改稿前等   作:むかいまや

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https://seiga.nicovideo.jp/seiga/im9098445 より設定をお借りしました。
本短編はけものフレンズR BBSで企画した『けものフレンズR合同企画』に参加した作品です。
本編『けものフレンズR ”わたし”の物語』(https://syosetu.org/novel/187921/)と地続きですので、そこのところ、結構イジワルかもしれませんが……ごめんなさい……

お題に則した内容なのかしら? ちゃんとできたかしら……?
追記 締め切り11日いっぱいだと思ってました。


けものフレンズR 合同企画作品

 ゴリラさんにある相談をし、その解決の糸口を見出したわたし達は二日後にとある場所を目指して出発することになりました。ちょうどその日でさばんなちほーから『おうち』に戻ってきて一週間。それもあってか、イエイヌちゃんとわたしの間で、その場所が次の旅の目的地となりました。

 そこについてから、いくつか建物の中をめぐり、適切な機材が使えるかどうかの確認ですとか、何か必要な道具、便利なものなんか見当たらないかですとか、さながら未知の場所へ探検に赴くような心持ちです。わたしに取っては記憶が無い以上、どこも未知の場所です。けれど、今回は今までの旅と異なって、自然の割合が小さく、人工物の割合が多い場所が目的地です。わたしの過去につながる情報や物品を見つけられる可能性も高いと思われますし、何より、わたし自身の生活に還元できる物品が見つかることへのちょっとした期待もありました。

 ですから、どこか浮ついた気持ちになるのも当然でしょう。わたしは鞄の中を覗き込んで、タオルの枚数ですとかランプの吊るす位置を調整したり、色鉛筆の整理やスケッチブックに何を描こうかだなんて事を考えていました。ああでもないこうでもないとあれこれ悩んでいるわたしの事をイエイヌちゃんは最初心配してくれていました。けれど、夕方の散歩が終わり帰宅するころには流石に呆れてしまったのか飽きてしまったのか……わたしから視線を外して、彼女は黙々と絵本を手にとって読み始めていました。

「……ふぅ、こんなものでいいでしょう……!」

 気付けば夕日は殆ど地平に沈んでいました。薄暮に沈む草原の光景を見て、晩御飯を食べなければ、と何故だか思います。今までそうしてきたからでしょうか? さて、この妙な忙しさなのですが……わたしとしては、あれこれ悩んでも大して何も変わらないのはわかっていました。わかってはいたのですけれど……浮ついた身体は動き続けることを求めていました。あれこれ調整してみて、手を入れてみて、考えてみて……そうして作り出したバランスがきっと何かを見つける一助になってくれるのだと、そう信じたかったのです。

「支度、終わったんですか……?」

 イエイヌちゃんは絵本を開いたまま、わたしの方を向いて尋ねます。首をかしげた彼女の表情は、少しだけ困ったような笑顔でした。やっぱり呆れられていたんでしょうねぇ……。

「ええ……と言っても、その、持ち物の何かが大きく変わった訳では無いんですけどね……」

 困ったようにわたしが乾いた笑いを出すと、イエイヌちゃんも同じような笑い声。

「待たせちゃってごめんなさい、イエイヌちゃん。ご飯にしましょう?」

「はい!」

 わたし達はそうして、机に置いてあるジャパリまんを食べ始めました。

 

