKETDANCEとか、依頼者が来なかったら3人でアホなことしてるだけだしな。愉快ではあるが、俺と千反田には向いてない。

 

 

「保存してないんでしょうか、文集」

 

 

「歴史と伝統を重んじてるならあるだろ」

 

 

「図書室とかでしょうか」

 

 

無くはないだろう。頷くと、千反田は自分の手提げカバンを手に立ち上がった。

 

 

「行ってみましょう」

 

 

俺の返事を待たずにドアを開けて出ていくあたり行動力の化身だな。しかし、俺の足がちゃんと機能するとなればこうほっぽり出されるものなのか。悲しきかな。チタンダエルの加護は骨の再生と共に去ったということだろう。

 

 

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