緋の双頭   作:三途リバー

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1年と少しぶりの初投稿です(震え声)


戦火 その1

「はぁ…?負けたのか?ユニオンが?総力戦で?エンタープライズ出して?重桜に??」

 

「そりゃもうボコボコだそうですよ」

 

「どうりでサディアがあっさり転ぶ訳だよ…」

 

アズールレーン加盟国、ロイヤルネイビー母港で、1人の青年が机に突っ伏していた。

息をするのも疲れるといった風に、顔だけを起こして彼が口を開く。

 

「因みにボコボコってどんくらい?」

 

「あのラフィーちゃんがこの被害じゃもう駄目かもって零すくらいって言えば分かります?」

 

「亡命の準備するかジャベ公」

 

「仮にもあなたロイヤルネイビー総指揮官ですよね!?!?」

 

黄金の髪に碧色の瞳、と言った美しい顔立ちが凄まじい勢いで歪んでいく。泣きそうな、何か叫び出しそうな悲痛な顔の青年の名を、レオネイル・ジャネットと言う。ロイヤルネイビーの歴史上、初めて貴族以外の出身でそのトップに登り詰めた、稀代の若獅子である。

 

「なーーーにが総指揮官だ!上のヤツらがスツーカ野郎に皆殺しにされたからお鉢が回ってきただけじゃねーか!!貧乏籤だ、生贄だ!あの異能生存体の相手だけで死にたくなってくるのに重桜の人斬りまで手が回るか!!!」

 

「えぇ…前任者は指揮官が殺した癖に…」

 

「人聞き悪い事言うな!致命傷負ってたから楽にしてやっただけだよ!まさか後釜が俺とは思わないじゃん!!」

 

「あーはいはいそういう事にしておきますぅ〜」

 

栄えあるロイヤルネイビーの頂点に立つとは思えないほど、優雅とは両極端に立つ男。貴族や古参からはそう蔑まれ、彼も自覚している部分は多々ある。

だがその反面、非特権階級や実働部隊からの人気は凄まじい。賄賂を拒否して罷免された軍人らを自らの個人的なボディガード、秘書などに雇い、自勢力を拡大。セイレーンとの戦闘、レッドアクシズとの泥沼の殺し合い、そしてくだらない政争を乗り越え、国が無視出来ない程に実力者を抱えた一団は、いつしかロイヤル一国を差配するところまで来ていた。

 

「女王様はなんか言ってるか?」

 

「ご本人は知りませんけど、メイド隊はあちこち走り回ってましたよ?貴族招集して御前会議やるんじゃないですかね?」

 

「俺抜きでやって結論だけ通告するつもりだなぁ…?メイド隊がKAN-SENじゃなくて普通の人間だったら1人と言わず2,3人まとめて消してるとこだよクソッタレ」

 

「どうするんですか指揮官、また無茶な命令されて使い潰されちゃいますよ?」

 

「アクロが居ればなんの問題も無かったんだがな…お使いに行ってもらってるし、先手打って俺が招集かけるか」

 

平民出身、筋金入りの貴族嫌いで通るジャネットが唯一信を置く上流階級KAN-SENは生憎と地中海へ足を伸ばしている。鉄血の調略によりアズールレーンを再脱名したことへの詰問使である。

 

「ハーミーズを連れていく。ベテランを門前払いは出来ねぇだろう。留守は任すぞジャべ公」

 

時々、何故自分がこんな国の為に戦っているのか、ジャネットには分からなくなる。

自分達を虐げてきた貴族共の為?

違う。

国の象徴、大いなる女王陛下の為?

考えただけで虫酸が走る。

 

「なんでこんなとこまで来ちまったかなぁ…」

 

軍刀を手にする若き才媛の足取りは、どこまでも重いものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ユニオンとの激戦から2週間。重桜本国に到着した佐原は未だ目を覚まさず、明石主導の元集中的な治療を施されていた。

艦隊の実働部隊トップが意識不明な現状、重桜は積極的な軍事行動は起こせない。ただでさえ先の戦闘での損害は大きく、今はひたすらに英気を養うことしか出来なかった。

そして現在、高雄は特に重症を負った空母達の見舞いに訪れていた。

 

「何をしている飛龍殿!?頭を上げてくれ!」

 

「今回指揮官に緋匣を使わせたのは僕らの責任です。グレイゴーストを止められなかった…。お詫びの言葉も、ありませんっ…!」

 

布団の上から身を起こし、深々と頭を下げる二航戦、飛龍。体の殆どが白い包帯に包まれているが、所々既に赤く染まっている箇所もある。そんな深手を置いながらも一向に頭をあげようとしない彼女に、高雄は慌てて休むよう促す。

 

「何を言い出すのだ、そなたは身体を休めるのが先決!それにそなたの活躍は明石より聞いている。何を気に病む事がある飛龍殿!」

 