「んっく……ともえちゃん、お水いります?」

 もっくもっくと静かに食事を進めていると、イエイヌちゃんが尋ねます。

「……んーそうですね、お願いします」

 わたしのお願いに彼女は元気よく返事をして、キッチンの方へと小走りに進みました。

 しばらくして彼女は両手に水を注いだコップを持って帰ってきました。量はちょうど良いくらい。

「おまたせです! どうぞ!」

「ありがとうございます、イエイヌちゃん」

 コップを受け取ったわたしは、ひと口水を含みます。そう言えば、前もこんなことありましたっけ。

「会ったばっかりの頃、覚えてます?」

「どうしたんですか、急に……」

 イエイヌちゃんは椅子から立ち上がりながら、応じます。

「前にイエイヌちゃんにお水を持ってきてもらったじゃないですか」

「あぁーそうですそうです。そんなこともありましたねぇ……なんだか懐かしいです……」

 わたし達が過ごした時間は、多分そんなに長いものでは無いはずです。日数にしておそらく一ヶ月も無いでしょう。ですが、ただでさえおっとりとした時間の流れるジャパリパーク。加えて、カレンダーや時計などの時間経過を知るための道具が軒並み見当たらないという事も手伝ってか、どうにも日付の感覚が曖昧になります。ここでは、きっと時計もカレンダーもさほど必要のないものなのでしょうね。

「その時、イエイヌちゃんったらコップいっぱいに水を入れてて……笑ったらいいのか取りに行ったらいいのか、ちょっと困っちゃいましたよ……?」

 わたしが冗談めかしてそう言うと、イエイヌちゃんは恥ずかしげに顔を赤く染めます。

「む、むぅ……わふぅ……」

 言葉に困った彼女は、眉間にシワを寄せてなんと言い返したら良いのか悩んでいるようでした。

「ふふっ、冗談ですよ、冗談。あの時も……それ以外も全部ですけど……ありがとうございました」

 イエイヌちゃんはわたしを咎めるような表情を一瞬だけ浮かべましたが、すぐにほほえみの表情になります。

「いえいえ、あれくらい!」

 表情を崩さぬまま、イエイヌちゃんは首を振りました。

「それに……私はあの時、ヒトに……いえ、ともえちゃんに会えたことが、嬉しくて嬉しくて……多分、浮かれてたんです」

 えへへと照れ隠しの笑いをイエイヌちゃんは零します。

「そう言ってもらえるなんて、わたしは本当に幸せものですねぇ……」

 思わずしみじみと言ってしまいました。仮に……例えばですけれど、ロードランナーさんやコヨーテさん、ドードーさんと最初に出会ったとしたら、もう少し違った生活が待っていたでしょう。それで困るようなことはきっとなかったと思います。それで不幸になることも、嫌な目に会うこともすることもなかったと思います。皆さん優しいですし、楽しげに日々を過ごしている方ですから。けれど、けれど……断言できます。

「わたしにとって、イエイヌちゃんと出会えたことは、一番の幸運ですよ。ラッキーなんです」

「んふふー……どういたしまして」

 満面の笑みで、イエイヌちゃんは満足気に息を漏らしたのでした。

 

 しばらくすると、何かを思い出したように、イエイヌちゃんは食事の手を止めてぴくりと耳を動かして宙を見上げます。そして手にしたジャパリまんと、宙空とを視線が行ったり来たり……。その様子がどうにも可愛らしくて、わたしはそっと彼女の様子を伺います。すると、イエイヌちゃんはわたしの視線に気づいたのでしょう、はっとした表情になって、視線を下に戻して食事を再開します。けれど、それでも諦めきれないかのように再び視線を上へ……。どうやら何かを考えているようです。

「どうかしました?」

 わたしが尋ねると、イエイヌちゃんは申し訳無さそうな声色で答えます。

「そのぅ……気になることがあって……お願いとかじゃないんですけど……」

 イエイヌちゃんはやっぱりおずおずと、申し訳無さそうな様子。

「んー……? どういうことです?」

 わたしが聞き返すと、彼女はジャパリまんを机の上に置いて、そっと立ち上がり、ベッドに置かれた絵本を持ってきました。

「その、これ……」

 イエイヌちゃんは、わたしと同じようにゴリラさんに紹介された図書館で本を数冊借りてきました。わたしは画集を数冊、イエイヌちゃんは絵本を数冊。それらの絵本は、以前彼女とお話した時の事を踏まえ、そして、簡単な言葉の勉強も出来るようにと簡単なものです。イエイヌちゃんが持ってきた絵本の内容は、動物をモチーフにしたキャラクターが新しいお友達とご飯を作るというものだった筈です。イエイヌちゃんが内容をその時に尋ねてきたので、わたしも軽く内容を読んでいます。書かれた言葉も難しいものではなく、漢字がなかったこともありますし、内容だって平易なものです(ちょっと上から目線な物言いで申し訳ないですけれど……)。

 彼女の疑問は、図書館からの帰り道に、わからないことがあったら教えるという約束も改めて交わしましたから……わからない言葉があったり、読めない文字があったりとか……そういうことでしょうか?

