緋の双頭   作:三途リバー

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進んで行った結果がこれだよ


それでも前に 振り返らずに

海一面に散らばる藻屑。朦々と煙をあげて燃え盛る炎。

助けを求め、響き渡る悲鳴。

悪夢としか思えぬ情景の中、ユニオン最強・灰の英雄は膝をついて眼前の人物を睨みつける事しか出来なかった。

 

「どうだ、そこからの景色は。初めての経験じゃないか?叩きのめされて敵見上げるなんざ」

 

今にも沈みそうな大破状態の小型船の上で座り込む男が言葉を投げかける。彼とて無傷などではなく、白かった筈の軍服は煤と血液で薄汚れ、左肩には鋭い鉄片が突き刺さっていた。

 

「お前も俺も住んでる所は同じ戦場だ。それは違いない。だがお前が見てるのは前だけだろう?倒れた奴らも、倒した奴らも振り返ってこなかった。そうだろう、エンタープライズ」

 

全身の血が滾り、えも言われぬ衝動がエンタープライズの身体を貫く。

殺す。

この男は、この男だけは否定せねばならない。

満身の力を込めて大弓を振りかざすが、艤装には最早一矢を放つだけの力も残っていなかった。得物は虚しく弾け、手元で砕け散る。

 

「手前1人で戦争やってんじゃねぇんだよ馬鹿が」

 

侮蔑と憐憫の混じった視線が、今まで受けたどんな砲火よりも痛かった。胸が、肺腑が、心が、悲鳴をあげる。

 

「うぁ…あ…あぁ、あぁっ…!」

 

興味を失ったかのように視線を外し、男は、重桜指揮官は甲板に寝転がる。

緋色に染まった海には、英雄の号哭だけが響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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戦場中央より少し外れた場所。

 

「は〜〜〜〜…負けたねこりゃ」

 

「殿どうする?私行こっか?」

 

「逃げきれるかぁ?」

 

「向こうも被害は大きいし、何とかなるよ」

 

天気の話でもするかのように、銀髪の長身美女と亜麻色髪の少女が言葉を交わす。軽い口調とは裏腹に、2人とも刀傷が痛々しい。

 

「しっかしウチの戦力掻き集めてここまで気持ちよく負けるたぁな。重桜ってこんな強かったけっか?なぁクリーブ」

 

銀髪のKAN-SEN、ワシントンが納得いかぬと首を傾げる。それもそうだろう、つい20年ほど前まで国を閉ざし、鎖国政策を取っていた新興国が、アズールレーンの中核たるユニオンを打ち破ったのだ。武運やら時の運やらで済ませられるものではない。

 

「鉄血からの技術援助もあると思うけど…。それにしてもエイジがまーた強くなった気がするよ…」

 

「エイジぃ…?あぁ、お前向こうの指揮官と顔見知りか」

 

「そそ。まだ重桜がアズールレーンに所属してた時にね。前々から戦争する為に生まれてきたみたいな奴だったけど、もっとこう…なんて言うかな、局地的な指揮官だったんだよね…」

 

殿を引き受け、肩を回してウォーミングアップするクリーブランドもうんうんと唸っている。

 

「ちっこい指揮艦乗り回して前線で指揮して、いっつも高雄にドヤされてたっけなぁ、懐かしい」

 

「いや懐かしいっつか今さっきもそうだったろ…」

 

ユニオンの指揮官が安全な後方に引きこもっていたのに対し、開戦直後から先頭切って突っ込んできた阿呆は強烈に脳裏に刻まれている。

ワシントンとしては(男としてはどうかと思うが)最後まで後ろにいっぱなしだった自国の指揮官を責めるつもりは一切ない。エンタープライズがいる中でいくらお飾りの大将とは言え、討たれれば指揮系統の乱れは必須だ。それが普通、重桜の指揮官がイカれてるだけ。

()()()()()()()()()()()()()()()でもあるまいに、KAN-SENの砲撃を一発でも喰らえばその瞬間に海の藻屑となるだろう。それを表情が読み取れるほどの距離にまで近付き、あまつさえ指揮艦から魚雷やらなんやら撃ち込んでくるのだからもう何も言えない。

 

「馬鹿だけど唯の馬鹿じゃねぇよなァ…」

 

物量のユニオンと渾名されるほどの軍勢を前に突貫。雷撃重視の少数精鋭で波状攻撃を繰り返した後、虎の子エンタープライズを戦場に引きずり出して全航空戦力を以て足止め、その隙に島影に隠した伏兵を矢継ぎ早に繰り出し敵軍を2つに割る。