生真面目で何事にも一所懸命。頑固一徹、鋼の飛龍。

そんな友の性根を心地よく思い、同時に敬ってもいる高雄だがこれにはほとほと困った。

確かに佐原が深く傷付いたのは事実だが、その責が飛龍らにあるとは露ほども思っていない。

 

「しかしっ!!」

 

「その辺にしておけ飛龍。高雄が困っている。お前、これ以上其奴の頭痛の種になってどうするつもりだ」

 

「か、加賀先輩…」

 

呆れ混じりに諌めた一航戦の片割れも、右腕を包帯で釣り、片足を引き摺っている。エンタープライズと最初にぶつかり合い、かなりの深傷を負った彼女だが、流石と言うべきか異様な回復力を見せていた。

 

「しかし、かの亡霊を止められなんだ事は我らの失態。すまなかったな、高雄」

 

「皆が皆死力を尽くした結果だ。次を考える方が大事…そうだろう?」

 

「……ほほう」

 

「む?」

 

「いや何、一度自戒を始めれば1ヶ月は引き摺っていたお前が斯様に柔らかくなるとはと驚いたまで。榮治郎にここまで絆されたか…」

 

目を丸くし、嫌味でもなんでもなく率直な物言いをする加賀に、うんうんと頷く飛龍。

 

「拙者は元来そのように切り替えの出来ぬ猪では無い!と言うか貴殿らの拙者への認識はどうなっておる!?」

 

「堅物、愚直、強化版飛龍。最近は榮治郎が居ないと寂しさで死ぬ忠犬と言った所か」

 

「えと…まぁ、僕と同じタイプの方…かな…」

 

「飛龍殿はともかくそこに直れ加賀ァッッ!!!!」

 

敬称もかなぐり捨てて抜刀する高雄に、左手に青い炎を灯す加賀。苦笑するしかない飛龍だが、その心中は不思議と穏やかだった。

 

(僕が不甲斐なかった事実は変えられない。それでも、こんな当たり前の空間は守られたんだ。指揮官、後は貴方だけが…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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夢を見ていた。遠い昔、まだ己が母の腕に抱かれていた頃の夢。

 

『良いのか、薩摩。榮治郎はまだ乳飲み子だぞ』

 

『乳飲み子だろうがなんだろうが、1人の重桜男児である事に変わりはありません。何卒、三笠殿の膝元に置いて立派な武人に育て上げてくださいませ』

 

いくらか困惑したような様子で確認を取るのは先代連合艦隊旗艦、三笠。古風な重桜造の平屋の一室で、彼女は自分を抱いた母と向かい合っていた。

 

『…そう言えと、誰ぞに言われたか。薩摩の血脈絶やすことならぬと』

 

『決してそのような事はございません、どうか、どうか不詳の病身の願いをお聞き届け下さいませ』

 

普段からは想像もつかぬほど―この場合の普段とは、恐らく未来の事ではあるが―冷たい三笠の視線が、やけに恐ろしかった。誰に対しても深い愛情をたたえ、重桜の全てを包み込む暖かさ…そんなものを一切感じさせぬ殺意さえ帯びた眼光。

 

『己が代わりに子を頼むと、愛しき我が子をよろしく頼むと…そう言うならば喜んで引き受けよう。我が子と思い、慈しみ育てよう。しかし榮治郎を『薩摩』として育てろと言うならば断固断る』

 

『三笠、殿…』

 

『一言で良いのだ、言え薩摩!我が子を愛してくれと!人の痛みも分からぬような愚物に育ててくれるなと薩摩…そう、言ってくれ…!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「っ”…あ……」

 

「!!!ぬいぬい、指揮官が目を覚ましたにゃ!長門と赤城、それに高雄にだけは連絡頼むにゃ!」

 

「軽巡には!?」

 

「えぇと………じ、神通!神通がいいにゃ!」

 

「承知しました…!」

 

誰かが慌ただしく駆けていく気配がする。

不知火の声だったろうか。あんなに大きな声が出せたとは知らなかったが、なにか大変なことがあったのか…………と、そこまで考えた時、ようやく佐原の意識は現実へと引き戻された。

 

「し”き”か”ん”〜〜〜!!!もう起きないかと思ったにゃ〜〜!!」

 

あの戦闘からどれくらい経ったかと聞こうとしたが、喉が焼け付くように痛み言葉が出ない。身体もろくに動かず、起き上がることも無理そうだ。

 

「ぁ……し……」

 

「にゃにゃ、喋らなくて良いにゃ、今タブレット持ってくるにゃ!」

 

視線と呻き声で察したらしく、明石が手早く下がった。

ドタドタと廊下をこちらへ走ってくる音もする。

 

身体の不自由はともかく、喋れもしない状態で高雄達のお説教を聞くのはかなり辛い。

見当違いの憂鬱に包まれながら、佐原は音もなく溜息を付いた。




1年色々な事がありましたが、最近は流星ガン積み信濃を擁してMETA飛龍くんをシバく日々を送っています

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