「えぇっと、どこですか? わからないこととか……?」

 イエイヌちゃんは小さく首を振ります。

「その、文字もわかりますし、意味もわかるんですけど……気になっちゃって……」

 そう言いながら、イエイヌちゃんはぺらぺらとページをめくって、問題のページを指差します。

「ここ……ぱんけーき? ですか?」

 彼女がわたしに見せたのは、大きな一枚のパンケーキを囲んで、おやつを食べるキャラクターの絵が描かれたページ。それは本当に朗らかで楽しげな光景でした。物語の流れからしても、最後の最後、新しいお友達との親睦を深めるという目的を達成できたことを祝福したくなるような、そんな可愛らしいページでした。

「そう、ですね……。これがどうしました? というか、もう読めちゃってるんですか……すごいですね……」

 すこしひらがなを教えただけで、すぐに絵本を読みすすめることが出来るようになった彼女にわたしは素直に感心します。

「えへへ……それほどでも……」

 てれてれしながらイエイヌちゃんは言葉を続けます。

「でですね……その、ぱんけーきが気になっちゃって……美味しそうで……そのぅ……」

 あぁ、なんとなく彼女の言いたいことがわかってきました。つまりは……

「食べてみたいってことですか?」

 イエイヌちゃんは小さくこくりと頷いたのでした。

「まぁ、そうですねぇ……ご飯食べてる途中ですし、まずはジャパリまん、食べ終わっちゃいましょう? そしたら、パンケーキ作れるか考えてみますね」

 わたしの言葉に彼女の顔はぱぁっと明るくなりました。

「はい! ありがとうございます!」

「いえいえ、考えるだけならいくらでもできますから……作れるなら、そうですね……ぜひわたしも作りたいところですけれど……」

 わたしの言葉にイエイヌちゃんは不思議そうに首を傾げます。

「つくる……? ともえちゃんは食べないんですか……? 確かに絵本でも作ってましたけど……ともえちゃんも作れるんですか……?」

 そう言えばそうです。なんでわたしは作れる、作りたいなんて思ったんでしょう?

「うーん……そんな気がするんですよねぇ……なんでだかわからないんですけど……」

「覚えてないだけで昔作ったことがある、とかですかね……? ともえちゃんが作りたいなら、そうしてください! お手伝いだってさせてください! 楽しみですね……! んふふー」

「ええ、その時は、お願いしますよ、イエイヌちゃん」

 そんなやり取りをしてわたし達は食事を再開したのでした。

 

 満腹時特有のぼんやりとした満足感を堪能しながら、わたしは外をぼんやりと眺めながら、先程のパンケーキについて考えます。イエイヌちゃんはどうにも気になって仕方がないのか、ベッドの上で同じ絵本を繰り返し、ゆっくりと眺めていました。

 ドードーさんとお話した内容とも無関係とも思えませんでした。彼女と話をした『クッキー』についての昔話、彼女の願い……。パンケーキとクッキーとでは明らかに違いますけれど、使われている素材はおおよそ同じ。作り方と素材それぞれの分量が異なるだけ……。少し飛躍している気もしますけれど、そう考えると、彼女との約束を果たすことは、イエイヌちゃんの願いを叶えることに繋がります。クッキーと比べるならパンケーキを作る方法は、ずっと楽なはず……うーん……。満腹だからか眠くなって……ふわ……ぁ……。

 

 

 バニラエッセンスの甘い匂いが仄かに立ち込めるキッチンにあたしとお父さんは居ました。あたしは小さなエプロンを付けていて、そこに汚れは見当たりません。一方で、お父さんはシンプルな無地のパーカーを着ていて(おそらく部屋着か普段着なのでしょう)、そこには何やらクリーム色の汚れの跡がこびりついていました。