後は最高戦力が討って出たことで気が緩んだユニオン本隊を食い破り、焦ったエンタープライズを仕留めるだけ。唯一の誤算らしい誤算と言えば、エンタープライズが後ろを全く気にせず大将の首を取りに来たことだろうか。まぁ結局の所はその最高戦力の特攻も凌ぎきったのだが。

 

「全く…最ッッ高じゃねぇか」

 

目も当てられぬ惨敗の中、それでもワシントンは笑った。卑屈でもなんでもない、心の底からの笑みだった。

正義を掲げる大軍を真正面から迎え撃ち、これを捻り潰してあまつさえ英雄に泥をつける。

これを痛快と言わず何と言おう。

美事と称えず何としよう。

 

「次はアタシがその首奪りに行くぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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自分で夢かと思うほどの完勝だった。

一国丸々潰すつもりかと思われた程の物量を率いてきたユニオン艦隊の大多数を大破に追い込んで拿捕。特攻をしかけてきたエンタープライズを退け、追撃戦でもかなりの戦果を挙げた。エンタープライズと敵の指揮官は逃がしたものの、充分すぎる大勝利である。

だがその大勝利の立役者、重桜指揮官佐原榮治郎(さわらえいじろう)の顔は晴れなかった。

 

「中途半端だな。どうせなら指揮官の首取って終わらせるか、こっちの損害も抑えてなぁなぁで済ますべきだった。これで帰ったらアズールレーンとお上の両方相手取らなきゃいけなくなっちまう」

 

戦争を終わらせるには些か決め手を欠き、和睦で済ますには大打撃を与えすぎた。そして何より、手柄を立てすぎたのだ。現在佐原の階級は大将だが、重桜海軍の大将は何も佐原1人ではない。横並びの者たちの妬心を買い、元帥からも自らの地位を脅かす者と認識されることは必定だ。

今後暫くは身内どうしの足の引っ張り合いが主戦場となるかと思うと、勝利の余韻にも浸れない。

 

『私達鉄血との橋渡し役も務めた貴方を直ぐに切り捨てるほど、重桜首脳部もバカじゃないでしょう?』

 

「だと良いんだけど」

 

手元の通信機から聞こえる人を食ったような声にも、佐原は無気力に答える。

指揮艦が大破したため明石の艦艇に移動し、すぐさま応急処置を受けたものの、左肩の傷が思ったよりも重症だった。それに加え、エンタープライズのせいで切る羽目になった()()()のお陰で身体が異様に重い。今は何も考えたくなかった。

 

『眠そうな所悪いけど、こっちも指揮官に報告しないといけないのよ。大雑把でいいから今後の動きの予定を教えてくれないかしら?』

 

「予定って言われてもな…。グレイゴーストには啖呵切っちまったし、それでなくともユニオンの恨みを買いまくった。重桜は当面はそっちにかかりきりだろ。貴族集団は頼むぞ、オイゲン」

 

『今こっちはアイリスをズタズタに切り裂いた某国のやり口をサディアに教えてあげてる所よ。近いうちに再脱名騒ぎでも起きないといいけど、ね?』

 

「…良い性格してるよ、お前もハドゥマーも」

 

 

通信機越しに妖艶な笑みを浮かべているであろうKAN-SENと、その指揮官を脳裏に描きながらも、佐原の脱力感は頂点に達していた。

 

「もう切るぞ…疲れた…幾ら何でもはしゃぎすぎた…」

 

『あら、いくら斬っても斬り足りないって暴れてた貴方がそこまで言うの。本当に大勝利みたいね、ゆっくり休んで英雄さん?』

 

いつの時代の話をしてやがる。

答えたつもりだったが、言葉になっているかは分からない。身体が沈み込むような感覚に身を任せ、佐原は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「高雄…申し訳にゃいけど指揮官は面会謝絶だにゃ。外傷はともかく最後のあれのせいで心臓が大分参ってるにゃ…。重桜本国に戻るまで持ち堪えてくれれば本格的な治療ができるんだがにゃ…」

 

予想は出来ていた。しかし、重桜医療班のトップに立つ僚艦から改めて突きつけられたその言葉に、知らずのうちに刀の鞘を握る手に力が入る。

 

「悪いか、そんなに」

 

