改稿前等   作:むかいまや

3 / 3
某所にて言い出しっぺの法則


R三題噺

 ある初夏の昼下がりのことです。

 わたし達は『おうち』から出て、散歩をしていました。

「いい天気ですねぇ……」

 空には、それこそメレンゲですとか、綿菓子のような、なんて喩えが似合うような、ほわほわとした雲が浮かんでいて、びっくりするくらいの青空の色が、その下に居るわたし達の心をいっそうウキウキとさせます。それに、草原は新緑に染まっています。その為か、辺りには青臭くも心地よさを感じる独特の香りが立ち込めていました。初夏という季節が持つ、ひとつの魅力でしょうね。

「本当に……今日はいいお散歩日和ですね!」

 わたしはゆっくりと頷きます。陽射しを浴びているだけで本当に気分が晴れやかなものになります。ほんの少し汗ばむのは気持ちの良いこととは言えませんけれど、じっとりとした身体を吹き抜ける風の心地よさは、汗ばむ不快感なんかよりもずっと素晴らしいものでした。

「イエイヌちゃん、あの雲、見てください」

 わたしが空を指差すと、イエイヌちゃんは手を眉の辺りに当てながら、覗き込むようにして、空を見上げます。

「どれですかぁ……? えぇっとぉ……」

 わたしが指示している雲がどうにも見つからないようで、彼女はしきりにきょろきょろとしていました。

「えぇっと……あそこの、泡の山みたいなヤツ、わかります?」

 適当に過ぎる気もしましたが、イエイヌちゃんはこくこくと頷いてくれました。本当にわかってます? と聞き返したくもなりましたが、話を続けます。

「それの右隣の雲です」

「みぎ……。あ、わかりました、あの丸いやつですね!」

「そうですそうです!」

 イエイヌちゃんは、にへっと可愛らしい笑顔を浮かべてわたしの顔を見ます。

「あれが……どうかしました?」

「あ、いや、結構どうでもいいお話なんですけどね? あれ、マカロンみたいだなぁって思ったんですよ」

「まかろん」

 イエイヌちゃんは疑問を浮かべた表情で呟きました。その呟き方と言ったら、聞き慣れない言葉を言ったからか、舌っ足らずな具合になっていまして、それがまー、可愛らしいこと。 

「あー……お菓子です、お菓子」

 ふんふんと頷いた彼女は「どんなお菓子なんですか?」とわたしに説明を求めます。

「じゃあ……そうですね……あそこに座りましょう?」

 あくまで感覚ですけれども、結構な距離を歩いた気もしますし、この辺で休憩しても大丈夫でしょう。

 好奇心に溢れたきらきらとした瞳を見せるイエイヌちゃんと一緒に、木立の下に腰掛けます。わたしはカバンからスケッチブックと色鉛筆を取り出し、記憶を頼りにスケッチをしました。

「こんな形で……間にはクリームとか、ジャムとかが入ってて……やたらと甘いんです。匂いは――」

 イエイヌちゃんはわたしの言葉を聞きながら、目を閉じます。マカロンの形を確認した後は、どうやら味ですとか香りですとか、そういう感覚的なものを想像しているようです。

「ふんふん……」

 と、くぅとお腹のなる音が小さく彼女の方から聞こえてきました。恥ずかしさか、それとも申し訳無さか、イエイヌちゃんは頬を少しだけ赤らめます。

「し、失礼しました……。そのぅ、ともえちゃんの話聞いてたら、なんだかお腹空いてきちゃいました……」

「あはは、わかりますわかります」

 わたしもなんだか甘いものが食べたい気分になってしまいましたからね。パークではあんまりそういうモノ、無いですから、少しだけ惜しい気もします。『おうち』にはお砂糖がありましたから、それを使えば多少は融通が効くのでしょうけれど……。

「帰ったらご飯にします? 今だとちょっと早いかもですけど、帰る頃にはちょうど良い時間になってそうですし」

 わたしの言葉にイエイヌちゃんは「はい!」と返事をしました。

「ところでともえちゃん。そのまかろんってお菓子、ともえちゃんは作れるんですか?」

「作ったことは無いですけど……確かけっこー難しいとかなんとか……」

 確かメレンゲを焼くんでしたっけ? 絶対そんなに簡単じゃないですよねぇ……。

「そうなんですかぁ……」

 イエイヌちゃんはがっかりした様子を見せます。

「んーと、食べたかったりします?」

「えへへ、ちょっとだけ……」

 ふむん。彼女の期待に添えるかはわかりませんけれども、少し考えてみましょうかね……。わたしも歯が痛くなるくらい甘いもの食べたい気分になってきちゃいましたから……。

「確かお菓子関係のレシピが図書館にあったような、なかったような……今度調べてみますね」

「ほんとうですかぁっ!?」

 あら、嬉しそうな顔。

「……作れなくても許してくださいね……? じゃあ、そろそろ、出発しましょうか」

 イエイヌちゃんも身体を動かしたかったようで、「はい!」と返事をし、わたしが立ち上がるよりも早く道に出て、駆け出しました。

「ちょ、ちょっと……もう……。待ってくださーい!」

 イエイヌちゃんは喜色満面という具合で、両手をばんざいして振っています。まずは、追いつかないとですね。

 

 イエイヌちゃんを追いかけながら、思います。

 彼女の期待には応えたいところです。けれど、知らないこと、やったことのないことですから、どうなるのかわかりません。ただ、そうですね……作れそうなら、完成するまで秘密にしておいて、イエイヌちゃんをびっくりさせちゃおうかな、なんて思います。もしそれが叶うのなら……その時の彼女の表情が楽しみです。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告