「なんでお父さんは焦がすの……」

 あたしが尋ねます。あたしが指をさす先には、ホットケーキが三枚ありました。うち一枚は、少し大きめのサイズで、形がひどく崩れていて、焦げて(それも両面とも!)いるもの。残りの二枚は程よく狐色に加熱され、それなりに整った円形のものでしたが、サイズは少し小ぶりでした。

 キッチンペーパーでしきりに服に付いた汚れをこすっていたお父さんは、その手を止めて「あはは」と頭を掻きながら笑います。

「いや、レシピはちゃんと覚えたんだよ……?」

 レシピを覚えているかどうかは、大切かもしれませんが、重要なことでは無いのです。適切なタイミングに適切な処理を行うことこそが料理や調理に求められることなのです。

「ひっくり返すのも、下手だし……」

 それもまた事実。何故フライパンの外側に生地を跳ね飛ばすのでしょう?

「それはね――生地が勝手に飛んでいくんだ」

「いーいーわーけー!」

 あたしにはするなと散々言うくせに、自分はするというのは不条理でしょう。あたしが咎める視線を送ると、お父さんはきまり悪そうに視線を逸します。

「だってあたしに出来るのにぃ……おとなでしょ?」

 お父さんが困った時にいつもする癖。それもあたしと――――にだけ……。それは大きな手で、あたしの頭を撫でること。

「お父さんはねぇ、下手なんだ。料理。……――は上手なんだなぁ。自慢の娘だよ、ホント……母さんに似たんだろうねぇ……」

 あたしは少しむっとしていたのですけれど、褒められて悪い気はしないものです。あたしは「んふー」と満足気な息を漏らして、お父さんの顔を見ます。

「そうなの?」

「そうだとも。母さんは料理が上手でねぇ……」

 お父さんは昔を思い出すかのように、しみじみとした表情で視線を宙へと投げましたが、程なくして、あたしの顔に視線を戻しました。

「じゃあお皿によそおうか」

 あたしはシンクの傍らに置かれたフライ返しを手に取り、お父さんに頷きます。

「うん! ……お父さんにあたしが作ったの、あげるね」

 再びあたしの頭はわしわしと撫でられます。お父さんは、あたしが「量を食べたい」から交換すると言ったのではなく、お父さんに「上手に焼けたものを食べてもらいたい」から交換するのだと考えたようです。お人好しですよねぇ。それとも、それだけあたしの事を信じてくれているのでしょうか?

「ありがとう。でも、自分の失敗は自分で責任を取らねばなるまいて。お父さんが自分のを食べるよ。――は自分の作ったのを食べなね」

 それは我が子か否かを問わず、子供に投げかける口調では無いでしょうに……。けれどあたしはわからないところは無視して、意味のわかるところだけ聞き取ったようです。

「いいの……? 焦げてるよ……?」

「ああ、平気平気、これはこれで美味しいと思うよ? ……じゃあ、あとは――――が帰ってくるのを待って……すぐ帰ってくると思うけど、簡単な検診だった筈……っと噂をすれば、だ」

 玄関の開く音が聞こえて、遅れて「戻りましたぁーっ!」という元気な声。どこか聞き覚えがあるようで、多分、少し違う声。その子は、あたしの、大切な、大切な――

 

 

 わたしはそこで、目を覚ましました。過去の出来事、そのひとかけら。それを見たような気がするのです。本当に大切なかつての日々をそこに……。ひどく深い眠りから急に目覚めたときの追い立てられるような焦燥にも似た感情に苛まれる中、わたしは、ただ、どこだかわからない虚空を見つめていました。