「高雄に気休めを言ってもしょうがないにゃ。回復したとしても3ヶ月は布団の上でゆっくりしてもらうにゃ。寝てるうちに刀は取り上げといたにゃ。……まぁ刃こぼれと血曇りが酷すぎてもう使えたモンじゃにゃかったけど」

 

この戦、高雄は妹の愛宕と共に雷撃隊の采配を預かって最前線にいた。寄せては退き、寄せては退きを繰り返してグレイゴーストの突出を呼び込む事に成功したが、指揮官のいる本陣への特攻を許してしまった。一、二、五航戦を将棋倒しの如く薙ぎ倒し、只管前へ進む敵の背中を視界の隅に収めながら、目の前のユニオン主力と切り結ぶのが精一杯だったのである。開戦時から働き通しの味方は疲弊し、高雄が離脱してエンタープライズを追えば、忽ち敵の反撃を許してしまっただろう。

そもそもの数の差、国力を鑑みれば会心の戦と言えようが、その実薄氷を踏むような辛勝でもあったのだ。

そして現在、大袈裟でもなんでもなく指揮官は死の淵を彷徨っている。

今更悔いても仕方がないが、己を責めずには居られなかった。

 

「拙者の、力不足ゆえに…」

 

「それは違うにゃ!!」

 

平素めったに声を荒げない明石の大声に、高雄は俯かせていた視線を跳ねあげた。見ると、彼女の瞳はこれまで見たことも無い強い意志を宿している。

 

「指揮官は緋匣(あかはこ)を起動する時に言ってたにゃ!高雄が、他の連中が気張ってくれたからここまでやれた、ここまで()()を起こさずに済んだって!力不足なんて事は断じてにゃいにゃ!」

 

「明石…」

 

「安心して待ってろにゃ。にゃんとしても、自分の女を泣かせる甲斐性なしのすっとこどっこいは明石が助けてみせるにゃ」

 

「な、何を言い出す明石!?拙者如き一介の無骨者が、し、指揮官殿の…その…女だ、などど…そんな事は、決して…」

 

確かに指揮官との付き合いは母港の誰よりも長いし、お互いに…少なくとも高雄は彼を信頼し、慕っている。だが人として、戦場で刀を振るしか能のない自分が彼の隣に並び立てるとは全く思っていなかった。

 

「購買部来る度に高雄との惚気聞かされる身にもなってほしいにゃあ…。とうとう指輪まで買って、見せつけてんじゃねーにゃ。ほらほら戻った戻った、指揮官不在の今は高雄に艦隊全権があるにゃ」

 

「いやちょ、おい待て明石今最初の方なんと言っt押すなおい待て明石ィ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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妹に救助され、手当を受けている間もエンタープライズの意識は未だ戦場にあった。

 

「殿買って出てくれたクリーブランドが消息不明。ワシントンとサウスダコタが敵戦艦と相討ちの重傷。ビッグ7は3人とも拿捕か…。正直本隊の損害ヤバいよ、姉ちゃん。…姉ちゃん?」

 

撤退戦の指揮を取ったホーネットが何か言っているが、耳に入らない。

エンタープライズの頭に響くのは、敵指揮官のあの言葉のみ。

 

『振り返って来なかったんだろう』

 

違う、そんなことはないと、あの場ですぐさま言い返せたはずだ。しかし実際エンタープライズが取ったのは、言葉による反論ではなく単なる感情の爆発による行動だった。

認めているのか、私が。

図星をつかれ、逆上しただけなのか。

 

「違うッ、違う違う違う違うッ!!私は、そんな、前だけを見て、進んで、だって、私が行かなければ、あ、うぁ…!」

 

「姉ちゃんっ!?ちょ、ラングレー先生ッ!!」

 

こちらを見透かしたようなあの瞳が頭から離れない。

心の底から侮蔑したようなあの言葉がこびり付いて消えない。

 

「違う…ちが…」

 

1人の男が残した爪痕は、猛毒の如く灰色の亡霊を蝕んでいく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




指揮官の名前出すか死ぬ程迷った結果出す事にしました。

以下補足というか小ネタと言うか



・エンプラとタイマンして人間が勝ったの?

一、二、五航戦やら他軽空母やらと連戦して疲れきった終わりださんを最後小突いた程度です。それでも物凄いんだけどタネは後々。



・なんでホーネットは最後ラングレー呼んだの?

ユニオンの空母は全員ラングレーの指導の元育って来たんじゃねっていう妄想。



・今更投稿とかもう遅せぇんだよ

許して

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