「ともえちゃん、どうかしましたか……?」

 イエイヌちゃんは、呆然としていたわたしを心配そうに覗き込みます。

「……何でも無いですよ? 平気です、平気……」

 みぞおちのあたりがじゅんとなる、いつもの感覚。最近はなかったように思うのですけれど……。

「どうぞ、お水です……さっきの残りですけど……新しく汲んできた方がいいですか……?」

 わたしはコップを受け取り、三分の一ほど残っていたそれを一気に飲み干しました。

「……ふぅ。大丈夫です。痛くもなんとも無いですし……寝起きでぼーっとしちゃっただけです」

「なら良いんですけれど……」

 しばらくの間、お互いに言葉を発することなく見つめ合いました。わたしの具合を伺うような彼女の視線は、欠片だけみた過去の思い出をなぜだか想起させます。

「ねえ、イエイヌちゃん」

「どうかしましたか……?」

 やっぱり心配そうな顔。そんな顔しないでください? ね?

「ホットケーキなら、多分作れます。クッキーの材料があれば、多分……ここで作ることだって……」

 わたしは、「ホットケーキもパンケーキも似たようなもの、実質同じ」と言うような乱暴に過ぎる説明も付け加えました。するとたちまちイエイヌちゃんの表情は明るいものになっていきました。

「本当ですかぁっ!?」

「ええ、細かいレシピとか、確認したいところですけれど……まずは材料の確保ですかねぇ……次に行くところで上手いことできれば……その後にゴリラさんが材料を用意してくれるはずでしたし……」

 わたしはひと息おいて、言葉を続けます。

「明後日の旅……というか探検ですね、ほとんど……頑張りましょうね、イエイヌちゃん」

「はいっ!」

 こくりと頷いた彼女は嬉しそうで、楽しそうで、今と未来とに果てしない希望をいだいているようでした。そんな彼女の姿を見ていると、わたしも何処か心が癒えるような思いです。もしも、彼女でない誰かと今一緒に居たとして……わたしは今のわたしほど、過去に囚われないでいられたでしょうか? 確証は無いですけれど、多分……。

 と、それはそれとして、です。今すべきことをなさなくてはなりません。

「それじゃあ……お風呂、入りましょうか」

 うぅっとイエイヌちゃんは声を漏らし、いやいやと言わんばかりにしっぽを大きくひと振りします。

「……嫌ですか?」

「いえ、そういう訳じゃ……なんだか落ち着かないですし、恥ずかしいですから……」

 ふうむ。わからない訳でも無いですし、無理に入れというのも妙な話です。

「まぁ、嫌なら構いませんけど……わたしはお風呂入って来ますね」

「はい! 行ってらっしゃい!」

 ひとりでお風呂に入って、あの夢を考え直すというのも悪くはありませんからね。もしイエイヌちゃんが後で入ってくるようなら、彼女にも伝えて意見を聞きたいところです。

 

 あぁ、それにしてものんびりとした日々でした。また旅に出ることを待ち遠しく思う気持ちもありますし、ここを離れることを惜しむような気持ちもあります。それは多分、ここに戻ってきても良いのだという考えが芽生えてきたのでしょうか? そう思えるのは、サバンナまで旅に出たお陰かもしれませんね。戻るべき場所をより強く認識するのはそこを離れてから、ということなのでしょう。

「そうだ、イエイヌちゃん」

 わたしは服を脱いでいる途中でしたけれど、脱衣所から顔だけ出して、イエイヌちゃんに言います。彼女はどうやら自分もお風呂に入るかどうか悩んでいるようでした。何故わかったのかと言えば、彼女ったら自分の服のボタンを付けたり外したりしていたのですもの……。そして、イエイヌちゃんはわたしの言葉でその手を止めて、こちらを向きました。

「……? はい、なんでしょう?」

「ずっと一緒に居てくれて、ありがとうございました」

 わたしは彼女の反応を確認せず、お風呂に戻りました。ただ言いたかっただけ……そんなワガママな気持ちを彼女に伝えたくなってしまったんです。

 

 明日から、明後日から、その先も、ずっと、お願いしますね。そんな思いは、幾度も伝えてきたはずなのに、どうしでしょう? いつもよりも少しだけ恥ずかしくて、少しだけ、込める思いが異なっているように思えて、言えませんでした。




かなり遅くなりましたが、今年もよろしくおねがいします。

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